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二つの世界を守る星  作者: maco
第一章 もう一つの世界
24/26

24 組織を統べる力 ー隊長ー

 護衛が二十人と聞いた時にはかなり大袈裟だな、と思ったが、いざ目の当たりにすると納得だった。団員総勢五十人、馬車は五台、自分で騎乗する者も多い。売り上げやら高価な道具やらの事を考えると、護衛二十人でも心許ないくらいだ。

「凄い人数ですね」

 陽也の馬に乗せてもらいながら、近くの護衛の人に声をかけた。雷太班を除いて、狛馬に乗っているのは隊長とこの人だけだった。

「お貴族様お抱えの一座だからな。村に着くたび護衛が数人入れ替わるが、それをあの隊長がよく取りまとめてる。見た目はそんな風に見えないが、大したもんだよ」

 その入れ替えで、今回雷太班が組み込まれたのだ。

「隊長の名前知ってますか?」

「いや、名前聞いたら怒るからな、みんな隊長って呼んでる。でも名前以外は聞いたら何でも教えてくれるぜ。実は王都のいいとこの生まれだとか、後妻がきて実家に居づらいから護衛になったとか」

「苦労人なんですね」

「そうだな、だからなのか、ぶっきらぼうだが情に厚くて、いい人なんだよ。俺もそうだけど、こうして一緒に仕事するとみんな隊長の元で働きたいって思うんだよ。隊長もそういう奴らを放っておけないんだ」

(いい上司なんだな)

 桜は何故か、以前襲われた盗賊の頭領が頭を掠めた。

 ◆◇◆

 つつがなく進み、3日目に差し掛かった昼食時、隊長が桜の隣に座った。

「お前、何か悩みや苦労してることはないか?」

 唐突な質問に、桜は首を傾げた。

「悩んでるように見えましたか?」

 ここ数日は、そんなにわかりやすく落ち込んだ事は無かった気がするが。

「いや、もし護衛の仕事がしたいなら、ウチでも引き取ってやれるからな」

 まさかの引き抜きの話に桜は驚いた。

「私の力が欲しいという事ですか?」

「何でだよ!いや、今の仲間内で苦労してんじゃないかと思ってな。毎日小石ぶつけられたり、あたま殴られたりしてるんだろ」

 千寿の石礫修行は毎日続いているし、昨日は雷太のゲンコツをくらった。

「ああ、あれは修行と教育です」

「修行って…、まぁお前が大丈夫ならいいんだが、辛かったら言えよ。そんな小さなうちから親元離れてキツイだろ」

 そう言って頭を撫でる。小さな、の部分には引っかかったが、とにかく心配されているようなので流す事にした。

「そんなお人好しで良くやってこれましたね」

「お人好しは、まあ血だろうな。母上も困った人は放っておけないタチだった」

 母上、のあたりに育ちの良さを感じた。いいところの出だと言うのは本当なのだろう。

「私みたいなのを見かける度に声かけてたら、やっていけないんじゃないですか」

「俺だって誰かれ構わず声をかけるわけじゃない。お前の手のひら、見せてみろ」

 言われるまま、桜は両手を前に出した。

「それは長年真面目に鍛錬してきたやつの手だ。俺は仕事上いらないと思ったら勧誘もしないし、どんなに腕が良くても切り捨てる。護衛は命懸けだ。真面目に仕事してる仲間に迷惑かける奴はいらないからな」

 桜は隊長の仕事に対する考えにとても共感した。

 ーあの人誰も見捨てられないからー

 ふと、例の盗賊の言葉が思い浮かんだ。

「隊長、もし部下の人数が多くなったらどうするんですか?隊長の元で働きたいっていう人がたくさん出てきたら。こんなに大きな仕事ばっかりじゃないですよね」

 桜の質問に、隊長は目を見開いた。

「お前、なかなか賢いな。まぁそういう問題は確かにある。だから各村に支部を置いたらどうかと思ってる」

「支部?」

「地域に根ざした護衛だよ。よく知らないやつに頼むより顔見知りの方が安心だろ?ある程度地元で人となりを調査できたら、こっちも良くわからん奴を雇う危険が減るしな。まぁそんな試み誰もやった事がないから、うまくいくかはわからんが」

 最後は自嘲気味の隊長だったが、桜にしてみればそれは、とても先進的な考えに思えた。

「すごく、いいと思う!当たりかハズレか賭けみたいに雇うより、ここの護衛は安心だって思えたらみんな頼みやすくなるよ!それに地元民ならより安全な道のとかも知ってるでしょ。雇われる方も自分の家を離れる期間も短くて済むし、村を跨ぐ仕事なら次の支部に引き継げばいい。宿泊や野営の費用も削減出来るし、いい事ばっかりだよ」

 隊長は桜をマジマジとみた。

「お前、小さいのにすげーな。なら仕事がない時はその護衛はどうすればいい?」

「地元の警備とかしたらどう?役所の人間なんてアテにならないでしょ?村長に少しお金出してもらうとか。あとは、道場を開いて護身術を教えるとか」

「ううむ、なるほどな。だがお前、役所が当てにならないとかそんな事大声で言うなよ。しかし護身術の道場はいいかもしれない。地元の道場とはまた別の客層を狙ってな」

「そうそう、女の人でも使える護身術とか。あと護身の道具を売るとか」

「お前はなかなか利口だな!ぜひ、うちに来な!歓迎するぜ!」

 そう言って桜の頭をガシッと掴む。その後ろで、怖い顔の千寿が腕を組んで立っていた。

「冗談はそれくらいにして、そろそろ出発してもらおう」

 ◆◇◆ 

 千寿が脅したせいで、隊長が口を聞いてくれなくなってしまった。桜としては護衛のあり方についてもっと話し合いたい事があったのだが。

 何となく隊長の後ろ姿を眺めていると、腰に、桜の世界で言うキーホルダーのようなものがいくつかぶら下がっている事に気づいた。桜の知っているキャラクターを連想させる物ばかりで、懐かしかった。

(ミッキーにキティちゃん、スヌーピー…)

 一つ一つ確認しながら、桜は不思議な気持ちになった。こんなに似た物がいくつも、偶然存在するのだろうか。隊長の刀にぶら下がっているあれなんて、桜の知っている物そのまんまの色形だ。

「エルモ…」

 思わず口から漏れた言葉に、隊長がビクッと反応する。

「…今なんて言った?」

「隊長のその人形、見た事ある気がして…。それ、隊長が作ったんですか?」

「何でだよ!俺がぬいぐるみなんて作るガラかよ!」

 作っていてもおかしくないと思ったが、桜はあえて指摘しない。

 それより、気になる事があった。

「それ、ぬいぐるみって言うんですか?」

 桜の世界で、ぬいぐるみは日本発祥ではなかった気がする。ここは、桜の生きていた時代よりも何世代か前の文化レベルだ。

「ああ、母上が考案したんだ。母上は旅華(りょか)だったから」

「りょか?りょかって…」

 何ですか、と言う言葉を桜は飲み込んだ。隊長の表情に緊張感が走ったのを見て、口をつぐんだ。

 先頭の千寿が止まるよう指示を出したのだ。

 護衛はみな剣を抜き、隊長は鋭い目つきで周辺を探る。

「来たな。かなりの人数だ。みんな馬車に入ってくれ!」

 前方を塞ぐように現れた盗賊に、桜は見覚えがあった。

「先日痛い目を見たのに、良くまた正面切って現れたものだ。その度胸だけは褒めてやろう」

 先日こちらの狛馬を傷だらけにしたあの一団だ。千寿が相対している。

「あんたらの強さは良くわかってる。だから俺たちも対策を考えた」

 あまり盗賊らしからぬ、品の良さげな頭領の男が言った。

 頭領が何を言っても、桜は負ける気はしなかった。前回は苦戦したが、今回はこの戦力だ。

 しかし…

「全員武器を捨てて貰おうか」

 聞いたことのある声だった。

 前回もあの盗賊団にいたのだ、もちろん今回もいて当然だろう。しかし不思議なことに、こちら側の馬車から声が聞こえた。

 先頭の馬車から団長が出てくる。首元にピタリと刃物を当てているのは阿形だ。

「阿形、お前ぇ!」

 阿形を敵視していた男が怒鳴った。

「そう言うわけだ、全員武器を置け。証録と、金目の物を少し置いて行ってもらうぞ」

 阿形ではない。楽次に刺さった剣を引き抜くのを手伝ってくれた、あの男だ。

「ミギリ…」

「変装や潜入は得意なんだ」

 桜の呟きが聞こえたのか、巳霧が答えた。

 先頭では、千寿と頭領が問答していた。

「お前はいずれ護衛になりたいと聞いたが、金品を要求するなど、堕ちたもんだな」

「こちらも所帯が大きくなって、なりふり構っていられないんだ。言う通りにしてもらったら誰も傷つけるつもりはない。さぁ、全員武器を置いて証録を出して貰おう」

 千寿の問いに、悪びれもせず頭領が答える。

 護衛は全員隊長を見た。隊長は首を振って武器を地面に置いた。皆それに倣う。

「武器は置いた。証録も渡す。我々護衛はどのような仕打ちも受ける覚悟があるが、どうか劇団のもの達に無体はやめてもらいたい」

 落ち着いた態度の隊長を、頭領も静かに見つめていた。

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