第38話:紫煙の彼方、新生する竜
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遂に第1部完結でございます。
最後まで楽しんでいただけたら幸いです。
「行けぇぇぇぇッ!!」
ヴァイスの裂帛の気合と共に、全方位からの総攻撃が始まった。
ゴブリンたちの矢が、ドワーフの杭が、雨あられとドラゴンの巨体に突き刺さる。
ダメージは通らない。だが、注意を引くには十分だ。
『小賢シイ……ッ!』
ドラゴンが煩わしそうに首を振るう。その隙だ。
「シッ!!」
シルヴィが全魔力を解放し、無数の極太の銀糸をドラゴンの翼と四肢に巻き付けた。
きりきりと糸が鳴る。Sランク級の怪力で、古龍の動きを物理的に止める。
『ヌゥ……ッ!?』
「今です、主様!」
「クロウ!」
「ワォン!!」
俺を乗せたカブトムシ(ドーザー)の後ろから、クロウが最大出力の**『疾風』**を叩きつけた。
爆発的な加速。Gで視界が歪む。
俺たちは砲弾となって、ドラゴンの懐――胸にある「逆鱗」へと突っ込んだ。
『サセヌ!!』
ドラゴンが拘束を無理やり引きちぎり、胸元の輝き――ブレスの予備動作に入った。
至近距離での直撃。喰らえば蒸発する。
「させません!!」
クラウディアが横から飛び込み、聖剣技でドラゴンの顎を強打した。
ブレスの軌道がわずかに逸れる。
だが、熱波だけでドーザーの装甲が溶け落ちる。
「ここまでだ! ありがとな!」
俺は溶解していくドーザーの背中を蹴り、虚空へと躍り出た。
スキル**『空歩』**。
空気の階段を駆け上がり、ドラゴンの胸元へ肉薄する。
目の前には、渦巻く瘴気の奥に怪しく光る、一枚の巨大な逆鱗。
あそこだ。あの中に、全ての元凶がある。
「グルルルゥ……ッ!!」
ドラゴンが俺を睨み、殺意の塊のような魔力を膨れ上がらせる。
普通の人間なら、このプレッシャーだけで心臓が止まるだろう。
だが、俺は腰のホルダーに手を伸ばした。
引き抜いたのは、鈍い銀色の輝きを放つ**ミスリル製の筒**――**『鳳凰の柄』**。
そのスロットには、神様から貰った相棒、**『不死鳥のライター』**が装着されている。
その瞬間、俺の脳裏に、あの日の記憶が蘇った。
◇
(回想)
『ははは! 面白い! 君みたいな転生者は初めてだ! よかろう! 君の『一服』を全力でサポートしよう!』
白い空間で、神様がパチンと指を鳴らした時のことだ。
神はニヤリと笑って、俺に銀色のライターを渡した。
『こっちが本命! **『万能なる不死鳥フェニックスのライター』**だ!』
『そいつはオイルもフリント(石)も不要! 永久に燃え続ける! さらに君の意思一つで、炎の大きさ、熱量を自由自在にコントロールできる!』
そして、神はこう言ったのだ。
『豆粒ほどの火から、**ドラゴンをも焼き尽くす灼熱の炎**までな!』
◇
「……ははっ」
空中で、俺は思わず笑ってしまった。
あの時は「話半分」に聞いていた。ドラゴンを焼くなんて、そんな漫画みたいな話があるかと。
「あんたの言った通りだったよ、神様……!」
俺は『鳳凰の柄』を逆手に持ち、ドラゴンの逆鱗に狙いを定めた。
ライターの着火スイッチに指をかける。
「いくぞ相棒! 全開だ!!」
俺の意思に呼応し、ミスリルの柄が熱く脈動する。
噴き出したのは、ライトセーバーのような刃ではない。
俺の全魔力を燃料にした、すべてを飲み込む紫色の劫火だ。
**《炎操作・最大出力》――『不死鳥の浄火』!!**
俺は巨大な炎の鳥となった『鳳凰の柄』を、拳と共に逆鱗の中心へ叩き込んだ。
**ズドォォォォォォォォン!!**
瞬間、世界が紫に染まった。
フェニックスのライターから放たれた炎は、ドラゴンの体内にある膨大な瘴気を燃料にして、爆発的に燃え広がった。
物理的な熱ではない。不浄なものを存在ごと消し去る、概念的な浄化の炎だ。
『ガアアアアアアアアアアッ!?』
古龍の絶叫が木霊する。
ドス黒い瘴気が、紫色の炎に焼かれ、綺麗な白い煙へと変わっていく。
俺は熱くなる柄を握りしめる。
「燃えろ! 燃え尽きろ! 俺の安眠を邪魔するモノは、全部灰になれぇぇぇ!!」
『オ、オノレ……人間ンンン……ッ!!』
ドラゴンの断末魔と共に、その巨体が光の粒子となって崩壊を始めた。
逆鱗が砕け、奥にあったドス黒い核が、パリンと音を立てて浄化された。
◇ ◇ ◇
光が収まると、俺は空中に浮いていた。
眼下には、ドラゴンの巨体があった場所だけが更地になり、キラキラと光る塵が舞っている。
脳内に、これまでにない音量のファンファーレが鳴り響いた。
《討伐確認:古龍(エルダードラゴン・瘴気汚染種)》
《偉業達成。経験値リミッターが解除されます》
**【ログ】**
**ヤマグチ・タケル: Lv.40 ▶ Lv.99(上限到達)**
* 称号『竜殺し(ドラゴンスレイヤー)』を獲得
* 称号『森の真なる王』を獲得
* スキル『領域支配』を獲得
「レベル99……カンストかよ」
凄まじい力が体に満ちているのが分かる。
俺は熱を持った『鳳凰の柄』を腰に戻し、一息ついた。
目の前には、ドラゴンの肉体が消滅した後に残った、純白の「魂」が浮いていた。
行き場を失ったその光に、俺の紫煙が絡みついている。
「(……魂が、器を作ろうとしているのか?)」
煙が渦を巻き、凝縮し、形を成していく。
やがて、煙が晴れると――。
そこには、一人の**「少女」**が浮いていた。
燃えるような**「赤髪」**のロングヘア。
白い肌に映える、漆黒のゴシックドレス。
どうやらドラゴンの鱗が変質し、魔力で編まれた服となったらしい。
頭には小さな二本の角が生え、背中には可愛らしいドラゴンの翼がある。
見た目は10歳前後だろうか。
彼女はゆっくりと目を開けた。
その瞳は、ドラゴンと同じ「金色」に輝いていた。
「……ぬ?」
彼女は自分の小さな手を見つめ、パチクリと瞬きをした。
「我が体……なぜこのように小さく……? それに、この満ち足りた気分はなんじゃ?」
瘴気に苦しめられていた頃の凶悪さは消え、代わりに神聖な気配すら漂っている。
彼女は空中に浮いたまま、目の前にいる俺をジッと見つめた。
「……人間よ。貴様が我を浄化したのか?」
「ああ、そうだけど……」
「フン。生意気な。……だが、礼は言っておく。あのまま腐り落ちるのは、誇り高き古龍として我慢ならんかったからな」
態度はデカいが、声は可愛らしい幼女そのものだ。
いわゆる「のじゃロリ」ってやつか。
「しかし、腹が減ったのう……。魔力が足りぬ」
彼女はふらりと俺に近づくと、俺がくわえていたタバコを指差した。
「その煙、美味そうじゃな。寄越せ」
「は? お前も吸うのか?」
「よいから寄越せ!」
彼女は俺の顔を引き寄せると、タバコではなく――**俺の口に直接キスをして**、口内に残っていた紫煙を吸い尽くした。
「んむっ……ぷはぁ」
彼女は満足げに息を吐いた。
「うむ、極上じゃ。……気に入ったぞ人間。我は貴様の配下になってやる。感謝するがよい」
「……はぁ?」
「貴様の煙がないと、この体は維持できぬようじゃ。責任を取って、死ぬまで我に煙を捧げよ」
そう言って、元・古龍の幼女はニカっと笑った。
勝手なやつだ。だが、放っておくわけにもいかない。
「……名前は?」
「ぬ? 名などない。好きに呼べ」
俺は彼女の燃えるような赤髪をじっと見た。
赤いからレッド……じゃ芸がないしな。
「そうだな……お前、真っ赤だから**『紅』**だ」
「ベニ……?」
彼女はその響きを口の中で転がした。
俺にとっては紅ショウガみたいで親しみやすい名前だが、異世界の彼女にはどう響くか。
「ふむ。……短く、力強い響きじゃ。古代語のようでもあり、高貴さを感じる」
どうやら気に入ったらしい。チョロいな。
「よかろう! 我が名は『紅』! 心して呼ぶがよい!」
その瞬間、脳内にシステム音が鳴り響いた。
《命名確認。個体名**『紅』**とのパスが確立されました》
《対象が**『緋色の崩竜』**へと進化しました》
下からは、仲間たちの歓声が聞こえてくる。
俺は空中で、新しい(そして一番手のかかりそうな)娘を抱きかかえながら、大きなため息をついた。
「……これじゃあ、スローライフは当分お預けだな」
俺の異世界生活は、世界最強の「竜の娘」を育てるという、とんでもないオマケ付きで第二章へと続くのだった。
(第38話 完/第一部 完)
ここまでお読みいただき、本当にありがとうございます! これにて「第一部:森の開拓と古龍編」は完結となります。
冴えないおっさんだったタケルが、頼れる仲間たちと共に森を開拓し、ついには古龍をも浄化してしまいました。 新たな家族となった「紅」も加わり、タケルの苦労と騒がしい日常はまだまだ続きます。
【第二部 予告】 次章からは、森の外へと世界が広がります。 ドワーフとの技術提携、周辺国家との外交、そして美少女化した眷属たちとのドタバタな日常……。 「世界最強の村」となったタケルたちの元へ、様々な国から思惑を持った者たちが訪れることでしょう。
引き続き、タケルの「至高の一服」にお付き合いいただければ幸いです。
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それでは、第二部でお会いしましょう!




