第47話 誇り高き豚と、カツ丼への第一歩
森の整地が終わり、次は「食」の確保です。 タケルたちが目指すのは、極上の「肉」を持つというオーク族。 しかし、たどり着いた岩場で彼らを待っていたのは、あまりにも悲壮な光景でした。
「肉だ……。今の俺たちに必要なのは、ジューシーな脂身と、噛みごたえのある赤身だ」
拠点から南へ数キロ。 俺たちは重機部隊の背中に乗り、ゴツゴツとした岩場を進んでいた。
「パパ、よだれが出ておるぞ。汚いのう」 「タケル様、お腹が空きました~……ふえぇ、揺れて気持ち悪いですぅ」
俺の膝の上で呆れる紅と、隣で目を回しているのは三女のファソだ。 彼女は身長170cmを超えるモデル体型の美女だが、背中には身の丈ほどある巨大な杭打ち機を背負っている。 これから交渉に向かう南エリアの担当予定者として連れてきたのだが……。
「きゃっ!? あ、足がもつれ――」 ――ズドンッ!! 「ひいぃっ!?」
カブトムシから降りようとして転び、パイルバンカーが誤射されて岩を粉砕した。 ……まあ、戦力としては申し分ない。扱いには注意が必要だが。
「タケル様、あちらです」
案内役のドライアド・リーフが指差した先。 草木一本生えていない荒涼とした岩肌の影に、粗末なテントと、身を寄せ合う集団が見えた。
「ブヒッ! 何奴だ!」 「総員、陣形を組め! 『家族』を守るのだ!」
俺たちの姿に気づき、岩陰から武装した男たちが飛び出してきた。 豚の頭に、丸太のような太い腕。身長2メートルを超える巨漢たち。ファンタジーの定番モンスター、オークだ。 だが、俺の知っているオークとは少し違った。
「……随分と痩せているな」
彼らの体は肋骨が浮き出るほど痩せ細り、身につけている鎧もボロボロだ。 だが、その鎧や武器は錆び一つなく手入れされ、彼らの瞳には誇り高い戦士の光が宿っていた。 そして何より――彼らの背後には、同じくガリガリに痩せた**『鉄牙イノシシ』**たちが守られるように囲われていた。
「我はオーク族の長、ブドンと申す! 帝国の手先か、それとも森の魔物か!」
リーダー格のオークが進み出る。 見た目は凶悪だが、口調はまるで古風な騎士のようだ。
「俺はタケル。この森の新しい管理者だ。お前たちをスカウトしに来た」 「スカウト……だと?」 「ああ。俺の国に来て、そのイノシシを育ててほしい。俺に美味い『豚肉』を食わせてくれ」
俺が単刀直入に要件を伝えると、ブドンは顔を真っ赤にして激昂した。
「無礼者め! 貴様も帝国の豚(人間)と同じか! 我らが手塩にかけて育てたこの子たちを、奪い取って食らうつもりだな!」 「いや、食らうのは育ててからで……」 「ならん! 断じてならん! この『鉄牙イノシシ』は、我ら一族の誇り! 北の故郷を追われ、ここまで逃げ延びる間も、我らは自分たちの食事を削ってこの子らを生かしてきたのだ!」
見れば、オークたちは今にも倒れそうなほど消耗しているのに、イノシシたちにはわずかな干し草が与えられていた。 自分たちが餓死してでも、種(家畜)を守る。 それは狂気にも似た、職人の執念だった。
「……いいブリーダー(牧畜家)だ」 「な、なに?」
俺は感心して頷いた。 ただの野蛮な魔物なら、腹が減れば家畜を食っていただろう。 だが彼らは耐えた。最高の肉質を持つ種を絶やさないために。 こいつらに任せれば、間違いなく極上の豚肉が作れる。
「気に入った。ブドン、取引だ」 「問答無用! これ以上近づけば――」
ブドンが斧を構えたその時、俺はふぅーっと紫色の煙を吐き出した。
「《煙霧変調》『豊穣』」
煙が岩場を這い、オークたちの足元へ広がる。 同時に、リーフたちドライアドが歌い出した。
「緑よ、芽吹け。王の慈悲を糧として」
――ボボボボボッ!!
魔法のような光景だった。 タケルの煙を肥料にして、ドライアドの魔法が発動する。 不毛だった岩場に、一瞬にして青々とした牧草が生い茂り、栄養満点の果実が実ったのだ。
「な、なんだこれは……!? 岩場が、緑の楽園に……!?」
オークたちが呆然とする中、腹を空かせたイノシシたちが「ブヒィィィ!」と歓喜の声を上げて牧草に飛びついた。
「ああっ、こら! 卑しいぞお前たち! ……し、しかし……」
ブドンは涙目で、夢中で草を食むイノシシたちを見つめている。 俺はさらに、アイテムボックスから取り出した「ワイバーンの燻製肉」を彼らに投げ渡した。
「ほらよ、お前らも食え。腹が減ってちゃ良い仕事はできないぞ」 「こ、これは……竜の肉!? なんと芳醇な香り……!」
プライドと空腹の狭間で揺れていたオークたちだが、一口食べた瞬間、その強烈な旨味に陥落した。 全員が涙を流しながら肉にかぶりつく。
「うまい……うまいぞぉぉ……!」 「我らが求めていたのは、この味だ……!」
ひとしきり食べた後、ブドンはその巨体を折り曲げ、俺の前に跪いた。
「……非礼をお詫びいたします、タケル殿。貴方様こそ、我らが待ち望んだ『豊穣の王』。どうか、我ら一族とその『家族』を、貴方様の国へお導きください」 「ああ、歓迎するぜ。牧場区は空けてある。そこで思う存分、世界一の肉を作ってくれ」
交渉成立だ。 ブドンは感涙にむせびながら俺の手を握ろうとし――
「おっと、気安く触れるでないぞ、豚よ」
横から冷ややかな声が刺さる。 紅が金色の瞳を細め、ブドンを睨みつけていた。
「ひぃっ!? こ、このプレッシャーは……まさか……!?」
歴戦の戦士であるブドンは、紅の正体(古龍)を本能で察知し、顔面蒼白で土下座に移行した。 ……うん、紅がいると交渉(脅し)がスムーズで助かるな。
「タケル様ぁ~、これで美味しいお肉が食べられますね~! わーい!」
ファソが無邪気に喜び、その拍子にまた転んだ。 背中のパイルバンカーが火を噴き、ブドンの顔の横の岩を粉砕する。
「ヒィィッ!? こ、殺さないでくれぇぇ!!」 「あ、ご、ごめんなさいぃ~! わざとじゃないんですぅ~!」
最強の牧畜家と、最恐の用心棒、そして歩く兵器(ドジっ子)。 カオスな一団を引き連れ、俺たちは「肉」と共にリゾートへと凱旋するのだった。
待ってろよ、俺のカツ丼。
見た目は怖いですが、誰よりも家畜を愛する紳士、オーク族が加入しました! これで「農業」と「牧畜」が揃いましたね。 美味しいご飯への道が着々と進んでいます。
次回は、最後にして最大の難関。「水」を司るリザードマンの元へ向かいます。 しかし、彼らの住む湿地帯はすでに干上がりかけていて……?
「オークのおっさん良いキャラしてる」「ファソちゃん危なっかしい(笑)」と思っていただけたら、 評価やブックマーク登録をよろしくお願いします!




