欠落葉
*こちらの作品はシナリオ調に書かれております。小説ではございませんが、それでもよろしければご覧ください。
〈教室〉
教師 「じゃあ前回のテスト、返していくぞー」
「岩井~、内海~、奥田・・・」
アオ 「はぁ・・・」
教師 「桂瀬~」
アオ 「だぁああああ・・・」
教師 「桂瀬アオ~、呻いてないで取りに来い」
アオ 「・・・はい」
「うっ」
(思ってたよりも悪い・・・)
〈下校中〉
佐奈 「アオのクラス、今日テスト帰ってきたんでしょ?」
「どうだった?」
アオ 「もう、消えてしまいたいくらい悪いよ・・・」
*アオはテスト用紙をクシャクシャに丸めて、ポケットに突っ込む*
アオ 「佐奈は?」
佐奈 「あはは、私もそんなに良くはないかな~」
アオ 「いっつも、そういって点数いいじゃん」
佐奈 「そうでもないよ」
アオ 「私なんてテストの度にママがお冠だよ~」
「・・・ん?」
佐奈 「どうかした?」
アオ 「いや・・・」
「こんなとこに、神社なんてあったっけ?」
佐奈 「この神社?うん、前からあったよ」
アオ 「へぇ・・・意外と気づかないモンだね」
「いつも通ってる道なのに」
佐奈 「ちょっと入ってみる?」
*うなずくアオ*
〈境内〉
アオ 「枯葉ばっかりでちょっと汚いけど・・・」
佐奈 「中は意外と広いんだね・・・」
*本殿に腰掛ける二人*
アオ 「よっ・・・と」
「ちょうどいいや、少し休憩してこ」
佐奈 「うん」
*二人の間にゆったりとした時間が流れる*
佐奈 「そういえば、パパが言ってた神社ってここかもしれない」
アオ 「言ってた?」
佐奈 「うん、私も今思い出したんだけどね」
「小さい時、神社でお祭りをしたって・・・」
アオ 「佐奈のパパが?」
佐奈 「そう、食べ物とかお酒をお供えしてた、とかなんとか・・・」
アオ 「ふーん・・・それが、こんなことになっちゃったんだ」
*廃れた神社を見渡す二人*
佐奈 「覚えてる人ももういないのかな・・・」
アオ 「・・・」
佐奈 「・・・」
アオ 「じゃあさ、私たちで掃除していこうよ!」
佐奈 「え、掃除?」
アオ 「休憩で使わせてもらう代わりに、ちょっと掃き掃除するの」
「ゴミ箱と箒ならそこにあるし」
*神社の端に放置されたゴミ箱と竹ぼうきを指さすアオ*
佐奈 「うーん・・・」
「そうだね」
アオ 「よし!決まり!」
*二人は広い境内に溜まった枯葉を、掃いたりゴミ箱に運んだりと、掃除する*
~小一時間後~
アオ 「ふぅ、こんなもんかな・・・」
*枯葉が八分目ほどまで押し込まれたゴミ箱を見て満足げなアオ*
佐奈 「結構、きれいになったね」
アオ 「量が量だったけど・・・入るもんなんだね」
「蓋、閉まらなかったらどうしようかとおもったよ」
「あらかた片付いたし、細かいところは明日にしようか」
佐奈 「え、明日も来るの?」
アオ 「うん、掃除しながら考えてたんだけどね」
「ここ、私たちの秘密基地にしよっかなって」
佐奈 「秘密基地?」
アオ 「そ、いいでしょ」
佐奈 「大人の人に怒られない?」
アオ 「大丈夫、木が生い茂ってて外からも見えないし」
「神主さんだっている風じゃないでしょ?」
佐奈 「それは・・・そうだけど・・・」
アオ 「もし、怒られたって、すぐ止めればいいんだから」
アオ 「あ、『怒られる』で思い出した」
佐奈 「?」
*アオはポケットからテスト用紙を取り出す*
*それをゴミ箱に捨ててしまう*
佐奈 「あ!」
アオ 「シーッ!」
佐奈 「いいの?」
アオ 「よくないけど!いいの!」
「大丈夫・・・だと思う・・・多分・・・」
〈帰宅〉
アオ 「ただいまー」
マミ 「おかえり。早かったね」
アオ 「あ、ママいたんだ」
「パパは?」
マミ 「まだ入院中」
「意識が戻ってないんだって」
アオ 「・・・そっか」
マミ 「そういえば、前に言ってたテスト、返ってきた?」
アオ 「んッん・・・」
*言葉を詰まらせるアオ*
マミ 「『どう』だったの?」
*マミに圧をかけられて、青ざめるアオ*
アオ 「な、七〇・・・くらい・・・」
マミ 「七〇? 本当に?」
アオ 「ほ、本当は・・・四〇・・・くらいです、はい」
*思わず、ため息がでるマミ*
マミ 「テスト見せて」
アオ 「へ?」
マミ 「『へ?』じゃない」
アオ 「嘘ついてないよ?」
マミ 「嘘とかじゃなくて、たまには娘の出来も見なくちゃでしょ」
「四〇点なんて尚更」
アオ (うぅ・・・なんで今日に限って・・・)
マミ 「何を間違ってたかで、復習もしなくちゃいけないし」
*説教モードになったマミの小言が続く*
アオ 「え~っと、テストは返ってきたんだけど」
「学校に置いてきちゃったから・・・」
「その、明日!明日見せるから!」
マミ 「・・・アンタ、まさか捨ててないでしょうね?」
アオ 「捨ててないよ」
*つい早口になるアオ*
マミ 「ふーん・・・ま、いいや」
「明日は絶対見せてね」
*アオはそっと胸をなでおろす*
アオ 「じゃ、じゃあ、私部屋に戻るから!」
~次の日~
〈下校中〉
アオ 「ってことが昨日あってさぁ~」
佐奈 「だから言ったのに・・・」
アオ 「今回に限って見せろいわれると思わないじゃん・・・」
佐奈 「今日はちゃんと持って帰るんだよ?」
アオ 「うぅ・・・仕方ないよね・・・」
佐奈 「うん、お腹括りな」
アオ 「今は首を括りたい・・・」
*神社に入っていく二人*
〈境内〉
*ゴミ箱を開けるアオ*
アオ 「これに限っては見たくも・・・ってアレ?」
佐奈 「アオが見たいテストなんてないでしょ」
佐奈 「どうかした?」
アオ 「・・・破れてる」
*アオは半分ほどしか残っていないテスト用紙を持ち上げる*
佐奈 「ん?」
アオ 「これ」
*佐奈にも見せるアオ*
佐奈 「え、点数が悪いからって破いちゃったの?」
アオ 「違う、私じゃない・・・」
佐奈 「じゃあ、自然と?」
アオ 「だと・・・思う・・・」
佐奈 「湿気とか?」
アオ 「ちぎれるほどかなぁ・・・」
「それに、下半分がどこにもない」
佐奈 「本当だ」
アオ 「ま、点数が見えるならいいか」
佐奈 「いいの?」
アオ 「仕方ないし」
*考え込んだり、ゴミ箱の周りを探す二人*
? 「ニャー」
アオ 「お?」
佐奈 「猫だ!」
アオ 「え、どこどこ?」
佐奈 「ほら、あそこ!」
「手水舎のとこ!」
アオ 「アレ、そういう名前なんだ」
佐奈 「今はそこじゃない」
*猫に寄って行く二人*
アオ 「小さいね」
佐奈 「可愛い~」
「親とはぐれちゃったのかな?」
猫 「ニャー」
佐奈 「そうかそうか、よしよし」
「何もしないからおいで~」
猫 「ニャー」
アオ 「思ってたよりも人懐っこいね」
「そうだ、お腹空いてないかな?」
*ランドセルを漁るアオ*
アオ 「コレ、上げる」
佐奈 「給食のパン?」
アオ 「うん、今日休みの人がいたから」
「ほら、ちぎってあげたからお食べ」
*ちぎったパンを猫の前に置くと勢いよく食べ始める*
佐奈 「ほぇ・・・すごい食欲」
「よっぽどお腹空いてたんだね」
アオ 「そんなに慌てなくてもいいのに」
佐奈 「いつも給食持って帰るの?」
アオ 「ん? あぁ・・・パンが余った時だけね」
「ママ、最近は夜いないことが多くてさ」
佐奈 「・・・」
アオ 「その時の晩ご飯にって」
佐奈 「そっか、ウチも親が共働きでさ」
「私が起きてる時間は大抵いないの」
「だから、なんだかアオと同じだね」
アオ 「同じじゃないよ」
*語気の強さに驚く佐奈*
佐奈 「・・・」
アオ 「あ、ごめん・・・つい」
佐奈 「ううん、こっちこそごめんね」
アオ 「・・・ウチのママ、佐奈の家みたいに働いてるとかじゃないんだ」
佐奈 「遊んでるってこと?」
アオ 「多分」
「とってもヤっちゃいけないことも」
佐奈 「・・・ごめんね」
アオ 「大丈夫」
佐奈 「嫌なこと言わせちゃったよね」
アオ 「・・・前は無かったんだけどね」
「お父さん、早く帰ってこないかな」
佐奈 「まだ入院してるの?」
アオ 「みたい」
佐奈 「そっか・・・」
アオ 「お父さんが戻ってきてくれれば、また前みたいに・・・」
「みんな一緒になれるのに・・・」
佐奈 「寂しいんだね、アオは」
アオ 「・・・今はそうでもないよ」
「佐奈がいてくれて、一緒に猫とも遊べる」
「今だけは・・・」
*虚ろな目で、猫を見るアオ*
佐奈 「アオ・・・」
「私も」
アオ 「あはは」
*表情に明るさが戻る二人*
佐奈 「ふふふ」
アオ 「あはは」
*笑いあう二人*
アオ 「なんか恥ずかしい」
佐奈 「うん、分かる」
「ねぇ・・・」
アオ 「ん?」
佐奈 「もう少し、こうして居よ?」
アオ 「うん」
*本殿で暗くなるまで過ごす二人と一匹*
アオ 「あ、もうこんな時間か」
佐奈 「この子どうしよ?」
アオ 「とりあえず、ここなら屋根もあるし平気じゃない?」
佐奈 「そうかな?」
アオ 「出たよ、佐奈の心配性」
猫 「ニャーン」
アオ 「ほら、あぁ言ってるし」
*少し考えて、落ち着く佐奈*
佐奈 「じゃあまたね」
「明日も来るから」
アオ (あ、パン食べかけ・・・開けちゃったし、まぁいいか・・・)
*ゴミ箱にパンを捨てるアオ*
アオ 「んじゃ、帰ろっか」
〈帰宅〉
アオ 「ただいま~」
*返事は返ってこない*
アオ 「ま、そうだよね・・・」
「最近の調子じゃ連日で居るほうが珍しいもんね」
(夕飯適当に済まそ・・・)
~次の日~
〈下校中〉
佐奈 「今日もミーちゃんいるかな?」
アオ 「ミーちゃん?」
佐奈 「あの猫だよ」
アオ 「名前つけたんだ」
佐奈 「可愛いでしょ」
アオ 「ドラえもんみたい」
佐奈 「あはは、何それ」
「それに、今日はミーちゃんに・・・」
「食べ物とタオルケットも持ってきたから」
*取り出した食べ物とタオルケットをアオに見せる佐奈*
アオ 「よくランドセルに入ったね・・・」
*少しあきれるアオ*
アオ 「そんなに気に入ったんだ」
佐奈 「うん、前から猫が欲しかったんだけど・・・」
「うちのマンションじゃダメだって」
「それに、秘密基地で飼うって・・・」
「悪いことしてるみたいでワクワクするしね」
〈境内〉
佐奈 「ミーちゃーん!」
アオ 「あれ、もうどっか行っちゃったのかな?」
佐奈 「ちょっと、裏手の方も見てくる」
アオ 「じゃあ、手分けしよっか?」
佐奈 「うん、アオはこっち探してて!」
アオ 「わかった!」
~十数分経過~
アオ (床下にも居ないし、チョウズシャにも居ない・・・)
「出ていっちゃったのかな?」
*ゴミ箱の口と目が合うアオ*
アオ 「まさかね」
*おそるおそる、ズレた蓋を開ける*
*出てきたのはアオと佐奈が捨てた枯葉だけ*
アオ 「ふぅ・・・ほら、やっぱり何もない・・・」
*違和感を覚えるアオ*
アオ 「・・・昨日捨てたパンは?」
(猫が食べた?・・・にしても袋までないのはおかしい・・・よね)
*わずかに動く枯葉の山*
アオ 「・・・ッ!」
「この中に・・・いるの?」
*ゴミ箱の中身を全部出し、枯葉の山を探し始める*
アオ 「あ・・・」
*猫の背が見えた*
アオ 「ここに・・・いたんだ」
*手を伸ばし、抱えようとしたアオ、だがその猫には腹も頭もない*
*アオに見えていたのは背中の肉塊だけだった*
*ショックで動転したアオは、その場に尻もちをついてしまう*
アオ 「え・・・あぁ・・・嘘・・・」
*口に手を当てようとしたが、そこにあるはずの指は・・・*
*もう、付いていない*
*ちぎれた指は枯葉の中で徐々に形を失っていった*
*葉っぱについばまれているように*
アオ (この枯葉・・・私の手を・・・)
(そうか、こいつが喰ったんだ)
(テストも・・・パンも・・・猫も・・・)
*逃げるための足はもうなかった*
*叫ぶための喉も*
*落ち葉に沈んでいくアオの体*
*その全身が覆われるころには、姿かたちがまるっと消えていた*
~十数分後~
佐奈 「アオー?」
「結局、裏には何もなったよー」
「やっぱりもう・・・ってアレ?」
「アオ?」
「外まで探しに行った?」
*倒れたゴミ箱と、枯葉の山を見つける佐奈*
佐奈 「枯葉・・・ゴミ箱倒れちゃったのかな?」
〔終わり〕