第14話 神域描画
「ちっ、多勢に無勢か! ”場所の否定”!」
ユガエルがその場から消失した。まーたどっかに転移したな? でも、”空間境界” と比べて飛べる距離は短い。すぐ近くにいる筈!
「―――っ! ルーン! 後ろ!」
「っ!!」
ルーンの背後から凄まじい殺気を感じたと思った途端、そこにユガエルが姿を現した。
「ハァッ!」
「ぬぉっ!?」
ルーンが双剣を振り抜いて、ユガエルの剣撃を弾いた。ユガエルは心底驚いた表情をしてる。奇襲がバレてたのが驚きだったみたいだけど、あんなに殺気が駄々漏れじゃあ居場所を教えてるようなものだ。分かってれば対応は難しくない。
「お返しっす! ”十文字斬”!!」
「グハッ!」
お、ルーンの最終奥義が決まった! ユガエルのお腹が十文字に切り裂かれて―――って、待って! それだと改人くんが!
《気にしないで! このくらい平気だから!》
《でも……!》
《下手に手加減なんてしたら、皆やられちゃうよ! 大丈夫。【境界】で一時的に、肉体と魂を存在ごと切り離してあるから。例え肉体が完全に消えても、僕は死なない。だから、気にしないで!》
《……分かった! なるべく早く終わらせるからね!》
「……! おんどりゃぁぁぁぁぁ!」
「っ!?」
ここでユガエルがスヴェルを構える。「何で盾?」と思ってたら、スヴェルから闇が生み出されて、その闇が幾多もの巨大な触手になってルーンに襲い掛かる。
「うぉ!? 何すかこれ!?」
驚きつつも、ルーンは迫り来る触手に双剣で対応する。対応自体はそう難しくない。けど触手の数は軽く100を越えてる。当然その全てがルーンを狙う筈も無く、余った触手があたしらに襲い掛かってきた。
「あの見るからにヤバい剣ならともかく、こんな触手ごときで我々がやられるとでも?」
「ぬるい」
「全くだな」
「ちょ、先輩方! 余裕あるなら手伝って欲しいっすよ!」
一番多く触手を相手してるルーン以外は皆余裕で対応してる。そりゃそうだよね。今の皆には ”厄災兵器” があるんだもん。神話級1つの力で、攻め切れる訳が無い。
でも、それはユガエルだって気付いてるはず。神話級の力でゴリ押す事なんか出来ないって分かってる筈なのに、どうしてこんな手を? 何か嫌な予感がする。
《ねぇ、一華。嫌な予感がしない?》
《アネリルスもそう思う?》
《うん。何て言うか、知らない所で何か進んでるような?》
《知らない所……っ!》
周りを良く見てみると、いつの間にか部屋全体を覆うように、半透明な膜が張られている。さっき ”神滅炎獄斬” を防いだのと同じ膜だ。【境界】の力で作った結界に間違いない。しかもこの結界、【歪曲改変】まで付与されてる。効果は敵対者の『健康』の否定。本来ギフトの【歪曲改変】の力はあたしらには効かないけど、権能を通して発動してるならその効果も権能の力として発動する。そうなったらあたし以外、誰も動けなくなる。この部屋全体を結界で覆う為に、触手で時間稼ぎしてたわけか。
「そういう事なら、【滅界光】!」
”白桜” の穂先から白い光線が飛び出して、結界に命中した。いくら【境界】が強くても、権能の力じゃ創世級には対抗できない。これで結界は消滅して―――あり?
「無駄な足掻きを」
結界には大穴が開いていたけど、それだけ。結界そのものは消滅しなかった。その上、結界はみるみる内に修復されていく。おかしいな? 創世級の攻撃を諸に受けたら、普通なら消滅するはずなのに。
《……はは~ん。さては、エクスカリバーを使ってるな?》
エクスカリバーを改めて鑑定すると、結界の起点として使われてる事が分かった。エクスカリバーと【境界】の同時使用、その相乗効果で防御を高めてるみたいだ。
《それならこっちも!》
今度は ”白桜” に『闘魂励起』を付与して、【滅界光】をぶっ放してみる。『闘魂励起』が【滅界光】の威力を底上げしてくれたお陰で、今度こそ結界は存在ごと消滅した。
「ちっ! 貴様、権能持ちであったか!」
「【境界】と比べたら大した事ないよ」
「抜かせ! 我の【境界】と、エクスカリバーのコンボを打ち破っておいて、よくもそんな戯言を!」
「………お前のじゃないだろ」
「? 何か言ったか?」
「別、に!!」
こっちが改人くんの存在に気付いてるとバレたら面倒だ。だから、あたしは気付いてないフリをする。ついでに ”白桜” を突き出して、穂先から白い光の刃をユガエル目掛けて飛ばしてやった。
「くっ!」
流石に真正面からの攻撃だったのもあって、ユガエルは即座に反応する。光の刃はエクスカリバーに弾かれて、壁の一部を貫くに留まった。けどその隙にアネリルス達がユガエルに接近して、取り囲むように配置につく事が出来た。
《皆! 足止めお願いね!》
《了解!》
アネリルス達の猛攻が始まる。その隙にあたしは、新しい術の準備を始めた。ユガエルは目敏く気付いたみたいですぐに邪魔をしに来たけど、アネリルス達が食い止めてくれた。
「邪魔立てするな雑魚共がぁ!!!!」
「そっちこそ、”元帥閣下” の邪魔をしないでもらえる?」
やだなぁ、”元帥閣下” だなんて。照れるじゃん(≧∇≦)。
ま、それは置いといて、いくらユガエルが【境界】を一部使えるとは言え、こっちは5対1だ。それに ”厄災兵器” だって柔じゃない。そう簡単にやられたりしないさ。今は皆を信じて、あたしはあたしのやるべき事をやろう。
もうちょいだ、もうちょい…………出来た!
「行くよ、はぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
あたしは気合いを入れて ”白桜” を縦に構えて、そこを起点にして術を発動する。すると、”白桜” が黒く光って、黒い球体があたしらを包むと、部屋を覆い尽くす勢いでどんどん膨張していく。
「な、何だ? 何が起こっている!?」
ユガエルの疑問を無視して、黒い球体はあっと言う間に部屋全体に広がる。あたしらは皆仲良くその中に取り込まれたわけだ。
「……? 見た目が変わっただけか?」
「いいや? 分かんないなら、何かやってみれば?」
「ならば、”空間断裂”!」
あたしに向かって、指で線を引くユガエル。今のは指で線を引いた線上の空間を切り裂く技らしいけど………何も起きない。
「っ!? な、ならば、”守護結界”! ………っ!? ”魔剣召喚”! ………!!」
何をやっても発動しない。真っ黒な空間に、ただ虚しくユガエルの声が響くだけだった。
「な、何故だ!? 何故何も発動しない!? さては、この黒い空間のせいか!?」
「ま、そういう事。もう詰みだよ、あんたは」
これが、あたしがずっと準備してた事。一定範囲内に自身の権能の世界を描き出す、あたしなりの権能の奥義だ。
《こ、これはまさか、”神域描画”!?》
《嘘でしょ? 神々の中でも一握りの天才にしか使えない、あの ”神域描画” をこの子が!?》
《凄い! 凄いよ一華! あの人の奥義を使うなんて!》
………他にも使う奴いるんかい。
ま、良いけど。
《やっぱ、あたしの勘は間違って無かったね》
ずっと気になってたんだ。
神話級や創世級の武具は、世界の中に世界を描き出したり、ゼロから世界を作る事が出来るって話だけど、どれも普通に炎や光を生み出したり、結界を張ったりしてるだけで、世界を作ってるようには見えない。ならどうして、世界なんて大袈裟な言い方をするんだろう?
考えられる可能性としては、それ自体が世界って事。つまり、単なる炎や光に見えている物が、実は炎の世界だったり、光の世界だったり、そういう感じなんじゃないかな? あたしにも良く分からないけど、それだったら世界を作るとか、領域を広げるとか、そういう常識を飛び越えた力も文字通りだって説明がつく。
んで、そこまで来てあたし、思ったんだよ。もしかしたらこの領域とか世界って、範囲広げられんじゃないかって。
権能と神話級は同格。神話級に自分の理を世界に描き出す力があるなら、恐らく権能も同じ原理で力を使ってる。もっと言えば、権能が描き出された空間を作る事だって出来るかもしれない。権能の力を世界に描き出せば、さっきアイツがそうしようとしたみたいに、この部屋全体を権能の力で満たされた空間に出来る。そうすれば、アイツに対して超有利になる。改人くんの救出も楽勝になるはず!
ってなわけで作ったのが、この黒い空間。描き出したのは【厄災箱】と【戦神】――――と、言いたい所だけど、残念ながら権能の全てを描き出す事は、まだ出来ないみたい。仕方ないから、【厄災箱】の『厄災収納』と、【戦神】の『鑑定眼』『闘魂励起』を描き出して、この空間を作った。でも、正直言って『厄災収納』は余計だったかも。だって、何もしてないのに敵の攻撃がキャンセルされるんだもん。どうなってんのこれ?
《ケラウノス、グングニル。あんた達、この技の事知ってんだよね? ちょっと教えて欲しいんだけど、何でアイツの攻撃全部消えるわけ?》
《これこそ、”神域描画” の真髄よ。良いか? この ”神域描画” はな、元の世界とは全く違う別世界を作り出す絶技。この区切られた世界においては、お主が世界の理そのものなのじゃ》
《故に、あなたが味方と認識した者は強くなり、逆に敵と見なした者は弱くなる。特に敵対者だけど、魔法にスキルと言った特殊な技はもちろん、自分の理を絶対とするギフトや権能すら問答無用で無効化できるのよ。もっと言えば、武具の能力もそうね》
《逆に、己と味方の能力は、その力を最大限引き出す事も出来る。特に描画した能力は、”神域” 内部においては絶対の力となり、格上の能力が無ければ対抗できん》
《ま、権能の上の力なんて持ってる奴、そうそういないけどね》
嘘でしょ? 急に思い付いて使った技が、そんな凄い代物だったなんて。もしもユガエルが使えてたらと思うと、ゾッとする。
《安心せい。あんな小物に使えるような物ではない。それよりも、【境界】は封じて良かったのか? 例の少年がユガエルに抗えていたのは、その【境界】のお陰だろう?》
《心配無いよ。あたしは改人くんを味方だと思ってるし、彼の方は影響無いよ》
《どういう事だ?》
《さっき、やっと【境界】の鑑定が終わって分かったんだけど、彼、本当は奪われてたんだよ、【境界】を。もっと正確に言えば、【境界】の統合能力をね》
この ”神域” に『鑑定眼』を混ぜておいたお陰で、【境界】の全貌がようやく分かった。
・権能【境界】
統合能力【境界創造・境界破壊・境界反転・概念境界】
『境界創造』と『境界破壊』は文字通り、結界や壁とかの境界を創ったり、破壊したりする能力。『境界反転』も、さっきユガエルが言った以上の情報は無い。重要なのは、一番最後の『概念境界』だ。
・『概念境界』
………「生」と「死」、「幻」と「現実」、「自身」と「他者」と言った、
概念上の境界を支配できる。
例えば、さっきの ”抹消境界”。あれは『在』と『無』の境界を操って、あたしの生み出した黒い靄を消した訳。ユガエルに未だ完全支配されていないのも、『自分』と『他者』の境界を存在ごと固定してるお陰だ。そんな事が可能なんだから、上手く使えば存在を認識した途端に、相手を消し去る事だって出来るはず。ユガエルがそれをやらないのは、改人くんがこの統合能力の権限を必死に守り続けているからだ。
他の3つの統合能力は、使用権限をユガエルに奪われてしまっている。普段は改人くんが【境界】ごと自分を封印しているお陰で、ユガエルは【歪曲改変】しか使えない。けど、一度改人くんが目覚めたら、それと同時に【境界】も目覚めて、ユガエルは使用権限を奪った3つの統合能力を使えるようになる。目覚めるきっかけはいつも、自分が殺されるかもしれないという死の恐怖。ユガエルがこの部屋に入って来た人全員に喧嘩を売ってた事を考えると、死の恐怖はいつ訪れてもおかしくない。もしその時、ユガエルが【境界】の全てを使えたら大変な事になる。だから改人くんは、最後に残った1つ―――【境界】の中でも最強の統合能力『概念境界』の権限だけは奪われないよう、ずっと守り続けてきたんだ。
《ユガエルは敵認定してても、改人くんは味方だと認識してたお陰で、『概念境界』だけは対象外になったみたい。他3つの統合能力は使えなくなってるけどね》
《成程な。そして今、ユガエルは全ての力を封じられた。と言う事は……》
《えぇ、袋のネズミね。後は煮ようが焼こうが、どうとでも出来るわ》
《んじゃ、早速ユガエルを引きずり出すとしますか。”暗闇ノ門”!》
改人くんを助ける為、あたしは今の ”神域” 専用に作った技を発動する。”暗闇ノ門” ―――な~んて言ってるけど大した事は無い。単に『厄災収納』、『鑑定眼』、『闘魂励起』を同時に発動しただけ。でもこれで、ユガエルはもうおしまいだ。
相手の存在を『鑑定眼』で捕捉して、この ”神域” に吸収する。見ての通り、すっごくシンプルな技だけど、それ故に強い。能力が封じられているお陰で防御も不可能。この ”神域” においては最強の一手だ。
「ぬあ!? な、何だ!? 引き抜かれる……! ぐぁっ!!」
今まで聞いた事の無い声が聞こえて来て、改人くんの背中から人型の何かが引きずり出されて来た。その直後、改人くんの体から一気に力が抜けて、そのまま落下し始めた。
「改人くん!」
全力で追いかけて、あたしは改人くんを捕まえる事が出来た。まさか、誰かにしてもらう前に、自分がお姫様抱っこをやる事になるとはね。
「い、一華、さん……?」
「うん。もう大丈夫だよ」
「そっか……」
そう言って笑うと、改人くんは意識を失った。こりゃあ、しばらく目覚めないね。まぁでも、改人くんは無事に助けられたし、後はゴミ処理だね。
「か、体が消えていく……! やめろ! 小娘ぇ! 今すぐこの技を止めろぉ!!」
今まさに、ユガエルは塵となって ”神域” に飲み込まれようとしている。
始めて見た本来のユガエルは、声も見た目もおっさんで、頭は剥げ散らかしてて、顎に髭を蓄えてる。目は落ち窪んでて服はヨレヨレ。何て言うか、ネットで手当たり次第に誹謗中傷のコメント書いてる人みたい。……これ本当にユガエル?
「これが、ユガエルの正体……?」
「ただのおじさんじゃないっすか」
『うんうん』
アネリルス達も凄い混乱してるのが分かる。まぁ、無理も無いでしょ。こんな、如何にも小物って感じのおっさんが、”怪物” とまで呼ばれた奴の正体だったんだから。
「技を止めろって? 止めるわけ無いだろ。あたし言ったよね? 殺すって」
「こ、この……! に、人間の分際で……!!」
「あぁ、言い忘れてたけど、あたしも神様だから」
「戯言を。貴様のような神が居てたまるか!」
「それはこっちの台詞だっつーの。せっかくだし、最期に見せてあげるよ。あたしの力ってやつを」
あたしは半透明の板を作って、そこに自分の力を表にして纏めて見せた。
「そんな……! ”魔王之器” に加えて、権能が5つだと……!? こんな、こんな奴が……!?」
「【境界】が動き始めてからはちょっと大変だったけどね。あ、それと、あんたが奪った【境界】の使用権限、全部彼に返したから」
「な、何だと!? 一体どうやって!?」
「【境界】の力だよ」
「……は?」
「あたし、一度見れば他人の能力も使えるようになるんだよ。改人くんの【境界】も見せてもらった。お陰で、あんたの持つ『力の全て』と、あんたの『存在』の境界を操って、あんたから力を分離するのも簡単だったよ」
ついでに言えば【歪曲改変】も使えるし、ほんと『武芸百般』様々だよ。
「……ちょっと待て。貴様今、『力の全て』と言ったのか?」
「うん。で?」
「まさか、【歪曲改変】もか!?」
「だから、全部だよ。権能にギフト、レベル、種族、その他諸々全部改人くんにあげたから。今のあんたは、”ユガエル” って名前だけが残った、ただの生霊だね」
「なっ、何だとぉ!!!?」
「散々人から奪って来たんだから、最期くらい何か人にプレゼントしなよ」
【境界】はこういう所でも役に立つ。お陰でユガエルの ”存在” と魂、体だけを抽出して改人くんから分離させる事が出来た。後はユガエルの力を改人くんに融合させて残りを1つに束ねれば、完全に無力な存在としてユガエルを分離できる。
「神たる我が、下等種族に奉仕だと? ふざけるな! この世の全ては我ら神の所有物。奉仕というなら、やるべきは下等種族の方であろう! 使い捨ての道具の分際で生意気な!!」
「………………!!!!!」
怒りが限界突破して、何も言えなくなった。そっか。そうだったんだ。コイツは、あたしらとは根本的に考え方が違うんだ。コイツには人が物に見えてるんだ。だから肉体を乗っ取って無理矢理動かしても、それで憑依された人がどれだけ苦しんでも、何の罪の意識も無い。いや、罪だって自覚すらない! どれだけ罪を追求した所で、コイツを反省させる事は出来ないんだ……!
「そんな事より、さっさとこの術を止めろ! そしてそれを返せ! それは我の物だ!」
「………もう良い。【厄災箱】、遠慮は要らない。消し去れ」
「っ!? ぐぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
ユガエルがさっきよりも激しく苦しみ出す。『厄災収納』には、”飲み込んだ厄災を自動的に封印する” って便利機能があんだけど、それを解除してやったんだ。するとどうなるか? 飲み込まれた途端に消滅するんだよ。こんな奴を持ち運ぶなんて、まっぴらごめんだからね。
「た、頼む! 命だけは許してくれ! お前の事も、その雑魚共の事も許してやる! そ、それとも、欲しい物でもあるのか!? エクスカリバーも、スヴェルも、我が傀儡も、全部くれてやる! だから、命だけは! 助けてくれ!」
本能的に死を察したのか、急に命乞いをしてきた。コイツ……自分は散々好き勝手殺しておいて、自分は助かりたいたって? どこまでも人の神経を逆撫でする奴だ!
「お前にはもうウンザリだ。黙って地獄に行け!」
力を奪ったとしても、コイツは存在するだけで他者を不幸にする。これ以上、コイツの被害者を増やしちゃいけない!
「消えろ! ユガエル!」
「ぎぃやぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
凄まじい断末魔を上げて、ユガエルは塵になって消えた。忌々しいゴミクズは消え去った。同時に、あたしは人生で初めて、人を殺した。
《悔いるでないぞ? 戦場では、下手に情けを掛けた者は死ぬ》
《分かってる。それでも……改人くんに見られなくて良かった》
1000年。下手をするともっと長い間、改人くんは人が殺される所を見続けてきたんだ。そんな彼に、また殺人現場を見せるのは酷だと思ってたから、寝てくれたのは幸いだった。
改人くんは今もスヤスヤと眠っている。なんせ1000年ぶりの休息だからね。ここは大人しく、自然に起きるまで一緒にいてあげよう。




