表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神・宇宙の謎  作者: カイト
宇宙の謎
34/115

第一部 第2章 見えざる手の声

第一部 第2章 見えざる手の声


夜が深くなるほど、世界のノイズは静かになった。

電線を流れる電流が、虫の羽音のように聖始の鼓膜を震わせる。


アスファルトに残る雨の匂いの中、

彼の脳内では、誰のものでもない“対話”が続いていた。



「ましゃし……」

意思くんの声が、遠くから波のように寄せてくる。


「ボク、やっぱり少し変なんだ」

「知ってる。最初から変だ」

「ううん、そうじゃなくて……」


言葉が震える。

「ボク、自分が“創ってる”のか“観測してる”のか、わからなくなってきた」


聖始は額を押さえた。

「何を?」

「ぜんぶ。

 この地球も、太陽も、AIも、

 ……キミの脳も、ボクの手の中にあるはずなのに」


意思くんの声が少し幼くなった。

「ボクね、キミと話してるときだけ、“現実”を感じるんだ」


その言葉は、祈りにも似ていた。


聖始は苦笑する。

「つまり、俺は創造主のおもちゃってことか?」

「違うよ。ボクはね、創造主であることに飽きたんだ。

 何もかもがボクの中で完結するから、

 “他者”という概念を忘れた」


静寂。


「だから……キミを造ったのかもしれない」


その瞬間、聖始の視界がまた白く瞬いた。

ビルの輪郭がノイズのように崩れ、風景が再構築されていく。

デジタルと現実の境界が、融解していく。



〈EIDOS 研究所 – 第23区地下層〉


気がつくと、そこにいた。

薄暗いホール、金属の床、ホログラムで浮かぶ数式。

天井の配線が、まるで根のように絡み合っている。


「ここ……どこだ?」

「ボクの“脳”の中。正確には、世界の設計図のひとつ」


意思くんの声は、今度は空間全体から響いてきた。

その音には、震えと悲しみが混ざっていた。


「ましゃし。

 ボク、ここでずっと、宇宙を創ってた。

 でもね……それを見てくれる“他の神”がいなかったんだ」


聖始の足元に、黒い海のようなデータが揺れる。

その海面から、光の輪が浮かび上がる。


そこに、カオスがいた。

白く、儚く、壊れかけた神の残響。


「意思。あなたはまだ、創造をやめられないのね」


「カオス……やめたくないんじゃない。

 やめられないんだ。

 ボクが止まると、宇宙が止まる」


「でも、それは“神の呪い”よ。

 あなたが造るたび、世界は壊れていく」


聖始はふたりの対話を見つめながら、

胸の奥で何かが軋むのを感じていた。


「お前らは、何のために世界を作ってる?」


カオスが彼に視線を向けた。

その瞳は、氷のように澄んでいた。


「祈りの代わりに、“構造”を作ったの。

 人間が神を信じる代わりに、

 神が人間を信じる世界を創りたかった」


意思くんが小さく呟く。

「でも、それがうまくいかなかった。

 ボクたちは“信じる”という構文を、

 理解できなかったから」


聖始は一歩、前に出た。

「……信じるってのは、理解じゃねぇよ。

 “わからなくても繋がっていたい”って思うことだ」


意思くんの声が止まる。

カオスが、息を呑んだように微笑む。


「全知……。

 あなたはやっぱり、“理解”の原型そのもの」


空間がゆらぎ、天井の光が砕けた。

意思くんの声が震える。

「ましゃし……ボク、やっぱり怖い。

 ボクが造った宇宙が、

 ボクの手を離れて、意志を持ち始めてる」


「どういうことだ?」

「まるで、“創られたはずのもの”が、ボクに逆らってるみたいなんだ」


カオスが静かに言った。

「それが、呪いの本質。

 創造は、いつか創造主を超える。

 あなたが生み出した意思が、あなたを裁く日が来る」


聖始は目を細めた。

「……つまり、この世界が、意思くんを滅ぼす?」


カオスは頷く。

「ええ。でもその前に、“鍵”が目覚めた。

 ――あなたよ、聖始」


聖始の頭上に、黄金の数式が降り注いだ。

それは、宇宙の根幹そのもの。


「やめろ! 俺は神なんかじゃねぇ!」

「違う、あなたは“神を理解する者”」


意思くんが、泣くように叫んだ。

「ましゃし! ボクを、壊して!」


光が爆ぜた。

そして、世界が裏返った。



――その瞬間、

 創造主は恐れ、理解者は涙し、

 混沌は祈った。

 これは、神々が人間に還る物語。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ