第2話 早速ピンチなんですけど?
クラヴィアさんに呼び出されて、異世界へ行くことになったあたし達。
色々と説明を受けて、ギフトも貰って、いよいよ異世界へ転送された。はずなんだけど……どうも様子がおかしい。
(あれ? 確か祠に送るとか言ってなかったっけ? どう見ても洞窟だけど?)
地面や壁、天井にある謎の光る鉱石以外、光源が一切ない暗い洞窟。とても祠とは思えない。
いや、祠がどんなのか分かんないし、もしかしたらここが祠の内部って可能性もあるけど……でも、何だか嫌な予感がする。
(……そうだ、やっぱりおかしい! クラヴィアさんはあたしらを街へ行かせようとしてた。だとしたら祠に送るにしても、祠の出口付近に転送するはず。すぐ近くに扉か穴があるはずなんだ!)
試しに辺りを見渡しても、どこまでも岩の壁が続いているだけで、出口らしきものは見当たらない。前も後ろも、ずっと奥まで暗闇が続いている。どうやらここは、クラヴィアさんの言ってた祠じゃなさそうだ。
(待てよ? そういえば今ここにいるのって!)
―――あたしだけだ。あたし以外誰もいない。糸川さん、天野さん、そして光希も、どこにもいなかった。
「おーーーい!! 光希ぃ!! 糸川さーーん!! 天野さーーん!!」
返事はない。洞窟の闇の中で、あたしの声が虚しくこだまするだけだった。
(もしかして、あたしだけここに? どうして? ……いや、今はそんなことどうでも良い)
ここで考察を続けても、時間を浪費するだけだ。はぐれてしまったものはしょうがない。とにかくまずは、この洞窟から出ないと!
(とりあえずこの奥に、っ!?)
その時だった。急に凄まじい悪寒を覚えて、あたしは思わず洞窟の奥を凝視した。何かがいる。それも、途轍もなく危険な何かが。
「へぇ、レベル1の癖に俺達を前にして倒れねぇとは、やるじゃねぇか」
洞窟の奥から声がして、暗闇から2つの人影が現れた。地面に光る石みたいなのがあったお陰で、辛うじて相手の姿はわかったけど、その姿は人間のものじゃなかった。
体型は人間っぽいけど瞳孔は猫のように縦長で、口には鋭い牙がズラリと並んでる。何より特徴的なのは、背中に鳥のような翼が6枚生えてること。「背中に翼」って言うと天使みたいだけど、コイツらの翼は真っ黒。とても天使には見えない。
「あんた達は?」
「俺はフォル、こっちはルーン。この監獄に住む堕天使さ」
「か、監獄……?」
「へっ、やっぱ何も聞いてねぇみてぇだな。ルーン、この何も知らねぇお嬢ちゃんに、色々教えてやれ」
「ハイっす!それじゃあまずは、ここがどこかを教えてやるっす。ここは神域迷宮 "終末地獄"。クラヴィアが邪魔な奴を追放するために作った、ダンジョンっす。堕天使だったり魔神だったり、他にも神を殺しうる危険な奴らがほとんどっす。後は嬢ちゃんみたいな、異世界から呼ばれた生贄も良く来るっす。つまり嬢ちゃんも、何かしらの理由で邪魔だと判断されて、アイツにここへ飛ばされたってことっすね」
「……!」
あたしは絶句した。
やられた! つまりあたしは、クラヴィアさん―――クラヴィアに騙されたんだ。騙された挙句、ゴミみたいに捨てられたんだ!
「………ダル!」
誘拐みたいな方法で無理矢理連れてこられた挙げ句、こんな所に捨てられるとか、マジでダルい!
―――って、今はそれどころじゃない!!!
今アイツ、あたしのこと何て言った? 聞き間違い? ……いや違う! アイツはあたしのことを「生贄」って言った! あたしだけじゃない。糸川さん、天野さん、そして光希も生贄だったんだ。クラヴィアは最初から、あたしらを生贄にするつもりで呼んだんだ! だとしたら光希との約束も、最初から守る気は無かったんだ。あたしは何でか捨てられたみたいだけど、このままだと皆が生贄にされる………!!
一刻も早く光希達に合流しないと、手遅れになる!
(待ってて光希、すぐそっちに行くから!!)
あたしは、心にそう固く誓った。そうと決まればまずは出口だ。出口を見つけないと話にならない。
「ねぇ、出口はどこにあるの?」
「出口だと? んなもんねぇよ」
「っ!?」
「さっきルーンが言ってたろ。ここはクラヴィアが邪魔者を永久に封じ込めるために作った場所なんだ。出口なんざ最初から作られちゃいねぇ」
「そんな……!」
「強いて言えば ”迷宮核” っすかね。ここって迷宮だから、迷宮核を手に入れれば何とかなるかもしれないっすよ?」
「バーカ。迷宮核があんのは最下層だろ? あの怪物を突破しねぇ限り、迷宮核は手に入らねぇっつーの」
「あ、そうっすよね……」
ふぅん。出口が無いって聞いて絶望しかけたけど、まだ希望はありそうだ。
「迷宮核なら、どうにかなるかもしんないんだね? だったらお願い。あたしを最下層まで連れてって!」
「はぁ? 何で俺達がてめぇなんかの為に、最下層まで行かなきゃならねぇんだ?」
「親友の命が掛かってるの! 見返りが欲しいなら必ず用意するから、お願い! 力を貸して!」
「はんっ! お断りだ。出会って数分の奴を助ける義理はねぇ。それに―――お前はここで人生終了だ」
言うや否や、フォルがあたしに向けて右手を翳す。すると、フォルの右掌に炎の球ができて、目にも止まらない速さであたしに飛んできた。
「っ!!!?」
あたしは大慌てでその場から飛びのいた。凍り付くような悪寒のお陰でどうにか直撃は免れたけど、右の頬が焼け焦げて激痛が走る。
「ぐぅっ………!!!」
「いい気味だぜ。一度はあの腐れ女神の目掛けになった奴が、結局見捨てられて、虫のように殺されようとしてるなんてよ」
「……生贄の間違いでしょ。それよりも、どうして? 何でこんなことを?」
「決まってんだろ? 憂さ晴らしさ」
「アイツのせいでこんな所に閉じ込められて、俺っち達は鬱憤が溜まってるんすよ。だからこうして、たまに追放されてくる奴を痛めつけて、嬲り殺しにして憂さを晴らしてるっす。そういう訳だから、嬢ちゃんも俺っち達に嬲り殺されてもらうっす。良い絶望顔を期待してるっすよ!」
「……っ!!」
「ハハハハハ!!! 良いね良いねその顔! もっと見せてくれよ、そのひきつった顔をよぉ!」
壊れたような笑みを浮かべて、フォルが連続で火の球を飛ばしてくる。その度あたしは紙一重で避け続ける。いや、違う。避けさせられてるんだ。コイツはわざと攻撃を外してる。あたしが避けられるギリギリの速度で攻撃して、あたしが逃げ惑うのを見て楽しんでるんだ。
(ったく、早く光希達を探しに行かないとなのに!)
攻撃は次第に苛烈さ増していく。だんだん攻撃を避けられなくなって、あたしの全身が焼け爛れていく。
「ハァ、ハァ……!」
「……ちっ、あれから反応が鈍いな」
「期待外れっすね。もう殺しちまいましょうよ」
「だな。もうコイツに用はねぇ」
フォルはつまらないオモチャを見るような目をして、空中に無数の火の球を作り出す。数はざっと見積もっても1000以上。そしてその全てが、あたしに狙いを定めていた。
(ヤバい! このままじゃ死ぬ!)
仮に槍があったとしても、あの火の球の群れはどうすることもできない。運よく生き残ったとしても、黒焦げになるのは確実だ。
どうする? こんな所で死ぬわけにはいかない。けど、どうすれば良い? どうすればこの場を乗り切れる!?
考えろ、考えろ、考えろ!!!
……そうだ、ギフト!
まだ使ったこともないけど、あたしにはギフトがある。いや、もうこれしかない。ハズレとは言え、仮にも神の恩恵だ。それなりに役には立つはず!
(『道具箱』だっけ? 確か能力は「物の収納」。そしてその容量に制限はない……だったら!)
あたしは1つの作戦を立てる。丁度そのタイミングで、フォルが動いた。
「おら、食らえ」
無数の火の球が、一斉にあたし目掛けて飛んでくる。
―――あたしの狙いどおりに。
(『道具箱』!)
反射的に両腕を前に突き出して、あたしは『道具箱』を使った。すると、目の前の景色がグニャリと歪んで、黒い穴のようなものが出現する。そして不思議なことに、火の球達はその黒い穴に引き寄せられて、自分から入っていくかのように穴の中へ消えて行った。
「………!!!」
「っ!!!!?」
ルーンが絶句し、フォルも驚愕の表情を浮かべてる。まぁ無理もないよね。あたしが黒焦げになると思ったら、ご自慢の技を全部無力化されちゃったんだから。
「バカな!? 俺の ”炎弾時雨” が消えた!? てめぇ、何しやがった!?」
「別に。ハズレギフトを使っただけだけど?」
「ふざけんなぁ!! ハズレギフトに俺の魔術が消されてたまるか!」
いやそんなこと言われたって、消せちゃったんだからしょうがないじゃん。とは言え、あたしとしても賭けだった。「どんなものでも」って言ってたからもしかしたらと思ったけど、どうやらあたしの推測が正しかったみたいだ。
(『道具箱』は、敵の技も仕舞えるってことか。結構使えるじゃん!)
「ちぃ! だったらコイツはどうだ!」
フォルが両手を胸の前に合わせる。すると、合わさった掌に光の球ができて、気温がバカみたいに上がった。……ってか、暑すぎでしょ!? ただでさえ稽古の直後で汗だくなのに、これ以上汗かいたら干からびちゃうって!
「”獄炎波動”!!」
そんなあたしの気持ちなんておかまいなしに、フォルが攻撃を仕掛けて来た。収束させた光の球から、超光熱のビームが発射される。近付いただけでも火傷しそうだ。
(うわぁ、さっきの火の球が可愛く見える。当たったら絶対死ぬじゃん。ま、当たればだけどね)
これも仕舞っちゃえば問題ない。ってなわけで、もう一度『道具箱』を発動して、熱戦を収納した。
「嘘だろ!? ”獄炎波動” まで!?」
「あんな見え見えの直線的な攻撃、防いでくれって言ってるようなもんでしょ」
そもそも、ビームのくせに遅すぎる。最初の火の球みたいな速度で飛ばしてくれば反応できなかったかもしれないけど、さっきのビームはカタツムリみたいにのろかった。あたしのギフトの力を見た後でのあの攻撃。舐めてるとしか思えない。
「本気出すみたいな空気出しといてまだ手加減とか、よっぽどあたしを舐めてんだね」
「「!!!!!!!!?」」
……何か、すっごい驚いてるんですけど? もしかして、実は本気だったとか? いや、それは無いな。だってアイツら、見た限り相当な強者だもん。
名前:フォル
種族:堕天使
レベル:9000
特殊スキル:【獄炎】
名前:ルーン
種族:堕天使
レベル:8500
希少スキル:【空間断裂】
火の球の雨を避けながら、「アイツらの情報が欲しい!」って思ったら、急にこの情報が頭に流れ込んで来た。都合良く情報が手に入ったのはあやしい気もするけど、今はこれが頼りだ。使わない手はない。で、思ったんだけど……コイツら結構強くね?
(スキルは良く分かんないけど、レベルが圧倒的に高いのは分かる。確か最大レベルは9999だから、9000はその一歩か二歩手前だよね。対するあたしはレベル1。地力の差がありすぎる。そりゃ舐めプされてもしょうがないよね……)
それが正直な感想だった。でも、上等だ。あっちが舐めプで来るなら、こっちは全力で行く。油断と隙を突きまくって、絶対コイツらを倒してやる! そんで必ずここから抜け出して、光希を、皆を迎えに行くんだ!!
本作をご覧いただき、誠にありがとうございます!
物語が加速する第2話。
超高レベル堕天使×2に襲われて大ピンチの一華ですが、一華はまだ諦めていない様子。
果たして、ここからどうなるのか………!?
このお話をより良いものとするため、皆様に楽しい時間をご提供するため、皆様のご意見、ご感想をどうぞよろしくお願いします。
また、面白いと思っていただけたら、高評価も是非お願いします。




