─19─ 指先が貴女に触れるまで
こんにちは、もしくはこんばんは。
UrANoです。
皆さんは運って信じてますか。
UrANoは自分の事を超運悪い人間だと思っています。ガチャ爆死率が高すぎるんです……。
クレアはその光景に目を疑った。
自分が『奇跡』で相殺したり、軌道を逸らしていた攻撃が……。
すべて消える。
「ああああああ、ああああああ!!」
吸血鬼の女王はマナで造り出した槍をメイヴンさんに投げつける。しかしそれはメイヴンさんに届く前に塵となって消えていく。
槍も「呪い」も、吸血鬼の女王の攻撃は消える。そしてその度にメイヴンさんは空中を歩くように一歩、進む。
まるでカーテンで塞がれた道を通るかのように腕を上げ、横に動かす。
それだけで吸血鬼からメイヴンさんまでの直線にはマナによる攻撃も「呪い」も通らない。そういう「呪い」を発動したのだ。
それは人の思いから生まれる。それが人にとって害であるのか益であるのかは人によって異なる。
共通認識として、害である場合は「呪い」。益である場合は「祝福」とされる。
メイヴンが何を思ったのかは発動したものを見ても分からない。
しかし吸血鬼の女王はコレを「呪い」と判断している。
忘れていた。この現象を害でも益でも同じ名前を付けられる……ということに。
それは。
――人はそれを呪いと呼ぶ。
「何故!? 何故なの!? わたくしの攻撃が消えてしまう!? どうして……」
音を立てることなくメイヴンさんは吸血鬼の女王の元へ進む。
彼女達の髪は風によってたなびく。
「来るな」
攻撃は消える。
「来るな!」
攻撃は消える。
「……っ来るなぁ!!」
それはただの打撃だった。
先程の、この吸血鬼が操っていた死体のような純粋な身体能力……力による暴力。
その攻撃は。
メイヴンを鞠のように地面に打ち付ける。
「……っぐあっ!! ……っ、あ、」
地面を跳ねるように転がり木に背中を打ち付ける。それでも彼女はゆらりと立つ。
そして進む。
しかし手を伸ばしたところで倒れ込んでしまう。「呪い」でマナによって生成される攻撃も、「呪い」も相殺できる。しかし、純粋な……人間個人が持つ力だけは消す事ができない。
その為、吸血鬼は地面に降り立ち彼女へ近づく。その表情は余裕に満ちている。
なんだ、結局よわいじゃないか、やはりこいつは「小バエ」だったと。おそるるに足らない。か弱い……弱者だ。
「メイヴンさんっ!」
「ご馳走ちゃんは少しお黙り」
「……!?」
口を拘束する事によってクレアは話せなくなる。んー! んんー! と少し遠くで聞こえるが、牽制として槍と「呪い」を空中に出現させている。この「小バエ」は見たところ、無効化できる範囲が狭いのだろう。だからあそこにいるご馳走ちゃんの周囲の物は無効化できない。
それに「小バエ」は人間を喰っていない。
だから身体能力が低いのだ。ご馳走ちゃんですら回避した打撃に目が追いついていなかった。その為攻撃は少女の身体に深々と刺さる。
かひゅ、と少女は思い出したかのように呼吸をする。今更マナを吸収したってわたくしの攻撃を、身体能力による純粋な暴力を避ける事はできない。こんな風に。
吸血鬼リュミエールは少女の腹目掛けて蹴りをいれる。無慈悲な暴力によってメイヴンの身体が宙に浮いて、落ちる。
「ごぼっ……、げほっ!」
青黒い鮮血を吐き出す。
羽は折れ、右腕も本来なら向かない……ありえない方向に曲がっている。その他にも折れている場所があるのか、立ち上がる事ができない。それに打撃による痛みもあるだろう。呻き声すらあげることもできないくらい。
唯一無事……辛うじて動く左手をリュミエールへ伸ばす。しかしそれは彼女の足に踏まれて動かせなくなる。
ひゅー、ひゅー、と必死に痛みを逃がそうとしているか弱い少女。吸血鬼のはずなのに人を喰らわずに弱体化した、変わり者。
――滑稽だわ。
彼女はわたくしを殺すと言ってここにきたのに、結局力足らずでわたくしに殺されるのだもの。
人が吸血鬼を殺す事が出来た過去があった。その方法はマナによる攻撃。マナへの耐性がない吸血鬼は一撃で塵となって消える。
だが目の前の吸血鬼はその攻撃を無効化できるのだ。なので別の殺し方でないといけない。
「わたくしにここまで手間をかけさせた子は……あれ……? ??」
初めて、と言いかけて止まる。
テープを再生したかのように、風景がプツリと切り替わっては戻る。セピア色のソレはコマ送りとようにパラパラと進んでいく。
知らない。
頭を抱えるも、その風景は流れる。
「何なのかしら……これは」
ただのノイズだ。そうだ、吸血鬼なのだから「呪い」で感情を操作したのだろう。精神に刺激を与える事によって見える幻覚だ。息も絶え絶えな「小バエ」が手を伸ばした時に発動したのだろうか。
しかしリュミエールは違和感を持つ。
吸血鬼が精神を刺激する時は自分に有利になる感情……恐怖と怒りだ。どちらも過ぎると人は己を制御出来なくなるからだ。
しかしリュミエールにもう恐怖はない。怒りもない。あるのは圧倒的な余裕とひとさじの戸惑い……そして疑問。
一歩下がる。何故下がったのか分からない。脳で、「足を動かす」という命令をした覚えはない。勝手に動いた。
それは死体を動かす時と似ていた。
しかし決定的に違う点があるとするのなら。
――リュミエールの思考回路が正常という点だろうか。
肉が、身体が己の命令に反して動く。少しずつ、ギチギチと音を立てる。それは身体を破壊させる為の音ではなく、リュミエールの拒絶の音だ。無理矢理動く身体を止めようと自身に備わった力で抵抗する。
しかし、次第に主導権は失われていく。
その代わりに無意識下で感じていたソレは現れる。「震え」という形で。
膝から崩れ落ち、ぺたんと座り込んでしまう。
そのまま少しずつ後退する。
目の前の――な――、――? ……、――?
メイヴンは左手を軸に立ち上がり、足を引き摺りながら近づく。ボロボロで血塗れの、叩きつけたはいいがまだ微妙に動いている……「小バエ」と呼んだ少女は正に「虫の息」のはずだ。
なのに身体が動かない。いつの間にか後退しているはずの身体が固まる。頭では信号が発信されているはずなのにそれは実行されない。
唇が震える。
ただ、目の前の少女に恐怖を感じているのだ。
(このわたくしが? 何故? 「小バエ」は……捻り潰す事ができるくらい脆いのに?)
ヒヤリと冷たい手がリュミエールの首に触れる。リュミエール自身も人間を喰らった後以外は足や指の先が冷たい。しかしそれは末端冷え性の人と殆ど変わらない。その他の部位に至っては人間と何ら変わりない温度を保っている。
身体をマナが巡っているからだ。
吸血鬼の身体は常に冷たく、触れた牙はまるで氷のようであった……と昔の人は言う。
しかし近年の吸血鬼は本能に従い人間を喰らうようになった。その為冷たい身体という特性は失われている。
だが、目の前の少女は己が稼働する為に必要な最低限のマナ以外全くない。いや、違う。
――マナが「ない」のだ。
全く、観測できない。
どのような生物、植物、物体にもマナは存在する。だから食事をする事によって動物は消費したマナを無意識に吸収している。
その為マナを全く保有していないものなどない。ないはずなのだ。
クレアは違和感に気がつく。
先程まで優勢だった吸血鬼の様子がおかしいのだ。彼女の攻撃によって視界が遮られ、殆ど見えないのでメイヴンと吸血鬼の状況は分からないが……その吸血鬼が放った攻撃が少しブレ始めたのだ。
メイヴンが無効化した訳ではない。それなら塵となって消えるはずだ。
(駆使対象が、恐怖を……感じている?)
それにメイヴンからマナを全く感じなくなった。それで思い出す。昔聞いた話を。
――何故「魂の暴走」に侵された人間が……「魂の暴走」を発症していない人間が吸血鬼になる事があるのか。
それは「魂の暴走」によってマナが全て吸い取られるからだ。本来人間はマナが無くなったら死ぬ。しかしその特徴ごと変質してしまったのなら?
少女は、メイヴンは氷のように冷たい手で、小指から順にリュミエールの首に触れる。それは彼女の死までの猶予時間だった。
「……「呪い」、は、……相手に 対し、ての感情が強、ければ……強い程、……強固な、ものに……なる」
身体の痛みに呻きながらも、少女は話す。
そして最後に親指が、首にぴとりと触れる。
「……呪い 殺す、事など……容易い」
そうして少女は細い指に力を込める。
ここまで読んで下さりありがとうございます。
人の首を絞めるのには2パターンあり、ひとつは呼吸器官を圧迫するもの。もうひとつは頸動脈を圧迫するもの、となります。
どちらも危険なので推奨はしません。




