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第43話 湯煙の女子会と、大浴場計画

前回、最高の鉄板焼きを楽しみました。 今回は、タケルたちの「お風呂事情」に変化が訪れる回です。 女子たちの会話は長く、そして熱い。 待ちぼうけを食らった男が出した結論とは……?

かつて瘴気に覆われ、人が立ち入ることを許さなかった『禁忌の森』。  だが、古龍が浄化された今、洞窟の拠点には穏やかな空気が満ちている。


 洞窟の奥に作られた手作りの「岩風呂」からは、楽しげな女性陣の声と、白い湯気が立ち上っていた。


「はぁぁ……。生き返ります……」


 クラウディアは肩まで湯に浸かり、ほうっと息を吐いた。  この岩風呂は、タケルが紫煙で洞窟の床を『軟化』させて窪ませ、再び『硬化』と『防水』でコーティングして作った、継ぎ目のない一点物だ。  お湯も、タケルのライターの熱をイメージで伝播させて沸かした、魔法のような適温である。


「んー! 気持ちいいー!」 「ふふ、昼間の汚れが落ちていくわね」


 隣では、レミとミファが楽しげに湯を掛け合っている。  三人が入ると、もう湯船はいっぱいだ。足も十分には伸ばせない。  だが、その密着感が逆に「女子会」のトークを加速させる。


「ねえねえ、クラウディアお姉ちゃん」 「ん? 何ですか、ミファ」 「この前の狩りの時も言ったけどさー。やっぱりお姉ちゃん、パパのお嫁さんになるの? さっきのお肉の時も、パパのこと熱い目で見てたじゃーん」


「ぶふっ!?」


 クラウディアは思い切りむせ返った。  狭い浴槽の中で逃げ場はない。


「そ、そそそ、それは! お肉が美味しかったからで! 決してやましい気持ちで見ていたわけでは……!」 「えー? 顔赤いよー? 茹でダコさんだー」 「ミファ、いじめちゃダメよ」


 レミがおっとりと笑いながら、クラウディアの肩に触れる。


「でも、クラウディアさんがライバルなのは変わりませんからね。私とミファも、将来はパパのお嫁さんになるつもりですから」 「ううっ……。レミさんまで……」


 奔放な姉妹の攻勢に、元・姫騎士は防戦一方だ。  すると、脱衣所の方から優雅な足音が近づいてきた。


「あらあら。盛り上がっていますわね」


 岩肌の向こうから現れたのは、シルヴィだ。  豊満な肢体。圧倒的な母性。  彼女が狭い湯船に入ってくると、お湯がザバーッと溢れ出し、水位が一気に上がった。


「ママ! 狭いよー!」 「ふふ、ごめんなさいね。でも、楽しそうな話が聞こえたものですから」


 シルヴィはコロコロと笑いながら、硬直しているクラウディアの隣――文字通り肌が触れ合う距離に座った。


「失礼しますわ、クラウディア。背中、流しますね」 「い、いえ! そんな、シルヴィさんにまで……!」 「いいのですよ。貴女は今日、一番働いていましたから」


 シルヴィの手が、クラウディアの背中を優しく滑る。  その心地よさに身を委ねながら、クラウディアは緊張していた。  シルヴィは、耳元で甘く、しかし確かな意志を込めて囁いた。


「……ふふ。可愛い娘たちにも、そして貴女にもチャンスはありますわ」


 彼女は慈愛に満ちた目で娘たちを見つめる。だが、その瞳の奥には、決して揺るがない自信があった。


「ですが……**『一番隣』**を譲るつもりはありませんから。覚悟なさいね?」


「……っ!」


 クラウディアは息を呑んだ。  これが、最強の眷属である彼女の「正妻」としての余裕。  この狭い湯船の中は今、静かなる戦場となっていた。


   ◇   ◇   ◇


「……なげぇ」


 一方、脱衣所の外。洞窟の通路。  タオル一枚で腕を組んで待っているタケルは、ひんやりとした冷気に当てられてくしゃみをした。


 中からは「きゃっきゃ」という楽しげな声や、何やら込み入った話し声が聞こえてくるが、一向に出てくる気配がない。  現在の風呂は一つ。男女入れ替え制だ。  女性陣が入っている間、タケルはずっと待ちぼうけである。


「体が冷えちまう……。それに、あのサイズじゃ三人入るのがやっとだ」


 タケルは紫煙を吐き出しながら、考えた。  村の人口は増えた。ゴブリンたちも進化して体が大きくなったし、これから交易で人が来るかもしれない。  何より、**「俺が入りたい時に、一番風呂に入れない」**のは死活問題だ。


「よし、決めた」


 タケルはライターの蓋をカチンと鳴らした。


「作るか……『大浴場』」


 男女別はもちろん、ゴブリンたちも全員入れる巨大な大浴場。  洗い場も完備した、スーパー銭湯並みの施設。  今の俺のスキルと、この洞窟の広さがあれば造作もないことだ。


「福利厚生は大事だからな。……おい、まだ上がらねぇのかー! 俺が凍死するぞー!」


 タケルの悲痛な叫びが、洞窟内にこだました。


   ◇   ◇   ◇


 翌朝。  昨夜の「長風呂」で少し寝坊した女性陣が起きてくると、広場には香ばしい味噌の香りが漂っていた。


「……ぬぅ。いい匂いじゃ」


 鼻をひくつかせながら、ボサボサの赤髪をした幼女――ベニが起きてきた。  まだ眠そうに目を擦っているが、その視線は大鍋に釘付けだ。


「タケル。その茶色いスープはなんだ。我の本能が『美味い』と告げておるぞ」 「おう、起きたか。こいつは**『豚汁とんじる』**だ。……まあ、肉はイノシシだがな」


 タケルはお椀にたっぷりと豚汁をよそい、紅に渡した。  紅はフーフーと息を吹きかけ、恐る恐る口をつける。


「……んんっ!!」


 カッ! と紅の金色の瞳が見開かれた。  味噌のコク、肉の脂の甘み、野菜の旨味が五臓六腑に染み渡る。


「う、美味い! なんだこれは! 昨日の焼き肉とはまた違う、優しい暴力のような味がする!」 「だろ? 日本の朝はこれに限るんだよ」


 ガツガツと貪るように食べる紅。  その様子を、ゴブリンたちが微笑ましそうに見守っている。  最強の古龍が、一杯の味噌汁で完全に陥落した瞬間だった。


「さて、みんな食ったら仕事だぞ。今日は**『村営・大浴場』**を作る!」


 タケルの宣言に、女性陣とゴブリンたちから「おおーっ!」という歓声が上がった。  最強の村の、さらなるアップグレードが始まる。


(43話完)

最後まで読んでいただきありがとうございます。


お風呂待ちの辛さ、分かります。 冬場の洞窟なら尚更です。 というわけで、次回はタケルの土木スキルが炸裂する「大浴場建設回」です! もちろん、村人のための新しい服作りも並行して進めます。


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