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第19話:黒き狼と、多すぎる拾い物

ご訪問ありがとうございます。 いつも応援ありがとうございます。


少しでも楽しんでいただけたら幸いです。


第1部完結まで描き上げておりますのでよろしくお願いします。



「……タケル様。これは、夢でしょうか?」 クラウディアが、自身の細腕と、たった今「鋼鉄甲虫」の頭蓋を紙のように貫いたレイピアを見比べ、呆然と呟いた。 「私の腕力は、いつの間に『オーガ』並になったのでしょうか……? それとも、私の体が羽のように軽いのは、死ぬ前の幻覚でしょうか?」


彼女の混乱も無理はない。 本来なら、Bランクの魔物である鋼鉄甲虫は、騎士団が小隊を組んで挑む相手だ。それを単騎で、しかも一撃で葬ったのだから。 俺は、まだ燻っているタバコを口から離し、煙を吐き出した。


「夢じゃない。それが**『タバコの煙』の効果**だ」


俺は正直に認めた。 「どうやらこの煙には、傷を治すだけじゃなく、身体能力を底上げするバフ効果があるみたいだ」


「やはり……! この紫煙が……!」 クラウディアは、畏敬の念を込めて俺の手元のタバコを見つめた。 「傷を癒やし、毒を消し、さらには戦う力まで与えてくださるとは……。タケル様、貴方様はやはり、精霊に愛された加護持ちなのですね」


「(まあ、神様にもらったアイテムだし、あながち間違いじゃないか)」


俺たちは鋼鉄甲虫の素材をアイテムボックスに回収し、拠点へ戻ることにした。


   ◇   ◇   ◇


帰り道。 俺たちはポニーサイズになったチビたち(ドレ~シド)の背中に分乗し、森を進んでいた。 乗り心地は悪くない。蜘蛛の脚はサスペンションのように揺れを吸収してくれる。 俺が背中で揺られながら、今日の夕飯のメニューを考えていた、その時だった。


「……クゥ~ン……」


微かだが、確かに何かの鳴き声が、耳に届いた。


「ん?」 手綱代わりの糸を引き、足を止める。


「タケル様、あちらの大木の根元……獣の気配がします」 シルヴィの言葉に頷き、俺たちは茂みをかき分けた。


そこに、そいつはいた。 黒い毛並みを持つ、大型犬ほどの大きさの狼だ。 だが、その体はボロボロだった。全身に深い傷を負い、ガリガリに痩せ細っている。 俺たちを見ると、威嚇する気力もなく、ただ哀願するように力なく鳴いた。


「クゥン……」 《鑑定》を発動する。


種族:ブラックウルフ(幼体) 状態:衰弱、孤独 備考:群れからはぐれた個体


「(……ダメだ。犬好きの俺に、この目は反則だ)」 俺は狼の前にしゃがみ込んだ。 つぶらな黒い瞳が、俺を見つめている。


「腹減ってるな。ほら」


俺はアイテムボックスから、以前倒した**「赤熊の肉」の余り**を取り出し、軽く炙ってから差し出した。 狼は一瞬驚いたが、すぐにガツガツと食いついた。 その間に、俺はタバコの紫煙を吹きかける。


「吸いな。楽になるぞ」


煙を吸い込んだ狼がビクンと震え、傷口から黒い霧が抜けていく。 数分後。 狼はスクッと立ち上がり、尻尾を千切れんばかりに振って、俺の顔をペロペロと舐め回した。


「わっ、よしよし! 元気になったな!」 「よし、お前、俺と一緒に来るか?」


狼は「ワォン!」と嬉しそうに答えた。 その直後、脳内にシステム音が響く。


《ブラックウルフ(幼体)が配下になることを望んでいます。テイムしますか?》 《 YES / NO 》


俺は心の中で《YES》を念じた。 《テイムに成功しました。対象に名前をつけてください》


「名前か……見たまんまだが、**『クロウ』**ってのはどうだ?」


俺がそう告げた瞬間だった。 俺の体と、狼の体が、目に見えない「何か」で繋がったような感覚が走る。


《個体名『クロウ』との魂のパスが確立されました》 《条件達成により、眷属契約(特異)が成立。知能覚醒が付与されます》


脳内にアナウンスが続くと同時に、クロウの瞳に強い光が宿った。


「……あるじ?」 「お、やっぱりか」


俺は驚くというより、納得して頷いた。 シルヴィの時と同じだ。名付けによって魂のパスが繋がり、意思疎通が可能になったのだ。


「あるじ、飯、うまい。俺、もっと、ほしい」 クロウは尻尾をブンブン振りながら、念話で語りかけてくる。


「ああ、飯なら家に行けばもっとあるぞ。帰るか」


俺が背を向けた時だった。 クロウが俺のズボンの裾を咥えて、グイグイと引っ張った。


「あるじ、こっち。匂い、する」 「ん? どうしたクロウ? 家はあっちだぞ」 「ううん。違う。弱い、匂い。悲しい、匂い。こっちに、隠れてる」 「悲しい匂い……?」


クロウは必死に、ある方向――帰り道とは違う、森の深部を示している。


「近いのか?」 「ううん。遠い。あっちに、ずっと」


クロウの感覚では、ここから15キロほど先らしい。 徒歩なら数時間の距離だが、今の俺達には「足」がある。


「行ってみよう。案内してくれ」


俺たちはクロウを先頭に、森を駆け抜けた。 15キロの距離を短時間で踏破し、案内されたのは、つたに覆われた目立たない崖の裂け目だった。 人一人がやっと通れるような狭い隙間。 その奥に、思いがけず広い空洞が広がっていた。


そして、俺は絶句した。


「……なんだ、これ」


そこには、数百もの「目」が光っていた。 薄暗い洞窟の中に、びっしりと身を寄せ合って震えている、小柄な緑色の肌を持つ亜人たち。 50匹ほどのゴブリンだ。 だが、武器も持たず、ボロ布を纏い、ただただ痩せ細っている。 老人や子供のような個体も多い。 彼らの肌には、クロウと同じように、瘴気による黒い斑点が浮き出ていた。


「ヒィッ……人……間……?」 長老らしきゴブリンが、俺たちの姿を見て腰を抜かした。


「あるじ、こいつら、いじめない。俺、隠れてる時、見た。怖がり」 クロウが弁護するように言う。どうやらクロウは、はぐれた後に彼らの近くに隠れ住んでいたらしい。 ゴブリンたちが、一斉に地面に頭を擦り付けた。


「お、お助けくだせぇ……! ここももう、瘴気が入ってきて……食い物もなくて……」 悲痛な叫びに、子供たちが泣き出した。


「(……ダメだ。見捨てられねぇ)」


俺はため息をつき、タバコに火をつけた。


「全員、集まれ! 治療してやる!」


俺はアッシュモークの煙(広範囲散布モード)で彼らの瘴気を浄化し、傷を癒やした。 次は飯だ。50匹もの空腹を満たすには、並大抵の量じゃ足りない。 俺はアイテムボックスから、これまでに狩った猪肉や熊肉、巨大果物の残りを全て取り出した。


「生のままじゃ腹壊すな。今焼いてやる!」


俺は即席の石竈かまどを作り、塩味やニンニク味の葉を使って、肉を香ばしく焼き上げた。


「ほら、食え!」


焼き上がった肉をゴブリンたちに振る舞い、ついでにクロウにも放ってやる。 「うめぇ……!」「痛くねぇ……!」「神様だぁ……!」 ゴブリンたちは泣きながら肉を貪り食い、クロウも骨ごと噛み砕いている。 しかし、在庫があっという間に消えていく。


「(やべ、食料が尽きる)」 俺は待機していたチビたちに指示を出した。 「お前たち、悪いが周辺で獲物を狩ってきてくれ。数が必要だ」 チビたちは「御意!」とばかりに散っていった。


満腹になったゴブリンたちが、一斉に俺の前にひれ伏した。


「ありがとうごぜぇます! あなた様に一生ついていきますだ!」


その瞬間、システム音が鳴り響いた。 《ゴブリンの群れ(50体)が配下になることを望んでいます。テイムしますか?》 《 YES / NO 》


俺は迷わず《YES》を選んだ。 だが、ここで問題が発生する。


《テイムには名前が必要です》


「(50匹全員に名付け!? 無理だろ!)」 俺はとっさに閃いた。


「よし、お前らを眷属として受け入れる。だが、名前は自分で考えて、俺に名乗れ! それを名前として認める!」 「へ、へい!」


長老がおずおずと進み出た。 「わ、わしは……昔、『ゴブ郎』と呼ばれてまして……」 「よし、お前は**『ゴブ郎』**だ」


その瞬間、俺とゴブ郎の間にパスが繋がる。 それに続き、次々とゴブリンたちが名乗り出る。 「俺は『ゴブ太』だ!」「あっしは『ゴブ助』!」「あたいは『ゴブ子』!」 一人、また一人と自己紹介するたびに、俺の中に新しいパスがバチバチと繋がっていく。


50人全員のパスが繋がった瞬間、強烈なファンファーレが脳内に鳴り響いた。


《大規模な眷属契約を確認》 《スキル『テイム』のレベルが上昇しました! Lv.1 ▶ Lv.3》 《配下への指揮系統強化、および『念話(広域)』が解放されました》


「(おぉ、一気にレベルが上がった!)」 俺は湧き上がる力を感じながら、目の前の大集団を見渡した。


さて、ここからが本番だ。 俺の6LDKの洞窟に、これだけの人数は入らない。 俺は、嬉しそうに尻尾を振るクロウと、期待に満ちた50人のゴブリンたちに向けて宣言した。


「よし、お前らの住む場所を作るぞ。森を**『開拓』**する!」


こうして、俺の異世界スローライフは、村作りシミュレーションへと大きく舵を切ることになった。


(第19話 完)

お読みいただきありがとうございました。


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