第51話:天空の鳶(トビ)職 ~猫と風と空中庭園~
インフラ(地下)が整ったので、次は「上」です。 家としての機能を果たすための「屋根」作り。 活躍するのは、重力を無視する「空の貴公子」こと次男ソラと、高い所が大好きな獣人たち。 そしてタケルの「快適さ」への執念が生んだ、エコで美しい屋根とは?
上下水道の整備から一夜明け、建設三日目。 拠点の広場には、壁だけが出来上がったログハウスが立ち並んでいた。 水とトイレは確保できたが、これではまだ「家」とは呼べない。
「雨風を凌げてこそ家だ。今日は一気に**『屋根』**をかけるぞ」
俺は朝のコーヒーを飲みながら、現場を見上げて宣言した。 だが、問題は高さだ。 平屋ならまだしも、二階建て以上の建物や、食堂のような大型施設もある。足場を組むだけでも一苦労だ。
「高い所が得意な奴、前に出ろ!」
俺が募集をかけると、元気よく手が挙がった。
「はーい! オラたちに任せろー!」
猫耳、猿耳、リスの尻尾……。 ニアを筆頭とする獣人族の若者たちだ。 彼らは身軽さを武器に、これまでも資材運びで活躍してくれている。
「僕もお手伝いしましょう。……空は、僕の庭ですから」
そしてもう一人。 重力を忘れたようにふわふわと浮いている糸目の優男――次男のソラだ。 今日はこの「空のスペシャリスト」たちが主役だ。
***
「いくぞー! 競争だニャ!」
作業が始まると、獣人たちは歓声を上げて壁を駆け上がり始めた。 足場? そんなものは彼らには不要だ。 柱を蹴り、梁に爪を立て、軽業師のようにヒョイヒョイと屋根の上へ登っていく。
「高いところは気持ちいいね! 風が最高!」
ニアが一番高い屋根の頂点に立ち、尻尾をピンと立てて手を振る。 彼らは口に釘をくわえ、腰にハンマーを提げ、不安定な梁の上を平均台のように走り回りながら、次々と屋根板を打ち付けていく。速い。人間やオークには真似できない芸当だ。
「やれやれ、元気な子猫ちゃんたちだね」
一方、ソラは優雅そのものだった。 彼は空中にあぐらをかくように浮きながら、指先一つ動かすだけ。 見えない「魔法の糸」と「風」が、重たい屋根材をまとめて持ち上げ、必要な場所へと運んでいく。
「さあ、受け取りたまえ」 「ありがとー! ソラ兄ちゃん!」
ソラが運び、獣人が固定する。 相性抜群の連携により、スカスカだった空が急速に屋根で埋め尽くされていく。
***
屋根の形が出来上がると、次は仕上げだ。 ここにも俺のこだわりがある。
「ただ板を張っただけじゃ、夏は暑いし冬は寒い。断熱材が必要だ」
俺の目的は「快適なスローライフ」。サウナのような室内は御免だし、凍えるのも嫌だ。 そこで用意したのは、土と植物だ。
「リーフ! 出番だぞ!」 「はいは~い♡」
ハイ・ドライアドのリーフが、屋根の上に登る(というか、蔓を伸ばしてエレベーターのように上がった)。 彼女は屋根の上に薄く土を敷き詰めると、魔法の種を蒔いた。
「芽吹け、緑の毛布たち」
彼女が歌うと、一瞬で屋根一面に**「断熱苔」**と、色とりどりの小花が咲き乱れた。 **『草屋根』**だ。 土と植物の層が日光を遮り、冬は熱を逃さない。見た目も森に溶け込んで美しいし、何よりエコだ。
「うわぁ……お花畑みたい!」
屋根の上でニアが目を輝かせ、花の上をごろごろと転がる。 順調そのものに見えた作業。 だが、森の天気は気まぐれだった。
――ヒュオオオオオッ!!
突如、山から吹き降ろす突風(ビル風)が現場を襲った。
「きゃっ!?」
油断して花に見とれていたニアの体が、ふわりと宙に浮く。 足場はない。 下には、まだ建設中の鋭利な建材や、石畳が広がっている。落ちればただでは済まない。
「ニアッ!!」
俺が叫び、手を伸ばそうとした時――それより速く、**「風」**が動いた。
「――っと。空の散歩は、僕のエスコートが必要だよ」
ヒュンッ。 落下しかけたニアの体が、見えない風のクッションに包まれ、ふわりと浮き上がる。 次の瞬間、彼女は空中に浮くソラの腕の中にいた。 お姫様抱っこだ。
「……へ?」
ニアは呆然と、至近距離にあるソラの顔を見つめる。 普段は糸目のソラが、この一瞬だけ、その涼しげな瞳を開いていた。
「怪我はないかい? おてんばな子猫ちゃん」 「あ……う、うん……ありがと、ニャ……」
ニアの顔が、屋根の花よりも赤く染まる。 ソラは地上にふわりと降り立つと、優しく彼女を下ろした。
「君たちの身軽さは素晴らしい。でも、命を粗末にするのは美しくないな」
ソラはニアの頭をポンポンと撫で、ウィンクした。
「これからは僕が『風』を読む。僕の合図がある時だけ飛ぶんだ。いいね?」 「は、はいっ! ……兄様!」
ニアの瞳が、崇拝の光を帯びた。 どうやら「空の王」にハートを撃ち抜かれたらしい。
***
夕暮れ時。 すべての建物に、緑と花に覆われた屋根がかかった。 上空から見下ろすと、そこはただの集落ではない。 森の緑と一体化した、まるで**「空中庭園」**のような幻想的な街並みが広がっていた。
「いい眺めだ。これで雨が降っても安心だな」
俺は満足げに紫煙をくゆらせた。 屋根の一番高い塔の上には、夕日をバックに足を組んで座るソラと、その隣にちょこんと座るニアの姿があった。 どうやら、最強の**「空の鳶職団」**が結成されたようだ。
ソラ君、まさかのモテ期到来? 高所作業において、浮遊能力と風魔法を持つ彼は最強の現場監督ですね。 獣人たちとの相性も抜群で、今後の「空の防衛」も安泰そうです。
次回、 三女ファソのパイルバンカーが火を噴き、軍師ヴァイスの罠が唸る。 鉄壁の要塞化と、六兄弟への「辞令(担当エリア発表)」へ続きます!




