第7話 大罪の力
今話は第三者目線です。
「『傲慢』を使って、確実に仕留めてやる」
アネリルスは長剣を杖替わりに立ち上がり、一華を睨みながら宣言する。気付けば吐血は完全に止まっていて、先程までの苦しむ姿が演技かと思ってしまう程に、その立ち姿は堂々としていた。
(やっべ、『傲慢』のことまだ全然分かってないのに、早速使うつもりみたいなんですけど?)
マズいことになったと一華は思った。一華は、アネリルスが自身を甘く見て、無意識に手を抜いていることには気付いていた。そこでフォル達を倒した時のように隙を突いて倒すつもりだったのだが……アネリルスは速攻で本気になってしまった。最早隙を見つけるのすら至難の技だろう。
「あの、少し待―――」
「今度はさっきみたいにいかないからね。覚悟してよ!」
思わず遠慮しそうになった一華の言葉を遮り、アネリルスは力を解放する。そして左手を天に掲げて、一瞬で巨大な火球を作り出した。
「”黄昏炎獄” !!」
一華の視界を埋め尽くす程の巨大火球が一華に迫る。その熱量はマントルを軽く越え、並の者なら近付くだけでも皮膚が爛れる。質量と速度も、共に先程の炎の斬撃の比ではなく、『神速化』で加速しても避けることは不可能だった。
(……しゃーない! 『厄災箱』!!)
一華は一旦、ルーンの双剣を消す。そして一抹の不安を抱えながらも、一華は腕を突き出して『厄災箱』―――の、統合能力『厄災収納』―――を発動して黒い穴を作り出し、巨大火球を受け止める。本来なら巨大火球が黒い穴に吸い込まれて終わりなのだが……黒い穴にぶつかっても、巨大火球は消えない。それどころか、徐々に一華が押されていた。
「こんのぉ……! 負けるかぁ!!!」
どうにか収納してやろうと、無理を承知で一華は踏ん張る。体が軋み、全身の骨が砕けると錯覚する程の衝撃に襲われるが、一華は決して退かなかった。すると、その闘志に反応して、『戦神』の統合能力『闘魂励起』が『厄災収納』に作用する。そのお陰で『厄災収納』が力を増し、なんとか巨大火球を収納することに成功する。
「へぇ。まさか ”黄昏炎獄” を吸収するなんてね。面白い」
本気の技を凌がれたにも関わらず、アネリルスは少しも慌てた様子を見せない。対して一華は余裕など一切無かった。なんとか収納はできたものの体力を激しく消耗し、息切れが止まらなくなっていた。
(ギ、ギフト2つ使ってようやくとか、大罪って想像以上にヤバいかも)
一華が ”黄昏炎獄” の収納にここまで手間取ったのは、アネリルスの大罪の影響によるものである。
そもそも大罪とは、その名の通り大罪に由来する力で、言ってしまえば "自己ギフト" である。
人が抱える七つの大罪を自身の気質に色濃く反映させている者が、自身の魂の一部にその気質を映し出すことで、大罪として具現化する。ギフトの力にも対抗可能で、さらに自らの魂に力を刻むことで完全に自分の力として制御できるため、出力は通常のギフトを上回る。
先程の ”黄昏炎獄” にも、アネリルスの大罪『傲慢』の力が付与されていた。レベルが大きく下回っていたこともあり、一華は ”黄昏炎獄” 1発に対し、2つのギフトを使わなければ対抗できなかったのだ。
―――しかし収納さえできれば、それは一華の力となる。
「はぁ、はぁ………やってくれるじゃないですか。今度はこっちから行きますよ! ”黄昏炎獄” !!」
「ッ!!?」
呼吸を整えた一華は『厄災顕現』を発動し、先程自身に向けて放たれた巨大火球を再現。さらにそれを無数に展開し、『闘魂励起』で威力を底上げする。これには流石のアネリルスも大いに動揺し、目を白黒させた。
「食らえっ!!」
「………!!」
巨大火球が雨霰の如く降り注ぐ。自身の技をあっさりコピーされた現実を受け止めきれずにいたアネリルスだったが、この光景を前にして正気に戻り長剣を構える。
「嘗めんな! 全部ぶった斬ってやる!!」
アネリルスは長剣を振り回し、斬撃を飛ばして火球を次々と真っ二つにしていく。2つに割れた火球はあらぬ方向へ飛び散り、兵士達にも飛び火し始めた。
「ヤベェ、逃げろ!」
「巻き込まれるぞ!」
兵士達が大慌てで闘技場から脱出する。やがて炎の雨がおさまると、アネリルスの周りはマグマの海と化し、彼女の立つ地面だけが綺麗に残されていた。闘技場に残ったのは四天王と一部の上位者達、そして一華とアネリルスのみとなった。
「あまり部下達をいじめないでくれないかな?」
「あなたが撒き散らしたんじゃないですか。それにあなた、わざとそうしたでしょ? あたし相手に、周りを気にせず本気を出すために」
「あれ、そう見えた? まあ確かに、これでアタシも周りを気にしなくて済むね。こんな風に!」
アネリルスが長剣を地面に突き刺す。すると長剣を中心として冷気が広がり、マグマが一瞬で凍りついた。さらにそれだけでは止まらず、冷気は闘技場全体を凍らせる勢いで広がっていく。
「っ!? やべっ!」
地面を凍らせながら迫る冷気に対し、一華は黒い穴を前面に作り出して盾とする。力が全方位に拡散していたからか、威力自体は ”黄昏炎獄” と比べると格段に低く、冷気は黒い穴に防がれて一華の立つ場所だけが綺麗に凍結を免れた。
(今度は氷!? どうなってんの? これも『傲慢』の力なわけ?)
一華は思考を巡らせるが、すぐに考える暇は無くなった。
「来い! 下僕達!」
空中に魔方陣が約10個展開され、大きな口に鋭い牙がズラリと並んだ、細長い体の黒い異形達が召喚される。それを見た途端、一華の背筋が凍り着いた。異形の姿に怯えたからでは無い。少しでも触れたら命に関わると肌で感じたからだ。
一華は知らないことだが、この異形達には相手の魔力、生命力、魂を吸収する力がある。基本はその大口で食らいつくことで力を吸収するのだが、それ以外の所でも直接触れればある程度同じことができる。一華が悪寒を覚えたのは、知らずとも本能的にこの力の存在を感知していたからだ。
「アイツを殺れ!」
『ア゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛!!』
異形達は唸り声を上げながら、我先にと一華に迫る。直接触れるのを避ける為、一華は『厄災収納』で対抗しようとするが―――
「その穴は避けろ!」
「っ! ちぃっ……!」
黒い穴を作った瞬間、アネリルスの指示で異形達が方向転換してしまい、結局1体も飲み込むことができなかった。
『ア゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛!!』
異形達は一華を取り囲み、数に物を言わせて襲い掛かって来る。一華もどうにか収納を試みるも、異形達を収納することは出来ない。警戒されているのもあるが、異形達の黒い穴に気付いた時の反応速度が異常だったのだ。目の前に黒い穴を展開しても反応される上にその体は直角に90度曲げることも可能で、ルーンのように勢い余って突っ込むということも無く、文字通り体を曲げて全く減速せずに黒い穴を避けて通るという芸当をやってのけるのだ。
(このままじゃジリ貧だ。どうする? ………そうだ! 思えばずっと待ちの姿勢だったけど、今度は攻めの姿勢で行ってみよう!)
一華は何かを思い付くと、異形達の対応を『並列思考』で増やした思考に任せ、自身は手足に意識を集中する。
(こっちから攻めるんだったら、手足に黒い穴を纏わせるのが一番分かりやすい。でも、穴を纏うってのはイメージ湧かないし……よし、決めた!)
一華は黒い穴を4つ展開すると、黒い穴に手を加え始める。すると、今まで綺麗な円を描いていた黒い穴が、形を崩して黒い炎となる。黒い炎は一華の両手に纏わりつき、一層激しく燃え盛る。
「ふぅぅぅ…………」
『……ア゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛!!』
防御を任せていた『並列思考』を解除し、一華は異形達を迎え撃つ態勢を取る。それを見た異形達は、一華が力尽きたと考えたのだろう。まるであざ笑うようにその大きな口を歪め、一斉に一華に襲い掛かってきた。
「っ!! バカ! 罠だ!」
「”厄災時雨”!!」
『ッ!!?』
一華は拳の乱打を繰り出し、黒い炎を砲弾のように打ち出しまくる。その速度は音速を軽く超え、不意を突かれたこともあってか、異形達は次から次へと黒い炎弾に撃ち抜かれて飲み込まれていく。流れ弾が当たった壁はアネリルスが激突した時以上に破壊され、その威力を物語っていた。
「グギャッ!!」
「ゲギャ、ァ……!」
「チッ! 良い気になんないでよね! コイツらは幾らでも召喚可能なんだから!」
アネリルスは再び異形達を召喚する。今度は100を超える大群だった。
「生憎、それはこっちも同じなんで」
しかし一華には『厄災顕現』がある。同じ異形の軍団を呼び出すことは造作も無い。
―――ただし、今度アネリルスが呼び出した異形達は、一味違った。
「「行け!!」」
『ア゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛!!』
一華とアネリルス。それぞれの異形達が、互いに互いを滅ぼそうと衝突する。そして衝突した途端―――一華の異形達が消滅した。
「っ!!!?」
あまりにあっけなく異形達がやられた事実に、一華は驚きを隠せない。慌ててアネリルスの異形達を『鑑定眼』で調べる。
(いったい何がどうなって………っ!!? エネルギーが上昇してる!? しかもこのエネルギー、魔力じゃない。魔力よりももっと凄い何か。下手すりゃ世界すら滅ぼしかねない力………こんな物まで使えるわけ!?)
さらに良く見ると、破滅のエネルギーを宿した個体の他にも、相手の力を格下げする力を宿した個体、様々な属性の魔力を宿した個体など、先程までより遥かに強化された異形の集団となっていた。
「でもこんなの、収納すれば―――」
「させると思う?」
「っ! くっ………!!」
新たな異形達を収納しようとする一華だったが、そうはさせまいとアネリルスが長剣を手に迫る。
「見た所アンタ、あの黒い穴で飲み込んだ物を、再現して使えるギフトを持ってるみたいだね。でもさ、その飲み込むのって、こんな緊迫した状況じゃできないでしょ? さっきの拳の連打だって、接近しちゃえば打てないよね?」
「………っ!」
アネリルスの言う通り、『厄災収納』は発動の際にかなりの集中を必要とする。集中を乱されると、発動することすら出来ない。達人との打ち合い中に発動するなど以ての外だ。
アネリルスの剣技は達人級。一瞬の油断が命取りとなるレベルで、打ち合いになれば彼女の言う通り、他の事象を気に掛ける余裕など無くなる。強いて言うなら『並列思考』を使う手もあるが、現在一華が増やせる思考は2つまでで、1つは仲間の異形達の指示に、もう1つはアネリルスの鑑定に使用してしまっている。現状、敵側の異形達を収納する程の余裕は無かった。
(だったら、この剣を収納して―――いや、ダメだ。飛んできた斬撃ですら、収納できないって感じたんだ。剣での直接攻撃なんて、収納できるわけがない)
加えて、アネリルス本人を収納するのも、『傲慢』が邪魔をして失敗する可能性が高かった。仕方なく一華は再び災禍の双剣を手にし、アネリルスの長剣と打ち合う。2人の剣撃が衝突する度に衝撃波が発生し、氷は粉々に砕け、闘技場の壁や床に亀裂が入り始める。通常の人間ならば近くにいるだけで即死するレベルの、破壊の暴威で満たされた空間が出来ていた。
そんな破壊の空間の中でアネリルスと神速の打ち合いを続ける一華だが、徐々にアネリルスに押され始める。慣れない双剣を使っているのもあるが、それ以上に、純粋な力に差が開き始めていると一華は感じた。
(アネリルスさんの力が上昇してる……そうか、『闘魂励起』みたいな力で自分を強化したのか! いや、それだけじゃない。この感じ……あたしも弱くなってる!!)
一華の考えた通り、彼女は現在アネリルスによる弱体化攻撃を受けている。これは時間経過と共に徐々に相手の力を下げていく代物で、最終的には自力で動くことすらできなくなってしまう程強力なものだ。さらにこの攻撃、敵を弱体化させるとそれに反比例して自身を強化することができる。つまり今の状況は、一華が徐々に弱体化して、反対にアネリルスは徐々に強くなっていくという、ハッキリ言って最悪の状態なのだ。
(クッソ~、どうしたら……!)
デバフへの対抗策を考える一華だが、そう簡単に方法が思い付く筈もなくどんどん弱体化していく。
「しぶといなぁ! さっさとくたばれ!」
「ぐぁっ………!?」
そして何度目になるか分からない剣撃を受け止めた時、遂にその衝撃だけでダメージを受けてしまった。体中が軋み、腕の骨が砕けて皮膚を突き破る。あまりの痛みに、一華は思わず苦悶の表情を浮かべた。
「ついでにぃ、さっきのお返し♪」
「がはぁ!!」
先程の意趣返しも込めて、隙が出来た一華の胴体にアネリルスが蹴りを叩き込む。一発で闘技場の床にクレーターを作る程の衝撃が、一華の体を突き抜ける。そのまま一華は吹っ飛ばされ、激突した壁に大きなクレーターができた。力の差が大きく開いた状態での一撃は、一華に致命傷を与えるのに十分だった。
「ごぶっ、がはっ、がはっ…………!!!」
壁からズルズルと這い出てきた一華は、血を吐き出して苦しそうにせき込む。咄嗟に防御を固めたものの、腹には大きな痣ができて、内臓は破壊されてズタズタになり、肋も何本か持っていかれた。勝負以前に、命が危ない状況となっていた。
(リ、『再生修復』………!)
―――と言っても、『戦神』には自他の傷を癒す統合能力『再生修復』がある。四肢の欠損すら治すこの統合能力があれば、内臓の損傷すら大した問題ではない。
だが、蹴りによるダメージと肉体の再生で、気力と体力を大きく消耗したことは間違いなかった。
「へぇ、そんな力まであるんだ。本当、アンタのギフトは底が見えないね」
「あなたの『傲慢』の方がよっぽどでしょ? 炎に氷、モンスター、デバフ。いったいどんだけの事が出来るんです?」
「あははっ、それは内緒♡」
当然だが、アネリルスは一華の質問には一切答えない。実力者との戦いにおいては、なるべく自分の情報を敵に渡さないようにするのが鉄則だからだ。
「何にせよ、これで分かったでしょ? アンタじゃあの ”怪物” は愚か、それを相手に逃げ出したアタシにすら勝てない。今のアンタがアイツに挑んだ所で、死ぬのが目に見えてるよ。諦めてここで一緒に暮らそ? ね?」
「………」
アネリルスの言葉に対し、一華は言い返すことができなかった。現状アネリルスは、まだ本当の意味での全力を出していない。『傲慢』を使っている以上ある程度本気であるのは間違いないが、それでも『傲慢』の全てを出し切っているわけではないのだ。
そんなアネリルスを相手に圧倒され、未だ立ち上がることすらできない自分がいる。その現実が、一華を弱気にさせていた。
(諦めるってのはありえないけど、一時ここで過ごすってのは、ありかもしれない。正直、ここまで差があるとは思わなかった。アネリルスさんが言う通り一旦立ち止まって、せめてアネリルスさんに勝てる力を付けてからの方が良いのかも。少し時間は掛かるかもだけど―――――時間!?)
突然、一華の体から凄まじいエネルギーが放出され始める。思わずアネリルスが身構えていると、一華は鉛のように重たく感じる体を起こし、気合いで立ち上がった。
「う、嘘でしょ!? 傷は治ったって、体力は戻らないはずなのに!」
アネリルスは目の前の光景が信じられなかった。彼女が先程放った蹴りは、最悪一華を殺害するつもりで放たれていた。それを真正面から食らって生きていただけでも称賛に値すると言うのに、そこからさらに立ち上がってみせたのだから、驚愕するのも当然である。
一方で当の一華は、自身の弱さに怒りを覚えていた。
(ったく、あたしって奴は……何を弱気になってんだ! 力を付けてから進む? 少し時間が掛かる? 冗談じゃない!! その間に光希に何かあったらどうする!! 何かあってからじゃ遅いんだよ!!)
光希はクラヴィアによって、糸川優里と天野美空の2人と共に異世界へ転送された。目的は、生贄に足る力を付けさせること。光希が力を付けたら、クラヴィアが手を出してくるのは明白だ。故にそうなる前に合流し、さらにクラヴィアへの対策も講じなければならない。今は1分1秒が惜しい状況なのだ。にも拘わらず、「少し時間を掛けて」などと悠長なことを考えてしまった自分を、一華は許せなかったのだ。
(こんな所で足止め食らってる場合じゃない!! 早く……早くアネリルスさんをぶっ飛ばして、先への道を開けてもらうんだ!!)
「………はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
一華の慟哭が闘技場全体に響き渡る。その時だった。慟哭に呼応するように、突然『闘魂励起』と『成長促進』が急速に動き始めた。
(っ! 今度は何? 何を始めたのさアイツ!?)
アネリルスが困惑する最中、一華も気付かぬ間に2つのギフトが激しく脈動する。まるで新しい何かが誕生しようとしているかのように。
「………っ!!」
放っておくのはマズいと本能で察知したアネリルスは、動揺した気持ちを立て直して一華に接近。さらに再び ”黄昏炎獄” を発動すると、今度はそのエネルギーを長剣に纏わせる。そして一華の細首目掛けて、長剣を思い切り振り抜いた。
―――しかしその時既に、一華の姿はそこには無かった。
(いったいどこに―――っ!!!?)
振り返ると、一華はアネリルスの背後に周り込んでいた。当の一華は少々混乱しているように見えたが、アネリルスとしてはそんなことはどうでも良かった。一華が背後に回った瞬間がまったく見えず、アネリルスも混乱していたからだ。
(バカな……いったいどうやって!?)
驚愕するアネリルスだったが、すぐさま気を取り直して再び接近し、一華目掛けて長剣を振るう。だが、またしても一華は姿を消してしまう。その直後、アネリルスは背中に強烈な衝撃を受けた。
「ガハッ!!」
アネリルスが目を限界まで剥いて後ろを見ると、一華がアネリルスの背中に蹴りを叩き込んでいた。その威力は、強化されたアネリルスにダメージを与えるに足るもので、全身の筋肉が引き裂けそうな程の衝撃がアネリルスを駆け抜けた。とても弱っている人間とは思えない威力だった。
「グッ……!!」
呻き声を上げながら、アネリルスは一華から距離を取る。あまりの変化に、アネリルスは大混乱に陥っていた。
(また消えた? しかも何なのこの威力!? コイツは『嫉妬波動』で弱ってるはずなのに、どこにこんな力が!?)
一華の変化に思考を巡らせ始めるアネリルスだったが、それが大きな隙を晒すこととなった。気付いた時には一華はアネリルスの目前に迫っており、右掌に何やらエネルギーを集めている。アネリルスはそのエネルギーに見覚えがあった。
「嘘っ、それは―――」
「”嫉妬波動砲”」
「グギャァァァァァァァァ!!!!!」
一華は右掌を突き出し、収束させたエネルギーを一直線に放出する。水色のエネルギーの奔流はアネリルスを飲み込み、そのまま直線上にあるもの全てを破壊しつくしていった。
やがて攻撃が治まると、波動が通った後の地面が抉られ赤熱を帯び、壁に新たな風穴が出来ていた。そして一華から少し離れた所で、ボロボロになったアネリルスが長剣を構えて立っていた。
「流石は最強の魔神。やっぱりこれでも倒れませんか」
「……アンタ、どうなってのさ? 何でアンタが ”嫉妬波動砲” を使える訳?」
「ま、もう隠しても意味無いし、教えてあげますよ。あたしには『武芸百般』って力があるんです。これを使えば、情報をゲット出来たスキルやギフトを使えるようになるんですよ」
「ハァ!!? んなアホな!?」
「いやそんなこと言ったって、あなただって同じことが出来るじゃないですか」
「ッ!!」
「大罪『傲慢』。統合能力は『傲慢ノ意志』と『能力模倣』。『傲慢ノ意志』を付与した攻撃はギフト未満の力による防御や迎撃を無効化し、『能力模倣』は他者の技、スキル、ギフトを模倣して自分の物にできる。さっき使った ”嫉妬波動砲” も、誰かから模倣した技ですよね? 次いでに言えば、その大元になってる大罪の『嫉妬』も模倣してるでしょ? 他にも、あの黒いモンスターは『暴食』で呼び出される『暴食魂魔』。破滅のエネルギーは『憤怒』の『破滅怒気』。まったく、どおりで色んな力を使えるわけですよ」
「……どうしてそれを? アタシ、自分のステータスは隠蔽してたはずなんだけど?」
「突破しました」
「……は? 何言ってんの? アンタの持つ一番強い力はギフトでしょ? アタシの隠蔽はギフトの力で突破できるような物じゃない!」
「ええ確かに。あれはあなたが持つ幾つものスキルや大罪を組み合わせた、かなり強力な隠蔽でした。でも、権能を使えばすんなり看破できましたよ」
「権、能……?」
「あぁ、そういえば言ってませんでしたね。あたしのギフト達なんですけど、さっき進化したみたいなんですよ。権能って奴に」
一華の無情な宣告に、アネリルスは顔を真っ青にする。今この時より、反撃の狼煙が上げられたのだった。




