表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

27/39

第26話:銀の織姫、月下に目覚める

ご訪問ありがとうございます。 いつも応援ありがとうございます。


少しでも楽しんでいただけたら幸いです。


第1部完結まで描き上げておりますのでよろしくお願いします。



「らぁぁぁっ!! 落ちろォォ!!」


俺はカブトムシ(ドーザー)の背中にしがみつきながら、右手で構えたライター(鳳凰の柄)に意識を集中させた。

スイッチなど必要ない。俺のイメージがそのままトリガーになる。


**(弾丸……連射……ッ!)**


**ズドン! ズドン! ズドン!**


着火口から圧縮された青白い火球が連射され、迫り来るワイバーンの顔面を正確に撃ち抜く。

直撃を受けた飛竜が、断末魔を上げて墜落していく。


「よし、3匹目!」

「主、右だ! 回り込まれるぞ!」


背中合わせに乗っているヴァイスが鋭く叫ぶ。

右翼側から、2体のワイバーンが爪を立てて迫っていた。


「チッ、旋回が間に合わねぇ!」

「……世話の焼ける」


ヴァイスが片手をかざすと、掌からドス黒い魔力が噴出した。


「**闇魔法・黒鎖ダーク・チェーン**」


漆黒の鎖が空中に生成され、迫るワイバーンたちの翼と胴体をがんじがらめに拘束した。

物理法則を無視した拘束に、敵が空中でたたらを踏む。


「なっ……空中の相手を縛ったのか!?」

「数秒しか持たん。……焼け」

「おうよ!」


俺は動けないマトに向かって炎弾を撃ち込み、爆散させた。

さすが軍師、サポートも的確だ。


だが、敵の数は多い。別の角度からも牙が迫る。


「ワォン!!(疾風の刃!)」


地上を走るクロウが、夜空に向かって尻尾を振り抜いた。

ヒュンッ!!

不可視の風の刃――**『真空刃ウィンドカッター』**が空を裂き、俺たちを狙っていたワイバーンの翼を根元から切断した。


「ナイスだクロウ!」


さらに、反対側からは眩い光がはしる。


「主様に指一本、触れさせません!!」


2号機に乗ったクラウディアが、揺れる足場など物ともせず、ミスリルの剣を一閃させた。

**『聖光斬ホーリー・スラッシュ』**。

王族の血筋に宿る「光」の斬撃が、瘴気を纏ったワイバーンの皮膚をバターのように切り裂く。


「ギィィィーッ!!(突撃ー!!)」


シドたち子蜘蛛を乗せた3号機〜5号機も奮戦している。

彼らはただ糸を吐くだけではない。

空中で敵に体当たりをかますと、シドが身軽にワイバーンの背中へと飛び移った。


「シャァッ!!」


シドの牙が、ワイバーンの翼の付け根に深々と突き刺さる。

**ガブッ!! ベリベリッ!!**

強靭な顎が、皮膜と筋肉を無慈悲に食いちぎった。

片翼を失った飛竜が、きりもみ回転しながら墜落していく。

他の子蜘蛛たちも、鋭利な足で敵を引き裂き、次々と撃墜していく。


空と地上、完璧な連携だ。

100体いたワイバーンも、すでに半数近くが撃ち落されていた。


「いける! このまま押し切れるぞ!」


俺が確信した、その時だった。


**ゴオオオオオオッ……!!**


戦場の空気を震わせる、重低音の咆哮。

群れの後方から、一際巨大な影が現れた。

通常のワイバーンの倍はある巨体。鱗は禍々しい赤黒さに染まり、口からは煙を吐いている。


「……変異種ユニークか!」


ヴァイスが舌打ちをした。

赤いワイバーンは、俺たちドーザー部隊とのドッグファイトを無視し、一直線に降下を開始した。

その狙いは――俺たちではない。


「しまっ……狙いは『繭』か!!」


地上の広場に鎮座する、シルヴィの繭。

そこから漏れ出す高密度の魔力に惹かれ、ボス個体が特攻を仕掛けたのだ。


「させねぇよ! ドーザー、追え!」


俺は操縦桿(角)を引くが、重たいカブトムシは急降下できない。

速度が足りない。


「グルルルゥ……ッ!!」


赤いワイバーンが大きく口を開けた。

喉の奥で、ドス黒い瘴気と炎が混ざり合った極大のブレスが充填される。

地上のゴブリンたちが矢を放つが、硬い鱗に弾かれる。


このままじゃ、繭ごと村が吹き飛ぶ。


「間に合わねぇなら……俺が行くしかねぇ!!」


俺は足場の固定具を外すと、カブトムシの背中を蹴って**空へ飛び出した。**


「主!? 正気か!?」

「うおおおおお!!」


俺は落下しながらライターを構え、ブレスの発射口へ狙いを定めた。

届くか? いや、届かせる!


だが、俺がトリガーを引くコンマ一秒前。


**ドクンッ!!**


心臓の鼓動のような音が、戦場全体に響き渡った。


次の瞬間、繭の内側から、目も眩むような**「銀色の光」**が炸裂した。


「ギャッ!?」


直撃コースに入っていた赤いワイバーンが、光の圧力に弾き飛ばされ、空中で体勢を崩す。

俺も爆風に煽られたが、誰かに優しく抱きとめられた。


「……え?」


光の柱が、夜空を貫いた。

その光の中心に――**「彼女」**は立っていた。


月光を浴びて輝く、流れるような銀髪。

宝石のように赤い瞳。

透き通るような白磁の肌を持つ、人間と見紛うほどの美女。

だが、その背中からは、黄金に輝く鋭利な4本の**「蜘蛛脚エーテルアーム」**が、翼のように展開されていた。


「……なっ」


俺は言葉を失った。

美しい。あまりにも、神々しい。

あれが、あの巨大な蜘蛛だったシルヴィなのか?


ドーザーの上から見ていたシドたち子蜘蛛が、ポカンと口を開けて呟いた。


『ママ……?』

『ママ、すごい……綺麗……』


彼女は俺を「お姫様抱っこ」したまま空中に浮遊し、上空で態勢を立て直そうとしている赤いワイバーンを見上げた。


「……騒がしいですね」


その声は、念話ではなく、美しい肉声として俺たちの耳に届いた。


「私の安眠を……いえ、何より。主様との語らいの時間を邪魔する羽虫どもが」


彼女が虚空に足を乗せると、そこに見えない波紋が広がった。

**『空歩エア・ウォーク』**。

彼女はまるで階段を登るように、優雅に、しかし爆発的な速度でさらに空へと駆け上がった。


「グルァッ!!」


赤いワイバーンが本能的な恐怖を感じてブレスを吐き出す。

だが、シルヴィは避けようともしない。

彼女が片手をかざすと、空気中の魔力が銀色の糸となって編み上げられ、盾となる。


**《魔糸防壁マギ・シールド》**


極大のブレスが霧散する。

魔法だ。人型に進化したことで、彼女は高位の魔法を行使できるようになっていた。


「お返しです」


シルヴィが指先を指揮者のように振るう。

背中の黄金脚から、無数の銀糸がレーザーのように射出された。


**シュバババババッ!!**


「ギャアアアアアッ!?」


回避不能の高速刺突。

赤いワイバーンの翼、手足、そして喉が、一瞬にして串刺しにされる。

巨体が空中で縫い止められた。


「貴方のような下等なトカゲが、主様の領地を汚すなど万死に値します」


シルヴィは冷徹に告げると、右手を握り込んだ。


「堕ちて、**糧になりなさい**」


**ザンッ!!**


繋がっていた糸が一斉に収縮し、赤いワイバーンの巨体がバラバラに切断された。

肉片となって降り注ぐボスを見て、彼女は舌なめずりをしたように見えた。


圧倒的だった。

Sランクに近いと言われていた彼女が、進化してその壁を超えた瞬間だった。


「グルッ……!?」


ボスを瞬殺された残りのワイバーンたちが、恐慌状態に陥って逃げ出そうとする。

だが、逃がすはずがない。


「逃しませんよ」


シルヴィが空中に巨大な魔法陣を展開する。

そこから放たれたのは、雨のような光の矢。

逃げ惑うワイバーンたちは一匹残らず撃ち落とされ、夜の森に静寂が戻った。


   ◇   ◇   ◇


戦闘終了後。

シルヴィは俺をお姫様抱っこしたまま、ふわりと広場へ舞い降りた。

他の仲間たちも、カブトムシを着陸させて集まってくる。


地上に降り立つと、彼女の背中の黄金脚は光の粒子となって消え、今はただの美しい人間の女性にしか見えない。

ただ一つ問題があるとすれば、彼女が生まれたての状態――つまり、**一糸まとわぬ姿(全裸)**であることだ。


「タケル様……」


彼女は頬を染め、熱っぽい瞳で俺を見つめている。


「お、おいシルヴィ! 服! 服を着ろ!」


俺が慌てて上着を脱ごうとすると、彼女は妖艶に微笑んだ。


「あら、いけませんわ。……ですが、この姿なら」


彼女は俺の首に腕を回すと、遠慮なくその豊満な体を密着させてきた。

柔らかい感触と、甘い香りが俺を包む。


「おはようございます、主様。……この姿なら、もう貴方様を潰さずに、こうして抱きしめられますわ」


「う、うおぉ……」


俺はドギマギして両手を泳がせるしかない。

以前の巨大蜘蛛の時も可愛かったが、こんな絶世の美女に迫られては、男として耐性が持たない。


「なっ……なななっ……!」


カブトムシから降りてきたクラウディアが、顔を真っ赤にして硬直している。

あまりの美しさと強さ、そして大胆さに、ライバルとしての危機感を覚えているようだ。


「……やれやれ」


ヴァイスが呆れたように肩をすくめ、葉巻を吹かした。


「主の周りは化け物ばかりか。……まあ、これで対空戦力の問題は解決だな」


最強のヒロインが爆誕した夜。

俺たちの村は、ワイバーンの大群すら退ける、この森における**「絶対的な聖域」**へと変貌を遂げた。


《ピロリン♪ レベルが上がりました》

《ピロリン♪ レベルが上がりました》

《ピロリン♪ レベルが上がりました》


脳内ではさっきからレベルアップの通知音が鳴り止まないが……今は気にしないでおこう。

俺は腕の中の温もりと、仲間の無事を噛み締めていた。


(第26話 完)

お読みいただきありがとうございました。


面白いと思っていただけたら、下にある【☆☆☆(評価)】や【ブクマ】を押していただけると嬉しいです。 感想もお待ちしております!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ