第4話:浄化の調味料
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レベル18の身体は軽快だった。さっきまであれほど歩きにくかった革靴が、まるでスニーカーにでもなったかのように、ぬかるんだ地面を軽々と蹴る。
ほどなくして、茂みの奥に手頃な獲物を見つけた。
丸々と太った、角の生えたウサギのような魔物だ。
俺はLv.18の脚力で、茂みから飛び出したウサギ(仮)の進路に回り込む。速い!
だが、俺も速い!
(落ち着け、俺。この筋力(120)で全力で殴ったら、さっきの倒木みたいにミンチになるぞ)
(営業時代のプレゼンを思い出せ。力むな、冷静に。必要なのは「打撃」じゃなく「制圧」だ)
俺は、あえて力を抜き、「当てるだけ」の感覚で棍棒を振るった。
「コッ」
「キャイン!」
軽い手応え。ウサギ(仮)は、ミンチになることもなく、綺麗に気絶してその場に倒れた。
「……よしっ!」
(やった! 異世界に来て、初めてまともな食料(狩り)に成功したぞ!)
俺は気絶しているウサギ(仮)をどうするか、一瞬悩んだ。
とどめを刺す? 解体する?
棍棒で殴ればミンチになる。素手では無理だ。
(……待てよ。『火炎制御 Lv.3』があるじゃないか)
俺はライターを握りしめた。
(火柱だけが能じゃないはずだ。スキルLv.3なら…もっと精密なことができるはずだ)
(イメージしろ、俺。刃物のように「細く」「鋭く」「圧縮」された炎を…!)
俺はライターのホイールを回した。
カチン。
「ブォン…」
火口から噴き出したのは、炎ではない。
「熱」そのものが圧縮され、青白く輝く**「光の刃」**だった。
まるでSF映画の剣のように、長さ30センチほどの刃が、低い振動音を立てて安定している。
(できた! これだ!)
それをウサギ(仮)の首筋に当てると、抵抗なく肉が焼け、切れていく。
(すげえ…これなら解体もできる!)
俺は「光の刃」を巧みに(?)操り、ウサギ(仮)にとどめを刺し、そのまま解体を始めた。
そのまま、さっきまでいた川辺へと運ぶ。
川の水で獲物の血を洗い流し、改めて「光の刃」(※先端だけを短く出して)で肉を綺麗に切り分ける。
(サバイバル知識ゼロだが、このチート武器のおかげで、見様見真味でなんとかなるもんだ…)
さて、ここからが本番だ。
(「光の刃」が出せるなら、当然「調理の火」も調整できるはずだ)
木の枝で即席の「串」を作り、ウサギ(仮)の肉を突き刺す。
ついでに、さっき獲物を探している時に見つけた、キノコ(毒々しい紫色のやつだ)も串に刺した。
(頼むぞ、俺のスキル…! 欲しいのは安定した『焚き火』くらいの火だ!)
ライターを構え、今度は「調理」をイメージして、強く念じる。
カチン。
「ゴゴゴゴ…」
今度は、ライターの火口から、火柱ではなく、安定した「焚き火」のような炎が吹き出し、空中で燃え続けた。
(おお! できた! 空中固定式のコンロかよ!)
俺は、キノコの串とウサギの肉を、その炎でゆっくりと炙る。
ジュウウウウ……
肉が焼け、脂が滴り、香ばしい匂いが川辺に広がる。
(うわ、めちゃくちゃ美味そうだ…ブラック企業時代のカップ麺とは大違いだ…)
完璧な「ミディアムレア(?)」に焼き上がったウサギ肉にかぶりつく。
「―――うまっ!…と言いたいところだが」
なんだこれ! 確かに肉の旨味はある。だが、それ以上に、舌に残る強烈な「エグ味」と「土臭さ」がすべてを台無しにしていた。
「(まずっ…!なんだこのエグ味は…!川の水が濁ってたのと同じで、この森の動植物は全部こうなのか?)」
(いや、まて、キノコはどうだ?)
勢いのまま、隣で焼いていた毒々しい紫色のキノコも口に放り込む。
(こっちも…やっぱりマズい! シャキシャキしてるけど、それ以上にエグい!)
そう思った、直後。
「ぐっ…がはっ…!」
不味さ(エグ味)に加えて、猛烈な腹痛と、全身の痺れが襲う。
(あ、これキノコの方の毒か! 不味い上に毒とか、最悪かよ!)
霞む目で、震える手でタボコに火をつける。
「―――ぷはぁ………っ」
深く吸い込む。
**さっきの毒水と同じだ。**あれほど荒れ狂っていた激痛と麻痺が、スーッと引いていく。完治。
「……マジかよ」
俺は、手元に残った不味いウサギ肉と、**まだ火を通さず残っている(手持ちの)毒キノコ(紫)**を見比べた。
(毒は治った。だが、この不味さはどうにもならんのか…? これじゃあ、せっかく狩りが成功しても食う気になれねえ…)
俺は、さっき毒キノコを食って回復するために吸ったタバコの吸殻が、足元に転がっているのに気づいた。その**「吸殻」**を見て、ふと手が止まった。
(待てよ。このタバコ、「健康になる」んだよな?)
(毒水も、毒キノコも、全部「治した」。)
俺は、ステータス画面に浮かんだ『浄化の使徒』という謎の称号を思い出した。
(もしかして、このタバコって…)
俺はダメ元で、まだ串に残っていた不味いウサギ肉(エグ味まみれ)に向かって、
**足元の吸殻を拾い上げ、フィルター際に残っていたタバコ葉を指でほぐし、**パラパラと振りかけた。
まるで、スパイスをかけるように。
タバコ葉が肉に触れた瞬間、ジュッと小さな音を立て、エグ味の原因だったらしい黒い何かが霧散した(ように見えた)。
「……まさか」
俺はゴクリと唾を飲み込み、恐る恐る、その肉をもう一度口に運んだ。
「―――うまっ!!!!」
なんだこれ! さっきまでのエグ味や土臭さが嘘のように消え失せ、代わりに、肉本来の(信られないほど濃厚な)旨味が口いっぱいに広がった!
「(マジかよ! このタバコの葉が…あのエグ味の元(毒?)を中和したのか!?)」
俺は慌てて、まだ火を通さず残っている(手持ちの)毒キノコ(紫)に、今度は箱から新しいタバコを一本取り出し、その紙を破って中の葉っぱをほぐしてまぶし、安定した「焚き火」で炙った。
(毒キノコ+タバコ葉=毒なし? それとも毒+不味さだけ中和?)
(いや、もうどうでもいい!)
俺は、タバコで回復する前提で、そのキノコにかぶりついた。
「(うまい! エグ味が消えてる!)」
そして、腹も痛くならない。
(毒ごと浄化しやがった…!)
「は、はは…」
乾いた笑いが漏れた。
(なるほど。狩りは(物理で)成功する。調理も(炎で)成功する。食料(毒キノコ)もタバコの葉(浄化)があれば、最高の食材に変わる、と)
(これ、俺…最強の毒見役どころか、最強の料理人じゃねえか!)
冴えないサラリーマン(Lv.18)の異世界サバイバルは、「食」には困らないという、最高のスタートを切った。
(第4話 完)
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