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二つの世界を守る星  作者: maco
第二章 宣戦布告
29/40

3 呉服屋の柳楽

 翌朝、皆何事もなかったかのように朝食を摂っていると、由羅が言った。

「千寿から、桜を鍛冶屋の菊野さんの所へ預けるよう言われている」

 千寿はここで戦士村の人達と合流する算段らしい。

 ここに戦力が集結しつつあるその事実は、決戦が近い事を物語っている。

 それなのに、桜だけ別のお宅でお世話になるという。

「何で私だけ別行動になるの?」

 ここまで来て置いていかれる事に桜は納得できなかった。

 一緒に行こうと手を差し出されたあの日、覚悟を決めたのに。

「もちろんその時がくれば桜も招集する。ただ、事前に情報が漏れたり何か不備があった場合、桜には無関係を装ってここに止まってもらう必要がある」

 由羅の口調から、それが桜を巻き込まないようにするためだと理解できた。

 しかしそう言われても、戦力外通告を受けたようで、素直にはいわかりましたと言う気になれなかった。

 返事をしない桜に構わず由羅は続ける。

「菊野さんは、かつて千寿が禁軍の総大将に抜擢されて、やっかみで色々嫌がらせされてる時に助けてくれた人らしい」

 桜は耳を疑う。

「千寿に…嫌がらせ?」

 驚愕する桜に、雷太が肩をすくめて答える。

「いたんだよ、権力を傘に着てちょっかいかける奴が。無知とは恐ろしいもんだな。まあ嫌がらせしてた奴らはもうここにはいないけどな」

 そう言って、ニヤリと笑う。

(もうここにはいないんだ)

 どこに行ったのか桜はあえて突っ込まなかった。

 ◆◇◆

 宿を出て少し歩けば、街はものすごい賑わいだった。

「桜、はしゃぎ過ぎてはぐれるなよ。いいな、絶対離れるんじゃないぞ」

 フラグのように雷太に凄まれても、はしゃぐ気持ちは止められない。

 町中お祭り騒ぎなのだ。

「ねぇ、あの屋台みたいなのは何?」

 興奮気味に雷太の背中をバシバシ叩くと、雷太が面倒そうに答えた。

「屋台だよ」

「ねぇ、向こうの舞台みたいなのなは何?」

「…舞台だよ」

「ねえ、ねえ、あそこを歩いてる、あの派手な衣装の人達…、あいたたた、痛いっ」

 雷太がグーで桜のこめかみをぐりぐりした。

「はしゃぐなと言っているだろうが」

「しかし、何だこの人の多さは」

 由羅の呟きから、この人混みが普通ではない事がわかる。

 人がどんどん増えていき、ぎゅうぎゅうと押される。

 桜は必死に由羅の服の裾を掴んだ。掴んでは離れ、また必死に掴む。

 そうしているうちに、まだ遠く向こうにだが、明らかに他とは造りの異なる荘厳な建物が見えた。

「ねぇ、あのお城みたいなのって…」

「王城ですよ。指さすのは不敬ですし、そんな顔で城を睨みつけたら誰に何を言われるか知れませんよ」

 桜は知らない声に、キョトンと顔をあげた。

 メガネをかけた優し気な、どこか面白がるような顔と目が合った。

 いつの間にか知らない人の服を掴んでいたようだ。

 そっと掴んだ服から手を離しあたりを見回すと、由羅と雷太がいない。

 再び顔をあげて男を見た。

「私は桜と言います」

「呉服屋の柳楽と申します。桜さん、連れの方と逸れたのですか?」

 おそらく、逸れた。

 桜は急激に心細くなった。この世界にスマホのような連絡手段などない。加えて、どんどん集まる尋常ではない人の多さだ。

「逸れた、みたいです」

 涙が溢れそうなのをグッと堪えた。

「今日は天彾様がお披露目されるとの事で、いつも以上の人なんですよ」

 柳楽の言葉に、桜は涙も忘れてパッと顔を上げた。

「天彾様が?」

「そうです。数日前に天鏡の間に現れたそうですよ」

「…え?」

 足元から力が抜けるようだった。

(本物の天彾が現れた)

 あれだけ自分は天彾ではないと否定していたのに、いざ本物が現れると動揺している自分が恥ずかしかった。

(もし由羅が知ったら…)

 菊野のところに預けられ、何か不備があって撤退した時、天彾でない桜はもう迎えに来て貰えないかもしれない。

 呆然としてると、一人の男が桜にぶつかり舌打ちしながら通り過ぎた。

「じっとしていると邪魔になりますね。移動しながら話しましょう。王都は初めてですか」

 柳楽は、忙しなく行き交う人の中でどこか余裕を感じさせる人だった。歳は二十代半ばくらいだろうか。迷子の桜を放り出す気はないようだ。

「王都は、初めてです。何も、わからないんです」

「連れの方はどこに向かってたんですか?」

「多分、私を鍛冶屋の菊野さんの所へ連れて行ってくれようとしてたんだと思います」

「鍛冶屋の菊野さん?城下町に店を構える鍛冶屋の菊野さんの事ですか?それだったら私が案内できますよ」

 どうやら柳楽の知り合いだった事に安堵する。

「いいんですか?」

「ここらで連れを探し回るのは無理でしょう。先に菊さんのところへ行きましょう」

「でも、連れが私を探してる…かも知れないです」

 断言できないが、探してくれてるだろう。

「ではこうしましょう。ここらの店の者に言伝して、それっぽい人物が来たらあなたが先に菊さんの所へ言ったと伝えてもらうようにしましょう」

「そこまでしてもらうのは…」

 完全に自分の不注意が原因だ。見ず知らずの人にそこまでして貰うのは流石に申し訳なく思えた。

「大丈夫ですよ。子供がそんな気を遣わなくていいんです。私はこんなお祭り騒ぎ見慣れてますし、特に行きたい所がある訳ではないんです。それにあなたがちゃんと連れの方と出会えるのか、菊野さん達とどんな関係か気になりますから」

「子供では…」

 ないと言いかけて口をつぐむ。この人から見れば確かに子供だろう。

「ご迷惑おかけします」

 桜が頭を下げると、柳楽は優しく撫でた後、桜の手を引いた。

「では行きましょうか」

 道中、柳楽は桜の不安を紛らわせるように色々な話をしてくれた。

「桜さんは剣を差してますね。もしかして護衛を目指してるんですか?」

「はい、まだ修行中ですが、仲間から剣術を習ってます」

 千寿とは別行動なので、暫く石礫はお休みだ。

 柳楽はかなりの情報通らしく、様々な話題を振ってくれる。

 王宮内の天鏡の間に一人の少女が現れた事。その少女が試験を経て天彾と正式に認定された事。

「二百年前に書かれた天彾様の日記があるんですが、それが読めるかどうかで本物かどうか判断するらしいですよ。まぁ試験するのは自分達なので結果はいかようにもできるんでしょうけどね」

 柳楽もなかなか不敬ではないかと思った。

「柳楽さんは本物じゃないと思ってるんですか?」

 桜の問いに、柳楽は何も言わず微笑むだけだった。

 店と人がひしめく通りから少し逸れた道を歩くので、ずいぶんと歩きやすかった。

「本通りは天彾見たさに人が押し寄せてますね。桜さんも見てみたいですか」

「ちょっと気になるけど、それより連れと合流出来るかどうかの方が気がかりです」

「ではこのまま裏通りを行きますね。しかし天彾が現れたなんて、王都は荒れるでしょうね」

 それまでとは違う暗い口調に桜は驚いた。

「王都が荒れるんですか?安寧が訪れるんじゃないんですか」

 柳楽の言い方だと、天彾は波乱の元凶のように聞こえる。

「時期が悪過ぎますね。現れるのが遅過ぎたんだと思います。今ではないでしょう」

 飄々としていた柳楽の表情が陰る。

「桜さん、可能ならあなたは早めに王都を出た方がいい」

 何となくの予言ではなく、柳楽は何か確信を持って話している。桜はそう感じた。

 ◆◇◆

 いわゆる日本風や洋風のお城ではない。四角を組み合わせた建物に四角い窓。シンプルだが、その壮大さに圧倒される。

 王城の敷地は広大で、正面以外は周囲を木々に囲まれている。人工のお堀ではなく天然の川が流れていて、城門まで橋が架けられている。

 高い城壁の上から城の上部がのぞいている。

(大きい)

 これだけの王家が市民の後ろ盾ならば、どれだけ心強かっただろう。しかしこの城の主は、この強大な力で市民に牙をむいている。

「王城には三つの橋が架かっていて、西から亀甲門、流星門、月影門と呼ばれています」

 流れる川と王城の位置を見て桜は疑問を口にする。

「川が氾濫したりしないんですか?」

「いい質問ですね」

 柳楽の目つきが鋭くなる。

「大雨が降るとどうなると思います?」

 桜は流れる川の向こう岸を見た。王城は少し小高い場所にある。

「このままだと水が全部こちら側に流れてきそうですけど」

「その通りです」

 柳楽は冷ややかに言う。

「川が氾濫すれば城下は水浸しです。逆に王城は無傷で済みます」

「水浸しって…じゃあ住民だけ避難させて、建物は諦めるんですか?」

「いいえ、まさか」

 柳楽が暗い笑みを浮かべる。

「国王は、建物だけでなく住民の事も諦めます」

 あまりの事実に桜は言葉を失う。

「実際あったんですよ、一年前に。ここらであまり雨が降っていなかったんで、みな油断してました。上流でかなりの降水があったようで一気に増水したんです。国は水が引くまで城門を閉ざし、その間に大勢の方が亡くなりました。うちは別邸を持っていたんでそこに逃げました。でもうちも商品と従業員が入れば目一杯です」

 柳楽が申し訳なさそうに言う。

「それは柳楽さんが何とかする問題じゃないです。国はなぜ何もしなかったんですか?」

「城下が多少壊れて死人が出ても、王城が無事なら復興出来ると考えているんですよ。自分達に被害のないこのやり方が都合がいいんです」

 桜は街を振り返った。一年前に洪水の被害があったとは思えないほどに活気がある。

 確かに復興している。

「でも、死んだ人は元に戻らないです。生活を立て直すにもかなり時間がかかる筈です」

「かつてはちゃんと、堤を築いたり下流の川幅を広げようとしてくれた人もいたんです。ですが今は、王城内にはまともな人がほとんどいなくなりました。頭のおかしな人が、王城に危険が及ぶといって堤を壊す始末です」

 桜は王城を睨む。

 この世界へ来て、何度も疑問に思った。なぜ、この理不尽な世界をみな当然のように受け入れているのか。

 その答えが今目の前にある。

 広大な敷地に巨大な城。そこに到達するまでの堅牢な門と橋。

民の命を粗末に扱う国王とその側近達。

 挑もうとするには、あまりに強大過ぎるのだ。

「もう行きましょうか」

 そう言って柳楽は桜を促す。

「この川のあちら側のまともな人はほとんどいなくなりました。しかしこちら側には正しい判断が出来る人が多くいます。私の周りには虐げられ、奪われ、それ故に人の痛みのわかる人がたくさんいます」

 そう言って、桜の目を見つめる。

「桜さん、あなたもこちら側の人間でしょう?」

 その目に宿る不穏な光に桜は少し竦んでしまう。

「こんなのおかしいと、私も思います」

 小さく答えた桜に、柳楽はそれ以上何も言わなかった。

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