第34話:西からの逃亡者と、猫の耳
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第1部完結まで描き上げておりますのでよろしくお願いします。
ガルドたち使節団がドワーフ王国へ向かっている間も、村の発展は止まらない。
ヴァイスの指揮で区画整理が進み、今やゴブリン、人間、ドワーフが共存する多種族国家の様相を呈している。
そんなある日の昼下がり。
俺が畑でトマトの収穫(という名のつまみ食い)をしていると、森の見回りをしていたクラウディアから念話が入った。
『タケル様! 至急、西の森林エリアへお越しください!』
「どうした? また聖教国の変なのが来たか?」
『いえ、違います。……負傷者です。それも、かなりの数の』
◇ ◇ ◇
俺がクロウの背に乗って現場へ急行すると、そこには痛ましい光景が広がっていた。
「うぅ……痛い……」
「ママ……歩けないよぉ……」
木陰に身を寄せ合っていたのは、ボロボロの服を纏った30名ほどの集団だった。
だが、彼らは人間ではない。
頭にはフサフサした耳、お尻からは長い尻尾。
**獣人(亜人)**たちだ。猫、犬、兎……種族は様々だが、皆一様に傷つき、泥にまみれている。
「酷い怪我ですね……。レミ、警戒を」
「はい、クラウディアさん」
発見者のクラウディアと、護衛についていたシルヴィの長女・**レミ**が、彼らを守るように立っていた。
レミは銀髪のおっとりとした美女(巨乳)だが、その背中からは鋭利な蜘蛛脚が覗いている。
俺が狼に乗って現れると、獣人たちが「ヒィッ!」と悲鳴を上げて身をすくませた。
「あ、あの……オラたち、怪しいもんじゃ……」
集団の先頭に立っていた、猫耳を持つ小柄な少女が、震えながら前に出てきた。
片腕に包帯を巻き、ボロボロの短剣を握りしめている。彼女がリーダー格か。
「落ち着け。取って食おうってわけじゃない」
俺はクロウから降り、両手を上げて敵意がないことを示した。
「俺はこの先の村の長だ。……見るからにヤバそうだが、何があった?」
「……逃げて、きたんだ。西の国から」
猫耳の少女――**ニア**と名乗った彼女は、ポツリポツリと語り始めた。
彼女たちは、西にある**『亜人連合国家 ゾアン』**の国境付近に住んでいた民だという。
だが最近、隣接する**『聖法皇国 エクレシア』**の軍部による「亜人狩り」が激化。
村を焼かれ、家族を殺され、命からがら逃げ出したのだそうだ。
「聖法皇国? あの『聖女エリラ』のとこか?」
「……エリラ様は穏健派だ。でも、今の軍を牛耳ってるのは過激な『異端審問官』たちだ。奴らは亜人を魂のないケダモノだと言って、皆殺しにしようとしてる」
ニアが悔しげに唇を噛む。
先日来たエリラたちは「話の分かる(チョロい)連中」だったが、国全体がそうではないらしい。
「オラたち、行く場所がなくて……。人間が怖がって近づかない、この『竜の森』なら助かるかもって……」
死の森へ逃げ込むほどの絶望。
彼女たちの傷を見れば、その過酷な旅路は想像に難くない。
「……なるほどな」
俺は胸ポケットからタバコを取り出し、火をつけた。
「け、煙!? 毒ガスか!?」
「違う。……吸いな」
俺はニアの顔に、ふぅーっと紫煙を吹きかけた。
**《煙霧変調》――『治癒』**
「……え?」
ニアが目を丸くする。
煙を浴びた腕の切り傷が、見る見るうちに塞がっていく。痛みも消え、疲労が抜けていく。
後ろにいた子供たちや老人にも煙を行き渡らせる。
「す、すげぇ……魔法か!?」
「魔法使い様だ!」
獣人たちがざわめく中、俺はニアの頭に手を置いた。
フサフサの猫耳がピクッと動く。……いい手触りだ。
「気に入らねぇな。弱い者いじめは趣味じゃない」
俺はニカっと笑った。
「安心しろ。うちは『来る者拒まず』だ。……それに、この村には丁度**『モフモフ成分』**が足りなかったんだ」
「も、もふもふ……?」
「歓迎するぞ。今日からここが、お前らの新しい家だ」
◇ ◇ ◇
獣人たちを村へ連れ帰ると、予想通りの大騒ぎになった。
「うわー! 猫ちゃんだ!」「ワンちゃんもいる!」
進化したシドたち(美男美女軍団)が、獣人の子供たちを見て目を輝かせている。
ゴブリンたちも「新しい仲間か! 肉食え!」と歓迎ムードだ。
「あ、あの……本当に、ここにいていいの?」
ニアが信じられないという顔で俺を見上げる。
人間、ゴブリン、ドワーフ、そして蜘蛛の魔人。
種族の壁を超えたカオスな、しかし温かい光景。
「言ったろ? 働かざる者食うべからずだが、働けば腹いっぱい食わせてやる」
「……う、うぅ……」
ニアの大きな瞳から、大粒の涙がこぼれ落ちた。
彼女は俺の胸に飛び込み、泣きじゃくった。
「ありがとう……! ありがとうごぜぇます……!」
俺は彼女の背中を撫でながら(猫耳の感触を楽しみつつ)、ヴァイスに目配せをした。
「……で、どう思うよ軍師殿」
「厄介事だな」
ヴァイスがやれやれと肩をすくめる。
「彼女たちを追っていた部隊……おそらく聖法皇国の**『武闘派』**だろう。獲物を逃した猟犬は、必ず血の匂いを追ってくる」
「だろうな」
俺は西の空を睨んだ。
エリラのような話の通じる相手ならいいが、問答無用で殺しに来るような連中なら――。
「その時は、俺たちのやり方(物理)で歓迎してやるさ」
新たな家族を守るため、俺たちの村は再び臨戦態勢へと移行する。
西からの追っ手――**「処刑人」**と呼ばれる最凶の審問官たちが、森のすぐそばまで迫っていることを、俺たちはまだ知らなかった。
(第34話 完)
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