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第18話:覚醒する王女と、今更な真実

翌朝。 クラウディアは、鳥のさえずりではなく、微かな川のせせらぎと、誰かが焚き火をする音で目を覚ました。


「(……夢、ではなかったのですね)」


目を開けると、そこは岩肌を削り出して作られた天井だった。 王宮の天蓋付きベッドよりも遥かに寝心地の良い「銀糸の布団」から体を起こす。 体の痛みは完全に消え、信じられないほど体が軽い。


彼女は身支度を整え、洞窟の外へと出た。 朝の光が差し込む広場では、タケルが煙草をふかしながら、チビたちに指示を出している。


クラウディアは彼に気づかれないように、そっと広場の端へ移動し、西の方角――騎士たちが全滅した森の奥へと向き直った。


「……隊長。みんな……」


膝をつき、祈りを捧げる。 守れなかった悔しさと、自分だけ生き残ってしまった罪悪感が胸を締め付ける。 だが、彼女は涙を拭った。 「(私は生き延びました。貴方たちが守ってくれたこの命…無駄にはしません)」 いつか必ず、この森を浄化し、国を正す。 彼女は静かに、しかし強く決意した。


「……おはよう、クラウディア。よく眠れたか?」


背後から声をかけられ、彼女はハッとして振り返った。 いつの間にか、タケルが温かい飲みハーブティーを持って立っていた。


「あ…はい! おかげさまで、生き返りました」 「そりゃよかった。湿っぽい顔も悪くないが、腹が減ってちゃ戦はできんぞ。朝飯にしよう」


   ◇   ◇   ◇


朝食の**「猪肉の香草焼き(大きな葉っぱ包み)」**を終えた後、タケルは言った。 「さて、今日はリハビリも兼ねて、近場の狩りに行こうと思うんだが…その前に装備だな」


クラウディアの剣は折れ、鎧もボロボロだ。 タケルは作業台の上に、粘土状にした銀色の金属――ミスリルを置いた。 「剣の好みはあるか? 重さとか長さとか」 「え、ええ。私は『レイピア(細剣)』のような、突きと速度を重視した剣を愛用していましたが…」


「了解。細剣だな」 タケルは手慣れた様子でミスリルをこね、細く鋭い剣の形に成形していく。 最後に紫煙を吹きかけると、銀色の輝きが増し、カチリと硬化した。 「ほらよ、**『ミスリルのレイピア』**だ」


「こ、こんな一瞬で…!?」 渡された剣を握り、彼女は息を呑んだ。 軽い。羽のように軽いのに、指先で弾くと、鋼鉄をも断ち切りそうな硬質な音が響く。 「(国宝級の業物です…!)」


さらに、シルヴィが近づいてきた。 彼女が差し出したのは、銀糸で織り上げられ、要所にミスリルの薄板が縫い付けられた**「軽装鎧」**だった。 デザインは、オーレリア王国の騎士団制服を模しているが、その性能は雲泥の差だ。


「ありがとうございます、シルヴィ殿…!」 新しい装備に身を包んだクラウディアは、凛とした騎士の顔つきに戻っていた。


   ◇   ◇   ◇


俺たちは狩りに出かけた。 メンバーは俺、シルヴィ、チビたち、そしてクラウディアだ。 移動中、俺はこの世界の地理について尋ねてみた。


「なあ、この森って世界地図で言うとどの辺なんだ?」 「はい。ここは大陸の南西部に広がる『黒瘴の森』です。各国の緩衝地帯のような場所ですね」


彼女の話をまとめるとこうだ。


南:『オーレリア王国』


クラウディアの故郷。気候が良く農業が盛んな大国だが、現在は第一王子が実権を握っている。


北:『ヴァルゴア帝国』


山脈を越えた先にある武力至上主義の軍事国家。


その険しい山岳地帯には、ドワーフ族の**『剛鉄の国 ゼノ・ボルカ王国』**があり、優れた武具を産出している。


西:『聖法皇国 エクレシア』 vs 『亜人連合国家 ゾアン』


この森と『竜』を越えた遥か西側には、人間至上主義の宗教国家エクレシアと、獣人や亜人が集まる連合国家ゾアンがある。


エクレシアは「浄化」の概念に厳しく、ゾアンとは長年にわたり小競り合いを続けているらしい。


東:『八葉の盟約アル・リーフ』と『日出ずる国 トウワ』


森の東隣には、結界に守られたエルフの領域がある。王はおらず、8人の族長による評議会が統治している。


そして、そのさらに東の海には、独自の文化を持つ**島国『トウワ』**があるらしい。(そこに米がある!)


「(西は宗教国家か…。俺のタバコを『穢れ』とか言って目の敵にしそうだな。関わらないでおこう)」 「(やっぱり当面は、東の島国(米)を目指しつつ、北のドワーフと交易するのが安全牌か)」


そんな話をしていると、前方の茂みがガサガサと揺れた。


「グルゥゥゥ……」 現れたのは、体長3メートルはある巨大な甲虫。 全身が黒光りする金属質の殻で覆われている。


「**『鋼鉄甲虫アイアン・ビートル』**です!」 クラウディアが警告する。 「通常ならBランク相当ですが、瘴気で強化されています! あの殻は生半可な剣では弾かれます!」


「(硬そうだな。ライトセーバーなら一撃だが…)」 俺が前に出ようとすると、クラウディアが制した。 「タケル様、ここは私に! この装備の力、試させてください!」


「お、おう。無理すんなよ?」


彼女はレイピアを構え、甲虫に向かって踏み込んだ。 「はぁっ!」


ドォンッ!!


「え?」 彼女が地面を蹴った瞬間、爆発したような音が響き、彼女の姿が掻き消えた。 いや、速すぎるのだ。 次の瞬間には、彼女は甲虫の背後に抜けていた。


「キ……ギ……?」 鋼鉄甲虫は、何が起きたのか分からないまま、眉間に風穴を開けられて崩れ落ちた。 硬度自慢の殻を、まるで紙のように貫通していた。


「(っ!?)」 一番驚いているのは、クラウディア本人だった。 彼女は自分の手と、倒れた魔物を呆然と見比べている。


「な、何ですか、今の力は……!?」 「体が…羽のように軽い。魔力も溢れてくる…。以前の数倍、いや十倍は動けます…!」 「それに、この剣…! 鋼鉄の殻を、豆腐のように…!」


俺はその光景を見て、ある可能性に思い当たった。 「(……装備の性能だけじゃないな、あれは)」


俺は懐からタバコを取り出し、しげしげと眺めた。 「(昨日の夜、彼女にも一本吸わせたよな? 治療の時も、煙をたっぷり浴びせたし、薬草茶も飲ませた)」 「(それに、さっきの朝飯にも、調味料として『タバコ葉』が大量に使われている)」


俺は恐る恐る口を開いた。 「……なあ、まさかとは思うけど」 「このタバコって、回復だけじゃなくて、**『身体強化バフ』**の効果もあるのか?」


その瞬間。 俺の周りにいた7匹のチビたちが、一斉にズッコケた(ように見えた)。 シルヴィが、心底不思議そうな顔でこちらを見る。


「主様……今更、でございますか?」 『主サマ、鈍イ!』『僕タチガ急ニ強クナッタノモ、ソレダヨ!』『オ肉食ベタラ、ムキムキニナッタヨ!』


「えっ、マジで!?」 俺は驚愕した。 「(俺が強くなったのは、単にレベルが上がったからだと思ってた…。タバコ吸うたびにドーピングしてたってことか!?)」


「(道理で、俺の眷属たちが異常に強いわけだ…)」 常時バフがかかった状態で、さらにミスリル装備で固めた元・近衛騎士副隊長。 そりゃあ、鋼鉄甲虫くらいワンパンだわな。


「……タケル様」 クラウディアが、震える手でレイピアを鞘に収めながら、こちらを見た。 その目は、畏怖と尊敬、そして呆れが入り混じっていた。 「貴方という人は……どこまで底が知れないのですか……」


「いや、俺も知らなかったんだって!」


俺は、パワーアップした彼女の状態を確かめるために、《鑑定》を使ってみた。


名前:クラウディア・フォン・オーレリア 職業:魔剣士(王女) レベル:35(限界突破) 状態:タケルの加護(煙の恩寵)、ミスリルの誓い 恩恵:『全ステータス大幅上昇』『自動回復リジェネ』『毒無効』


「(うわぁ…。『限界突破』してるし、『全ステ大幅上昇』って…。完全に勇者スペックじゃん)」


俺たちの「黒瘴の森」攻略は、自覚のないまま、過剰戦力オーバーパワーで進んでいたようだ。

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