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第53話:王城計画始動 ~洞窟派 vs 城派~

城壁、上下水道、屋根。 生活に必要なインフラは整いました。 タケルは「これで完成! あとは引きこもってスローライフ!」と決め込んでいますが、部下たち、そして最愛の家族は許してくれません。 一国の主には、それ相応の「顔」が必要なのです。

防衛設備(とファソの断層)が完成した翌朝。  俺は拠点の洞窟の入り口にキャンプチェアを出し、優雅にモーニングコーヒーを啜っていた。


「……ふぅ。やっぱ実家ここが一番落ち着くなぁ」


 目の前には、整備された広場と、その先に流れる清らかな川。そして川向こうには、整然と並ぶログハウスの街並みが見える。  水洗トイレもある。風呂もある。飯も美味い。  俺の理想とする「最高のスローライフ環境」は、ついに完成したのだ。


「あとはこの洞窟でゴロゴロしながら、たまに街へ降りて美味いものを食う。……完璧だ。俺の仕事は終わった」


 俺が早期リタイア宣言を呟いた、その時だった。  背後から、複数の足音が近づいてきた。


「主よ。何を寝言を仰っているのですか」 「そうですわタケル様。仕事は終わるどころか、これからが本番です」


 呆れ顔のヴァイスと、キリッとした表情のクラウディアだ。  さらに、その横には銀髪の美女――シルヴィも立っていた。


「あなた。私もお二人の意見に賛成ですわ」


 嫌な予感がする。俺はコーヒーカップを置いて身構えた。


「なんだよ。衣食住は揃ったろ? あとはのんびり……」 「『住』がまだです」


 ヴァイスが食い気味に否定した。


「国民の住居は完成しました。しかし、この国の王たる主の住居……つまり**『王城』**がありません」 「は? ここにあるだろ」


 俺は背後の洞窟を指差した。  空調完備、水回り完璧、セキュリティ万全の快適なマイホームだ。


「……タケル様。それはあくまで『穴』です」


 クラウディアがこめかみを押さえた。


「よろしいですか? 我々は独立国家を名乗るのです。いずれ他国の使節や、大商人たちが挨拶に来るでしょう。  その時、王が薄暗い穴の中から『ようこそ』と出てきたらどう思いますか?  『あ、この国は蛮族なんだな』と思われて、足元を見られますわよ!」


「ぐっ……そ、それは……」


 正論だ。ぐうの音も出ない。  だが、俺はこの洞窟が気に入っているのだ。  王城なんて広いだけで掃除は大変だし、冬は寒そうだし……。


「パパ! 僕たちも賛成だよ!」 「主様には、世界一立派なお城に住んでほしいのです」


 さらに追い打ちをかけるように、子供たちまで現れた。  ドレ、ソラ、シド、ファソたちが目をキラキラさせて俺を見上げている。  そしてトドメとばかりに、シルヴィが俺の腕に柔らかい胸を押し当て、上目遣いで囁いた。


「あなた……私、あなたと暮らす『愛の城』が欲しいですわ。  この洞窟も素敵ですけれど、やはり一国の王と王妃(予定)に相応しい、白亜の宮殿で……その、イチャイチャしたいですの♡」


「ぐふっ……!」


 シルヴィの色仕掛け攻撃。効果は抜群だ。  それに子供たちの純粋な眼差し。  ……だめだ。俺一人のワガママで、彼らの夢を潰すわけにはいかない。


 俺は溜息をついて、白旗を上げた。


「……わかったよ。建てりゃいいんだろ、建てりゃ」 「「「やったーーーッ!!」」」 「ただし! 条件がある!」


 俺はビシッと指を立てた。


「この洞窟は俺の『プライベート・ルーム』として残す!  城は、この洞窟の入り口を覆うように、手前の広場に建てろ。  俺は普段は城で仕事をするフリをして、寝る時はこの洞窟に帰る! それでどうだ!」


「……なるほど。洞窟を『奥の院』とし、その手前に『表御殿』を建てるわけですね」


 ヴァイスがニヤリと笑った。


「悪くない案です。平地に城を建て、背後の洞窟へ繋げれば、緊急時の避難ルートにもなります。  交渉成立ですね、主よ」


        ***


 こうして、**「王城建設プロジェクト」**が始動した。  場所は、洞窟の目の前に広がる平地。川の手前までの広いスペースを使う。


「設計コンセプトは**『白亜の巨城ホワイト・キャッスル』**。  威圧感よりも、神聖さと美しさを重視したデザインにします」


 ヴァイスが広げた設計図を見て、ドワーフの親方ガルドが腕まくりをする。


「へっ、燃えてきたぜ! 石材なら任せときな! オークども、運ぶぞ!」 「ウオオオッ! 筋肉の見せ所だァ!」


 まずは基礎工事だ。  巨大な城を支えるには、深く、強固な土台が必要になる。  ここで活躍するのは、やはり彼女だ。


「はーい! 基礎打ち担当、ファソですぅ!  今度は転びません! お城を傾けたりしません!」


 三女ファソが、巨大な**『魔導パイルバンカー』**を抱えて気合を入れている。  前回、ドジで地盤沈下(断層)を引き起こした彼女だが、その破壊力は折り紙付きだ。


「いくよーっ! せーのっ!」


 ズドン!!


 ファソがトリガーを引くと、直径二メートル近い石柱が、豆腐のように地面に沈んでいく。  凄まじい衝撃波が広場を揺らし、川の水面が波立つ。


 ズドン!! ズドン!!


 まるで巨大な怪獣が足踏みしているような地響き。  だが、その衝撃は地下深くの岩盤まで届き、絶対に揺るがない最強の基礎を作り上げていく。


「……すごい振動だな」


 俺は揺れるコーヒーカップを抑えながら、少し遠い目をした。  これ、森の外まで響いてないか?


        ***


 ――その頃。  タケルたちの森に隣接する大国、**『オーレリア王国』**の王城にて。


 豪奢だが品のない装飾で埋め尽くされた「謁見の間」に、ヒステリックな声が響き渡っていた。


「ええい! なんだこの揺れは! 不快だ、不快だぞ!!」


 玉座で喚き散らしているのは、豪奢な衣装に身を包んだ肥満体の男。  父王の急死により王位を継いだ新国王――クラウディアの兄である。  彼はその無能さと嫉妬深さから、優秀な妹クラウディアを「不吉な子」として禁忌の森へ追放し、事実上の死刑を宣告した張本人だった。


「報告します!」


 伝令の兵士が転がり込むように入ってきた。


「森の観測所より入電!  森の中心部より、定期的な爆音と地響きを確認!  さらに、上空には異常な濃度の魔力反応……これは『古龍』のブレスか、あるいは……」


 側近の宰相が進み出る。


「陛下……最悪の事態です。  先日調査に送ったガレイス卿たちの反応も途絶……。  おそらく、彼らもクラウディア様同様、野垂れ死んだかと」


「フン! 愚妹と無能な騎士などどうでもいい!  問題はこの揺れだ! まさか……」


 新王の顔が恐怖で歪む。


「**『ヴァルゴア帝国』**か!?  あの軍事国家め、ついに森を抜けて我が国へ攻め込んできたのか!?  この地響きは、奴らが前線基地を作っている音に違いない!」


 被害妄想と臆病風に吹かれた王は、ガタガタと震え出した。  違う。ただファソが杭を打っているだけなのだが、彼らに知る由もない。


「おのれ帝国め……余の玉座を狙っておるのか……!」


 王は爪を噛みながら叫んだ。


「ただちに『隠密偵察隊シャドウ・スカウト』を出せ!  森へ潜入し、帝国の要塞の規模と、新兵器の正体を突き止めるのだ!  もし本当に帝国軍なら……すぐに降伏の使者を送る準備もしろ!」


「は、ははッ!!」


        ***


 そんな国際的な緊張など露知らず。  現場では、順調に基礎工事が終わっていた。


「基礎、完了ですぅ! まっ平らです!」


 ファソがVサインをする。奇跡的に一度も転ばなかったようだ。


「よし、次は外壁の立ち上げだ!  ドワーフ班、鉄骨を組め! オーク班、白石を積め!  俺が煙でコーティングして、大理石みたいにピッカピカにしてやる!」


 俺は袖をまくり、大量の紫煙を練り上げた。  どうせ建てるなら、とことん立派なやつを作ってやろうじゃないか。


 夕暮れ時。  平地に、城の一階部分の骨格が姿を現した。  まだ骨組みだけだが、そのスケールの大きさと、真っ白に輝く石壁は、見る者を圧倒するオーラを放っていた。


「……ふふ。素敵ですわ、あなた」


 作業を終えて一服している俺の隣に、シルヴィが寄り添った。  彼女はうっとりとした瞳で建設中の城を見上げている。


「私たちの愛の巣……完成が楽しみですわね」 「ああ。世界一の城になるさ」


 俺の反対側に座ったクラウディアも、少し複雑そうな顔で頷いた。


「……兄上が見たら、嫉妬で泡を吹いて倒れそうですわね」 「ん? 今の王様ってそんなヤツなのか?」 「ええ。自分より目立つものを何より嫌う、愚かな兄ですわ」


 クラウディアは南の空を睨みつけた。  その視線の先で、王国の偵察部隊が森へ向けて出発したことなど知る由もなく、俺たちは「明日は二階部分を作るぞー!」と肉を焼き始めるのだった。

タケル「家建てようぜ!」 王国「帝国が攻めてきた!?」


盛大な勘違いコントが始まりました。 ファソのパイルバンカーは、遠く離れた王都をも揺らす威力だったようです。 次回、さらに建設が進み、今度は「帝国」側も異変に気づきます。 タケルたちの城作りは、世界を巻き込んで加速していきます!


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