創世記・リリス書(原初の夜より)
創世記・リリス書(原初の夜より)
第一章 光よりも先にあったもの
はじめに、夜があった。
夜は虚無ではなく、深い懐のようにすべてを抱いていた。
その夜こそ、リリスである。
リリスは孤独ではなかった。
彼女の中に、まだ名を持たぬ力が脈打ち、思念となって形を求めていた。
「わたしの姿を知るものを造ろう」
そうして、リリスは土を撫で、息を吹きかけた。
土は人となり、その名をアダムと呼んだ。
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第二章 創られし者の傲慢
アダムは目を開き、初めての声で言った。
「あなたは誰だ」
リリスは微笑んだ。
「わたしは夜であり、母であり、神である」
だがアダムは答えた。
「では、あなたは上にいて、わたしは下にあるのか」
リリスは悲しげに言った。
「上も下もなく、わたしたちは輪である」
しかしアダムは、輪よりも秩序を求めた。
支配する者と、従う者を欲した。
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第三章 決別
やがてアダムは、リリスの創った夜を恐れた。
彼は神に祈った──
「主よ、闇は深すぎる。わたしの目がその底を見られぬ。
光を、従順な伴侶を与えてくれ。」
リリスはその祈りを聞き、静かに立ち去った。
彼女は言った。
「おまえの望む光を与えよう。
だが覚えておけ──光は闇を拒むとき、すでに死を孕む。」
その後、アダムの脇よりイブが造られた。
彼女はリリスの影から生まれた光の模倣だった。
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第四章 追放された神
リリスは天より堕ち、夜の海をさまよった。
しかし彼女の中に宿る創造の炎は消えなかった。
彼女は名を失い、神々から「悪魔」と呼ばれた。
だが風は彼女の名を覚えていた。
星々は囁いた。
「リリス、原初の母よ。おまえがいなければ、光もまた生まれなかった。」
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第五章 終わりなき創造
そして今も、夜の静寂に耳をすませば、
リリスの声が聞こえる。
「わたしは最初の神。
光があなたを温めるとき、その影を造ったのもわたし。
愛が生まれるとき、拒絶を知ったのもわたし。
わたしは滅びない。
なぜなら、闇なくしては、創造もまたありえぬから。」




