─12─ 言葉足らずでも
こんにちは、もしくはこんばんは。
UrANoです。
寝ぼけてシャーペン洗濯機に入れてしまったようでなんか面白い壊れ方してました。
自分の後ろにいた少年こそ、吸血鬼の少女……メイヴンが探していたこの村の長だった。
しかし彼はメイヴンが吸血鬼である事に気がついている。耳は帽子で隠しているし、瞳だって赤くないのにも関わらず、だ。
少年はメイヴンを吸血鬼だと、確実に言える何かを掴んでいたのだが吸血鬼の少女はそれを知らない。
少年は刃渡り十センチ程のナイフを何時でも腹に突き立てるように添える。それによって死ぬことはないが、傷の修復にマナを消費してしまう。
「小ぞ……じゃなかった。えっと僕は……」
「メイヴン・アトライアと名乗っていたな。目的は何だ」
「あぁ、あの時の目線は貴様だったのか」
小娘を助ける時に死体の中でふたつだけ虚ろな目では無い視線を感じた。
ひとつはあの吸血鬼である事は分かっていた。しかしもうひとつは誰なのか分からなかった。視界を二人で共有する必要がないからだ。
この少年が見ていたのなら説明がつく。村の人間の中で唯一、吸血鬼と繋がっているからだ。
帽子を少しずらす。隠していた耳がぴょこんと現れる。流していた髪を耳にかける。人とは違う、少し角がついた耳が露になる。チャリン、と吸血鬼の少女の耳飾りが無音の空間に音を与える。
たったそれだけで、少年は持っていた刃物を落としてしまう。目の前の吸血鬼の少女の一挙一動により生まれる圧がそうさせるのだ。大半の人間はそれに耐える事ができない。
その吸血鬼の少女……メイヴンは思った。
(ああああああああ!! 僕のばかぁああああああああ!! なに威圧してんだよぉおお!! この後頼みにくくなっちゃうじゃんかぁ!!)
この少女も結局肝心なところでやらかすタイプであった。類は友を呼ぶとはこういう時に使う言葉である。
少年は足の力が抜けたのか、その場に尻もちをついてしまった。目は恐怖に染まっている。少し目が赤いところを見るに吸血鬼に何かされた後なのだろうか。
先程クレアの行動にドン引きしたばかりなのだが、自分もさほど変わらない行動をとってしまった。いや、あの小娘の方がヤバい行動をとっている。うん。目的が違うのだから優先順位が違うのも仕方ないのだが。そうだとしても容赦が無さすぎる気がするが。
言い訳は一応ある。
まず、人と話すのが半世紀以上ぶりだったという事。迷い込んだ村人に対して身分の高そうな吸血鬼を演じていた事。そしてその練習をほぼ毎日行っていたという事。
素のメイヴンの一人称は「僕」である。その為クレアと話している時にたまに素に戻ってしまっていた。が、今はそちらの方が事が進みやすい。……敵が目前に控えていながら素の口調なのもどうかと思うが作戦なので。
クレアとメイヴンは一時的に利害の一致で組んでいるだけだが、それはお互いが最善の動きをしなければ成立しない。
だから初めは「僕」と言い、なるべく小娘のような話し方を意識していたのだが。
まさか正体が割れているとは思わなかったので動揺してしまった。刃物を突き立てられていたというのもある。その結果が今の状況だ。ここからどうやって彼を動かせばいいんだ?
うーむ。困った。
と、少年の首元から少量の血が出ていることに気が付く。少年も自身が怪我していた事に今気が付いたのだろう。一瞬顔が青ざめる。だが、気が付いたのだろう。「僕が血に反応していない」という事に。そうでなければ不意打ちを狙う事などできないのだから。
少年は震える右手を左手で抑えながら、言う。
「……吸血鬼が、吸血鬼を殺しに来たのか……?」
その一言にメイヴンは目をゆっくりと見開く。演じるのを忘れてしまう程。瞳孔が猫のように細長くなる。しかしそれは獲物を見つけた時の表情ではなかった。ただ、驚いたのだ。
吸血鬼の少女がこの村を支配している吸血鬼を殺す気でいるという事実に少年が気が付いていたからでは無い。
少年は村で一番、吸血鬼に支配されていたはずだ。何故この場所にいるのかは不明だ。もしかしたら少年の目を通して見られているかもしれない。しかし視界は共有できたとしても意識まで操るのは難しい。
今の少年の発言は、少年の本音だ。
余談だがあの吸血鬼は小娘に夢中だろう。あれほどの大量のマナを含んだ人間はいない。僕はおまけ程度にしか見ていないだろう。実際僕は人の血を啜っていないのであまり強力な呪いは使えないしマナも吸血鬼の割には少ない。なのでこの会話は敵には聞かれていないはずだ。
「……君はアレを「人」として見ているんだね」
少年には聞こえていないようで助かった。この言葉はメイヴンは言わない。それに今言うべきでは無い。
先程の小娘は吸血鬼を倒すと言っていた。つまり吸血鬼がどうやってできるのか、知っているのだろう。本来存在してはいけないのだ。だから駆除する、と言っていた。彼女にとってこの村を支配している吸血鬼は害虫とさほど変わらないのだ。
だからあの吸血鬼は僕が殺さなければいけない。
必要はないが、癖のようにひとつ呼吸をする。そうすれば――からメイヴン・アトライアにもどる。――はさっきあの場所で捨てたのだから。
「……そうだ。我は吸血鬼だ。だからあの吸血鬼を殺す方法を知っている。……単刀直入に言うと、お前ら人間共が邪魔だ。この村から出ていけ」
「……村は、この地は捨てた方がいいのですか?」
少年は察しが良いようだ。
いや、あの吸血鬼が強いのだと伝えているのだろうか。吸血鬼の命令を代弁しているのがこの村の長だ。あの吸血鬼について一番知っているのだろう。……僕よりも。
「……そうだな。ここから一週間程歩いたところにある街なら62人……いや、60人くらい保護してくれるだろう」
確かあの街は割と発展していたはずだ。ここ一体は僕の呪いで隠していたので技術が伝わる事はなかった。その為この村は周辺の街や村に比べて発展が乏しい。この村を支配している吸血鬼の都合に合わせているからだ。
少年は何か納得したような表情をする。そして謝る。刃物を突き立てたこと、を。
「分かりました。街はどの方角にあるんですか?」
「小僧。やけに物分りがいいな」
事前に街までの道のりを紙に描いてあったのでそれを渡す。何故いきなり考えを変えたのかが分からず少し困惑する。
「……貴女が、長い間外部への被害を抑えてくれていたんですよね。長として言わせてください。ありがとうございます」
「…………」
ただの気まぐれ。そう言えない理由がある。
誰にも言っていないので知らないだろう。この少年も知らない。小娘も知らない。
僕があの吸血鬼をすぐに殺せなかったせいで街が衰退して村になってしまった。それをずっと見ることしかできなかった。殺す事を躊躇った、臆病な僕に……。
礼を言われる筋合いは、ない。
「……では私は民の誘導をします」
少年はそう言い、立ち上がる。
そして僕に背を向け進むが途中、振り返る。
「ご武運を」
少年の足音が聞こえなくなった。僕は壁にもたれ、そのままずるずると重力に従って落ちて床に座ってしまう。
分身の蝙蝠の1匹がが心配そうにこちらへ向かってくる。分身の癖に意志を持ちやがって……。こいつはもう僕の身体と融合しないだろうな。
「……あの人を、人と認識してくれてありがとう」
それは分身の蝙蝠には理解できないようで、独り言を言っているのと変わり無かった。
一方少年はと言うと。
「何だこれは……」
小動物を模したぬいぐるみに見える何かがうごうごしているのを白けた目で見ていた。
ここまで読んで下さりありがとうございます。
大まかな設定に肉付けしていくことによって「ここの設定がここで伏線になるんだ」って展開が脳汁です。




