─2─ 憤せざれば啓せず、悱せざれば発せず
こんにちは、もしくはこんばんは。
UrANoです。
この話を今日(4/25 :金)投稿したいという理由だけで一章の投稿頻度がバカ高くなっていたのです。
目の前にいるのは猫だ。
現在私は、吸血鬼が人を支配していた村から少し離れたところにある国にいる。身体能力強化の『奇跡』くらいなら発動しても気が付かれないだろうと思ってちょっぱやで移動したので、本来三日かかる距離を数時間で移動したのだ。
理由は簡単。
お昼ご飯を食べたかった。
やっと着いたその国はテオリアと言うらしい。
入国には身分証明書が必要で、発行してもらったところまでは特に問題はなかった。
「……猫さん? ですか?」
身分証明書を発行する際十数分程度の待ち時間があったのだが、その時部屋にいた猫を観察していた。何で猫がいるのか気にしていなかった。管理人が猫好きなのか、保護猫なのかと頭の隅で思っていた。どうせ関係ないし。
……関係あるんですかい。
「テオリアでは国のガイドとして、観光客や旅人の方々には一組に一匹の猫が付きます」
「…………?」
何故?
いや、ガイドさんが付くのはとても親切だと思いますけど。何故猫なんですか? 人件費削減が目的なのでしょうか?
「アンダーリビオンさんはこの国をご存知ないのですか? この国が出来たのは割と最近なので知らない方も多いのですよ」
「あ、そうなんですか」
本に載っていないよなぁ、と思っていたところだったので納得した。出来たばっかの国なら知らないはずだ。それも場所が遠ければ遠いほど情報は伝わりずらくなる。その為誰でも知っている国と言うのは最低百五十年前に建国したものを指す。
教会の図書館にある国の本も一番新しいのがその辺りだ。
案内人の話によると。
まずこの猫は猫ではないらしい。
…………?
どこからどう見ても猫にしか見えないが、この猫達は液体……水でできているとの事。
この国テオリアは水の精霊「レアノス」の加護によって生まれた。そして国の水は特殊な現象を引き起こした。そのひとつが目の前にいる猫らしい。人間の言葉を理解し、国中をガイドできるだけの頭脳を持つ精霊が水を器に猫の形をしている。
昔、この国ができる前にこの国の王の先祖が「レアノス」を助けた礼として与えられた水によってこの猫達は生まれたと伝えられているようだ。
確かによく見ると高濃度のマナが身体の中心にあるのが見える。実際の猫を見た事が無いので分からないが。
「そういえば……何で猫なんですか? 他の動物はいたりしますか?」
「王家が代々猫好きでね」
「……なるほど」
だから猫しかいないということか。
「それとこの国で猫は暮らせない、というのも理由のひとつですね」
猫が暮らせない国? 家がマタタビだから? いや、それは暮らせないには入らないか。野良猫がいないという事だろうか。つまり餌となるネズミ等の生物も居ないと考えていいのだろう。そのような状況に置かれているのに国が機能しているとはどういうことだ?
「地面がほとんどないんです。なので泳げない動物は暮らすには不向きなんです」
「……泳げない、つまりこの国って……」
「はい。水の精霊「レアノス」の加護の元生まれた水の都です。移動手段はボートとなります。ですがそれも数に限りがあります。そこでこの猫の出番なんです」
案内人は近くにいた猫を撫でる。
猫は無言で案内人と私の顔を見る。
「「レアノス」の加護を得た猫、通称「ケァロース」と言われています」
通称神々しいなぁ。
けどそれ国の活性化に利用していいのかな。神を……精霊を利用している事になるんだけど。
しかし案内人(この人は入国までの間の案内人)は気にしていないようだ。「神」という名が付いているのだから神格化されているはずだ。……あぁ、そこで王家か。
「この名は猫好きの王家が付けたものです。褒美として与えられたものなので最大限利用しようという事でこの猫の形をした精霊がガイドとなります。中身は精霊であり、この国の水から生まれているので水を操る事ができます」
「だからボートが無くても歩ける、という事ですね」
ぶっちゃけ『奇跡』を使って空飛んだり死闘を繰り広げたり、イタズラを仕掛けていた私には水の上に立つというのは不可能ではないので面白みはあまりない。
しかし他の人は違うだろう。水の上に立つ機会がない。普通は立つことができない。ちなみに塩分濃度が上がるほど密度もそれに伴い上がるので浮力も大きくなる。流石に歩くのは無理だが頑張って走る事はできるかもしれない。……やらないけど。
だからこの猫さん(精霊)はこの国の「売り」という事か。
「どの子にしましょうか……」
ざっくりと説明を聞いたので、私は今回のこの国での観光ガイドの猫を選んでいる。
字面から分かると思うがかなりシュールな光景だろう。この猫全てが水の精霊なのだから。
精霊を使役して『奇跡』を発動するのが『葬送者』である。しかし『葬送者』は使役すると言いつつ精霊が見えていない。
では何故問題無く『奇跡』が使えるのか。それは至って簡単な話だ。
私が近づいた途端、猫達もこちらへ寄って来る。ゴロゴロと喉を鳴らす個体もいる。……『葬送者』は精霊に好かれているのだ。精霊は本能で『葬送者』が穢れ、蔓延りを浄化する者だと解るのだろう。触ってみると少し冷たいが気にする程ではない。
……気のせいだろうか。
だんだん猫が増えている気がする。
十匹もいなかったはず。人間は短期間で視認できる数が五から九だ。今何匹いるか把握できないという事実が示しているのは……。
「わわわわわわわわわわわわ!?」
猫の精霊の大洪水に巻き込まれかけている。という事だ。つい数日前に濁流に巻き込まれかけたというのに……今回は猫……うん、猫ならまだマシで、もないな。
そろそろこの部屋の床が見えなくなってしまう。それは流石に危ないだろう。
猫達は目を輝かせながら「僕を選んで?」と言いたげな表情をしている。
と、正面の部屋の奥の方に白い何かが映る。……あ、猫だ。あの猫も高濃度のマナを内包してるから精霊なのだろう。しかしこちらへ来る気配はない。
「ななっ!? 何故こんなにケァロースがっ!?」
案内人が驚いているところを見るに、これは異常なのだろう。誰がどう見ても異常なのは確実だが。
私はあの猫がマナの塊に寄ってこない理由が気になって仕方ない。角度的に見えずらいので足元にいる猫に気をつけながらチラリと見る。
少し青みがかった白い毛並みをしている。
しかし様子がおかしい気がする。動き? 頻繁に口を開けてあくび……じゃない。
「おえっ」
「猫さん!?」
猫が何かを吐き出していた。足元の猫を踏まないように気をつけながら今も吐いている猫の元へ向かう。
……吐き出していたのは毛玉だった。埃と混ざって灰色がかったその毛玉は先程見た。ケァロースのとある個体がいじっていたものに似ている。
私は猫を抱え、案内人の人に問う。
「この猫さん、毛玉吐いてたんですけど大丈夫でしょうか?」
「……あー。たまにいるんですよ。ほぼ完全な猫に擬態してしまう個体が。問題があるとするなら……体内のマナごと吐き出す事でしょうか。そういう個体は知能指数が下がる傾向になるんですよね」
案内人は少し不機嫌そうだ。猫は吐き疲れたのか腕の中でぐったりとしている。このままこの猫から離れるのは少し気が引ける。それに私は水面を歩くのを目的として来た訳では無いし、ゆっくりと休む事ができれば満足だ。あと料理。これは大事。
つまりどの猫でもいいのだ。ならばこの子でもいいはずだ。
「この猫さんに案内をお願いしたいんですけど」
「おすすめはしません。しかしアンダーリビオンさんが望むのでしたら……」
渋々、と言った表情で管理人は私が抱いている猫に首輪を付ける。
「ホテルや飲食店に同行させても問題はありません。カード同様、この国にいる間は常に一緒に動いて下さい。ケァロースは緊急時には防衛もできるので。あとは……当たり前ですが水面を移動する際、あまり離れないようにしてくださいね。……長い間拘束してしまってすみません。これにて入国手続きは終了致します」
既に時計は2時を回っていた。
少しお腹が空いてきたが、問題ない。これからこの国の料理を食べ……。
ビーーー!!
ゲートをくぐった瞬間、何故か鳴ってはいけないような音がした。
先程の管理人さんがこちらへ向かう。
「……危険物の持ち込みは禁止です」
「……あ」
私は足に隠していた金属製の暗器を預ける事となった。
ここまで読んで下さりありがとうございます。
本日(4月最後の金曜日)は「猫の毛玉啓発の日」らしいですよ。だからこの話を22:22に投稿したんですけどね。
グルーミング時に毛も飲み込んでしまうので体外へ吐き出す方法として嘔吐と糞があるらしいです。食事中の方々すみません。




