「再誕編 第1話:出会い」
『再誕編 ― 第1話 導かれし四人 ―』
世界は眠っている。けれど、夢の奥で誰かが目を覚まそうとしている。
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一
東京の夜は、あまりにも明るい。
ビルの灯りが星を追い払い、
人々の声が神の囁きを掻き消している。
だが――この夜だけは違った。
街のどこかで、
四つの灯がふたたび息を吹き返していた。
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二
神楽坂の小さな喫茶店。
哲学者・**一ノ瀬遥**は、古びたノートを前にしていた。
「世界は、なぜ『意味』を欲しがるのだろう。」
彼はそう呟き、書きかけの言葉を見つめる。
意味を知ろうとする衝動。
それが彼の中に眠る全知の記憶だった。
その瞬間、ドアのベルが鳴った。
一人の女性が入ってくる。
大きなキャンバスを背負い、髪に絵の具をつけたまま。
彼女の名は――久遠ミサト(くおん みさと)。
絵を描くために生きる画家。
彼女の瞳の奥では、全能の残光が微かに揺れていた。
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三
ふたりは偶然、同じ席の隣に座る。
ミサトが頼んだのは、ミルクティー。
遥が開いたのは、哲学書。
互いに言葉を交わさない。
ただ、時計の秒針が同じリズムで鳴る。
「何かを……思い出しそうだ。」
「何かを……描きたくなる。」
それぞれの心が、見えない糸で結ばれた。
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四
同じ夜、別の場所。
地下の法廷。
裁判官・**真田公紀**は、
無罪と有罪の間で、震える手を握りしめていた。
「正義は、誰のためにある。」
答えは風に消える。
それでも彼は、判決文にサインした。
その心の奥底で、
全善の律が微かに軋んだ。
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五
夜の公園。
ひとりの女性がベンチに座り、
泣く子を抱いていた。
名前は天音ソラ(あまね そら)。
保育士。誰よりも他人の涙に弱い人。
子をあやすその指先から、
見えない光が零れていた。
それは、全愛の温もり。
「泣いていいの。
泣くことは、愛の始まりだから。」
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六
時刻は、深夜0時。
街全体が、ひと呼吸分だけ静まった。
遥のノートのページが、ひとりでにめくれた。
ミサトの絵の具が、ひとりでに混ざった。
真田のペンが、勝手に動き、
ソラの涙が、光に変わった。
四つの場所で、同じ瞬間に、
同じ言葉が――生まれた。
『始まる。』
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七
それを誰も聞かなかった。
けれど、世界は確かに震えた。
ビルの隙間に風が流れ、
電線が唸り、
月が雲を割った。
そして、空のどこかで。
「目覚めの時が来た。」
古の声が、微かに響いた。
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神はもう一度、歩き出す。
今度は人の姿で。愛を知るために。




