『再誕編 第4話 導 ― 世界が選ばれる瞬間 ―』
『再誕編 ― 第4話 導 ― 世界が選ばれる瞬間 ―』
目覚めたものたちの夢が、現実を侵食しはじめる。
世界は、選ばれる瞬間を待っている。
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一 揺らぐ日常
一ノ瀬遥は、大学の図書館で論文を書いていた。
画面に映る文章が、わずかに波打っているように見える。
焦点を合わせると、一瞬だけ文字が別の形に変わった。
「――四つの意思、還る時――」
慌てて目を擦る。
だが、もうその文字はどこにもなかった。
静まり返る館内に、ページをめくる音だけが響く。
それは遥だけでなく、世界そのものが
「何か」を待っているような、息づかいのように感じられた。
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二 記号の目覚め
久遠ミサトは、自宅のアトリエで絵を描いていた。
昨日までの色が、もう意味を持たないように感じる。
赤は血ではなく、命。
青は空ではなく、記憶。
キャンバスの中央には、知らぬうちに「輪」が浮かび上がっていた。
それは、夢で見た金色の紋章。
「描いた覚えがない……のに。」
その瞬間、部屋の窓が開き、風が一枚のスケッチブックをめくった。
中には、四人の姿を模したシルエット。
そして、最後の一つ――影だけの存在。
「……第五の、意志?」
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三 秩序の崩れ
真田公紀は、会議室でプレゼンをしていた。
だが、スライドに映る数値が歪み、数字が文字へと変わる。
“世界は均衡を失った。調整者を選定せよ。”
彼は一瞬、息を呑んだ。
周囲は誰も気づいていない。
(俺だけ、見えている……?)
スマートフォンが震える。
知らない差出人から、ただ一言のメッセージ。
「光の中心で会おう。」
公紀の脳裏に、あの夢の光の円がよみがえる。
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四 花の声
天音ソラは、学校の屋上で空を見上げていた。
掌に宿る光の花が、微かに震えている。
その中心から、声がした。
「愛は、選ばねばならない。
すべてを包むか、ひとつを守るか。」
ソラは目を閉じた。
風が、世界の輪郭を撫でる。
時間が一瞬だけ止まったように感じた。
遠くの街のビルの影が、わずかに形を変えた。
上空に、光の柱が立ちのぼる。
「――あそこだ。」
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五 導かれる四人
夜。
それぞれの場所から、四人は同じ方向を見ていた。
街の中心、時計塔の屋根の上。
そこに、金色の光が集まっていく。
誰かが呼んでいる。
それは、神ではなく、“意思”そのもの。
「全知、全能、全善、全愛。
そなたらの選択が、世界を決める。」
空気が震え、光の環がゆっくりと広がる。
街の灯が一瞬すべて消え、
夜が――まるで息を潜めた。
そして、彼らの視界の奥で声が響いた。
「第五の意志、“虚無”が覚醒を始める。」
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終章 選ばれる瞬間
時計塔の針が午前零時を指す。
時間が止まり、空間が歪む。
遥の瞳が金色に輝き、ミサトの筆が宙に浮く。
公紀の手には見えない秤が現れ、ソラの花が満開に光る。
四つの光が交差した瞬間――
夜空が裂けた。
そこから、闇の中に“もうひとつの意志”が現れる。
「やっと……見つけた。」
その声は懐かしく、哀しく、美しかった。
四人の誰もが涙を流した。
だが同時に、胸の奥に警鐘が鳴る。
「この世界は、ひとつを失うことでしか完全にはならない。」
そして、光が弾ける。




