第41話:姫騎士、ジャージを着て畑を耕す
【第41話:姫騎士、ジャージを着て畑を耕す】
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帝国の暗殺者を撃退し、村の防衛力は盤石になりました。 今回は少し視点を変えて、元・王女にして騎士団副隊長、クラウディアの日常(労働)をお届けします。
彼女が身に纏うのは、銀の鎧ではなく……? それでは、お楽しみください。
帝国の暗殺者が撃退された翌日。 爽やかな朝の光が、カーテンの隙間から差し込んでいた。
「ん……。もう朝ですか」
クラウディアは、ふかふかのベッドから身を起こし、大きく伸びをした。 以前の彼女なら、朝は憂鬱な時間だった。王城での堅苦しい公務、第一王子からの冷たい視線、そして騎士団内での派閥争い。 だが、今は違う。
「ふふっ。今日も良い天気ですね」
彼女は鏡の前に立ち、身支度を整える。 身につけるのは、冷たい鉄の鎧ではない。 シルヴィが彼女のために仕立てた、伸縮性抜群で肌触り最高の**「銀糸の作業着」**だ。 動きやすく、汚れてもすぐに落ちる魔法の服。
「よし、行きますか!」
彼女は髪をポニーテールに結い上げ、颯爽と部屋を出た。
◇ ◇ ◇
「おーい! クラウディア様が来たぞー!」 「おはようございます! 今日も麗しいですね!」
彼女が村の東側、広大な農耕エリアに到着すると、畑仕事をしていたホブゴブリンたちが手を振って出迎えた。 彼らは進化したことで知能も向上し、今では立派な農夫として働いている。 しかも全員、無駄にイケメンだ。
「おはようみんな。今日の作業は?」 「へい! ヴァイス軍師が土壌改良した『試験農場』の収穫なんですが……ちょっと厄介でして」
ゴブ太が困った顔で、巨大な葉っぱをかき分けた。 そこには、金属のような光沢を放つ巨大なカボチャ――**『アイアン・パンプキン(鉄カボチャ)』が実っていた。 タケルの煙(栄養剤)を吸いすぎて変異した、希少な野菜なのだが……問題はその「実り方」**だ。
「見ての通り、実が密集しすぎて、まるでブドウの房みたいになってるんです」
巨大な鉄カボチャ同士がギチギチにひしめき合っている。 その隙間はわずか数センチ。ツルはその奥深くに隠れている。
「俺たちの斧じゃ、刃がデカすぎて隙間に入らねぇんです。無理に振ろうとすると、周りのカボチャを叩き割っちまう……。かといって、手でちぎれる硬さじゃねぇし……」
なるほど、とクラウディアは頷いた。 必要なのはパワーではなく、極限の**「精密さ」と、狭い隙間を通す「細い刃」**だ。
「任せてください。そういうことなら、私の専門分野です」
クラウディアはニッコリと笑い、腰に差していた**「ミスリルのレイピア」**を抜いた。 本来なら魔物の急所を穿つための細剣。だが今の彼女にとって、これはあつらえたような収穫用ナイフだ。
「下がっていてください。……ハッ!」
シュンッ!!
目にも止まらぬ神速の突き。 レイピアの切っ先が、カボチャとカボチャの数センチの隙間に吸い込まれるように侵入する。 そして、奥にある硬いツルの一点を、正確無比に貫き、切断した。
ゴロン。 巨大な鉄カボチャが、傷ひとつなく地面に転がり落ちる。
「うおおお! さすがクラウディア様!」 「あの隙間に刃を通すなんて……神業だ!」
「ふふ、お安い御用です。さあ、どんどん収穫しましょう!」
「やるじゃない、クラウディア」
その時、背後から鈴を転がすような声がかかった。 振り返ると、銀髪の美女たちが立っていた。 シルヴィの娘、長女のレミと、次女のミファだ。 彼女たちもまた、銀糸の作業着を身に纏い、収穫の手伝いに来ていたのだ。
「レミさん、ミファさん。おはようございます」 「おはよー! クラウディア、その剣さばきカッコいいね!」
元気印のミファが、ピョンと跳ねてクラウディアの背中に抱きつく。 背中からは可愛い蜘蛛脚が出ているが、不思議と怖さは感じない。
「ミファ、邪魔しちゃダメよ。……でも本当に、綺麗な突きでしたわ」 「恐縮です。でも、レミさんたちの魔法には敵いませんよ」
おっとりとしたレミが、指先を指揮棒のように振るう。 すると、重いはずの鉄カボチャたちが、ふわりと浮き上がり、自動的に収穫カゴへと収まっていく。 風魔法と糸を使った、魔法の収穫術だ。
「私たちも負けてられないね! ほらクラウディア、あっちの畑も終わらせちゃおう!」 「ええ、競争ですね!」
クラウディアは、美しき眷属たちと並んで畑を駆ける。 以前は「魔物」として警戒していた彼女たちとも、今では背中を預けられる(農作業の)相棒だ。 汗が額を伝い、ジャージが泥で汚れる。 だが、彼女の表情は、王城の舞踏会にいた時よりも遥かに晴れやかで、美しかった。
◇ ◇ ◇
「おーい、休憩にするぞー」
正午。 リヤカー(手作り)を引いたタケルがやってきた。 荷台には、冷えた麦茶と、大量のサンドイッチが積まれている。
「主様!」 「パパだー!」
ミファが一番に駆け寄り、タケルに抱きつく。 タケルは「よしよし」と頭を撫でながら、みんなに食事を配り始めた。
「お前らが頑張ってるからな。ほら、食え食え」
タケルは切り株に腰を下ろし、タバコに火をつけた。 その周りを、クラウディア、レミ、ミファが囲むように座る。 今日のサンドイッチは、昨日狩ったオークのハムと、シャキシャキのレタス。パンはドワーフの窯で焼いたふわふわのパンだ。
「……んっ。美味しい……」
労働の後の飯は、格別だ。 クラウディアが幸せそうに頬張っていると、隣のレミが微笑ましそうに彼女を見た。
「クラウディア、すっかりここに馴染んだわね」 「ええ。……正直、自分でも驚いています。王女だった頃より、今の泥だらけの自分の方が、ずっと好きになれそうです」
「にひひ。パパのことが好きだからじゃない?」
ミファがニヤニヤしながら茶化す。 クラウディアは真っ赤になって狼狽えた。
「なっ!? ち、違います! タケル様は命の恩人であり、主君であり……!」 「えー? でも目で追ってるよ?」 「そ、それは指示を仰いでいるだけで……!」 「あはは、顔真っ赤ー!」
「こらミファ、いじめないの。……でもクラウディア、貴女がこの村を大切に思っているのは伝わっていますよ。私たちも、貴女のことは本当の妹のように思っていますから」
レミが優しくクラウディアの手を握る。 魔物である彼女たちの、温かい体温。 種族も生まれも違う。けれど、ここには確かな「絆」があった。
「……はい。ありがとうございます、お姉様がた」
クラウディアの目元が少し潤む。 タケルが不思議そうにこちらを見た。
「ん? なんだ、女子会か? 盛り上がってるとこ悪いが、昼からも頼むぞ現場監督」 「ふふっ。はい! お任せください、社長!」
クラウディアは花が咲くような笑顔を見せた。 その笑顔は、どんな宝石よりも輝いて見えた。
「さて……俺はもう一眠りするか」 「あ、タケル様! ズルいです! 私も仕事が終わったら、またあのお風呂に入りますからね!」 「おう、沸かしといてやるよ」
元・王女の姫騎士は、今日もジャージ姿で大地を駆ける。 彼女の剣は今、敵を殺すためではなく、仲間との「美味しい食卓」を守るために振るわれているのだ。
(41話完)
最後までお読みいただきありがとうございます!
王宮のドレスよりも、銀糸のジャージ。 剣で敵を突くよりも、カボチャのツルを突く毎日。 クラウディアもすっかりこの村に染まり、幸せを見つけられたようです。
さて、次回はタケルの村の「食」がさらに進化します。 鉄のカボチャだけでなく、もっと不思議で美味しい野菜や果物を収穫! 収穫祭のような、賑やかで美味しい回になる予定です。
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それでは、また次回!




