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鼓動が聴こえる、その時まで  作者: UrANo
我々は尺度を知らない
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─18─ 本能に背く者

こんにちは、もしくはこんばんは。

UrANoです。


第一章も後半戦です。

 バサリ。

 蝙蝠のような羽を広げ、群星が煌めく空を飛ぶ。


 あの星は何、と聞いた事がある。

 ……あの時お姉ちゃんはなんて言ってたっけ。


 空中にいるのは吸血鬼(お姉ちゃん)だけだった。ちょうど攻撃を放つ寸前、……その進行方向にはクレアがいる。

 吸血鬼は手に持った槍をクレアに向けたまま、片方の瞳だけを僕の方へぐるりと向ける。


「あらあら。やっと小バエが来たわね」

「我の事を「取るに足らない(小バエ)」と呼ぶとは……。本当の小バエは、害虫はお前だろう?」


 あの時の、絶望と比べたら吸血鬼なんて小バエ同然だ。その鱗片に触れた事によって僕達は吸血鬼になったのだから。

 あれは今頃どうなっているのだろうか。今もこの世界を穢れで埋めつくそうとしているのだろうか。


「……っ! メイヴンさん! 遅いです!」


 下からクレアの声が聞こえる。村はかなり破壊されているが、それにしては損傷が少ない。吸血鬼が生成した槍は「呪い」を纏っている。それに投げつける威力も相まって、破壊される範囲は大砲なんかと比べ物にならないくらい広いはずだ。

 しかし村は更地にはなっていない。いくつかの家は壊れてしまっているが、大部分は無事だ。

 恐らくクレアが攻撃をなるべく村に向けないように注意しながら逸らしていたのだろう。


 ……器用な小娘だ。


「仕方がないだろう? 我は貴様にこき使われて疲れているのだ」


 実際村人60人をこの吸血鬼に視認されないようにするなんて芸当、殆どの人ができないだろう。できたとしてもマナの消費量がものすごく多い。それだけではなく避難誘導の為に長を説得するのだって一苦労。

 短時間でその全てが完了したのだ。労いのひとつやふたつ……百は欲しいものだ。多分十も行かないうちに飽きると思うが。


「いい事を教えてあげるわ。小バエ」


 吸血鬼は僕へ()()()()()。つまりクレアは「呪い」によってほぼ無力化された状態だと思っていいのだろう。

 三日月のように口が裂け、嗤う。

 

 その瞬間に無数の槍が発生する。恐らくクレアはコレに被弾したのだろう。村に当たらないように逸らしたり……数的にこれを打ち消す事ができる攻撃も使えるのか。

 ……過小評価をしていたようだ。「呪い」を消す事のできる攻撃が手札にあるのか。だがそれはこの吸血鬼を消すのには届かない。


「わたくしがその気になれば、小バエなんて何時でも叩き潰す事ができるということを……ね!」


 刹那。

 槍が一斉にメイヴンを囲む。

 それはこの吸血鬼の()()だった。

 目の前の吸血鬼は取るに足らない、発言の通り塵にするのが少し面倒な……その程度の認識をしていた。そのはずだ。

 それなら何故吸血鬼は、目の前の吸血鬼に対して()()()()()を放ったのだろうか。


(……何故かしら)


 本人にもそれは分からない。

 目の前の「小バエ」と評価したはずのものを「敵」と認識している事に。

 目の前の「敵」のマナは少ない。だから地面に足を付けることしかできないアレを「ご馳走」と捉えたのだ。アレに内包されているマナの量も純度も見た事がない、高い。


 だから。


「……わたくしは好きな食べ物(ご馳走)は最後に食べる主義なのよ」


 コレは先に目障りな小バエを消す、と捉えてもいい様な発言だ。

 その言葉通り、無数に出現した「呪い」を内包する槍はメイヴンに逃げる隙間を与えない。例え蝙蝠に、塵に変化しようともその隙間を「呪い」が塗りつぶす。

 

 それはまさに「呪いの檻」と言っても過言では無い。

 回避不可、致命傷は避けられない。……「小バエ」を潰すには豪華過ぎる攻撃だった。


 ――しかしそれは相手が本当に「小バエ」だった場合の話だ。


 吸血鬼の女王は()()()()()()()嗤う。そして言う。


「さようなら、小バエさん」


 その言葉を合図に槍は敢えてゆっくりと動き出す。その間に槍に内包された「呪い」同士が混ざり、練り、より強力な「呪い」となる。

 小バエは「呪い」によって藻掻き苦しみ、そして槍によってその身をズタズタに引き裂かれる。そのはずだった。


「……そういえば、それ(さよなら)すら言えなかったな」


 そう、「小バエ」と言われた少女は呟く。

 ただ呟いただけだった。


 ピキ、と「呪い」に()()()()()

 

 有り得ない。だってコレは「小バエ」程度の……マナの内包量が殆どないお前には、何もできずに、消滅する瞬間に怯える事しかできないはずだ……と。

 吸血鬼としての活動を捨て、その身をこの村を隠匿する事に費やしていた「小バエ」が攻撃する事は出来ないと踏んでの()()だった。

 

 身の程知らずに身の程を()()()()()ための攻撃。

 所詮お前は「小バエ」なのだと。わたくしよりも下位の存在なのだ、とわからせるための。

 しかしその攻撃はだんだん崩れていく。槍は少しずつ塵となり、「呪い」は溶けて消える。


「……お前は「呪い」の使い方がヘタクソ過ぎる」


 少女は……メイヴンは羽を広げる。

 それだけで槍も「呪い」も消え去る。そのような物はなかったかのように。


 ――何故吸血鬼は人間を喰らうのか。

 その答えは簡単だ。

「人間だって本来は必要ないお菓子(モノ)を食べるだろう?」

 つまり吸血鬼にとって人間はお菓子だ。人間以外の動植物は内包されているマナが少ない。その為、吸血鬼はより多くのマナを……甘味を食べようするのだ。


 つまり吸血鬼は本来マナを殆ど必要としない。空気中に含まれているものだけでも生きていくには十分な量のマナが含まれている。

 しかしそれでは攻撃ができない。人間にすら負けてしまうだろう。歴史を辿れば遠い昔、吸血鬼は正に「小バエ」だった……と記される程弱かったのだ。

 マナは物理法則を無視した攻撃を放つのに必須だからだ。そしてそれは選ばれた人間が扱う事ができる。

 

 ――強ければ、下等生物を支配できる。

 

 弱肉強食の食物連鎖の頂点に立つには強くなければならない。強くなるには下等生物を()()()()()()()と示す事ができるカードが必要だ。

 

 そう考えた結果辿り着いたのがマナを使用する事によって生まれる物理法則を無視した攻撃である。個体がマナを摂取すればする程、その威力は高まる。そうする事によって吸血鬼は食物連鎖のピラミッドにおいて、人間よりも上に立つことに成功したのだ。下克上したのだ。


 多くの吸血鬼はその本能に従い、歪められた遺伝子に組み込まれた常識として人間を喰らう。すると手に負えなくなるほど強くなる。

 

 その為吸血鬼特有の攻撃……「呪い」はあくまで添えるだけ。相手の動きを制限したり、捉えたりする程度のもので「十分」だったのだ。

 なので吸血鬼の「呪い」は時を重ねる毎に単純化していった。

 

 相手を絡める、精神に刺激を加える、そして拘束する。


 それが吸血鬼の使うことができる「呪い」だ。


 ――だが。

 もし、その本能(普通)に逆らった……「呪い」に特化した吸血鬼がいたとしたら?


 吸血鬼、――リュミエール――が自身を「吸血鬼の女王」と呼ばせていた。それを否定する人はいなかった。それは強さの証明でもある。


 ならば目の前の吸血鬼はこう呼ぶべきだろう。


 吸血鬼――メイヴン・アトライア――またの名を「呪いの女王」と。


ここまで読んで下さりありがとうございます。


戦闘シーンって書くの楽しいですよね。もちろん描くのも楽しいです。

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