第3話 目覚める戦神
今話は第三者目線です。
フォルとルーンは啞然としていた。原因は色々あるが、一番の原因は自分達が舐めプしていたと思われていたことだ。
舐めプ―――舐めたプレイ。要は本気を出さずに相手を倒そうとする行いのことだが、フォルにはそんなつもりは一切無い。確かに、最初は嬲り殺しにする為に手加減していた。だが、”炎弾時雨” が無効化された時点で、フォルは認識を改める。ここで始末しておかないと大変なことになると本能で悟り、自身が放てる最強最速の魔法 ”獄炎波動” を放ち、一華を完全に消し去ろうとした。しかし、レベル9000の全力を込めた一撃すらも、一華には通用しなかったのだ。その上「舐めプしている」と勘違いされたのだから、唖然とするなという方が無理な話である。
(……クソが! マジで何なんだコイツは!? 本当にレベル1か!? そもそも人間なのか!?)
フォルは激しく動揺する。いや、それどころか、内心恐怖すら抱いていた。相手は得体の知れない何かを持っている。しかもその何かは、下手をすると自分達の命をも脅かしかねない。このまま無策に力押しで攻めるのは危険すぎた。
(魔法はまるで効果が無ぇ。なら、近接はどうだ? ……わからねぇが、試してみるしかねぇ!)
フォルは "念話" ―――思考を繋ぎ、頭の中で会話する魔法―――を発動し、ルーンに指示を出す。
《ルーン! お前が行け!》
《え!? 俺っちすか!? 先輩の攻撃が効かない奴に、俺っちが勝てるわけないっすよ!》
《確かに魔法は効かねぇが、近接攻撃なら効くかもしれねぇだろ!? とにかく試すしか無ぇんだ! 行ってこい!!》
《わ、分かったっす!》
フォルの指示を受け、ルーンは腰に下げた二振りの剣を抜く。そして両腕を交差させると、いきなり最終奥義を発動した。
「先手必勝っす! ”十文字斬” !!」
”十文字斬” ―――
レベル8500の堕天使の身体能力を活かして全速力で突撃し、交差させた剣を振り抜いて相手を十文字に切り裂く、ルーンの最終奥義だ。最低でもレベル7500に至らなければ、視認することも困難な神速の剣技。レベル1では、何が起きたかも分からぬまま死ぬことになるだろう。しかし、何故か一華にはその攻撃が遅く見えていた。神速の攻撃が、カタツムリみたいにゆっくりと。
(見え見え、ではあるけど対抗手段が無いな。斬撃を物として収納ってのは無理があるし、とりあえず避けよう!)
即座にその場を離れようとする一華だが、その時、天命の様なものを受ける。
―――自分なら、あの攻撃を止められると。
(何でだろう? 根拠も何もないのに、分かる……いける気がする!)
少し迷うが、一華は自分の直感を信じることにする。迫りくるルーンの前に立ちはだかり、深く呼吸をして精神を統一する。すると、一華の思考は今日一番に冴え渡り、同時に己の変化への理解が深まっていく。そして、彼女は気付いた。自分のギフトが『道具箱』ではないことに。
(……何だこれ。どこが『道具箱』だよ。全然違うじゃん。しかも何かもう1つあるし。でも、どおりで魔法を吸収できたり、攻撃が遅く見えたりするわけだ。クラヴィアめ、さてはこれを恐れて……? いや、今はそんなことどうでも良い)
今優先すべきは敵を倒すこと。そう思い直し、一華は目の前のルーンに意識を向ける。ルーンは(一華視点で)ゆっくりとではあるが、確実に一華との距離を詰めつつある。そんな彼を倒すべく、一華は1つの作戦を立てていた。その作戦とは、突撃するルーンの前に先程の空間の穴を開き、そこに彼を飛び込ませるというもの。上手く行けば敵を1人減らすことができるが、タイミングを間違えて失敗すれば、警戒されて2度とチャンスは訪れない。
(これは、しっかりタイミングを見極めないとだね。イチかバチかだけど、やるしかない!!)
一華はルーンに意識を集中し、タイミングを見計らう。ルーンとの距離は、どんどん狭まっていく。通常ならその時点で慌ててしまい、適当に穴を作り出して失敗してしまうだろう。しかし、一華は冷静であった。目の前に圧倒的強者が迫っている状態で、身じろぎ一つしない。その胆力は、一華の強みの1つであった。そして、ルーンが一華の目の前まで迫った時―――
(ここだ!!)
一華は自身の真のギフトを発動する。すると、ルーンの目の前に空間を歪めた穴が形成され、勢い余ったルーンは自らその穴の中に飛び込んでしまう。
「っ!! しまっ―――」
「もう遅い!!」
ルーンの全身が入ると同時に、穴は完全に閉じられる。こうなってしまっては、ルーンがどれだけ強くても戻ってくる術は無い。ルーンの収納は成功したのだ。
(な、何が起きたんだ!? ルーンがあのガキを切り刻んだと思ったら、アイツが黒い穴の中に消えて、あのガキは無傷!? 何しやがったんだあのガキは!!?)
上から様子を見ていたフォルは、ただ驚愕することしかできなかった。ルーンの技が無効化される可能性は考えていたが、まさかルーンが消されるとは考えもしなかったのだ。この反則的な能力こそ、一華の1つ目のギフト『厄災箱』の力の一端だ。
『厄災箱』―――
それは、己に降りかかる厄災を収納できるギフト。例えそれが魔法でも、人でも、それこそ天災であろうとも、術者にとって害悪となる物であれば、必ず収納できる。自動では発動せず、術者が自ら使用しなけらばならない制約はあるが、認識さえできれば敵の攻撃を全て収納し無力化できる、恐るべきギフトである。
奥義を放とうと一華に迫るルーンは、一華にとって厄災そのもの。前提条件は満たされている。その上動きもゆっくりに見えているのだから、収納は造作も無いことだった。
「さて……」
「ひぃっ!!?」
一華の声に、フォルは思わず上ずった悲鳴を上げる。戦意はとうに消失し、今すぐにでもここから離れたいのだが、蛇に睨まれた蛙のように動けない。一華のたった一言に込められた威圧が強すぎて、恐怖で身動きが取れなくなってしまったのだ。
(は、速く逃げねぇと……こ、殺される!)
フォルがそう確信しているのは、一華のギフトだけが原因では無い。彼女の力が急激に上がり始めたのを感じ取ったからだ。
『厄災箱』にルーンを収納したことで、一華は「ルーンを撃破した」と判定された。その結果、一華は大量の経験値を取得し、レベルが大幅に上昇し始めたのだ。
(っ!! 何これ? 力が漲る……って言うか、漲り過ぎでしょ!?)
生まれて初めてレベルアップを体験した一華は、あまりの力の上昇っぷりに戦慄する。それもそのはずで、今回の彼女のレベルアップは、前例が無い程凄まじいものだったのだ。
ルーンはレベル8500に到達した猛者。倒した時に得られる経験値は膨大で、レベル1の一華なら一気にレベル5000まで到達できる計算である。さらに―――これはクラヴィアも知らないことだが、経験値には「相手とのレベル差が1000開く度に2倍に増幅する」というボーナスが存在する。今回であればレベル差8000分のボーナスで、一華が手にする経験値は通常の256倍。数値に換算すれば、レベル9999に達しても余りある程だ。レベル1から一気に最大レベルまで達したのだから、一華が戦慄するのも当然であった。
さらに、今回はそれで終わらず、一華のもう1つのギフトが力を振るった。
そのギフトの名は、『戦神』―――――
数千年に1人という、天賦の戦いの才を持つ者だけが得られるギフト。思考速度を初めとしたあらゆる速度を上昇させる『神速化』や、相手の情報を見抜く『鑑定眼』、闘志に反応して力を上昇させる『闘魂励起』など、その統合能力は多岐に渡り、個人戦闘にも集団戦闘にも対応できる万能なギフトだ。
そんな『戦神』の統合能力の1つ『成長促進』は、獲得する経験値を100倍に増幅することができる。つまり、一華の経験値は最終的に25600倍にまで膨れ上がったわけだが、その99%強はレベルのカンストによって行き場を無くしていた。行き場を失った経験値は純粋なエネルギーへと還元され、荒れ狂う暴威となって一華の中で暴れ出す。
(ぐっ…………!!)
レベルカンストを最低でも99回は実現できる程の経験値。それは、人間にはあまりにも強すぎる力だった。いくら一華がレベル9999に到達していても、その力を受け止めることはできない。いずれ彼女の肉体は膨大な経験値によって、自己崩壊してしまうだろう。
(しゃーない! 『厄災箱』!)
直感で「ヤバい」と気付いた一華は、即座に『厄災箱』を発動。一華にダメージを与えたことで害悪と見なされたエネルギーは、いとも簡単に『厄災箱』に吸収された。
(ふぅ、助かった~。ったく、こんなバカみたいに強い力、絶対持て余しちゃうよ。まぁいいや。それは後で考えるとして―――)
一華はフォルへと向き直り、上から見下す様に彼を睨みつける。
「た、頼む! 命だけは―――」
「黙れ」
「………っ!!」
思い切り威圧を掛けて、一華はフォルを黙らせる。
「あたしを嬲り殺そうとしておいて、敵わないと分かったら命乞いとか……んなダルいことするくらいなら、最初から手ぇ出してくんな!!」
「グボォ!!」
一華の見事な後ろ回し蹴りが、フォルの頭に直撃する。レベル9999の脚力によってフォルは弾丸のように吹っ飛び、洞窟の壁に頭からめり込んだ。
「………」
蹴りの衝撃と恐怖によって、フォルは完全に気を失い指一本動かなくなる。そんな彼を気怠げに眺めつつ、一華は『厄災箱』を発動。それと同時にフォルの周囲の空間が歪み、黒い穴がフォルを飲み込んだ。
洞窟にポツンと1人残された一華は、溜め息をついた。
「はぁ~……。自分の命を掛ける覚悟も無い奴が、戦いに足突っ込むなっての。まぁでも、命だけは助けてあげるよ。その代わりあんたにも―――ってそうだ、もう聞こえてないんだった」
フォルは既に『厄災箱』に収納済み。外からの声など聞こえるはずもない。それに気付いた一華は、さっさと思考を切り替えてこれからのことを考える。
(今すぐ光希の元へ行きたいけど……まずはここから脱出しないとって話だったよね。手がかりがあるとしたら最下層。そこで迷宮核とやらを手に入れれば、ここから出られるかもしれない。ヤバい奴がいるみたいだけど……ま、考える時間ももったいないし、とりあえずまずはそこに行ってみるか。え~っと、下への道は……探すのダルいな。コイツらに聞いちゃお)
道を探すのが面倒になった一華は、『厄災箱』を発動する。すると、一華の前に2人の堕天使―――フォルとルーンが姿を現した。
「―――あれ? 俺っち、生きてる!?」
「ああ、あああ………!」
「せ、先輩!? 何があったっすか!? しっかりするっす!」
フォルは未だ恐怖に苛まれているが、一華の前に現れた2人は、記憶、人格、レベルにスキルまで、本物と完全に同一だった。単なる幻の類いではない。間違いなく本人だ。2人は勘違いしていたようだが、一華は2人を殺してなどいなかったのだ。
『厄災箱』の力はあくまでも "収納"。それ自体に直接的な攻撃力は無い。だが、収納した "厄災" は『厄災箱』の支配下にあり、その力は一華の思うがままだ。これこそが『厄災箱』の真骨頂。収納した厄災を自身の武器として使える『厄災顕現』だ。
統合能力『厄災顕現』―――
厄災を仕舞って封印する『厄災収納』と対を成す、厄災を解き放ち使役する統合能力。解き放つとは言っても本体は封印されたままで、正確にはそれをギフトの力で完全再現した "複製厄災" を使役しているのだが、力は本物と同等どころか場合によっては上回ることすらある。
今ここにいるフォルとルーンも、『厄災顕現』で呼び出された "複製厄災" である。本体と同じ性能だが、肉体も魂も複製。ただし自我だけは一部封印を解くことで、本人の自我が反映されている。感覚で言えばVRに近い。本来の物とは別の肉体―――アバターを『厄災箱』の中から、遠隔で操っているような状態なのだ。今の仮の肉体が失われても、本人達の生死には何の関係も無い。生殺与奪の権を握っているのは、一華だ。
「あ~……ちょっと良いかな?」
「っ!! おい小娘! 先輩に何をしたっすか!? 事と次第によっちゃ―――」
「事と次第じゃ、何?」
「………………っ!!!」
一華がルーンを睨み付ける。たったそれだけで、ルーンの本体の魂が震え、借り物の魂が霧散しそうになる。ルーンは理解した。自分達が生かされているのは偶然にすぎないと。そしてそれは、すぐ隣にいたフォルも同様だった。
「……………」
「……………」
顔を青くし、全身から冷や汗を吹き出す2人。気付けば2人揃って、一華に対し土下座をしていた。一華は2人の土下座を意にも介さず、話を続ける。
「確かにあたしもやりすぎたかもだけど、そもそもフォルがこうなったのは、あんた達の責任でしょ?」
「はっ!! 至極もっともっす!!」
「後輩が大変失礼致しました!!」
言葉遣いを変えたり全力で一華を肯定したり、2人は一華を刺激しないよう必死だった。もっとも一華自身、フォルにやりすぎたと自覚していたのと、ルーンの気持ちに共感できる部分もあった為、本当はそれほど怒っていない。ただ、話が進まない為、今回は威圧で黙らせたのだ。
「ま、今回は良いよ。それよりあんた達にはさ、あたしを最下層まで案内して欲しいんだ」
「「っ!!」」
「あたし、さっきあんた達が言ってた迷宮核ってのを手に入れたいんだけどさ、その迷宮核がある最下層への行き方が分かんないんだよ。あんた達ここの構造に詳しいんだよね?」
「そ、それは、まぁ……」
「だったら、改めてお願い。あたしを最下層まで連れてって」
いつになく真面目な表情で頼む一華だったが、2人の反応は芳しく無かった。
「その、どうか……どうか最下層だけはご勘弁ください!!」
「………」
「あそこには、本物の ”怪物” がいるんです。あれが来て以来、アネリルス様もあそこには近付かなくなりました。魔神最強であらせられる、あのアネリルス様が!!」
「俺っち達じゃ、近付いただけで即死しちまうっす! あんたもアイツにだけは関わらない方が良いっす!」
「どうか、今一度ご検討を!!」
2人の必死な様子を見て、一華は ”怪物” が只者ではないことを悟る。そして2人の見立てでは、その ”怪物” は自分より強いらしいことも。
―――しかし、それで一華の決意がブレる訳ではない。
「……忠告どうも。でもそんなこと関係ない」
「「っ!!!?」」
「ここから出るための手掛かりがそこにしか無いなら、あたしは行くよ」
「で、でも―――」
「怖いなら近くまででも良い。道さえ教えてくれればあんた達は用済みだから、そこで解放してあげるよ。後は好きにしてくれて構わない。そこからはあたし1人で行くから。だからお願い。最下層まで連れてって!」
その瞳に強い決意の光を宿し、一華は懇願する。その真剣な表情に、フォルは1人の人物の面影を見た。彼がまだ天使であった頃、数多の神や天使から愛され、自分も絶対の忠誠を誓っていた、あの神の―――
「はぁぁ………仕方ないな」
「ちょっ、先輩!?」
「悪いなルーン。ちょっと事情が変わったんだ。俺はこの危なっかしいお嬢ちゃんについていく。別にお前に無理強いする気は無いぜ? 嫌ならずっと隠れてても、俺は文句言わねぇぞ?」
「あたしも言わないよ。怖がってる人に無理強いはできないし」
「……お嬢さん。あんたの名前は?」
「戦場一華」
「一華さん。俺っち達は捕虜なんす。正直言って捕虜に対する扱いが甘すぎるっす。無理矢理言うこと聞かせるぐらいできないとダメっすよ」
「悪いね。誰かを捕虜にしたのなんて初めてだから、そういうの良く分かんないんだ。次はもっと手厳しくやるよ」
「先輩にも一言言わせて貰うっす。先輩、俺っちの事舐めてんすか?」
「ほう?」
「先輩が漢見せて危険に飛び込もうとしてるのに、俺っちは留守番? 冗談じゃ無いっす! 先輩が行くってんなら、俺っちは地獄の果てまでもついていくっす!」
「ルーン……良いんだな?」
「もちろんっす!」
「そうか。なら俺は止めねぇ。一華殿。改めまして俺はルーン。で、こっちは後輩のルーンだ。ここから先、よろしく頼む」
「こちらこそよろしくね! フォル! ルーン!」
こうして、親友との再会を目指す一華に、2人の堕天使がお供に加わった。
本作をご覧いただき、誠にありがとうございます!
「ボコって、脅して、何故か慕われて。可愛げも癒し要素も一切無いけど、実力は確かな2人の堕天使。フォル&ルーンが仲間になりました!」
♪タラン タランランラン ラン♪
こんなナレーションが聞こえたり、聞こえなかったり……。ともかく、一華にとって初めての、異世界の仲間ができました!
このお話をより良いものとするため、皆様に楽しい時間をご提供するため、皆様のご意見、ご感想をどうぞよろしくお願いします。
また、面白いと思っていただけたら、高評価も是非お願いします。




