─3─ 転がる水滴は毛玉に勝てるのだろうか
こんにちは、もしくはこんばんは。
UrANoです。
最近夜に何か食べちゃう癖がついたのでちょっとヤバいです。,:('ω' ))ムシャムシャ。
やっと手続きやらなんやらが終わり、入国する事ができた。
「……わぁ」
湖の中にある国、と言っても過言ではない。
青みがかった透明度の高い水の上に建物があるようだ。実際は骨組みがちゃんと湖の底についているだろうが、下を見ても確認する事ができない。この湖自体が、マナの塊……精霊の祝福だからだろうか。
それに建物も立派な造りをしている。アーチを模した窓枠や柱がたくさんある。……その名の通りアーチ構造というのだが。
丸くカーブしたアーチリブ――曲がっているところだ――が上方向からかかる力を水平方向に逃がすので、自重を支える事が出来る。それに上からの力に強いので高い建物を造る際、重宝される。
あと見た目がものすごく良い。
一応ちゃんと歩ける場所はあるようだが、ボートが通る広い水路、ケァロースの力を借りる事によって歩ける比較的細めの水路がある様だ。
私が今いる場所は何ともないが、ここから三十メートル程進むとくるぶしが湖の水に浸かっている。靴が濡れるのは確実だ。水路は底が深いのでケァロースの力によって水上を歩く事ができるが、あまり力を使うのは推奨されていないのだろう。なので自力で歩ける場所は歩けと。
濡れてもいい素材の靴のお店が国の入口に幾つか構えているのは親切心か、それとも営業の為か。……一応見ておこうかな。今の靴は先日の戦いで少し、いや……割と傷付いてしまった。
ほぼノータイムで攻撃をしてきたのでそれを避けるのに必死だった。おかげで服はちぎれてしまった。予備の服は割とあるので問題はない。
しかし靴はかさばるのであまり持ってきていなかった。
「猫さん。先に靴を見に行っていいですか?」
先程からずっと抱き抱えている猫に言う。猫はにゃー、と鳴いた。腕の中で静かに抱えられているので肯定とみていいだろう。
転ばないように気を付けながら靴屋へ向かう。
「いらっしゃいませー」
割と色んな種類の靴があるようだ。撥水性の加工がされているのだろうか、どの靴も光を反射している。サンダルのようなものからブーツまである店は割と珍しい。……このブーツ私の足より長いですね。あ、厚底もある。
全体的に黒い靴が多いように思う。淡い色だと何か不都合でもあるのだろうか。
そうだ、せっかくガイドの猫さんがいるのだからどれがオススメか聞いてみよう。と言っても猫さんが靴に興味あるとは思わないんですけどねぇ。
「猫さーん、オススメの靴って……あれ」
猫さんはぴょんっと私の腕から降り、てちてちと店の中を歩く。今は観光シーズンでは無いようなので店に他のお客さんはいない。
後について行く。
「にゃ」
くいっと顎で靴を指すような仕草をする。その方向にあったのは、私が今履いている靴と近しいジャンルの靴で底が少し厚いのものだった。……案内人は知能指数が低いと遠回しに言っていたがそのようには見えない。
店に入って数分で、私の表情と行動からこの靴を勧めたのだ。
とりあえず二足くらい買っておこう。戦闘して壊れた時に困るし。今困ってるし。
あの吸血鬼め……。メイヴンさんに払わせる訳にはいかないし。あの人全身怪我まみれだったし。ちゃんと療養してるのかなぁ。
「にゃ、にゃあ、にゃにゃ」
てしてしと足を叩く感触に意識が戻される。
そうでした。お昼ご飯食べてない! あと宿――ホテルって言ってましたね――も予約とらないと。ここの住民ではないので。
「これとこれにします。選んで下さってありがとうございます」
猫さんにお礼を言い、レジへ持っていく。銀貨五枚で足りるだろうか。一応金銭感覚は常人と変わらないと思うが、国によって物価が違うので参考にならない。案内人に聞いておけばよかったと後悔しつついくらになるのか……ちょっと待って。
この銅貨ってそもそもこの国でも使えるの? 交換する必要があるのでは?
なんて考えている間に支払い目前まで作業が終わってしまっていた。
「……合計で7,200ディーチェ、もしくは銅貨六枚です」
「あ、銅貨使えるんですね」
「観光でお越しになった方々は銅貨でのお支払いが多いので。銀貨は殆ど見ませんね……。金貨って存在してるんですかね」
「ははは……」
言えない。今カバンの中殆ど金貨しか入ってないなんて言えない。しかも十枚とか二十枚とかそういうレベルじゃない。二千枚くらいがカバンのポケットに入っている。グランオニーチャンが旅の資金としてくれたのだ。そう、多すぎると説得してこの数だ。……まさかこんなに高額だったとは。
さて困った。いや、ほんとに困った。
チラリとカバンを覗く。
お金はある。使えるお金だ。問題は……。
(銅貨がない……。それどころか銀貨も……)
金貨しかないのだ。
これはさすがにまずい。経済がこの靴を買うだけで狂う。というか店が破綻しかねない。銀貨さえ見つかれば……いや、銀貨一枚でも銅貨三十枚と同じくらいだ。銅貨六枚で7,200ディーチェ……。
つまり銅貨一枚で1,200ディーチェとなる。なので銀貨一枚の価値が36,000ディーチェなのでそこから7,200ディーチェを引いて……お釣りが……28,800ディーチェ。……ギリギリセーフではあるか。
金貨の場合だと……金貨も同様に一枚が銀貨三十枚と交換できる。
つまりこの会計に金貨一枚を使ったとする。
金貨一枚の価値は1,080,000ディーチェ……。金貨一枚で数ヶ月何もせずに暮らせるなぁ。ははは。
お釣りは1,072,800ディーチェですね。
「……あの、変な質問をしてしまうんですけど……ここのお店の月の売上っていくらくらいなんですか?」
「お嬢さん旅人ですか? ここでアルバイトでもする予定で?」
「その……この国に先程着いたばかりなので物価に詳しくなくて……」
ギリギリのラインを攻めている自覚はある。猫さんが「何聞いてんだ」って顔してるし。
「そうですねぇ……平均はシーズンによって上限しますが……多い時は500万でしょうか。」
にっこり。
私は焦っていた。それも先日の死闘よりも、だ。この500万と言うのは金貨500万枚でも銀貨500万枚でもない。銅貨500万枚であって欲しかったがそれなら銀貨17万枚弱と言うだろう。
つまり、この国で扱われている単位……ディーチェである。しかも多い時と言っている。少ない時はどれくらいだろう……。
この金貨一枚でそれを超えてしまう可能性すら見えてきたのだが。
このままだと冗談抜きに物価を狂わせてしまう。せめて銀貨。銀貨なら多分問題ないはずだ。この人でも見た事あるって言ってるし。
「……すみません、ちょっとお財布が変な位置に……」
一応事実だ。ポケットの中に直接金貨入れてるし。銀貨探すのに時間かかってるけど。
あ、あった。
「これでお願いしまーす」
背中が冷や汗まみれだが、辛うじて銀貨を発見する事ができ内心ほっとした。
「お客さん……どこかの国のご令嬢?」
「一般人です」
少し怪しまれてしまったが靴を購入する事が出来た。




