第9話 ”怪物” への備え
色々あったけど、何とかアネリルスさんを倒すことができた。
「あ、そうだ。忘れないうちに返しますね」
あたしは『厄災解放』でレーヴァテインを取り出す。『厄災顕現』と違って、こっちは本物を異空間から取り出す統合能力。つまり、今アネリルスさんに渡したのは、本物のレーヴァテインだ。
「あぁ! お帰り!! アタシのレーヴァテイン!!」
アネリルスさんはレーヴァテインを抱きしめて、涙を流し始めた。よっぽど大事な武器だったんだね。
「アネリルス様! 一華殿!」
「やったっすね一華さん!」
「アネリルス様ぁ~~~~~!!!」
あ、フォルとルーンだ! それにビアンカさんも! そっか、戦いに集中してて忘れてたけど、この3人はずっと見守っててくれたんだね。
「あぁ、そんな! アネリルス様が破れるなんて………!」
「情けない所見られちゃったなぁ………アタシがこの娘をボッコボコにする所を見せてあげたかったのに」
「っ! ………アネリルスさん、やっぱり怒ってたんですか? あたしがレビィさんを気絶させたこと」
「アタシ個人としてはね。もちろん悪いのはアイツだし、組織の長としては怒っちゃいない。けど、個人的には腹に据えかねる思いがあったよ。まぁでも気にしないで。個人的にも色々折り合いがついたからさ。キッツイ一撃もぶち込めたしね」
あぁ、壁にめり込まされたあの蹴りか。あれは確かにめっちゃくちゃ痛かった。正直死ぬかと思ったもん。あんな思いは2度とごめんだね。
「ビアンカも、それで良いかな?」
「えぇ。さっきの無様な声を聞けてスッキリしました。後で妹にも聞かせてやりますよ」
妹? ……あぁ、レビィさんのことか。姉妹だったんだねあの2人。
「だけど………もう一華とは2度と敵対したくないです。これ以上、事を荒立てるような真似はしたくありません。フォル、ルーン。さっきは碌に話も聞かず、すまなかった」
「分かってくれりゃ良いさ。それよりも―――」
「そうっすね。アネリルス様、今度こそ ”怪物” のこと、教えていただけるっすか?」
「お願いします!」
あたしが改めて、頭を下げてお願いした。
「そんなに頭を下げないでよ。アンタに負けたアタシの格まで落ちちゃうじゃん。そこまでしなくても、ちゃんと話すよ」
「ありがとうございます、アネリルスさん!」
「あぁ、それと、その丁寧語も必要ないよ。それにさん付けも要らない」
「……それじゃあアネリルス、今後は友人として、お互いタメ口でいこうか」
「ッ! 友人……! そ、そうか、友人か………!!」
あれ? なんかアネリルス、嬉しそう?
「どうかした?」
「いや、何でもない。それより、友人か。悪くないね。じゃあ、改めて―――」
「「これからよろしく!」」
あたしはアネリルスさんと握手する。アネリルスさんの顔には、晴れやかな笑みが浮かんでいた。
*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*
その後、あたしらは闘技場を出て、さっきの広間に戻った。広間には兵士達の他に復活したレビィさんも来てて、アネリルスが彼・彼女達に向かって決闘の結果を告げた。アネリルス自ら告げたこともあって、誰1人結果を疑うことは無かった。
「これから少しデリケートな話をする。しばらく闘技場に誰も近付かないように。良いね?」
『はっ!!』
「フォル、ルーン、ビアンカ、レビィ。アンタ達は一緒にいて」
「「「「承知!!」」」」
人払いを済ませたあたし達は、もう1度闘技場に入る。いつの間にかテーブルとイスが用意されていて、あたしとアネリルスは丸いテーブルを中心に向かい合うように座り、フォル達4人はアネリルスの後ろに立った。これでようやく ”怪物” について話が聞けるよ。
「それじゃあアネリルス、早速 "怪物" について色々聞きたいんだけど、そもそもアネリルスは "怪物" についてどのくらい知ってるの?」
「実は、そんなに沢山のことは知らないんだ。どうしてか分かる?」
「え? え~と………何でかな?」
「単純にアイツが強すぎて、手の内を暴けなかったからだよ」
「ってことは、レベルXなのは確定か………」
「いや、レベルXなのもそうだけど、問題はアイツの能力だよ。それと、良く考えたら強いって表現は正確じゃ無かった」
「どういうこと?」
「アイツはぶっちゃけ、理不尽が人の形をしてるようなものなんだ。強いとか弱いとか、そういう次元じゃないんだよ」
いや何すか「人の形した理不尽」って。
「ソイツの能力って何なの? やっぱり権能?」
「いや、アタシの感覚でしかないけど、多分持ってるのはギフトだね。能力は、そうだなぁ………ちょっと表現が難しいんだけど、一言で纏めると ”現実の否定” ってところかな」
「げ、現実の、否定?」
「そう。アイツ、文字通り現実を否定できるんだよ。あった筈のことを無かったことにしたり、事象の書き換えだって出来ちゃうみたいなんだ。しかもギフトのくせに力は権能並みでさ。アタシの力も全部弾かれちゃうんだよね」
「………は?」
思わず間抜けな声が出ちゃったけど、そう言わずにはいられなかった。
だってさ、それってつまり、やろうと思えば相手が生きてることすら否定できるわけだよね? 極端な話、「あんな奴死ねば良いのに!!」って念じるだけで相手を殺せるんでしょ? ………ヤバすぎない? そんな奴が最下層にいんの? ダッル。そりゃ皆して最下層に行くのを避けるわけだよ。
でも、あたしに退くって選択肢は無い。もちろんここに留まる気も無いし、前へ進むしか無いんだけど………正直、ここまで無茶苦茶な能力を持ってるってのは想定外だった。おまけに力は権能並みって言ってたし、何か対策を練らないと詰むよこれ。さて、どうしたもんか………。
「―――あれ、ちょっと待って」
「どうした?」
「そんな無茶苦茶なギフトなら、どうしてアネリルスは死んでないの?」
フォルが言うには、アネリルスは1度 ”怪物” に挑んで、そこで敗北を喫して以来最下層に近付かなくなったらしい。逆に言えば、それは ”怪物” に挑んで生き延びたってこと。”怪物” の力が、本当に際限無く現実を捻じ曲げられるような物なら、その場でアネリルスを始末することだって出来た筈。なのに、そうしなかったのはどうして? アネリルスを見逃したのか、或いは出来なかったのか。もしも後者なら、”怪物” の能力には弱点があるのかもしれない。
「それは、アタシがレーヴァテインを持ってたお陰だよ」
アネリルスはレーヴァテインを撫でながら、しみじみとそう答えた。
「レーヴァテインのお陰? 確かにレーヴァテインは凄い武器だけど、”怪物” の力に対抗できる能力とかあったっけ?」
「能力の問題じゃない。重要なのは、コイツが神話級だったことだよ」
神話級………そういえばレーヴァテインを『鑑定眼』で見た時、武具ランクの欄にそんな表示があったような?
「それがどうかしたの? そもそも、神話級とか武具ランクって、何なの?」
「あぁ、それはね――――」
アネリルスは懇切丁寧に教えてくれた。曰く、武具ランクってのは、性能別に武具をランク分けしたものらしい。
ランクは上から――――
・創世級
・神話級
・幻想級
・伝説級
・秘宝級
・特殊級
・希少級
・上質級
・一般級
と、9段階に分けられている。その中でも幻想級・神話級・創世級の3つは他とは一線を画してて、世界の理から逸脱した ”自らの理” ってのを持ってるみたい。
その3つの間にも明確な力の差があって――――
・幻想級
固有原理:世界の理から外れた ”自らの理” を持つ。
・神話級
描画領域:”自らの理” を基軸とした領域を描き出す。
・創世級
創造世界:”自らの理” を絶対とする世界を作る。
―――と、こんな感じになっている。
お陰で同格未満の力は完全に無効化できるし、同格の力にも対抗できるんだって。
「んで、レーヴァテインは上から2番目の神話級。能力の格で言えば権能と同格なんだよ。"怪物" も権能は持って無かったから、レーヴァテインで何とか抵抗できたんだ」
「でも、”怪物” のギフトは権能と同等の力なんでしょ? それならレーヴァテインの力も突破できるんじゃ………?」
「これはアタシの勘でしかないんだけど、武具の力を突破できるかどうかは力の大小だけじゃなくて、能力の格も関係してるんじゃないかな? いくら権能並みでもギフトはギフト。権能に比べるとどこか不安定な所があったし、多分そのお陰でレーヴァテインは ”怪物” の攻撃を防げたんだと思う」
「成程、それでアネリルスは "怪物" から生き延びることが出来たんだね」
「うん。アタシが今こうして生きていられるのは、コイツのお陰なんだ。そう考えると、アンタがレーヴァテインを一吞みに出来たのは、『アンタの権能が権能の域を逸脱した力を持ってるから』ってなるけど………それなら今すぐ ”怪物” に挑んでも勝てるんじゃない?」
「ダメダメ! 昔そうやって油断して、決闘でボッコボコにやられたことがあるんだから! 油断大敵だよ!」
「え、マジ? アンタをボッコボコにするとか、どんな化け物だよソイツ……」
むむ? 光希を化け物呼ばわりとは失礼だな。まあ、滅茶苦茶強いのは確かだけど。
ともかく、これで1つ分かった。”怪物” のギフトは権能並みではあっても、決して権能じゃない。本物の権能や神話級以上の武具の力があれば、確実に奴のギフトを無効化できる。”現実の否定” とか言う無茶苦茶な能力のギフトさえ攻略できれば、勝機はある。
とは言え、神話級の武具を持っていた上に生粋の武人でもあるアネリルスさんでさえ、逃げるだけで精一杯ってことを踏まえると今のままじゃ不安が残る。権能はあるから、後は………。
「ねぇ、アネリルス」
「どうしたの?」
「レーヴァテインの他に、神話級以上の武具って持って無い?」
「………」
アネリルスが黙り込んで、難しい表情を浮かべる。この感じ、心当たりはあるっぽい。でも、それを出し渋ってるみたいだ。
「………実は、取って置きの代物がある」
「ア、アネリルス様!? まさか、あの創世級を!?」
「いくら何でも危険すぎるっす!」
「最悪、一華、死ぬ! 止めるべき!」
「そうですよ! 神話級ならそれなりにあるんですし!」
「ちょいちょい。このアタシに、友人への贈り物に適当な物を選べっての?」
「「「「……っ!!」」」」
「確かにあれは危険だよ。でも、コイツはアタシの友人になったんだ。下手な物を送る訳にはいかない。それにこの娘のことだもん。親友を助ける為に必要だとしたら、間違いなく欲しがる。そうでしょ?」
「もちろん」
話を聞く限り相当ヤバい物らしいけど、構うものか。それで "怪物" を倒せる確率が少しでも上がるなら、絶対使いこなしてやる。
「それって、どこにあるの?」
「今連れてってあげるよ。チビらないでね?」
「う、うん……!」
アネリルスが指をパチンッと鳴らすと、周りの景色が一瞬で変わる。どうやら空間転移の魔法で、どこかに飛んだらしい。
「ここは?」
「武器庫だよ。アタシ達が集めた武器の中でも、選りすぐりの性能の奴が保管されてるんだ」
そこは、薄暗い物置のような場所で、壁に大量の武器がズラリと並んでいた。『鑑定眼』で見てみるとほとんどが幻想級で、中には神話級もチラホラ見受けられた。選りすぐりってのは伊達じゃないみたいだね。
でも、一番目を引かれたのは、部屋の一番奥に並んで立てられた2本の槍だ。一方は柄が真っ黒で、穂先に青い刃を付けた槍。もう一方は先端が尖った杭のような、穂先から石突きまで真っ白な槍。どちらも他の武器と比べて、明らかに格が違った。
「あの2本の槍は?」
「お、気付いた? あれがさっき話した創世級、ケラウノスとグングニルだよ」
やっぱりそうか。この槍達の覇気、半端じゃないもんね。ちょっと『鑑定眼』で見てみよう。
・雷神槍ケラウノス
創造世界:【滅界雷】
【滅界雷】
………世界そのものを焼き付くす神の雷。
・光神槍グングニル
創造世界:【滅界光】
【滅界光】
………世界そのものを浄化する神の光。
ほほぅ? 世界に影響を及ぼすと来たか。良いね。創世級って言うくらいだから、そのくらいは無いと。
「創世級、ケラウノスとグングニル。どちらも、1本で神に対抗できる力がある。けど、コイツらには意志があるみたいでさ。気に入らないと、触れただけで攻撃してくるんだよ。アタシの部下の中には、下手にコイツらに触れて命を落とした奴もいるんだ」
あぁ、さっきレビィさんの言ってた「死ぬかもしれない」って、そういうことか。
「だとしたら、まずは認めて貰わないとだね。っていうか、武具に意志があるの?」
「物によってはね。特に幻想級以上の武具はその傾向が強いよ」
まぁ、"自らの理" なんて持ってるくらいだし、そういうのがあっても不思議じゃないね。
「それで、どっちを持ってく?」
「………え?」
「………『え?』とは?」
「2つ共くれるんじゃないの?」
「ッ!? ふ、2つ共!?」
「あ、そっか。良く考えたら大事なお宝だもんね。ごめん。2つ共は欲張り過ぎた」
「い、いや、それは良いんだけどさ。コイツら、片方だけでも手懐けるの大変だよ? そもそも持ってけるかも分からないよ?」
「いや、そこは何が何でも持ってく」
「ッ!!」
「その方が確実に "怪物" を倒せるんでしょ? あたし、面倒くさがり屋だからさ。目標の途中段階であんま時間掛けたくないんだよね。だから "怪物" との戦いをとっとと終わらせて、早く光希の所に行く為にも、その槍達は2本纏めて持ってく」
「………とんだお人好しの面倒くさがり屋さんだね。でも、やっぱり2本は………」
「心配してくれてありがとう」
「な、何急に? 何の話?」
「初対面のあたしの事を、こんなに気に掛けてくれるなんて、アネリルスは優しいんだね!」
今思えば、決闘の前にあたしを部下に引き入れようとしてたのも、あたしが ”怪物” に殺られないよう守ろうとしてくれてたのかもね。……まぁ、途中で本気の殺意に変わってたけど。
「ッ! べ、別に心配なんてしてないんだから!!」
アネリルスの顔が真っ赤になってる。
ツンデレか!
「……まぁともかく、こいつら2本共、あたしに持ってかせてくれないかな?」
「認められるかは分かんないよ?」
「認めさせる」
「アハハッ! ブレないね! なら、まずは槍に触れてみて。話はそこからだから」
「分かった」
あたしは少し緊張しつつも、2本の槍に近付く。改めて見ても、すっごい覇気だ。レベル1のままだったら、近付いただけで卒倒してたかもしれない。
「すぅぅ~~……ふぅぅ~~………」
緊張を紛らわす為に深呼吸をして、あたしは右手にケラウノスを、左手にグングニルをそれぞれ掴んだ。
その途端―――
「う゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛!!!!!」
『ッ!!!』
全身が痺れて、灼けるような痛みが襲って来た。右手は一瞬で黒焦げになって、左手は皮膚と肉が爛れて血が流れだした。
「な、何という力だ!」
「近く、いるだけ、ヤバい!」
「無茶苦茶っすね………!」
「アネリルス様! このままじゃ……!」
四天王達が思い思いの言葉を洩らす。「このぐらい平気!!」って言ってやりたい。けど、ちょっと舐めてたかも……!
「クッ、やっぱそう簡単にはいかないか………!! 一華! 槍を離して! そのまま触れ続けたら死んじゃうよ!」
アネリルスにそう言われたけど、離すつもりはない。確かに、神話級があるみたいだし、わざわざ創世級に拘らなくても良いとは思う。 でもここで退いたら、今後どこかで困難にぶち当たった時、逃げ腰になっちゃうかもしれない。そんなんじゃ、光希を助けることなんて絶対できない! たとえどれだけ辛くてダルい道のりだとしても、それが光希を助ける為に必要なことなら、前進あるのみだ!!
(『再生修復』!! 『闘魂励起』!!)
あたしは全身(特に両手)を治す為に、『再生修復』と『闘魂励起』を発動した。『闘魂励起』で強化された『再生修復』は、四肢の欠損も一瞬で治せる。だけど、それでもこのダメージは再生が追い付かない!
「うぐっ………!!」
突然、槍達の抵抗が強くなった。物凄い力で後ろに押される。コイツら、あたしを吹き飛ばすつもりだ!
「こんっ、のぉ………! 負けてたまるかぁ!!」
手の感覚はとっくに消えてる。それでもあたしは離すまいと必死に力を込めた。だけど、槍の抵抗力は凄まじい。このままじゃ………!!
「一華殿! 経験値を使え! そして、レベルXになるんだ!」
フォルの声が聞こえて来た。レベルXになれ? こんな時に何言ってるのさ?
「『レベルXになる』とは、それ即ち、神へ進化するということ! 神へと進化することが出来れば、その槍共を手懐けられるんじゃないか!?」
「だとしても、いったいどうやって!?」
「レベルXになる条件は、レベルXの者と戦い負けを認めさせること! そして最大レベル到達後に、レベルを100回カンストさせられる経験値を集める事だ! 前者は既に達成済み! そして経験値も、一華殿は既に持ってるだろう!?」
はぁ!? そんなの持ってる訳―――待てよ? 確かルーンを倒した時、その経験値がレベルカンスト分を越えるくらいに増えて、それが100倍になって、あまりにも多すぎたから収納して―――そうだ。後で見てみたら確か、丁度レベルカンスト100回分の経験値になってた!
「でも、あれ強すぎて体が―――」
「権能に進化した今なら、再生しつつ経験値を得られるんじゃないか!?」
「っ!! それだ!!」
と言うか、もうそれしかない。この方法に賭ける!!
「『厄災顕現』!!」
あたしは『厄災顕現』を使って、"複製厄災" として顕現させた経験値を取り込む。途端に全身が軋むような感覚がした。
「ごぶっ……!」
口から血が噴き出す。強すぎる力に体だけじゃなく、内臓までやられたみたいだ。痛い! いや、そんな言葉じゃ生温い! この世の物とは思えない苦痛だ!
(『再生修復』!! 『闘魂励起』!!)
だけど傷は治せる。どれだけ体が傷ついても、両手以外は問題なく再生可能だ。死ぬことは無い。
でも、痛みまでは消えない。おまけに傷は増え続けるし、傷が付く度に激痛に襲われる。これはもう、自分の精神との戦いだ。経験値を完全に吸収するまであたしが耐えるか。それともあたしが根負けするか。
………はっ、決まってる。こんなの光希の事を思えばなんてことない!
(―――おぉ? 何か、力が湧いて来た!!)
少し時間が経って、あたしは自分の力が段々と上がって来てることに気付いた。傷の治りが早くなったし、傷自体負いにくくなってる。筋力も上がって、槍達の拒絶反応にも対応できるようになってきた。確実に経験値を取り込めてる証拠だ。
「どうよ? ケラウノスにグングニル。少しはあたしの事、見直してくれた?」
「「…………」」
返事は無い。代わりに、槍達は尚も拒絶反応を見せてくる。しかも、さっきより力が強くなってる。あたしを吹っ飛ばしたいのに出来なくて、躍起になってるみたいだ。
「へぇ、そう。まだ認めてくれないんだ。でも無駄だよ。あたし、認めてもらうまで離さないから。認めてもらう為なら、神でも何でもなってやるから、覚悟してよね!」
「「…………」」
相変わらず返事は無い。まぁ良いさ。返事があろうが無かろうが、やることは変わらない!
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ…………!!!!」
あたしは気合を入れ直す。既に経験値は半分以上取り込んで、佳境に来ている。残り半分の経験値を取り込めば……。そしたら、急に『成長促進』が動き始めて、経験値の吸収が急激に加速する。さっきまでの時間が嘘のように、ほんの数刻で残りの経験値を全部吸収できた。
「マジか。急にこんな―――っ!!? 何これ……? 体が、光ってる……?」
「あ、あの光は……! アネリルス様が魔神になった時と同じ物っす!」
「ってことは、っ!!」
体が眩しい光に包まれて、あたしの存在そのものが爆速で作り替えられていくのを肌で感じる。あまりにも眩しすぎて、思わずあたしは目を瞑った。
―――やがて光が収まって、あたしは目を開けてみる。見た感じ、特にこれと言った変化は……あれ?
「両手が治ってる!」
朽ち果てた筈の両手が、完全に再生していた。感覚もあるし、自由に動かせる。幻じゃない。しかもいつの間にか、槍達の拒絶反応が止まってる。
………ってことは!
「あたしの事、認めてくれたんだね!」
《……仕方なかろう》
《こんなの、認めるしかないじゃん》
っ!! 頭の中に声? これもしかして、ケラウノスとグングニル?
《如何にも》
《え? 心読まれてる?》
《丸聞こえよ。ったく、さっきまで未熟な子供だった筈なのに、何をどうやったらいきなりこんな怪物に進化するわけ?》
ケラウノスはお爺ちゃんで、グングニルはお姉さんの声だ。何か渋々って感じではあるけど、取り敢えず認めて貰えたみたいだね!
―――で、怪物ってどういうこと?
《お主、気付いとらんのか?》
《え、何? あたし、ただ神に進化しただけじゃないの?》
《それ自体『ただ』で済ませる事じゃ―――いや、それは良いや。確かにあなたは神に進化したんだけど、普通の神じゃないのよ》
普通じゃない神って何?
「い、一華……」
「どうしたのアネリルス? そんな青い顔して」
「じ、自分の情報を見て……」
アネリルスも、四天王達も、皆揃って真っ青になってる。どうしたんだろう? そんなヤバいことになってんのあたし?
・戦場一華
種族:神(魔王之器)
レベル:X
権能:【厄災箱】
【戦神】
大罪権能:【傲慢魔神】←NEW!
美徳権能:【勇気天神】←NEW!
【忍耐天神】←NEW!
えぇ……何じゃこれ?
何さ(魔王之器)って? 何でそんな方向に進化したし。しかも ”大罪権能” に ”美徳権能” とか言う物まで追加されてるんですけど? と言うか【傲慢魔神】って、絶対【傲慢】の進化系じゃん。
「いや、えっと……マジ何これ」
ケラウノスとグングニルに認められた喜びもすっかり消えて、あたしはただ茫然とすることしかできなかった。
今回、かなりの進化を遂げた一華ですが、彼女の得た新しい力などについては、また次回以降書かせて頂きます。




