第25話:銀の繭と、空飛ぶ重機計画
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第1部完結まで描き上げておりますのでよろしくお願いします。
「「「軍師殿にかんぱーい!!」」」
要塞化に成功したその夜。
村の広場では、防衛戦の完勝と、新たな参謀・ヴァイスの加入を祝う祝勝会が開かれていた。
「ささっ、軍師殿! 酒ですぞ! 貴殿の指揮、痺れました!」
「……やめろ、筋肉だるま。そもそもこの村に酒などないだろう」
ゴブ郎が空のジョッキを差し出す。
確かに酒造技術はない。だが、俺にはアイテムボックスがある。
「まあ待て。前に作ってアイテムボックスに放り込んでおいたやつがあるんだ」
俺は亜空間から、木の樽をいくつか取り出した。
中身は、森で採れた果物を絞り、俺の**《煙霧変調》――『熟成』**の煙を吹きかけておいたものだ。
アイテムボックスの中は時間が止まるが、入れる直前に煙で強制的に発酵を進めておいた、即席だが味は保証付きのワインだ。
「うおお! 主様の手作り酒だぁ!!」
「酔える! これはいい酒だ!」
樽を開けると芳醇な香りが広がり、ゴブリンたちが大騒ぎする。
そんな中、ヴァイスが俺の隣に来てドカッと座り込んだ。
「……煙で熟成酒とはな。呆れた能力だ」
「便利だろ? ほら、軍師様も飲めよ」
「……頂こう」
ヴァイスは酒を一口あおり、夜空を見上げた。
「……だが、浮かれている場合じゃないぞ。今日の敵は地上だったから完封できた。だが、相手がドラゴンなら、次は間違いなく**『空』**から来る。今の対空戦力はゼロだ」
ヴァイスは鋭い目で、宴を楽しんでいるメンバーたちを観察し始めた。
ボソボソと、独り言のように戦力を分析していく。
「急ぎ、対空戦力を構築する必要がある。主、手持ちの駒を確認するぞ」
まず指差したのは、足元で骨をかじっているクロウだ。
「あの狼だ。……風の魔力が渦巻いているな。何かスキルを持っているはずだ」
「ああ。こないだレベルアップした時に**『疾風』**ってのを覚えてたな」
俺はステータス画面を思い出す。
**スキル:『疾風』**
* **効果:** 自身の加速、周囲への『追い風』付与、および**『真空刃』**による遠距離攻撃。
「……なるほど。加速に加えて、風の刃を飛ばせるのか。これは使える」
ヴァイスがニヤリと笑う。
「単体では空を飛べないが、後述する重機部隊の**『加速装置』**兼、遊撃アタッカーとして運用できる」
次に、広場の隅で待機している巨大な甲虫たち。
「あの重機どもだ。重すぎるが、一応羽はある。……クロウの風で補助すれば、空飛ぶ戦車として運用可能だ。主、彼らの背中に乗る準備をさせろ」
「乗るって、どうやって? 羽が開くから固定できないぞ」
「子蜘蛛の糸を使え。羽に干渉しないよう、ハーネスのように固定するんだ。乗り心地は最悪だろうが、空中で白兵戦を行うための足場にはなる」
そして、警備に当たっているクラウディア。
「あの騎士は真面目すぎるが、剣技は本物だ。それに王族特有の**『光属性』**の魔力を感じる。……光は瘴気を払う。対ドラゴン戦における、最大の火力になり得るな」
続けて、シルヴィの方を見る。
「あの蜘蛛は規格外だ。単体で軍隊と渡り合える。……だが、体が大きすぎる。地上の乱戦や、狭い場所では味方を巻き込みかねない。広すぎる攻撃範囲と巨体。制御できれば最強だが」
その点、シドたち子蜘蛛は優秀だと評価した。
「戦闘力は親に劣るが、小回りが利く。空中戦ではドーザーの背に乗り、敵の翼を糸で封じる**『対空ネット役』**を担わせる」
最後に、飲み食いしているゴブリンたちを見て鼻を鳴らした。
「あの筋肉だるまたちは、剣が届かないなら弓を持たせろ。女衆に作らせた『ミスリルの矢』を、バカ力で引く『剛弓』で一斉射撃させる。狙いは不要だ。弾幕で空を埋め尽くせ」
ヴァイスの分析は的確だった。
駒は揃っている。あとは、準備する時間だけだ。
「よし、方針は決まった。まずは腹ごしらえだ」
俺はアイテムボックスから、昨日湿地帯で倒した**『災厄の多頭蛇』**の肉を取り出した。
Aランクの魔物。その肉は高密度の魔力資源だ。
「毒は抜いてある! 食って強くなれ!」
俺が焼いて振る舞うと、村中が熱狂に包まれた。
そんな中、シルヴィが俺の元へやってきた。
『主様。……その、一番魔力が濃い部分(心臓)を、頂いてもよろしいですか?』
「ん? ああ、いいぞ」
俺はヒドラの心臓を焼き、シルヴィに渡した。
彼女はそれを口に運ぶと――。
『…………っ!!』
『あ、熱い……! 体が……作り変えられる……!』
「おい、大丈夫か!?」
ヴァイスが叫ぶ。「魔力過多だ! Aランクの魔力を取り込んだことで、器が進化しようとしている!」
シルヴィの体から大量の糸が噴き出し、彼女自身を包み込む。
数秒後、そこには巨大な**「銀色の繭」**が鎮座していた。
「……まずいな」
ヴァイスが顔をしかめる。
「進化には時間がかかる。その間、最強戦力である彼女は動けない。しかも、この繭から漏れ出す膨大な魔力は、敵にとって『ここにご馳走があるぞ』という狼煙になる」
「狼煙なら、消せばいい」
俺はタバコを深く吸い込むと、肺いっぱいの煙を繭に向かって吹きかけた。
**《煙霧変調》――『隠蔽』**
濃密な紫煙が繭だけをドーム状に包み込み、外部への魔力漏出を遮断する。
村全体を隠すのは無理だが、この繭だけならなんとかなる。
「……ほう。結界か」
「ああ。だが、長くは持たねぇ。魔力的に持って**一週間**ってところか」
「十分だ」
ヴァイスが不敵に笑う。
「一週間あれば、この村を『対空要塞』に改造できる。……総員、宴は終わりだ! 明日から死ぬ気で働け!」
翌日から、村は戦場のような忙しさに包まれた。
初日と二日目は、**重機の飛行訓練**だ。
シドたちに頼んで、絶対に切れない「鋼粘糸」で鞍を作り、ドーザーたちの胸角や腹部に巻きつける。
背中の羽が開くのを邪魔しないよう、あえて不安定な場所にぶら下がる形だ。
「うわ、揺れる揺れる!」
俺がテスト搭乗したが、ロデオマシーン並みの揺れだ。だが、これで空へ行ける。
三日目からは、**ゴブリン弓兵の訓練**。
完成した『鉄蜘蛛の剛弓』は、人間なら三人掛かりでも引けないような代物だ。
だが、進化したホブゴブリンたちは、それをギリギリと引き絞る。
「狙うな! 角度45度! 放て!」
ヴァイスの怒号が飛ぶ中、彼らは来る日も来る日も空に向かって矢を放ち続けた。
放たれた矢は、雲を突き抜けるほどの威力を見せた。これならドラゴンの鱗も貫けるかもしれない。
そして、クロウの訓練も欠かせない。
「ワォン!(風よ!)」
彼が『疾風』を使ってカブトムシの後ろから風を送る。
最初はバランスを崩して墜落しかけていたが、シドたちが糸で姿勢制御をサポートすることで、徐々に「高速飛行」が可能になってきた。
さらに、クロウ自身も「真空刃」を飛ばす練習を重ね、対空砲火としての精度を上げていく。
クラウディアも、揺れるカブトムシの上で剣を振るう特訓を重ねている。
「……シッ!」
彼女の放つ『光の刃(聖光斬)』は、日に日に鋭さを増していた。
「これなら、あの龍の眷属も斬れます!」
繭に篭ったシルヴィは、まだ沈黙したままだ。
だが、その内側で高まる魔力は、確実に「何か」が変わろうとしていることを告げていた。
俺は毎晩、繭のそばで一服し、魔力を補充してやった。
「ゆっくり休めよ、シルヴィ。外は俺たちが守るからな」
そして、一週間が過ぎた。
「……結界が、切れるぞ」
俺たちは準備を終え、広場に集結していた。
全員が武器を構え、息を呑んで上空を見つめる。
煙のドームが徐々に薄れていき――やがて、完全に消滅した。
銀色の繭の魔力が、隠すものなく世界に露見する。
訪れたのは、静寂だった。
空には雲が流れるだけで、何も起きない。
「……来ない、ですね」
クラウディアが安堵と不安が混ざった声を出す。
俺も少し肩の力を抜いた。
「ま、あくまで『可能性』の話だったからな。ヴァイスの考えすぎだっ――」
俺がそう言いかけた、その時だった。
**キィィィィィン……!!**
遠い西の空から、空気を切り裂くような絶叫が響き渡った。
それは一つではない。百、いや、それ以上か。
地平線の彼方に現れた無数の黒点が、またたく間に大きくなり――西の空を黒く染め上げていく。
「……撤回。マジで来やがった」
ドラゴンの尖兵、**ワイバーンの大群(100体以上)**だ。
繭の魔力を感知し、ハイエナのように殺到してきたのだ。
空を埋め尽くす絶望的な数。
「数は100……! 戦争レベルですね」
クラウディアが剣を握りしめる。
ヴァイスが葉巻(自作)を噛み締め、ニヤリと笑った。
「予測通りだ。……準備しておいて正解だったな、主」
「全くだ。お前の読みが当たって嬉しいやら悲しいやらだぜ」
俺は溜息をつき、すぐに気持ちを切り替えた。
準備は万端だ。
「総員、迎撃開始!」
俺の号令と共に、改造された重機たちがエンジン(羽音)を吹かした。
「ドーザー空挺部隊、発進!」
『ギギィーッ!!』
ハーネスを取り付けた5匹の鋼鉄甲虫が、ふわりと浮き上がる。
1号機には俺とヴァイス。2号機にはクラウディア。他の機体にはシドたち子蜘蛛が乗り込んでいる。
「クロウ! 風を送れ!」
「ワォン!!(疾風!)」
地上でクロウが咆哮すると、強烈な上昇気流が発生した。
重たいカブトムシたちが、風に乗って一気に加速する。
「いくぞ野郎ども! 空中戦だ!!」
俺はライター(鳳凰の柄)を抜き放ち、黒く染まる空へと突撃した。
(第25話 完)
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