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第16話 さよなら、終末地獄

アネリルスの呼び掛けに応じて、魔方陣は次から次へと展開されていく。部屋は次第に妖魔族(デーモン)と堕天使で溢れ帰っていった。

……って、ちょっと! このままじゃあたしらの居場所が無くなっちゃうじゃん!


「あ、ヤベッ。スペース考えてなかった」

「アネリルスゥゥゥゥゥゥ!!!」

「僕に任せて! ”空間歪曲境界リメイキング・フィールド”!」


改人が何かの術を発動すると、部屋全体が結界に包まれる。そして次の瞬間、部屋がいきなり数倍に広がった。


「え、何これ? 何したの?」

「この部屋を結界で区切って、結界内部の空間を【歪曲改変(ディストーション)】でいじったんだ。どう? 凄いでしょ?」

「………正直、恐れ入ったよ」


まさか、進化した【歪曲改変(ディストーション)】をこうも早く使いこなすなんて、びっくりだよ。


「お陰で助かったよ。ありがとね」

「へへ、どういたしまして」


照れているのか、改人の顔が少し赤くなってる。可愛い奴め。


「いやぁ、助かったよ改人君。君がいなかったらどうなってたか」

「いえいえ、皆無事で良かったですよ」


改人、そこは「迷惑だった」って言っても良いんだよ? まぁ、それを言わないのが彼の良い所なんだろうけど。


「それで、アネリルス。仲間(?)って言ってたけど、結局この人達誰なの?」

「彼らはアタシらと同じ。クラヴィアの手でこの監獄に閉じ込められてた連中だよ。彼らを残して、アタシらだけで脱出ってのは気が引けるから、声を掛けておいたんだ」


っ! そうか! 他の階層の人達か!


「全員紹介してると日が暮れるから、とりあえず今は階層守護者の6人を紹介しておくね。ほら、こっち来なよ」


アネリルスが声を掛けると、6人の男女がこっちに飛んできた。全員魔神。それも、アネリルスと戦う前のあたしだったら、苦戦は必至の強者ばかり。もしもこの人ら全員と戦ってたら、ここまで来るのに数倍時間が掛かってただろうね。


「皆、強いね」

「うん……!」


あたしと改人が警戒してると、アネリルスが呆れた様子で溜め息をついた。


「はぁ~、何言ってんの。今のあんた達なら片手で捻れる相手でしょ?」

「いえいえ、皆さん油断ならない物を感じますよ!」

「それに、あんたみたいに神話級(ミトロジー)の武具を持って無いとも限らないでしょ?」

「それはそうかもだけど………って、長くなりそうだからいいや」


あら、バッサリ切られちゃったよ。


「んじゃ、早速紹介していくね。まずは右端の彼女。彼女は ”色欲の魔神”、ミーシャだよ」





・ミーシャ

種族:魔神

レベル:X

大罪(ギルティ):【色欲(ラスト)




”ミーシャ” と呼ばれた魔神は、顔はとんでもないくらいの美形で、クラヴィアや光希にも劣らないデカさのそれ(・・)を胸にぶら下げてる。しかも黒の挑発ドレスを着てるもんだから、妖艶度が半端じゃない。


「初めまして、ミーシャよ。一華さん。あなた、”怪物” を倒して迷宮核(ダンジョンコア)を手に入れてくれたんですって?」


いきなりずいっと顔を近付けて、ミーシャさんがそう聞いてきた。


「え、えぇ。まぁ。それが何か?」

「感謝してもしきれませんわ。あなた様のお陰で、我々はようやく自由になれる。この御恩は、いつか必ず返させていただきますわ」

「い、いや、そんな、気にしないで下さい」


いきなり絶世の美女に近付かれて思わず緊張しちゃったけど、わざわざお礼を言ってくるあたり根は良い人っぽい。

………露出度はあれだけど。


「ミ、ミーシャさん! その………前! 前が見えちゃってます!」


ほら、改人なんてもうドギマギしちゃって、顔真っ赤にして目を手で覆ってるよ。


「あらあら、あなたが ”怪物” から助け出された少年ですか? 随分ピュアな反応をしてくれますわね。ほ~ら、こんなのとかどうかしら?」

「か、からかわないでください!」

「はいはい、そこまで。後がつかえてるんだから、からかうのは後にしなよ」

「んもう! せっかく良い所だったのに………」


いやいや、これ以上弟の教育によろしくない事されたら困るわ。


「そんじゃ次は右から2番目の彼女だね。彼女は ”嫉妬の魔神” メアだよ」





・メア

種族:魔神

レベル:X

大罪(ギルティ):【嫉妬(エンヴィー)




メアはとにかく髪の毛が長い。貞子ってこの人がモデルなんじゃって思うくらい、真っ黒な髪を長く伸ばしてる。そのせいで顔も碌に見えない。さっきの返事からしても、かなり暗い印象を受ける。


「…………」

「え、え~と、メアさん?」

「…………チッ!」

「「っ!!?」」


し、初対面相手に舌打ち!? 嘘だろコイツ!?


「”怪物” はいつか私が倒すつもりだったのに、先に倒してくれちゃって………! 私がアイツを倒せば、その栄光は私の物だったのに………! あぁ憎たらしいぃ、妬ましいぃぃぃぃぃぃぃ!!!!」


髪の隙間から見える大きな目をギラつかせながら、メアさんはこっちを睨んでくる。良く分からないけど、なんか凄い嫉妬されてる?


「えっと、何て言うか、すいません………」

「キィィィィィィィィィィィィィィ!!!!!!!!」

「「っ!!?」」

「そうやって、謝りゃそれで済むと思ってる楽観的思考!! あたしも欲しいぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!」


えぇ………? それ、妬ましいか?


「あ、あの……僕達どうすれば――――」

「あぁぁぁぁぁぁ!!! そうやって何でも人に聞こうとする姿勢! 自分の出来ない事を認められる素直さも、妬ましいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!」


な、何なんだコイツ………何でもかんでも嫉妬するし、良い人か悪い人かも微妙なところだし。ってか、これどうすれば収拾つくわけ?


「こ、怖いよお姉ちゃん………! 何なのこの人!?」

「落ち着け弟よ。あたしがついてる」

「っ!? 姉弟!? お前ら姉弟か!? キィィィィィィィィィィィ!!!! 私も欲し――――」

「いい加減にせんか!」


アネリルスが手刀でうなじを打って、メアさんを気絶させた。魔神にも手刀って効くんだ。


「ごめんね2人共。彼女、決して悪い奴じゃないんだけど、見ての通り拗らせててさ。ちょっと嫉妬しやすいんだよね」

「ちょっとどころじゃなくない?」

「………まぁ、言いたい事は分かるよ。でも話してみると、普通に良い奴だって分かると思うよ」


今の所、狂人にしか見えませんけど?

でも確かに、妬んではいてもあたしを蹴落とそうって気配はしなかったし、根が悪い奴じゃないってのは本当かも。


「3人目は左端の彼。彼は―――」

「”強欲の魔神” ダズだ。よろしくな!」

「………ま~た台詞を奪いやがって、この野郎」

「何でも欲しがるのが、俺の(さが)よ。それよりほら、どうしたお前ら。このダズ様が挨拶してんだぞ? 返事くらいしたらどうだ?」

「「よ、よろしくお願いします………」」





・ダズ

種族:魔神

レベル:X

大罪(ギルティ):【強欲(グリード)




性格もかなり横柄なのもあれけど、なんか怪盗みたいな仮面着けてるし、典型的な悪徳商人みたいに黄金の装飾品を身に付けて、これ見よがしにジャラジャラ言わせてるし、もう見た目からして個性が強烈なんですけど………。


「聞いたぜ、一華とやら。お前、アネリルスの奴が溜め込んでたお宝を持ってるんだってな? それ、全部俺にくれよ」

「は?」

「ついでにお前の名声、力、魂、その他諸々全部俺に―――」

「断る!」


いきなり全部寄越せとか、図々しい奴だな。【強欲(グリード)】のまんまじゃん。考えてみたらメアさんも、【嫉妬(エンヴィー)】の通りの性格してたし、もしかしたら大罪(ギルティ)持ってる奴ってのは、性格が個人の大罪(ギルティ)に寄ってるのかも。


「アンタ、ほんと何でも欲しがるよね。でも、コイツから欲しがるのは止めときな。返り討ちに遭うのがオチだから」

「分かっている。分かってはいるが………求めずにはいられねーんだよ。あぁ、欲しくて欲しくてたまんねぇぜ……!」


いやドラッグか! 目が完全にいっちゃってるよ!


「悪いけど、あたしの何1つとして、あんたに譲る事は出来ない」

「はぁ、だよな……ま、気が向いたら教えてくれや」

「へいへい」


恐らくその時は一生訪れないけど。


「アネリルス、次の人の紹介をお願い」

「オッケー。次は、ダズの隣の………ラーク、良いかな?」

「あ~~? いーぜ~~。好きなよ~にやってくれ~~。ふぁぁぁ………」


今度は、すっごい気怠げな男だ。人前だってのに肩肘ついて寝転がっているし、「働きたくないでござる」とか言いそうな見た目してる。この人は間違いなく ”怠惰の魔神” だね。





・ラーク

種族:魔神

レベル:X

大罪(ギルティ):【怠惰(スロウス)




「コイツは ”怠惰の魔神” ラーク。見ての通り超面倒くさがり屋でさ。ほぼ一日中こうしてだらけてるんだよ」

「あたし、自分の事面倒くさがりだと思ってたけど、この人見るとまだマシな気がする」

「そりゃそうだよ! コイツ以上の面倒くさがり屋がいるわけない。と言うか、そんなのいてたまるか」

「そんなに酷いんだ………」


でも、こんな奴でも覇気はかなりの物だ。ただ寝転がっているようにしか見えないのに、下手に手を出すとこっちが手痛い目に遭いそうな、そんな感じがする。


「お姉ちゃん、あの人凄いね。完全にだらけきってる筈なのに、隙が無いよ」

「お、改人も気付いた? 偉い偉い!」

「お姉ちゃんを守らないとなんだから、このくらい当然だよ!」

「………お前ら~~、凄いな~~。そ~だぜ~~。俺強いんだ~~。………でも~~、お前ら相手じゃ~~、話にならないな~~。俺さ~~、だらけてる分、人の事が良く見えるんだ~~。だから分かるぜ~~。お前ら、つえ~だろ~~? この覇気~~、俺ですら~~、瞬殺だろ~な~~」


相変わらず態度はだらけきっているけど、表情は真剣そのもの。本気でそう思ってるみたいだ。あたしとしては、油断したら()られる気がするんだけどなぁ。


「アネリルス~~。俺はも~良いだろ~~。残りの2人も~~、紹介してやれよ~~」

「そうだね。後は真ん中の2人だね」


真ん中の2人。片方は、黒髪をポニーテールに結んだ美少女。もう片方は、アネリルスと同じ赤髪の少年。この2人、他の4人とは別格だ。下手をすると、アネリルスと同じくらい強いかもしれない。


「まずはイゼルから行こうか。イゼル、お願い出来る?」

「”お願い” か。これが命令だったらブチ切れていたが、お願いなら良いだろう。あ~、えっへん! 私は ”憤怒の魔神” イゼルだ。先を越されたのは腹立たしいが、一華殿。”怪物” を倒してくれた事、礼を言わせてもらう」





・イゼル

種族:魔神

レベル:X

大罪(ギルティ):【憤怒(ラース)




黒髪の美少女の方がイゼルらしい。持ってる大罪(ギルティ)は【憤怒(ラース)】みたいだけど、それに完全に染まってるって感じじゃない。大罪(ギルティ)に染まる度合いも個人差があるのかも。或いは、強い奴程大罪(ギルティ)に染まりにくいのかもしれない。ま、あくまで予想だけど。


「それと、そこの少年」

「は、はい!」

「君が例の ”怪物”。もとい、その片割れか」

「………っ!!」

「違う。この子は ”怪物” じゃない。あたしの弟の改人だ」

「お姉ちゃん……!」


思わずあたしは、改人を抱き寄せてイゼルを睨み付けていた。


「すまない、失言だった。あくまでも ”怪物” はユガエルで、彼はただの依代(よりしろ)だったな。それどころか、彼のお陰でアネリルスが救われたって話じゃないか。アネリルスは私より強くてムカつく奴だが、それでも私の大事な仲間の1人だ。守ってくれて感謝するよ」

「イゼルさん……!」

「聞いた? 君に感謝してるってよ! 良かったね、改人!」

「うん、うん………!!」


改人は大粒の涙を流して泣き出す。いや、本当に、改人の頑張りを認めてくれる人が、あたし以外にいてくれて良かった。あたしは改人に「君の事を知って君を人殺しって呼ぶ奴がいたら、ソイツらも黙らせてやる!」って言った。けど考えてみれば、それは根本的な解決にはならない。彼に感謝してくれる人がいて、それを伝えてくれないと彼は救われない。だから、イゼルさんが改人に謝辞を述べてくれて、本当に嬉しい。


「いきなり睨んだりして、すみませんでした」

「良いさ。あれは私に非があった。彼の姉として、君の怒りは当然の物だ」

「そう言って貰えると、助かります」

「しかし、腹立たしいな」

「何がです?」

「私より強いアネリルスが逃げ出すしかなかった相手を、君は無傷で倒した。いや、それどころか、君はユガエルに捕らえられていた改人君まで救出してみせた。そんな事は私にも不可能だよ。まったく、自分の弱さに腹が立ってしょうがない!」


ちょっとちょっと!? いきなり『破滅怒気』放出しないで貰えません!?


「イゼル。また『破滅怒気』が漏れてるよ」

「おっと、すまない。私の悪癖だ。怒るとついつい『破滅怒気』を放出してしまうんだ」

「い、いえ、お気遣いなく………」


とは言ったものの『破滅怒気』は、小指程度の量でも人体を粉微塵に吹き飛ばせる力を秘めている。それを怒りに任せて放出とか、正直、かなり迷惑な悪癖だ。でも、自分の弱さを素直に認められる人ってのはそうはいない。将来的にこの人がどのくらい強くなるのか、楽しみだな。


「最後はコイツ。コイツはあたしの――――」

「ふへへ、もう我慢できない………!」

「「???」」

「2人共、齧らせて!!」


赤髪の少年っぽい魔神が、そう叫ぶなり突然飛び掛かって来た。


「ちょっ、齧るって何――――」

「”増幅反射境界リリーフ・リフレクター”!!」


改人が一歩前に進み出て右手を突き出すと、目の前に半透明な結界が現れる。そこへ大口を開けた少年魔神が飛び掛かって来たけど、結界に拒まれてそれ以上進めなくなった。


「ぐぇっ、何だこれ!? 喰えない!?」

「これで終わりじゃないよ! はぁっ!!」

「ぐぁぁ!!?」


今度は少年魔神が後ろに吹っ飛ばされる。このまま壁まで吹っ飛ぶかと思ったけど、少年魔神は空中でクルンと一回転して着地した。


この結界、中々の性能だ。攻撃を受けると『前進』と『後進』の境界を操って、攻撃の進行方向を反転。さらに『減衰』と『増加』の境界を操って、結界で受け止めて減衰した攻撃の威力を逆に増加させる事で、敵の攻撃を数倍の威力にして跳ね返してるんだ。

『境界創造』と2種の『概念境界』の同時使用。これを1つの思考で全部やってのけてるってんだから、末恐ろしいよね。


「アッハハハハハ!! 凄い凄い! 僕が喰えない奴がいるなんて!」

「お前なんかに、お姉ちゃんを喰われてたまるかバーカ!」

「こらっ、バカとか言わないの」

「ご、ごめんなさい………」

「やーい! やーい! 怒られてやんの!!」

「っ!! こんの………!」


改人が顔を真っ赤にしていると、アネリルスが仲裁に入ってきた。


「はいはい、そこまで! ったく、この愚弟(・・)は………何やってんの! ちゃんと謝りなさい!」

「やーだよ! ベ~~!」

「っ!! コイツ~~!」

「アハッ♪ 怒った怒った♪」

「バカにして~~! とっ捕まえてお仕置きだ!!」

「アッハハハ! 捕まえてみなよ! ドン亀ねーちゃん!」

「こんの、クソガキが………! 待てーーー!!」


あ~あ、仲裁に入った筈のアネリルスが、喧嘩の当事者になっちゃったよ。


「え~と………イーシャさん。彼はいったい?」

「彼はガブア。”暴食の魔神” にして、アネリルスさんの実の弟ですわ」





・ガブア

種族:魔神

レベル:X

大罪(ギルティ):【暴食(グラトニー)




食欲が抑えらてない所はあるけど、彼もイゼルさんと同様完全に大罪(ギルティ)に飲まれてる感じは無い。………超生意気なガキではあるけど。


「待てコラーーーーー!!」

「べ~~だ!」


アネリルスは必死に追いかけるけど、ガブアはなかなか捕まらない。


「皆! 出番だよ! ”暴食ノ舞踊(グラトニー・ダンス)”!!」


ガブアの呼び掛けで、”暴食魂魔(グラト・ソウル)” が大量に召喚されると、一斉にアネリルスに襲い掛かる。


「こっちだって! ”暴食ノ舞踊(グラトニー・ダンス)”!!」


アネリルスも負けじと ”暴食魂魔(グラト・ソウル)” を召喚する。でも、確か【傲慢(プライド)】で模倣した能力は、出力がオリジナルの80パーセントに下がってた筈。正直言って、それは悪手な気が………。


「アッハハハ!! 弱い弱い!!」

「くっ!」


ほらやっぱり。アネリルスの ”暴食魂魔(グラト・ソウル)” が次から次にやられていく。”暴食魂魔(グラト・ソウル)” だけで相手するからそうなるんだよ。他にも『破滅怒気』とか使えば結果は変わったかもしれないのに。


「アネリルスの奴、何で劣化版の ”暴食魂魔(グラト・ソウル)” だけで相手してんだろう?」

「それがアイツの【傲慢(プライド)】さ」


あたしの疑問に、イゼルさんが答えてくれた。


「ガブアはアネリルスの弟。いつもは仲睦まじい姉弟なんだが、一度ガブアが挑発するとすぐ喧嘩になる」

「アネリルスが挑発を流した事は?」

「無い。アイツにも姉としてのブライドがあるから、弟にだけは負けたくないんだろうさ」

「出力で負けているのに同じ技を使うのも、プライドが高いからですか?」

「だろうな。薄々勘づいてるとは思うが、大罪(ギルティ)を手にした奴ってのは、それを手にする前より性格が大罪(ギルティ)に寄るようになる。心の弱い奴とかは特にな。心身共に強くなればその分自制も効くようになるが、目覚める時は目覚める。なんせ元から持ってる気質だからな。逃れられない宿命のような物さ」


知らなかった。大罪(ギルティ)って、そんな重い物だったんだ。そりゃ確かに、”大罪” なんて言われるわけだよ。


「それよりも、今は2人の喧嘩を止めないと、話が進みませんわ」

「そうだな。とは言え、あの2人の喧嘩を止めるのは私達では――――」

「あたしに任せてください。神域描画 ”縛鎖ノ領域(バインド・フィールド)”」


あたしは新しい ”神域” を展開した。すると――――


「ぐぇっ!? 動けない………!」

「い、一華! 何をしたの!?」

「”縛鎖ノ領域(バインド・フィールド)” だよ。あたしが指定した相手は動けなくなる」


縛鎖ノ領域(バインド・フィールド)” には、【忍耐天神】の『万物固定』と、【戦神】の『戦力操作(・・・・)』を使用してる。『戦力操作』は【戦神】の進化に乗じて発現した統合能力(アビリティ)で、相手の戦闘力を上げたり下げたり出来る(権能持ちにはレジストされやすいけどね)。これを使って相手を弱らせた上で、『万物固定』で動きを止める。それが ”縛鎖ノ領域(バインド・フィールド)” の力だ。


「うぅ、助けてねーちゃん!」

「さ、さっきまでアタシの事、バカにしてたくせに!」

「それは、謝るから、助けて~~!!」

「出来たらとっくに、やってるっての!! 一華! これ解いて!」

「そうだね。一応落ち着いたっぽいし、解除しよっか」


あたしはそれっぽく指を鳴らして、”縛鎖ノ領域(バインド・フィールド)” を解除した。


「「た、助かった~~!!」」


2人は揃って安堵する。流石姉弟、反応がそっくりだ。


「ごめんね2人共。ずっと喧嘩されてると話が進まないからさ」

「いや。こっちこそ愚弟がごめんね。ほら、ガブアも! アンタの身から出た錆でしょ?」

「うぅ、ごめんなさい……。改人さんも、煽ってごめんね」

「ううん。こっちこそ、バカとか言っちゃってごめん」


改人とも仲直り出来たみたいだし、万事うまくいったね。この2人、どっちも見た目子供だし、改人の良い友達になってくれるかも。


「そうだ! 改人、あたしらも改めて自己紹介しないと!」

「っ!! そうだった!」

「別に良いんじゃない? 皆アンタ達の事もう知ってるし」

「まぁ、そうだけどね。それでも、自己紹介はあった方が良いでしょ?」

「確かに」

「んじゃ、あたしからね。あたしは戦場一華。元々は普通の人間だったんだけど、色々あって今は神様やってます。よろしく!」

「次は僕。僕の名前は境田改人。1000年間ユガエルに憑りつかれて過ごしてたけど、お姉ちゃんやアネリルスさん達に助けてもらって、今は一華お姉ちゃんの弟になってます。よろしくお願いします!」


あたし達が自己紹介すると、丁度目覚めたメアさんが反応してきた。


「………なった? あんたら、本当の姉弟じゃないの?」

「そ、そうですけど………?」

「キィィィィィィィィィィィィィィィ!!!!!!!」

「「また!?」」

「血縁の無い奴らが姉弟だとぉぉぉぉぉぉぉ!!!? あたしじゃそんな風になれないのにぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!! 妬ましいぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!!」


しまった。また嫉妬を爆発させちゃったみたい。


「その関係性、良いな。俺にくれよ!」

「嫌だよ」

「お姉ちゃんは渡さないぞ!」


改人があたしにしがみついて、ダズを睨みつける。あたしを盗られると思って不安になってるみたいだ。


「大丈夫。盗られたりしないから」

「お姉ちゃん……!」


あたしが改人を抱き寄せると、改人は安心したのか、笑みを浮かべる。


「やはりダメか。しかし姉弟になるなら、お互いの家族への挨拶が必要じゃないか?」

「そ、それは………!」

「…………っ!」

「っ! そうか、確か人間の寿命は約100年。だが確か改人は――――」

「それ以上言うな!」

「ぐすっ……お父さん………! お母さん………! 歩………!」


あたしが遮ったけど、もう遅かった。改人は家族の事を思い出して、啜り泣き始めてしまった。他の魔神達が一斉にダズを睨みつけるけど、事態は変わらない。


何てこった………触れないようにしてたのに。

改人はユガエルに1000年憑りつかれていた。改人は仮にも神のユガエルが力を与える事で1000年生き続けたけど、普通の人間は1000年も生きられない。つまり、改人の両親はもう………。


「あ、でもちょっと待って」


突然、アネリルスが何かを思い出したようにそう呟いた。


「どうしたの?」

「確かこの迷宮(ダンジョン)って、外の100倍の速度で時間が進んでなかった?」

「え、ほんと!?」


あたしは改めて、迷宮核(ダンジョンコア)を鑑定してみた。すると―――


「っ! 本当だ! この迷宮(ダンジョン)は外の世界の100倍の速度で時間が進んでる! でもどうして?」

「きっと、監獄送りにした奴が早く死ぬようにする為だよ。ほとんどの生命体には寿命があるからね。ここに送れば、向こうの時間で数年待つだけで、勝手に死んでいく。神だって、不老ではあっても不死じゃないから、何かの拍子に死んじゃう事はある。その時がなるべく早く訪れるように、クラヴィアはこの監獄の時間を早めたんじゃないかな。クラヴィアはあれでも時空の女神だからね。時間の流れを操作するくらい造作も無いんだよ」


ア・イ・ツ~~!!

どんだけあたしらに死んでほしいのさ! でもそんな事、今はどうでも良い。


「アネリルス。監獄の外にはどのくらいの世界があるの?」

「さぁ? アンタ達が来た世界も含めて、相当数の世界があると思うよ。でも、最初に世界を作った神が、他世界間での交流の事を考えて、全ての世界で時間の流れは共通にしてた筈」

「って事は、改人がここに1000年いた間、向こうの世界で経った時間は10年。改人! 10年くらいなら、ご両親はまだ生きてるかもだよ!」

「ほんと!?」

「うん! 可能性は充分にある! 後は元の世界に戻る方法さえ見つかれば、家族に会えるかもしれない!」

「っ!! やった~~~~~~!!!!!!!」


胸に飛び込んで来た改人を抱き留めて、あたし達は歓喜の声を上げた。


「アネリルスさん! ありがとうございます! あなたのお陰で希望が見えました!」

「よせやい。アタシは事実を述べただけだよ」

「それでも嬉しいです! ありがとうございます!」

「っ! ま、まぁ、感謝は受け取っておくよ」


アネリルスは素っ気ない態度を取ったけど、耳が先っちょまで真っ赤になっている。コイツやっぱツンデレだな。


それにしても、魔神ってのは皆個性が強烈で、大罪(ギルティ)持ちで強いけど、悪い人達じゃあ無さそうだ。あたしの印象としては、こんな所に閉じ込められる謂れのある人はいない。しかもこの魔神達、それぞれ約2万ずつ配下を抱えてるみたいなんだ。もちろんその人達も、クラヴィアの手で幽閉された過去を持ってる。つまりは全部で14万人の人達が、ここに閉じ込められてた訳だ。


「全部で14万人。クラヴィアめ、こんなに沢山の人達を………!」

「異世界から召喚された人間達を含めればもっとだよ。しかもその中で生きてんのは、もうアンタ達2人だけ。他の人達はユガエルに返り討ちにされたり、本来の迷宮モンスターにやられたり、後は………どっかのバカに憂さ晴らしで殺されたり」


アネリルスがキッと睨んだ先で、フォルとルーンが気まずそうに顔を背けた。聞けばこの2人、手当たり次第に異世界人を見つけては、アネリルスに無断で憂さ晴らしに殺して回ってたんだって。んで、今回それがアネリルスにバレて、半殺しにされたんだと。まぁ、因果応報ってやつだよね。いや寧ろ、それでも足りないくらいだと思うけど、今更変えられない過去を蒸し返してもしょうがないからね。アネリルスも、罪を許す事は出来ないけど、2人とはこれからも仲間として接していくって言ってたし、取り敢えずこの話は一旦ここまでって事にした。


「ともかく、ここに投獄された奴らは、これで全員。それで、どう? 脱出の目途は立った?」

「もちのろん♪」


迷宮核(ダンジョンコア)を発見した時から、あたしは『並列思考』で増やした思考で迷宮核(ダンジョンコア)を調べ続けてた。お陰で、ここから脱出する方法が分かった。


迷宮核(ダンジョンコア)には、迷宮(ダンジョン)の設計図が記録されていて、その設計図通りに迷宮(ダンジョン)を構成している。調べた所、最初にフォルが言っていた通り、この迷宮(ダンジョン)に出口は最初から用意されていなかった。なら、その設計図を描き換えて出口を作る事が出来れば、この監獄から脱出できる!


「問題は、どうやって書き換えるか………」

「お姉ちゃんがこれを収納しちゃえば良いんじゃない?」

「あ、そっか!」


厄災箱(パンドラボックス)】に仕舞った物は、文字通りあたしの自由自在。確かに、迷宮核(ダンジョンコア)を収納するのが一番手っ取り早い。


「そうと分かれば早速――――」

「ちょっと待って!」

「どうしたのアネリルス?」

「アタシ達はここへ投獄された時、クラヴィアの手で魂を迷宮核(ダンジョンコア)に縛り付けられたんだ」

「それが、どうかしたの?」

「今のアタシらは、迷宮核(ダンジョンコア)と一心同体。迷宮核(ダンジョンコア)がこの世界から消失したら、アタシら死んじゃうんだよ」

「「えっ!!?」」

「アンタが収納したら、迷宮核(ダンジョンコア)はこの世界から消えちゃうでしょ? そうなったら、アタシら皆消滅しちゃう」


じゃあ収納できないじゃん! クラヴィアめ、余計な事を!

――――そう憤ってたら、アネリルスがビックリするお願いをしてきた。


「だから、収納するならアタシらも一緒にして。そうすれば問題なく、迷宮核(ダンジョンコア)を収納してここから出られるでしょ?」

「え? それ、皆としては良いの?」

「アタシは平気。それに、どの道他の方法なんて無いんだから」


アネリルスがそう言うと、ガブアが待ったを掛けて来た。


「ねーちゃん。そもそも、収納ってどういう事?」

「あ、それはね――――」


アネリルスは6人の魔神とその配下の皆に、あたしの『厄災収納』の事を簡単に説明した。話を聞いて、皆は渋々と言った様子で了承してくれた。そりゃあそうだよね。他に方法が無いとは言え、出会ったばかりの奴が知らない能力で作った空間に入るのは、嫌だよね。


「あ、因みに改人くん。君も一緒に入るからね」

「そっか! 僕もここの ”迷宮皇” にされてましたもんね」

「いや、改人なら縛りを消し去るくらい出来るでしょ?」

迷宮核(ダンジョンコア)迷宮(ダンジョン)モンスターとして登録された奴はね、例え権能を使っても迷宮核(ダンジョンコア)に対する一切の干渉が出来ないんだよ」

「マジ? じゃあ改人も一緒に入ってもらうしかないか………」


正直、弟や仲間に手を上げるみたいで凄く気が引ける。けどこうなったら、なる早でやるしかない!


「そんじゃ、いっちょやりますか。皆! 早速で申し訳ないけど、覚悟は良い?」

『応!!』

「オッケー、それなら………神域描画 ”暗闇ノ門(ダークネス・ゲート)”!」


ユガエルに止めを刺した ”暗闇ノ門(ダークネス・ゲート)” を展開して、あたしは迷宮核(ダンジョンコア)と、あたし以外の全員を一気に収納した。部屋の広さが元に戻って、あたしはまたポツンと1人残された。と、同時に、迷宮(ダンジョン)が大きく揺れ始めた。


「しまった! 迷宮核(ダンジョンコア)を仕舞ったから、迷宮(ダンジョン)が維持できなくなったんだ!」


慌ててあたしは迷宮核(ダンジョンコア)の ”複製厄災(クローン・カラミティ)” を作って、それを迷宮核(ダンジョンコア)の代わりにした。迷宮(ダンジョン)の揺れはすぐに治まって、また静寂が空間を満たした。

――――でも今のあたしは、1人だけど、1人じゃない。


《皆? 聞こえる?》

《バッチリ!!》

《オッケーだよ!》

《聞こえてるぞ》

《大丈夫ですわ!》


厄災箱(パンドラボックス)】の中に向かって語り掛けてみると、皆から返事が来た。良かった! 皆無事みたいだ!


《取り敢えず、皆無事で良かった! これから設計図を描き換えるから、もう少しだけ待っててね》

《了解!!》


皆の返事を受けて、あたしは早速設計図に触れてみる。思った通り収納した迷宮核(ダンジョンコア)は、あたしの思い通りに動かせるようになっていた。1分も掛からずに、この最下層に外へと通じる門を作る事が出来た。ついでに、アネリルスや改人を初めとした、迷宮核(ダンジョンコア)に縛られた人達の解放も完了した。


《そう言えばアネリルス、この監獄の外って、クラヴィアが支配する世界なんだよね》

《うん。クラヴィアが唯一、自ら支配している世界。アンタの親友も間違いなくそこにいる筈》

《って事は、ここからが本番か………!!》


改めて考えると、緊張する。ここから先はクラヴィアの支配領域。そもそも、扉の先がどんな場所かも分からない。下手をすれば、潜った瞬間即戦闘なんて展開になっても不思議じゃない。でも、立ち止まるなんて選択肢は無い。


《行こう!!》


あたしは覚悟を決めて門を潜った。監獄に飛ばされて4日、あたしは漸く釈放されて、監獄の外に出る事が出来た。



*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*



(第三者視点)


場所は大きく変わり、ここは、一華達が呼び出された白い部屋。

この日クラヴィアは、その白い部屋で唖然としていた。理由はただ1つ。追放した筈の一華が、とんでもなく強大な存在となって、自分の世界に侵入して来たからだ。


突如として ”終末地獄(アビス)” と自分の世界の間に門が作られ、何かが ”終末地獄(アビス)” から出て来た事を敏感に察知したクラヴィアは、空中にモニターを作り出し、何かが出て来た場所をモニターに映す。そこに映ったのは、クラヴィアが追放した筈の一華の姿だった。しかも今の一華の力は、最早以前とは別物だった。正しく神と言って差し支えない。あまりの事態にクラヴィアは驚愕し、言葉が出なくなっていたのだ。


「嘘でしょ? あの ”終末地獄(アビス)” から脱出するなんて………!」


終末地獄(アビス)” は、クラヴィアが手塩に掛けて作った出口なき監獄。迷宮核(ダンジョンコア)も最強の手駒によって守られ、実質脱出は不可能。不老の神が老衰を渇望する程の、完全完璧な地獄。

――――その筈だった。しかし、一華はその地獄を見事に脱出してみせたのだ。驚愕するなと言う方が、無理な話である。


(いったい何がどうなってるの!? 万が一にも生き残る事が無いように、一番戦い慣れてるアネリルスのいる階層に飛ばしてやったのに! この世界に来たばかりの人間が、いったいどうやってアネリルスを!? しかも、いくら最下層の一歩手前に飛ばしたとは言え、こんな短時間で最下層に辿り着いて、さらにはユガエルを倒して迷宮核(ダンジョンコア)まで手に入れるなんて! どうやったら10分足らずでこんな――――あぁ、違ったわね。確かあそこは100倍速で時間を流してるから、4日ぐらいかしら? って、どの道おかしい事には変わらないじゃない! ほんとに、何をどうやったのよ!?)


ひとしきり心の中で自問自答を終えたクラヴィアは、一旦一呼吸置いて冷静になると、一華を映し出したモニターを睨みつける。


「………やはり私の勘は正しかった。戦場一華。あなたのギフトは危険すぎる。この世界にとって害悪になりかねない。こうなったら、この私自ら降臨して――――」

「緊急事態発生! 緊急事態発生!」


突然、白い部屋に機械音声の警報が鳴り響き、モニターの映像が強制的に変わる。


「あぁ、もう! 何なのよ!? これ以上の緊急事態って、いったい何が――――」


クラヴィアの台詞が途切れる。モニターには、とある洞窟の映像が映し出されていた。洞窟の奥には円と六芒星、そして魔術文字が描かれた扉があって、その扉の奥から画面越しでも分かる程禍々しい気配が漏れ出していた。クラヴィアは、一華が映し出された時以上にモニターを凝視すると、顔を真っ青にしてガタガタと震え始めた。


「そんな……どうして!? 何で封印が解けかけてるのよ!? まだ後数百年は持つ筈なのに!」


大いに取り乱すクラヴィアだったが、そんな場合ではないと気持ちを入れ替えて、すぐに対応に動き出す。


「奴らの好きにはさせない! はぁぁぁぁぁ!!!」


クラヴィアは力を解放し、扉に施された封印を強化する為、モニターを介して扉に力を送り始める。しかし、どうやら封印を維持する術式そのものが破損しているらしく、力を送るだけでは封印を維持する事は不可能だった。


「くっ、このままじゃ………! ノクスエル!」

「ここに!」


クラヴィアの呼び掛けに応じて、1人の天神が姿を現し、クラヴィアに向かって跪く。


「単刀直入に言うわ。例の封印が解けそうになってる」

「っ!! 真ですか!?」

「えぇ。場所はイゴール王国の王都近く。既に封印の強化を始めてるけど、このままじゃ破られるのは時間の問題だわ! 今すぐ私の名前で、イゴール王国に神殿騎士団を向かわせるよう、各地の神殿、教会に神託を下しなさい! 特に、封印の術式を描ける者は、1人残らず連れて来るのよ!」

「はっ!」


ノクスエルの姿がその場から消失すると、クラヴィアは再びモニターに向き直り、映し出された扉を睨みつける。


「あの人が守り抜いたこの世界を、否、数多の世界達を、再び穢すような事はこの私が許さない! 例えどれだけの犠牲を払っても、貴様らは必ず、この私が滅してやる!」


そう叫ぶクラヴィアの顔には、強い覚悟が滲み出ていた。そしてこの騒動がきっかけで、クラヴィアは一華が引き連れて来た者達の存在に、一切気付かなかった。


これにて、第1章完結です!

次回より、いよいよ第2章が始まります。

皆様、引き続き本作を、よろしくお願いします!

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