第44話 紫煙の共犯者と、種族を超えた突貫工事
いつもお読みいただきありがとうございます! 無音です。
今回は、村の仲間総出での大工事回です。 シルヴィの子供たち、紅、ドワーフ、獣人、そして人間……。 種族の垣根を超えて、タケルたちが「あるもの」を作り上げます。
全員集合のドタバタ劇、どうぞお楽しみください!
「善は急げだ! 場所は東の村、広場の真ん中に作るぞ!」
タケルは女性陣、ゴブリン、ドワーフ、そして獣人たちを引き連れ、迷うことなく洞窟を出て東側へと向かった。 そこには、タケルの指導と村人たちの労働によって切り拓かれた、生活の拠点が広がっている。 タケルは村の中心、見晴らしの良い一等地の広場で足を止めた。
「ここだ。ここにデカいのを建てる」
タケルが視線を向けた先には、既に一人の男が待機していた。 褐色の肌に、艶やかな黒髪を長く伸ばし、切れ長の瞳をした男。この村の頭脳であり、ダークエルフの天才軍師、ヴァイスだ。
「……お待ちしておりました、主」
ヴァイスは細長いキセルを口から離し、青白い煙をふぅーっと吐き出しながら優雅に一礼した。その手には、既に丸められた図面が握られている。
「話が早いな、ヴァイス。俺が何をしに来たか分かるか?」 「ええ。昨今の労働環境と主の思考パターンから推測するに……『福利厚生施設の拡充』かと。以前、焚き火を囲んで熱く語っておられた**『日本の温泉旅館』**の話、覚えておりますよ」
ヴァイスは図面を広げた。そこにはタケルが以前口頭で説明した「和風建築」の特徴を完璧に理解し、この世界の技術で再現した見事な設計図が描かれていた。
「最高だ、さすが俺の相棒だ。で、水源の目星は?」 「完璧です。この地下100メートル地点に豊富な熱水脈があります。ドワーフ班に命じて、**『魔導螺旋掘削機』**もセットさせました」
見れば、ヴァイスの後ろにはドワーフたちが、魔石の光を明滅させる巨大なドリルを構えて待機していた。
「よし、やるぞ! 俺が煙でサポートする!」 「了解しました。総員、掘削開始!」
ヴァイスの号令と共に、魔導ドリルが唸りを上げる。 タケルはタバコを深く吸い込み、吐き出した紫煙(タバコの煙)をドリルと地面に送り込んだ。ドリルの刃を『硬化』させて強化し、地面を『軟化』させて抵抗を消す。 最強の連携により、硬い岩盤もバターのように切り裂かれ、やがてズドンッ! という音と共に、白い湯気が噴き上がった。
「源泉確保! 湯量、温度ともに安定!」 「でかした! 重機部隊、出番だ! 掘り出した土砂を運び出せ!」
タケルの号令で、待機していたドーザー率いるカブトムシ部隊が地響きを上げて動き出した。 『ギギィーッ!(任せろ!)』 リーダーのドーザーが巨大な角で土砂をすくい上げ、ダンプ役の個体がその背に載せて運んでいく。ショベル役は器用な脚で整地を行う。 彼ら「生きた重機」のパワーは圧倒的だ。人間なら数日かかる基礎の穴掘りが、ものの数十分で完了していく。
「よし、ここからが本番だ!」 タケルは振り返り、多種族が入り乱れる仲間たちに声を張り上げた。 「これより**『大浴場』**を建設する! 木材だけじゃない、石も鉄もミスリルも全部使うぞ! 全員の力で、今日中に完成させるんだ!」 「「「オオオオオッ!!」」」
巨大プロジェクトが動き出した。 まずは資材だ。ゴブリンたちが巨木を、クロウ率いる狼隊が石材を運んでくる。
「シルヴィ! 子供たち! 木材加工を頼む!」 「お任せを。……さあ、行きますよ」
月光のような銀髪の美女――シルヴィが、背中から黄金の蜘蛛脚を展開する。 シュバババッ! 目にも止まらぬ速さで、丸太が綺麗な角材へと切り出されていく。
「皆様、母上の華麗なる手捌き……我々も続きましょう」 長男ドレが、執事らしく恭しく一礼し、銀糸を展開した。 その指先は指揮者のように優雅だが、正確無比に木材を組み上げていく。
「あらあら、表面がザラザラですわねぇ」 長女レミが、おっとりとした手つきで木材を撫で、魔法でツルツルの光沢仕上げに変えていく。
「えいえいっ! 運ぶのはミファに任せてー! キラッ☆」 次女ミファがアイドルスマイルで柱を担ぐ。
「はぅぅ……わ、私も運びますぅ……あっ!」 ドタッ! 三女ファソが何もないところで躓いた。彼女が抱えていた巨大な『杭』が火を噴く。 ズドンッ!! 暴発した杭が、地面に置かれていた基礎の石柱を、寸分の狂いもなく垂直に打ち込んだ。 「あ、あれぇ? 基礎打ち、できちゃいました?」
「僕たちも負けてられないね」 次男ソラが空中で資材を受け渡し、四男シドが無邪気に粘着糸で仮止めを行う。
「ソラ兄さんも高いとこで遊ばない! ファソは足元見て! シド、そこは釘だ! 糸じゃない!」 眼鏡の三男ラシが、図面片手に兄弟たち全員にツッコミを入れながら現場を回している。胃痛枠の彼は、この現場の影の功労者だ。
一方、浴槽周りでは別の種族が活躍していた。 「オラたち獣人の出番だ! 石運びなら負けねぇぞ!」 猫耳少女のニアたち獣人部隊だ。 彼らは身軽な動きで、河原から運んできた滑らかな石を次々と運び込み、浴槽の底や壁面に敷き詰めていく。 「隙間なく並べるんだ! 肉球みたいな肌触りを目指せ!」 「あいよー!」 彼らの高い身体能力と感覚が、繊細な石組みを可能にしていた。
「配管はどうなってる!?」 「任せとけ主! こちとらドワーフの国宝級だぞ!」 ガルド親方率いるドワーフ職人団が、ミスリル合金製のパイプを複雑に這わせていく。 魔導炉と直結したボイラー、循環システム、そしてカラン(蛇口)の設置。 タケルが煙でパイプの継ぎ目を『溶接』し、ドワーフがレンチで締め上げる。阿吽の呼吸だ。
「……ぬぅ。我もやる。あのデカい岩を粉砕すればよいか?」 その時、赤髪の幼女――**紅**が、つまらなそうに巨大な岩に手をかざした。 掌に圧縮された竜のブレスが渦巻いている。あんなのを放てば、岩どころか建設中の建物ごと消し飛ぶ。
「待て待て待て! お前は破壊担当じゃない!」 タケルが慌てて紅の首根っこを掴んで止める。 「お前はこっちだ。……ほら、このミスリルの板を『適度な熱』で温めろ。曲げ加工するから、絶対に溶かすなよ?」 タケルは紅の口にタバコの煙(精神安定剤)をふぅーっと吹き込み、魔力をコントロールしてやる。 「んむ……。仕方ないのう。パパの頼みじゃ、やってやるわ」 紅が頬を染めながら、指先からチョロチョロと小さな炎を出し、ミスリル板を絶妙に加熱していく。 「よし、いい子だ。その調子で頼むぞ」
「屋根を上げるぞ! 人間部隊、ロープを引け!」 ヴァイスの声が飛ぶ。 ガレイス卿たち元・王国騎士団が、鎧を脱いだ筋肉質な体でロープを引く。 下ではゴブリンたちが支え、屋根の上では獣人たちが瓦(石板)を受け取る。
「せーのっ!!」
ズシンッ! 多種族の手によって、巨大な梁が組み上がり、屋根が乗った。 ドワーフの技術、エルフの知恵、魔物の力、人間の連携。全てが噛み合った瞬間だった。
日が傾き、空が茜色に染まる頃。 村の広場に、壮大な湯屋が姿を現した。 石造りの土台に、木造の立派な建物。入り口にはタケルが書いた『ゆ』の暖簾がかかっている。
「……ふぅ。いい仕事だったな」 「ええ。皆の連携、見事でした」
タケルとヴァイスは並んで完成した建物を眺めた。 かつて争っていた種族たちが、今は肩を組み、完成を祝っている。 瘴気に覆われていた「禁忌の森」は、今や生命と笑顔、そして温かい湯煙に溢れている。
「完成だ! 名付けて**『紫煙の湯』**!!」
村人たちから、割れんばかりの歓声が上がった。 紅がタケルの足にしがみつき、シルヴィが子供たちを労い、獣人たちが尻尾を振る。
「一番風呂は全員だ! 洗い場で背中を流し合え! 今日は無礼講だぞ!」 「「「ウオオオオオオオッ!!」」」
ドワーフも、人間も、ゴブリンも、獣人も。 我先にと脱衣所へ殺到するその賑やかな背中を見送りながら、タケルはヴァイスに言った。
「さて、俺たちも行くか。仕事の後の風呂とビールが待ってるぞ」 「……やれやれ。お付き合いしましょう、主」
煙たそうに、しかし微かに笑みを浮かべたヴァイスと共に、タケルは暖簾をくぐった。 湯煙の向こうで、新たな村の歴史が始まろうとしていた。
(44話完)
というわけで、ついに念願の**『大浴場(紫煙の湯)』**が完成しました!
かつては争っていた種族たちが、肩を組んで汗を流し、一つのものを作り上げる。 これぞスローライフ(?)開拓記の醍醐味ですね。 (紅の暴走を止めるタケルと、ツッコミ役のラシ君が大変そうですが……笑)
さて、お風呂ができたということは……? 次回は、お待ちかねの**「入浴回」**です! 仕事の後の至福の時間、そして風呂上がりの一杯……タケルが何を用意するのかお楽しみに。
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