─2─ 説教コース カウントダウン
こんにちは、もしくはこんばんは。
UrANoです。
本編始まって早々物を破壊する主人公なんて滅多にいませんよ。それも教会の物となると。少しは反省してください。
私が呼び出しを説教だと確信していた理由がある。
神父様以外は滅多に香部屋に行く事はない。何故かと言うと「行く必要がない」からだ。そもそも部屋が大きいわけではないし書類管理は神父様とグランオニーチャンが主に行っているので私はイタズラの時しか入ってない。それも片手で数えられるくらいしか。
そこにあったのは確か、書類と茶色の杖がいくつかだった。一部分に宝石っぽいのが埋め込まれていたので神父様の杖なのかと思ったけど、足腰悪そうには見えないので現在に至るまで神父様の杖(仮)と頭の中で決めつけている。
悶々と思考を巡らせながら花瓶を片していると横から声をかけられた。
「アンダーリビオン様? 珍しく困った顔をしてますがどうしたのですか?」
シスターのリアさんだった。
この教会に身を置く人間は私含め4人。そのうち『葬送者』と呼ばれる者は神父様、グランオニーチャン、私……の3人だ。半年前はもう1人『葬送者』の青年がいたけど今は旅に出ている。
リアさんは普通の人間だ。もちろん神父様と同じで無宗教。ちなみにグランオニーチャンも無宗教だ。それなのに神父やシスターをやっている。グランオニーチャンは神父様の補佐みたいな役職らしい。
リアさんは普通の人間のはずなのだが、私に武術を叩きつけた人でもある。何故彼女が武術を使えるのか分からなかった。『葬送者』は『奇跡』が使えるのに武術を覚える必要あるのか? と思った時期もあったが、「身に付けておいて損は無い」と言われたので教わった。ベリーベリーハードモードだった。
最近知ったのだが『葬送者』は教会で位が割と高めの位置にある。シスターより上――全員無宗教なので役職に上下を付ける意味はあるのかと疑問に思う――なので彼女は私の事を「アンダーリビオン様」と呼ぶ。
クレアでいいのに。アンダーリビオンもクレイニアムも長いし。
そして私とリアさんの関係は弟子と師匠である。
私は立場とか位とかを気にする人間では無いし興味もないので、リアさんが何を言っても立場とかを利用する事はない。前に読んだ娯楽小説に似たような状況のものがあった気がする。確か主人公が使用人兼師匠に勝って冒険する事を認めてもらう話だった。だが……。
私はリアさんに一度も勝てた事がない。
リアさんはめっちゃ強い。そして教え方がとても上手いのだ。特に暗器の使い方がえげつない。今に至るまで彼女の服には傷ひとつ付けることができなかった。
彼女は私が割れた花瓶をちまちま紙袋に入れている経緯を知らないと思うので軽く説明をする。かなり省略したが。
「さっき床壊しちゃって……神父様に香部屋に来いって言われたんだ……絶対説教コースだよぉ。5時間コースはやだぁ。最近はなんか壊しても目瞑ってくれたのに……。いつも目は瞑ってるけど」
「説教が本命ではないと思いますよ。……アンダーリビオン様のマナが安定したのが呼び出しの理由でしょうか?」
キョトンとした顔でサラッと凄いことをリアさんは言った。
普通の人間はマナを感知するのが難しく、感知出来てもどのような状態か分からないらしい。どこかの国では「魔法」というものがあるが、それはマナ自体を決まった法則で変換することによって『葬送者』の使う『奇跡』と表面上似たような現象を起こす事ができる。と本に書いてあったが実際に見た事がないので機会があれば見てみたいものだ。
だから『奇跡』を使わない人間はマナを感知する必要はあれど状態まで感知する必要がないのだ。
『奇跡』はマナではなく精霊と一時的に使役する事によって発動する。マナの状態も大事だが、「魂の暴走」を浄化する力を発動することができる。
と聞かされているが実際「魂の暴走」に遭遇した事がないので実感はない。
それに『奇跡』と言いつつ、発動するものは浄化よりも攻撃力が高すぎる気がする。というか『奇跡』じゃなくて別の名称にした方がいいかもしれないと、素人の私が思うくらいには浄化要素がない。「魂の暴走」にあてられて変質した生物を倒す為なのだろうか。
話を戻そう。
リアさんについて気になることがもう1つある。それは異様に強いという事だ。
もちろん私の経験不足が一番なのは分かっている。しかしそれでは補いきれない何かがある。
『葬送者』は基礎的な能力が普通の人間よりも遥かに高いのだ。身体能力はもちろん、反射神経が『葬送者』として目覚めた瞬間から少しずつ上昇していくのだ。つまりこれもマナが安定する目安だ。あくまで目安なので正確には判断出来ない。
リアさん実は『葬送者』なのでは…………?
私の中でそう結論付けた時期もあった。
一度気になって聞いた事があるが、それとなくはぐらかされてしまった。そもそもリアさんは白髪では無いので『葬送者』では無いのは確実だった。それにあまり話したくない内容だったのか、彼女は珍しく困った顔をしていた。
「アンダーリビオン様。あまり神父様を待たせてはいけないのでは? また怒られてしまいますよ?」
そうだった!
「床と花瓶以外にも壊しちゃってるからね……怒られに行ってきます……」
よくよく考えたら今日だけで8ヶ所くらい教会の物と備品を壊してしまったのだった。マナが安定したとはいえ怒られるのは確実だろう。
ここまで読んで下さりありがとうございます。
次回は説教回ですかね。