第3話 毒水の洗礼
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「…………え?」
俺が間の抜けた声を上げた直後、目の前の空間に、半透明の青白いウィンドウが浮かび上がった。
(ピロリン♪)
《レベルが上がりました。Lv 0 → Lv 1》
《レベルアップにより、ステータス閲覧機能が解放されました》
「うわ、本当に出たよ…レベル0だったのか、俺」
ブラック企業で社畜(レベル35)だったが、ここはゼロからのスタートだったらしい。
《永劫の道具の行使を確認》
《対象アイテム『万能なる不死鳥のライター(Lv.3)』の使用に基づき、SPを消費せず《スキル:火炎制御 Lv.3》を自動取得しました》
《対象アイテム『無限補充のアッシュモーク(Lv.1)』の使用に基づき、SPを消費せず《スキル:超速再生 Lv.1》を自動取得しました》
「アイテムにもレベルがあるのか。へえ、ライターはLv.3で、タバコはLv.1、と。…ふーん」
ウィンドウには、俺の「今」が映し出されている。
名前:ヤマグチ・タケル
レベル:1
種族:人間(異世界転移者)
称号:『異世界転移者』
HP:20/20
MP:5/5
筋力:8
耐久:7
(※以下、ブラック企業で鍛えられた(?)平均以下の初期ステータスが並ぶ)
スキル:『火炎制御 Lv.3』『超速再生 Lv.1』
スキルポイント(SP):10
「レベル1でSP10か。これを振ってスキルを取る、と。…って、呑気に分析してる場合じゃねえ!」
さっき飲もうとした川の水も忘れ、俺は目の前の現象に釘付けになった。
あの狼(仮)―――軽自動車サイズの化け物を倒した経験値が、レベル1になったことで一気に処理され始めたのだ。
(ピロリン♪)
《レベルが上がりました。Lv 1 → Lv 2》
(ピロリン♪)
《レベルが上がりました。Lv 2 → Lv 3》
「は?」
(ピロリン♪)(ピロリン♪)(ピロリン♪)
《レベルが上がりました。Lv 5 → Lv 6》
俺の慌てっぷりを完全に無視して、頭の中に鳴り響くシステム音は止まらない。
まるで、パチンコ屋のフィーバータイムだ。
(ピロリン♪)
《レベルが上がりました。Lv 9 → Lv 10》
(ピロリン♪)
《称号:『魔狼殺し』を獲得しました》
(ピロリン♪)(ピロリン♪)
《レベルが上がりました。Lv 11 → Lv 12》
(ピロリン♪)
《称号:『規格外の者』を獲得しました》
(ピロリン♪)(ピロリン♪)(ピロリン♪)
《レベルが上がりました。Lv 14 → Lv 15》
(ピロリン♪)
《称号:『浄化の使徒』を獲得しました》
(ピロリン♪)
《エターナル・ギアの熟練度が規定値に達しました。『無限補充のアッシュモーク』が Lv.2 になりました》
《スキル《超速再生 Lv.1》が《超速再生 Lv.2》にレベルアップしました》
「おお、タバコ(アッシュモーク)がレベルアップした!」
狼(仮)に足を食いちぎられ、タバコ3本で再生させたのが「熟練度」としてカウントされたらしい。
(ピロリン♪)(ピロリン♪)(ピロリン♪)
もはや数字を追うのも諦めた頃、ようやく、あのけたたましい電子音が止んだ。
《レベルが上がりました。Lv 17 → Lv 18》
《累計スキルポイント(SP):180 を獲得しました》
「…………」
川辺に、静寂が戻る。
俺は、あまりの情報量に頭を抱えた。
「……称号が大げさすぎる。俺はただ、生きるために火をつけてタバコ吸ってただけなんだが…」
(頭が混乱してるせいか、余計に喉がカラカラだ。そうだ、さっき飲もうとしていたんだった)
俺は川辺にかがみ込み、手のひらで目の前の「濁った水」をすくった。
(最悪タバコ吸えばなんとかなるだろ)
思い切って、その水を口に含み、飲み干した。
直後。
「ぐっ…おえぇっ!?」
猛烈な腹痛と、吐き気が襲ってきた。
(クソっ、やっぱり毒水か! レベル18になっても、腹は壊すのかよ!)
俺は川辺にうずくまり、胃がひっくり返るような痛みでのたうち回った。
とりあえず、この訳の分からない状況を整理するには、アレしかない。
俺は腹痛で震える手でタバコを取り出し、火をつけた。
「―――ぷはぁぁああ……」
うん、うまい。
煙を深く吸い込み、吐き出す。
『超速再生 Lv.2』の効果か、あるいはタバコ(アッシュモーク Lv.2)の性能が上がったのか。
あれほど荒れ狂っていた腹痛と吐き気が、スーッと引いていく。完治。
(…治った。あの濁った水、やっぱりヤバい代物だったか。それもタバコで治せるのか、俺は)
最高の一服(と回復)で冷静さを取り戻し、俺は改めて目の前のウィンドウ(念じたら再び出た)を睨みつけた。
名前:ヤマグチ・タケル
レベル:18
称号:『異世界転移者』『魔狼殺し』『規格外の者』『浄化の使徒』
HP:880/880
MP:350/350
筋力:120
耐久:115
(※レベル1の時とは比較にならない、明らかに「人間離れ」した数値が並んでいる)
スキル:『火炎制御 Lv.3』『超速再生 Lv.2』
スキルポイント(SP):180(未使用)
「レベル18、それにスキルも『火炎制御 Lv.3』と『超速再生 Lv.2』か…」
この数字が何を意味するのかはサっぱりだが、さっきまでの体が鉛みたいに重かったのが嘘みたいだ。
(さっきまでの「運動不足のサラリーマン」とは明らかに違う、全身にみなぎる力強さを感じる。これなら、あの革靴でも森を走破できそうだ)
どちらにせよ、スキルが『Lv.3』になろうが、解決していない問題があった。
喉の渇きは(毒水だったが)なんとかしたが、次は――
「グゥゥゥゥ~~~……」
腹の音が、静かな森に盛大に響き渡った。
(そりゃそうだ。あれだけ暴れて、血も流して(再生したけど)、腹は減るよな…)
俺は、さっきまで狼(仮)だった「炭」に目をやった。
「……(これは魔物?だったわけだし)さすがに食えそうにないな」
完全に燃えカスだ。
(さて、どうするか)
腹は減った。
火は、ある。『火炎制御 Lv.3』だ。動物(鳥や鹿、ウサギ)を狩れば、調理できるはずだ。
……いや、待て。
(あの狼(仮)を焼いた時、あの火柱がどれだけヤバい勢いだったか忘れたのか、俺は)
(スキルLv.3とか言われても、加減がわかる保証はどこにもない。こんな鬱蒼とした森で火柱なんか上げたら、あっという間に山火事だ。ブラック企業で学んだ「最悪の事態を想定する」危機管理が警報を鳴らしている)
(炎は、調理とか、最後の武器として温存だ。まずは、これだ)
俺は、自分のステータス(念じれば見える)を改めて確認した。
筋力:120 耐久:115
(ブラック企業時代(推定:筋力8)とは比べ物にならない、この数値。さっきの身軽さ…これなら!)
俺は足元に転がっていた、手頃な木の枝――いや、丸太に近い太さの「倒木」の一部を掴んだ。
レベルが上がる前なら、びくともしなかっただろう。
だが、今。
「ふんっ!」
(バリバリバリッ!!)
倒木が、まるで発泡スロールのように簡単にへし折れ、俺の手に「巨大な棍棒」が握られていた。
「おお…」
(すげえ…力がみなぎってる…これならイケる!)
俺は、原始的な武器(棍棒)を手に、「食料」にするための獲物を探し始めた。
(第3話 完)
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