第42話 紫煙の恵みと、約束の湯
いつもお読みいただきありがとうございます! 前回、午前中の『鉄カボチャ』収穫でヘトヘトになった一同。 午後は打って変わって、楽しい収穫祭です。 そしてついに、タケルのスキルがあの「最強調味料」を解禁します。
午前中の『鉄カボチャ』との激闘を終え、タケルとクラウディア、そしてレミ、ミファ、ゴブリンたちは、村の西側に広がる畑へと移動していた。 ここは軍師ヴァイスが土壌を改良し、タケルが重点的に紫煙(栄養剤)を吹きかけておいた区画だ。
「うわぁ……! すごいです、タケル様!」
クラウディアが歓声を上げる。 そこには、午前の厳つい鉄塊とはまた違った、豊潤な実りが広がっていた。
「こっちは『剛皮トウモロコシ』か。煙を吸いすぎて、皮が分厚くなっちまったな」
タケルが紫煙を吐き出しながら苦笑する。 背丈ほどもある立派なトウモロコシだが、その皮は革製品のように分厚く、簡単には剥けそうにない。だが、その隙間からは黄金色の輝きが見え隠れしている。
「でも、これなら私でも剥けます! ……ふんっ!」
クラウディアが銀糸のジャージの袖をまくり、トウモロコシを掴んで力いっぱい皮をひん剥く。 バリバリッ!! という豪快な音が響き、中からツヤツヤと輝く粒が現れた。
「おおっ、甘い匂いがここまで漂ってきやがる。こいつは上出来だ」 「ミファもやるー! バリバリするー!」
ミファも負けじとトウモロコシに抱きつき、背中の蜘蛛脚も器用に使って皮を剥いでいく。 レミは風魔法のカッターで、スパンスパンと茎から切り離していく。
「主様、こっちのトマトも見てくだせぇ! 完熟通り越して、はち切れそうです!」
ホブゴブリンが指差した先には、赤黒いほどに熟れたトマトが実っていた。 『超完熟トマト』。 皮が極限まで薄く、指で触れるだけで果汁が溢れ出しそうなほど繊細だ。
「そっちは丁寧に扱えよ。潰したらソースにするしかなくなるぞ」 「へい! 慎重に運びます!」
ゴブリンたちが赤ん坊を抱くように、そっとトマトをカゴに収めていく。 この大きさ、このツヤ。タケルの煙が作り出した確かな「恵み」だった。
「よし、午後の収穫はこれくらいにするか。……みんな、腹減ったろ?」
タケルの言葉に、全員のお腹がグゥと正直な音を立てた。 クラウディアが「あっ」と声を上げ、耳まで赤く染める。
◇ ◇ ◇
夕暮れ時。 村の広場には、ドワーフの鍛冶師に特注で作らせた**「巨大な鉄板」**が設置され、その下で炭火がパチパチと音を立てていた。
「今日のメインは、採れたて野菜とイノシシ肉の鉄板焼きだ」
タケルがコテを振るう。 厚切りにしたイノシシのロース肉と、輪切りにした剛皮トウモロコシが鉄板の上で焼ける音。脂が滴り、炎が上がる。
ここで、タケルは懐から愛用のタバコを一本取り出した。 指先で紙を破り、中身の茶色い葉を手のひらに乗せる。
(まずは肉の下味だ……『塩』、そして**『ニンニク』**!)
タケルが念じると、スキル**《葉身変質》**によって、葉は瞬時に白い結晶と、黄色いチップへと変化した。 パラパラと肉に振れば、ガーリックの強烈な香りが立ち上る。 だが、この素晴らしい食材たちを完成させるには、いつもの「アレ」が欠かせない。
(トウモロコシにはやっぱり、コイツだよな……『醤油』!)
タケルは慣れた手つきで新しい葉を取り出し、黒い液体へと変質させる。 ボタタッ。 こんがりと焼けたトウモロコシの上に滴り落ちた瞬間――。
ジュワアアアアアッ!!!
爆発的な香ばしさが広場を制圧した。 焦げた醤油の香りは、日本人のDNAに刻まれた暴力的なまでの食欲スイッチだ。
「な、なんですの!? この香ばしくて、とてつもなく美味しそうな匂いは!?」
レミが目を見開く。何度嗅いでも素晴らしい、食欲を刺激する香りだ。
「へへっ、イノシシ肉にはこうだ」
タケルはさらに葉を変質させ、今度は茶色いペースト状の**『味噌』**を作り出すと、脂の乗った肉にたっぷりと絡めた。 濃厚な味噌と獣肉の脂が混ざり合い、えも言われぬコクのある香りが漂う。
「はい、まずはクラウディア。熱いから気をつけろよ」 「は、はい……! いただきます!」
渡された木皿の上で、イノシシ肉は「特製味噌ダレ」を纏ってテラテラと輝き、トウモロコシは「焦がし醤油」の香ばしさを放っている。 クラウディアは震える手でトウモロコシにかぶりついた。
「……んんっ!!?」
噛んだ瞬間、醤油の塩気と焦げた風味が、トウモロコシ本来の甘みを極限まで引き立てている。
「お、美味しい……! 甘じょっぱくて、香ばしくて……止まりません!」 「だろ? こっちの味噌焼きもいけるぞ」 「パパ! ミファも! お肉たべるー!」
ミファが待ちきれずに飛びついてくる。 シルヴィやヴァイス、ゴブリンたちも、タケルが振る舞う「東方の調味料」の虜になり、次々と鉄板へ手を伸ばした。
「うめぇ! 味噌ってやつぁ、なんでこんなに酒に合うんだ!?」 「主様、おかわりです! まだ焼けますか!?」
村中が「醤油と味噌」の魔力に酔いしれ、大宴会へと発展していく。
「……ふぅ」
全員に行き渡ったのを確認し、タケルは鉄板の隅で自分の分のトウモロコシをかじりながら、懐から新しいタバコを取り出した。 慣れた手つきで火をつける。
(やっぱり、日本人にはこの味だよな……)
目の前には、美味い飯と、信頼できる仲間たち。 紫煙を深く吸い込み、ゆっくりと夜空へ吐き出す。
「さて……飯の後は、約束のアレだぞ」
タケルがニヤリと笑うと、夢中で食事をしていたクラウディアたちの表情がパァッと輝いた。
「はい! お風呂ですね!」
タケルが昼間に準備しておいた、岩組みの露天風呂。 湯加減は、先ほど確認済みだ。
「さっぱりしてこい。俺はここで、もう一服してから行くわ」
タケルはコテを置き、タオルを持って賑やかに浴場へ向かう彼女たちの背中を見送った。 禁忌の森の夜は、今日も平和で、焦がし醤油の香りと共に更けていく。
(42話完)
最後まで読んでいただきありがとうございます。
やっぱり鉄板焼きといったら「焦がし醤油」と「味噌」ですよね。 タバコの葉っぱがあらゆる調味料に変わるスキル、本当に便利です。 これさえあれば、異世界でも食の妥協は一切なし!
さて、次回は第43話。 今回焦らされた「約束のアレ」、露天風呂回です。 クラウディアたちの癒やしの時間を書く予定ですので、お楽しみに!
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