第50話:地下の血脈と紫煙のフィルター
前回、見事な結束を見せた新生・建設部隊。 しかし、急激に増えた仲間たち(総勢200名オーバー!)に対し、生活環境が追いついていません。 今回は、縁の下の力持ちである「眼鏡の三男」と、職人たちが挑むインフラ整備回。 そして、タケルの煙が現代日本の技術を再現します。
建設二日目の朝。 俺は拠点の洞窟から出て、眼下に広がる広場を見て頭を抱えていた。
「……これは、まずいな」
目の前には、長蛇の列ができていた。 顔を洗う者、水を飲む者、そして朝食の準備で鍋に水を汲もうとするオークたち。 この拠点には、俺たちが暮らす洞窟とは別に、外用の井戸があり、近くに川も流れている。水自体はあるのだ。 だが、問題はその「規模」だった。
ゴブリン50名、ドワーフ20名、人間と獣人で60名。 そこに今回、ドライアド、オーク、リザードマンたちが加わり、我が国の総人口は一気に250名を超えてしまった。
250人が一斉に動き出せば、どうなるか。 井戸の前は大渋滞。洗い場の排水は地面に吸いきれず、広場の一部が泥沼化している。
「タケル様。このままでは衛生環境が悪化し、疫病が発生します」
作業着姿のクラウディアが、泥濘を見て眉をひそめた。 俺たち家族(俺、シルヴィ一家、クラウディア)が住む洞窟内は、既に俺の能力で上下水道が完備されているが、外の連中はそうはいかない。
「食事を作る『厨房』にも、清潔な水が大量に必要です。バケツリレーで運ぶには限界がありますわ」 「……だよな。俺たちだけ快適でも、国としては失格だ」
俺はタバコの煙を吐き出し、決断した。
「よし。今日の最優先事項を変更する。 俺の家(洞窟)にあるシステムを、外にも拡大するぞ。 **『上下水道』を完備し、さらに『水洗トイレ』と『大食堂』**を作る。この国の血管を通すんだ」
***
「……無茶を言わないでください、パパ(主様)」
数時間後。 現場に呼び出された三男・ラシは、目の下にクマを作りながらも、一枚の巨大な図面を広げた。
「ですが、予測はしていました。これが徹夜で引いた『首都・上下水道計画図』です」 「さすがラシ! 仕事が早い!」 「褒める前に資材をください。……ドワーフの配管部隊、リザードマンの水質管理、そしてオークの建設班が必要です」
ラシの指示で、職人たちが招集された。 水源は近くの川。そこから水を引き込み、各居住区と食堂へ配水し、最後は汚水を処理して川下へ流す。 完璧な計画……のはずだったが、現場ではすぐに怒号が飛んだ。
「あぁ!? 勾配が細かすぎるんだよ眼鏡!」
食ってかかったのは、ドワーフの親方ガルドだ。
「水なんざ高い所から低い所に落ちるんだ! 勢いで流せばいいだろ!」 「ダメです! 傾斜が強すぎると水だけ流れて汚物が残りますし、弱すぎると詰まります! 排水勾配は厳密に1/100を守ってください!」 「うっせぇ! 机上の空論で現場を縛るんじゃねぇ!」
理論のラシと、感覚のガルド。 水と油のような二人の間に、静かに割って入る影があった。
「……いや、眼鏡の言う通りだ」
リザードマンの族長、ザッハだ。 ドラゴニュートへと進化した彼は、青い瞳で配管を見つめていた。
「俺には『水』の意思が見える。この角度……この設計こそが、最も水がストレスなく流れる道だ。ドワーフよ、従え」 「ぐっ……水トカゲの旦那がそこまで言うなら……」
専門家の言葉に、ドワーフたちも渋々レンチを握り直す。 ラシは眼鏡をクイッと押し上げ、ザッハに目配せした。
「助かりました」 「礼には及ばん。俺は水を濁らせたくないだけだ」
***
配管の問題は片付いた。次は最大の難関、「濾過」だ。 川の水をそのまま飲めるようにし、さらにトイレの汚水を川に帰しても環境破壊しないレベルまで浄化する。 そんな魔法のような装置が――俺には作れる。
「(頼むぞ、《葉身変質》。毒も汚れも吸着する、最強のフィルターになれ)」
俺は木箱に詰めた大量のタバコの葉に、紫煙を吹き込んだ。 葉は瞬く間に黒く変色し、炭化していく。 以前、拠点の洞窟で水を引いた時にも使った**「活性炭フィルター」**の超・強化版だ。
「こいつを給水タンクと排水タンクの出口に噛ませる。そうすれば泥水だろうがクリスタルウォーターだ」
俺が設置を終えると、地上では建物の建設が進んでいた。
「厨房は広くしてくださいね♡ 大きな寸胴鍋を10個置いて、みんなにお腹いっぱい食べさせたいんですぅ」
オークの美少女マイアーレのおねだりに、オーク族の男たちが「ウオオオオッ!」と雄叫びを上げて柱を立てていく。 ゴブリンたちが壁を張り、ドワーフがカラン(蛇口)を取り付ける。 日が傾く頃には、250名全員を収容できる巨大なログハウス風の**『大食堂』と、最新鋭の『公衆トイレ』**が完成していた。
***
「通水試験、開始!」
ラシの合図で、川からの水門が開かれた。 水は地下のパイプを通り、俺のフィルターを通過し、食堂の厨房へ。
マイアーレが、祈るように蛇口をひねる。
――ジャァァァァッ!
勢いよく飛び出したのは、不純物一つない、輝くような清水だった。
「おおおっ! 川に行かなくても、無限に水が出るぞ!」 「すげぇ! これなら洗い物も楽勝だ!」
オークたちが歓声を上げ、コップに水を汲んで飲み干す。 一方、トイレの方でも歓声(?)が上がった。
「すげぇ! レバーを引くだけでウンコが消えたぞ!?」 「どこに行ったんだ!? 魔法か!?」
タケル式水洗トイレの威力に、中世レベルの文明観を持つ騎士や冒険者たちが腰を抜かしている。 排水は地下でフィルターを通され、無害な水となって川へ帰っていく。完璧な循環だ。
「……美しい」
ザッハが、川への排水口を見て感嘆の声を漏らした。
「汚水が、清流に戻っている……。これなら自然を汚すこともない。見事な采配だ、眼鏡の」 「……計算通りです。皆さんの技術があってこそですがね」
ラシは照れくさそうに顔を背けた。
***
その夜。 完成したばかりの大食堂は、熱気に包まれていた。 明るい魔石ランプの下、清潔なテーブルで、温かい食事をとる。 泥にまみれて飯を食っていた昨日までとは、雲泥の差だ。
「はい、水道局長さん。一番大盛りにしておきました♡」
マイアーレが、山盛りのシチューとパンをラシの前に置いた。 彼女の笑顔に、普段は冷静なラシもドギマギと視線を泳がせる。
「あ、ありがとう……。こ、公務ですから」 「ふふっ、眼鏡曇ってますよ?」
周りのドワーフやリザードマンたちがニヤニヤと冷やかす中、俺は高い天井を見上げて満足げに煙を吐いた。
「水よし、飯よし、トイレよし。……これでようやく『文化的な生活』のスタートラインだな」
インフラは整った。 次は住居、そして――この街の「空」を守るための準備だ。
ラシ君、大活躍の回でした。 地味ですが、上下水道がないと200人規模の集落は一瞬で崩壊しますからね。 これで安心してトイレに行けます。
次回、高所作業! 空の貴公子・次男ソラと、猫耳獣人ニアちゃんが、屋根の上で華麗に舞います。 いよいよ首都の全貌が見えてきます! 面白かったら評価・ブクマをお願いします!




