─11─ 人の趣味にとかやく言うのは良くないが、
こんにちは、もしくはこんばんは。
UrANoです。
第一章中編スタートくらい(仮)らしいです。
文章量で言うと 前編=序章 らしいですね。
結構昔から小説もどきぺちぺち書いてましたが、ひとつの話をここまで長くじっくり初めてですね。
(……速いな)
吸血鬼の少女は静かに思う。
置いていくつもりで低空飛行しながら神殿へ向かっているのだが、この小娘はそれに息切れせずに着いてきている。
それどころかカバンを漁る程の余裕すら見える。おそらく全速では無いのだろう。無意識こちらのスピードに合わせているように思う。舐められたものだ。
「メイヴンさぁーん! これに私のマナを少し込めたので囮として使ってくださぁーい!」
そう言って小娘は我に袋を投げつける……っと待て、勢いがっ!
滑空中なので上に勢いを逃がす事ができたので良かったが……。小娘は「何してるんですか」と言いたげな顔をしている。何をしている、はこちらのセリフだ。プロも顔負け豪速球を放つな。
確かに我がアイツに見つかるのは避けたいので囮を使うのはいい案だ。この囮よりも存在感が無ければ気が付かれにくくなるからだ。ただ、気になる事がある。これを投げつけられた時点で既に気になっていた。あぁ。……うん。
なんでコレうごうごしてんだ?
中身を確認しようにも本能が拒否している。吸血鬼としての本能なのか生前……吸血鬼になる前の本能なのか。いや、どちらもだろう。
大きさの割に相当軽いので「呪い」で使う触媒と似たような物だと思うのだが……。
意を決して袋の中を少し覗く。
その場に数秒、留まった。
小娘の技術の凄さにでは無い。いや、コレを小娘が作ったのならあながち間違ってないだろう。
――何故なら。
ものすごく歪でカラフルな小動物を模した小さなぬいぐるみのようなものがうごうごしていたのだ。……その数30近く。悪夢に出てきそうだ。……吸血鬼になってから眠る事ができなくなったので夢は見ていないが。
「……これは何だ?」
「囮ですけど? 床に置いたら動きますよ?」
小娘、我が聞いているのはそこでは無い。囮としての性能は申し分ないのはこの物体にかけられたマナが語っている。しかし問題はそこではない。
「呪術の触媒にする予定だったのか? 一体誰に造らせた?」
「普通に自分で作りましたよ? 初めて作ったぬいぐるみなんですけどねぇ」
うごうごしている物体(小娘曰くぬいぐるみ)のいくつかから少し綿が盛れ出ている。縫いが甘かったのだろうか。ただ、その。綿が赤いのはどう言う事なんだ? 意味が分からないのだが。それにここまで作る必要はあるのか? 趣味で作るにしてもこの量は……元々何に使う予定だったんだ?
「前住んでたところでイタズラする為に作ったのが役に立つ時が来ましたね! 持ってきておいて良かったと思いますよ」
イタズラにしては趣味が悪過ぎる。もはやただの呪われた人形だろう、コレ。勝手に動くらしいし。綿赤いし。沢山あるし。
吸血鬼の少女は知らなかった。この趣味の悪そうなぬいぐるみを作った張本人――クレアよりも趣味の悪いぬいぐるみを作った人物がいるということを。そしてクレアはその人の影響を受けているという事を。
もうツッコむ気力が失せたので袋の口を持ちながら再び神殿へと向かう。袋がうごうごしているのが微妙にきしょい。
すると小娘が何かを進行方向に、つまり神殿に何かを投げようとしている。緑色と紫色の小さな物体のようだ。それを四つ程。それら全てにマナが込められている事に気がつく。つまりそれは今我が持っている袋の中身と同じ物である、という事だ。
「先に囮を侵入させちゃいますねー」
合理的な判断ではある。
――合理的であったのは判断であって方法ではない。
小娘はぬいぐるみを神殿に向かって投げつけた。それもフルスイングで。
確かに割と距離があるので思い切り投げるのは違和感がないどころかそれでも届くか怪しいと思うだろう。
――それはこの小娘が普通の子であったらの話だ。
先程我に向かって袋を投げつけていた。その時我が取った行動は上に勢いを逃がすというものだ。この行動から推測できること、それは。
小娘は吸血鬼になって身体能力が向上した我より純粋に力が強い。
我ですら受け止める事ができなかったのだ。しかも袋という空気抵抗をかなり受けいてる状態で、だ。
今小娘がフルスイングで投げたぬいぐるみ(我はそれをぬいぐるみと思っていない)は袋と比べると空気抵抗をあまり受けない。
そりゃあそうだ。弓を使ってやを放つのとさほど変わらないだろう。それにマナを込めてあるので布と綿でできたぬいぐるみは圧によって潰れる事はないようだ。……かなり細長くなっているが。
それは既にぬいぐるみでは無く、弾丸に近い。ただの兵器だ。風圧で家のガラスは割れ、神殿に思いっきりぶつかる。
どっごぉおおん!!
大きな穴を開けてぬいぐるみもどきは神殿に侵入し、うごうごとしていた。
「……結局破壊しているではないか」
「すみませんんんんん!! 建物の耐久面に対しての認識が欠落していましたぁ!!」
幸い大黒柱等の建物を支える上で重要な場所に穴が空いた訳では無いので、この攻撃で建物が倒れる事はない。それに人が居ない場所目掛けて投げていたようで、村人自体に被害はないようだ。今後の発展に支障がないことを祈ろう。
それにこの混乱に興じて村人を動かすと言うのも手だ。もちろん長を見つけなければ話にならないのだが。人は不安や恐怖に狩られた時、判断能力が低下する。そういう時に長が告げた命令に従わない者など殆どいない。人間は個より集団の意見が反映されやすい。そういう生き物だから。
小娘が建物の中に入ったようだ。
「メイヴンさん。来てください」
我は吸血鬼になってから、初めてこの神殿の中に入る事ができた。
何十年ぶりだろうか。いやあの時は――だったから「メイヴン・アトライア」として入るのは初めてだ。
そういえば小娘の名前を聞いていないことに今更気が付く。小娘は小娘と呼ばれて返事をしているので問題はないのだが、偽名とはいえこちらだけが名前を知られているのはアンフェアだろう。
「……小娘、名前は?」
「そういえば言ってませんでしたね。クレイニアム・アンダーリビオンって言うんですけど長いのでクレアでいいですよ」
「……気が向いたら呼んでやろう」
「上から目線すぎですよ……。はぁ、……この先は別行動ですね。やる事は覚えますよね」
「我は主に人間共の避難誘導、小娘は時間稼ぎだな」
「じゃあちゃっちゃと村の長見つけて下さいよ」
そう言って小娘とは逆の道を進む。早めに見つけなけれならないのだが、羽を使うと吸血鬼だとバレてしまう。そういえば耳も見つかると面倒だ。
結っていた髪を解き、耳を帽子の中に入れる。無理やり入れているので激しい動きをすると出てきてしまいそうだ。気をつけなければ。
久しぶりに解いた髪を弄りつつ、呪いで見えなくした自分の分身(小さな蝙蝠)を飛ばす。長を探すためだけなので殆どマナは込められていない。
ここで分身を蝙蝠にする事によって発生する利点を話そう。蝙蝠は視力が弱いので、一見探索には不向きに思われるだろうからな。
自然界の蝙蝠も、我が分身とする蝙蝠も視力は殆どない。それどころか前者の方が視力は上だろう。では何故蝙蝠は方向を間違えることなく飛ぶ事ができるのか。……それは超音波が起因している。放った超音波の反響で障害物を把握する事ができる。
それは自然界の蝙蝠話だが。
我の分身となる蝙蝠はそれに加え、微弱なマナを放つ事ができる。それは障害物を貫通する。つまり人の位置をいち早く確認する事ができる上にマナをあてられた人への害はない。それ程微弱なマナでいいのだから。
超音波の反響と似ているが、人間がマナを吸収する事によってできた空間から個人を特定するので原理は同じでも読み取る方法はほぼ逆に近い。
しかしそれでも個人の特定は難しいのではと思うだろう? 我が長の外見を知っていたとしても、蝙蝠だけでは身長や骨格を正確に判断する事はできない。
しかし問題はない。
この村に長と同じ身長の少年はいない。
どうやら蝙蝠が長を見つけたようだ。一応自分でも探していたので今は神殿の三階辺りにいる。
ふむ、場所は……。
…………え。
「……貴女も民を食べに来たのか、吸血鬼」
ここまで読んで下さりありがとうございます。
ここでクレアが言っているイタズラというのは間話「Q. 趣味は遺伝するものなのだろうか」の話です。
他の人から見ても彼女の趣味はイカれてるようですね。
緑の奴なら家にフェルトがあったので実際に作れそうです。……ボタンあったかなぁ。




