第40話:忍び寄る影と、最強の番犬(幼女)
いつも応援ありがとうございます。 第2部に入り、世界情勢がきな臭くなってきましたが、タケルたちの村は今日も平常運転です。
今回は、新入りである元・古龍の幼女『紅』に、初めてのお仕事(お使い)を任せてみます。 果たして、彼女は無事にパトロールできるのか? そして、忍び寄る帝国の魔手は……?
最強幼女の初陣、お楽しみください。
「暇じゃ。退屈じゃ。タケル、何か面白いことはないのか?」
昼下がり。俺がリビングで設計図(新しい水路の案)を引いていると、紅がソファの上でゴロゴロしながら絡んできた。 彼女は真っ黒なゴシックドレスを翻し、短い足をバタバタさせている。見た目は愛らしい幼女だが、中身は数千歳のお婆ちゃんドラゴンだ。
「面白いことって言われてもな……俺は仕事中だ」 「むぅ。ならば我も手伝う。この紙を燃やせばよいか?」 「やめろ。絶対やめろ」
このままでは仕事にならない。俺は溜息をつき、タバコを灰皿に置いた。
「……分かった。お前にも仕事をやる」 「ほう? なんだ、世界征服か? それとも隣の山を消し飛ばすか?」 「パトロールだ。……要するに、村の周りの『散歩』だよ」
俺は窓の外、村の外縁に広がる森を指差した。
「怪しい奴がいないか見てくるんだ。もし見つけたら、すぐに知らせろ。……ちゃんとできたら、ご褒美に『特製スモークジャーキー』と、俺の煙をたっぷりやる」 「煙……! よかろう! その任務、我が引き受けた!」
紅は瞳を輝かせ、窓からひらりと飛び出した。
「行ってくるぞ! 我が庭の警備など、赤子の手をひねるより容易いわ!」
◇ ◇ ◇
一方その頃。村の北側の森。 そこには、木々の影に溶け込むように進む、5つの黒い影があった。
「……ここか。報告にあった『開拓地』は」
彼らは、ヴァルゴア帝国皇帝直属の暗殺部隊**『影刃』**。 先日敗走した黒騎士団とは格が違う。隠密行動と対人暗殺のスペシャリストたちだ。 身につけているのは、魔力を遮断する「認識阻害のローブ」と、足音を完全に消す「隠密のブーツ」。
「警戒網(蜘蛛の糸)があるな。……だが、甘い」
リーダーの男が、特殊な魔道具で糸の位置を正確に把握し、指先で部下に指示を出す。 彼らは糸に触れることなく、水が流れるように隙間をすり抜けていく。
「(フン、たかが辺境の村。我々の潜入スキルにかかれば、ザルも同然だ)」
彼らの任務は、この村の長の暗殺と、ドワーフたちの奪還。 村の防衛システムを過信している愚かな村人たちは、自分たちが死んだことにも気づかないだろう。 リーダーは冷酷に笑い、村の裏手へと回り込んだ。
◇ ◇ ◇
「ふふ~ん♪ 誰もいないのう~」
紅は鼻歌混じりに森を歩いていた。 パトロールと言っても、彼女にとってはただの散歩だ。 時折、茂みから顔を出す魔物たちも、彼女が放つ微かな「竜気」を感じ取って、慌てて逃げ出していく。
「つまらん。……お? あそこに綺麗な花が……」
紅が花を摘もうとしゃがみ込んだ、その時。
シュッ……
音もなく、背後の空間が歪んだ。 『影刃』の暗殺者たちだ。彼らはパトロール中の子供(紅)を発見し、即座に排除を決断したのだ。 目撃者は消す。それが彼らの流儀。
「(……子供か。運が悪かったな)」
リーダーが背後から忍び寄り、毒塗りの短剣を逆手に構えた。 狙うは首筋の動脈。痛みを感じる間もなく絶命させる。 完璧な奇襲。回避は不可能。
ガギィンッ!!
「……は?」
硬質な金属音が響き、リーダーの手首に痺れが走った。 見ると、紅の細い首筋に突き立てたはずの短剣が、根元からポッキリと折れている。 対して、紅の白い肌には、傷どころか赤み一つついていない。
「……ぬ? 蚊か?」
紅が鬱陶しそうに首を掻きながら、ゆっくりと振り返った。 金色の瞳が、呆然とする暗殺者たちを捉える。
「な、なんだこいつは……!? 刃が通らないだと!?」 「バカな! これはミスリルをも貫く『毒牙の短剣』だぞ!?」
動揺する暗殺者たちを見て、紅はニヤリと口角を上げた。 その笑顔は、幼女のそれではなく、獲物を見つけた捕食者のものだった。
「ほう。貴様らか。タケルが言っていた『怪しい奴』というのは」
紅はパンパンとドレスの埃を払い、あくびをした。
「丁度よかったわ。退屈しておったところじゃ。……おい、まとめてかかってこい」 「ガ、ガキが舐めるな! 囲んで殺せ!」
リーダーの号令で、5人の暗殺者が一斉に襲いかかる。 魔法、毒針、鎖鎌。あらゆる凶器が紅に殺到するが――。
「遅い」
紅が軽く手を振った。ただそれだけだ。 だが、そこから生じた衝撃波が、暗殺者たちを枯れ葉のように吹き飛ばした。
「ぐあぁぁぁっ!?」
大の大人が数メートルも吹っ飛び、木に激突する。 紅は一歩も動いていない。
「……脆いのう。タケルが警戒しておった『敵』とは、この程度か? 笑わせる」
紅は小さく溜息をつき、少しだけ――本当に少しだけ、抑えていた**「竜の威圧」**を漏らした。
ズンッ……!!
「ひっ……!? あ、あぁぁ……!?」
暗殺者たちの本能が警鐘を鳴らす。 目の前にいるのは子供ではない。食物連鎖の頂点に立つ、絶対的な捕食者だ。 恐怖で歯が鳴り、腰が抜ける。失禁する者さえいた。
「つまらん。もう終わりか?」
紅がつまらなそうに見下ろしていると、茂みの奥から拍手が聞こえた。
「……合格だ。よくやったな、紅」 「ん? タケルか!」
俺とヴァイスが、悠々と姿を現した。 ヴァイスは怯える暗殺者たちを見て、鼻を鳴らした。
「やはり来たか。……私の感知網(シルヴィの糸)には最初から引っかかっていたが、紅の初陣には丁度いいと思ってな。泳がせておいた」 「な、なんだと……!?」 「貴様らの『認識阻害』など、私の解析眼の前では裸同然だ」
ヴァイスの冷徹な宣告に、暗殺者たちは絶望した。 最初から、掌の上で踊らされていたのだ。
「タケル! 見ておったか! 我の活躍を!」 「ああ、見てたぞ。偉い偉い」
俺が紅の頭を撫でてやると、彼女は猫のように目を細めた。 ついでに約束の煙を吹きかけてやると、うっとりと頬を染める。
「んむぅ……♡ これじゃ、これが欲しかったのじゃ……」
最強の古龍も、俺の前ではただの駄犬(駄竜?)だ。
「さて」
俺たちは、完全に戦意を喪失した暗殺者たちに向き直った。
「こいつらはどうする? ヴァイス」 「……帝国の情報を吐いてもらおう。ドワーフたちのこと、今後の侵攻計画……全てな」
ヴァイスが、今までで一番冷酷な笑みを浮かべた。
「安心しろ。殺しはしない。……死ぬより辛い尋問が待っているだけだ」
こうして、帝国の暗殺部隊は、何もできずに壊滅した。 最強の番犬(幼女)と、冷徹な軍師がいる限り、この村のセキュリティは鉄壁だ。
(第40話 完)
お読みいただきありがとうございます!
帝国のエリート暗殺者も、古龍の皮膚(物理防御カンスト)の前では爪楊枝でした。 タケルたちの村は、もはや生半可な戦力では手出しできない「魔境」になりつつあります。
さて、外敵を撃退したところで、次回からは**「キャラクター深掘り編」**に突入します!
まずは、元・王女騎士であるクラウディアに焦点を当てます。 騎士としての誇りと、泥にまみれる農作業。彼女の中で何かが変わっていく……?
次回「姫騎士、ジャージを着て畑を耕す」。お楽しみに!
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