第24話:紫煙の軍師と、要塞化計画
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第1部完結まで描き上げておりますのでよろしくお願いします。
北の湿地帯での出会いから数時間後。
俺たちは、新たな仲間である軍師・ヴァイスを連れて、開拓地(村)へと戻ってきた。
「主様! お帰りなさいませ!」
「無事なご帰還、何よりです!」
村の入り口で、ゴブ郎と、留守を預かっていたホブゴブリンたちが出迎えてくれた。
彼らの視線は、俺の隣にいる陰気なダークエルフ――ヴァイスに向けられる。
「主様、その耳の長い男は?」
「ああ。紹介する。こいつはヴァイス。今日から俺たちの参謀(軍師)になってもらう」
俺の紹介に、ゴブ郎が目を丸くした。
「軍師、でありますか? しかし、見るからにひ弱そうな……」
「……フン」
ゴブ郎の言葉を遮るように、ヴァイスが鼻を鳴らした。
彼は気だるげにタバコを吹かしながら、俺たちが苦労して作った木の柵や、見張り台を冷ややかな目で見回している。
「……酷いな」
「あ?」
「なんだこの穴だらけの陣形は。学芸会か? お前ら、死にたいのか?」
ヴァイスの毒舌に、場の空気が凍りついた。
俺たちが作った村を「学芸会」呼ばわりされたのだ。当然、血の気の多いゴブリンたちは黙っていない。
「貴様ァ! 言わせておけば!」
ゴブ郎が激昂し、ヴァイスの胸倉を掴もうと詰め寄る。
だが、ヴァイスは眉一つ動かさず、紫煙を吐き出した。
「怒る前に頭を使え、筋肉だるま。……そこにある見張り台、なぜ森に向けていない? 敵が街道から堂々と来るとでも思っているのか?」
「むっ、それは……」
「柵の配置もデタラメだ。これでは敵を『どうぞお入りください』と招き入れているようなものだ。……昨日の襲撃で、敵に裏を回られて畑を荒らされただろう?」
「ッ……! なぜそれを……!」
図星を突かれ、ゴブ郎が言葉を詰まらせる。
「戦場の痕跡を見れば分かる。……いいか、防衛の基本は『敵を誘導すること』だ。敵が通りたくなる道を作り、そこに戦力を集中させる。お前らのやっていることは、ただの力比べだ」
ヴァイスは淡々と、しかし理路整然と、村の防衛ラインの欠陥を次々と指摘していった。
その指摘はあまりに的確で、反論の余地がない。
悔しさに顔を赤くしていたゴブ郎も、次第にその表情が「驚き」へと変わっていった。
「……ぐうの音も出ねぇな」
俺は感心して言った。さすがは元・天才軍師だ。
「まあまあ。ヴァイス、お前が正しいのは分かった。じゃあ、どうすればいい?」
「……簡単だ。地形を変える」
ヴァイスはタバコの灰を落とし、俺を見た。
「主、許可をくれ。私が指揮を執り、この集落を『要塞』に作り変える」
「おう、好きにやってくれ。俺のタバコ代分は働いてもらわねぇとな」
俺が許可を出すと、ヴァイスの目が鋭く光った。
そこからは早かった。
「重機隊、前へ。……貴様らは村の周囲に『空堀』を掘れ。深さは3メートル。ただし、正面の一箇所だけは道を残せ」
『ギギィーッ!(了解!)』
「ゴブリン部隊。貴様らは掘り出した土を使って土塁を築け。敵をその『一本道』に誘い込む壁を作るんだ」
「オオオオッ!!」
「女衆(職人隊)。貴様らの手先の器用さは見事だ。……ミスリルの端材を使って、殺傷力の高い『回転刃の罠』を作れ。それを一本道に敷き詰める」
「はーい! 任せてー!」
的確かつ無駄のない指示が飛び交う。
ヴァイスの頭の中には、すでに完成図が見えているのだろう。
俺がサボっている間に、村の景色はみるみる変わっていった。
◇ ◇ ◇
そして、その日の夜。
ヴァイスの予言通り、森の野生魔物――空腹に飢えた**「大猪」**の群れが、村を襲ってきた。
「敵襲ぅぅぅ!!」
「慌てるな」
見張り台の上で、ヴァイスが静かに告げる。
俺とゴブ郎、クラウディアもその横で戦況を見守る。
大猪たちは、本能に従って「一番進みやすい道」――つまり、ヴァイスがあえて残した正面の一本道へと殺到した。
「かかったな」
ヴァイスが指を鳴らす。
「……殺れ」
その瞬間、一本道の地面からミスリルの回転刃が飛び出し、先頭の猪たちの足を切り裂いた。
悲鳴を上げて転倒する猪たち。後続がそれに躓き、団子状態になる。
そこは、完全に逃げ場のない**「キルゾーン(必殺エリア)」**だった。
「撃て」
待ち構えていたゴブリンたちが、土塁の上から石や槍を一斉に投擲する。
一方的な虐殺だった。
大猪の群れは、村の柵に触れることすらできず、全滅した。
「……す、すげぇ……!」
ゴブ郎が呆然と呟いた。
「我らは一歩も動かず、汗ひとつかかずに……完勝だと……!?」
昨日の泥臭い防衛戦が嘘のようだ。
これが「知略」の力。
「……フン。雑魚相手ならこんなものだろう」
ヴァイスはつまらなそうに紫煙を吐き出した。
その姿を見たゴブリンたちが、一斉に歓声を上げた。
「「「軍師殿バンザイ!! 軍師殿バンザイ!!」」」
「……チッ、うるさい奴らだ」
ヴァイスは鬱陶しそうに耳を塞いだが、その表情はまんざらでもなさそうだ。
ゴブ郎も駆け寄り、ガシッとヴァイスの手を握った。
「失礼な口を聞いて申し訳なかった! 貴殿こそ真の軍師! これからは貴殿の指示に従う!」
「……分かったから手を離せ、暑苦しい」
俺はその様子を眺めながら、深くタバコを吸い込んだ。
「(へへっ、これで防衛はお任せできるな)」
最強の軍師が機能し始めた。
これで俺の安眠ライフも安泰……かと思われた。
だが、ヴァイスは夜空を見上げ、独り言のように呟いた。
「……だが、空からの攻撃に対する備えがゼロだ。相手がドラゴンなら、次は空から来るぞ」
俺の耳に、その不吉な予言が届いた。
……前言撤回。
まだまだ、俺の苦労は続きそうだ。
(第24話 完)
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