─8─ アルコール度数B
こんにちは、もしくはこんばんは。
UrANoです。
母親が笑い上戸なので多分UrANoは絡み酒です。特技は場酔いなので。
「……この村があそこに居る吸血鬼によって支配されている、というのはマナが視える君なら解るだろう?」
組んだ足を禍々しいマナの流れへ……村の中で一番大きな建物の方へ向ける。
他の建物からは人の気配がしないので、あの大きな建物に集められているのだろう。……地下にいた人……操られていた死体は何が目的で……。
……っ、まさか。
メイヴンはくつくつと笑う。それは誰に向けての嘲笑だろうか。
「アイツは村人だけに飽き足らず、旅人も餌として見ている。君の血が吸われるのは避けないといけなかった」
血を吸いすぎて死んだ村人は傀儡として、旅人を拘束するために地下に置いていたのか。おそらく生きている村人はあそこに幽閉され、吸血鬼に血を献上しているのだろう。
……趣味の悪い。
おかしい。
ならあの村はもっと見やすい位置の方が旅人が寄って来るだろう。地図にない隠匿された、人を喰らうために存在している村のはずだ。傀儡の数と腐敗具合的に、相当長い間この悪循環は続いていたのだろう。その割に、傀儡が少ない。
「……この村に認識阻害の呪いをかけたんですか?」
旅人が寄って来なければ村の人の血を吸うしかない。しかし闇雲に殺してしまうと逆に村人が全滅してしまう。あそこに居る駆除対象はそれだけの知能はある様だ。
メイヴンは認識阻害を使っていた。駆除対象の傀儡を、騙すことができる程の。精度の高い認識阻害を。
つまり村自体を隠すことによって、被害拡大を防いだのだろう。新たに喰える人がいなければ、駆除対象は今ある人に対して慎重になるのだろう、と。
「ここ五十年くらい旅人はこの村を見つける事ができなかった。君、どうやって僕の認識阻害を掻い潜った?」
「空飛んでたら見つけましたよ?」
「…………君、空飛べるのか!?」
「風圧の存在さえ忘れなければ、ですけど」
「……? さすがに上から見られるとは思わなかったから……側面のみにしたのは失敗だったか」
少女はため息をつく。
簡単な事のように言っているが、呪いは五十年も続かない。それも人の血を一滴も啜っていない吸血鬼の呪いだ。何度も血を欲する衝動に耐えていたのだろう。それでも村人に牙を向けることなく、彼女は「人」を守っていた。
「メイヴンさんは元はここの村の人だったんですか?」
「お、いい着眼点だな。小娘」
突然小娘呼ばわりされてしまった。まぁ、確かにメイヴンさんの方が少しだけ身長が高い。私『葬送者』として蘇って? から一年しか経ってないからあながち間違っていない。
「答えは、ノーだ」
我が物顔で民家の椅子に座っているので、この家はメイヴンさんの家だと思ったのだがどうやら違うようだ。
それによくよく考えたら村人はあの大きな建物の中にしかいない。例え侵入したとしても気が付かれない。
ぴこぴことメイヴンさんの耳が動く。少し長く角がある耳は、吸血鬼の特徴のひとつでもある。
ちなみにコレが横長だとエルフと呼ばれる架空の生物となる。おそらく太古の昔、魔法が広まっていない頃に偶然少し耳の長めの人が魔法を使った事によって誕生したのだろう。『葬送者』の可能性もあるが、クレアの耳は常人と変わらない。
神父様とグランオニーチャン、そしてルヴァンくん以外の『葬送者』にあったことがない。なので『葬送者』の中に耳が長い人がいないとは言いきれない。
メイヴンさんは立ち上がって何かを探し始めた。ぴこぴこと動く耳が金属探知機にしか見えない。実際にマナを感知して動いているのだろうか。
もしくは呪い……?
にしては彼女の表情は、何かを期待しているように見える。私は家の造りを観察しつつ、禍々しいマナを放つ駆除対象をどう倒そうか考えている。その為彼女の鼻歌がほんのわずかしか聞こえなかった。
「……お? あったぁ!」
計画を三つほど考え、そこの上機嫌な吸血鬼を計画のどこに使おうかと思ったところで聞こえた。どうやら何かを見つけたらしい。
…………ワイン?
「ワイン、好きなんですか?」
「……いや、飲んだ事は無かったが……気になっていたんだ」
「見たところ……この家に人の住んだ形跡は殆どありません。長い間空き家だったのでしょう。食料もありませんし」
いそいそと彼女はワインボトルを開けようとして、固まる。数秒を有してやっと理解する。
……この人開け方分からないのでは? と。
確かにワインボトルを開ける機会など、余程のワイン好き以外あまりない。何故なら、流通しているワインはコルクではなく蓋を回して閉めるタイプの物が多いからだ。コルクは抜くために必要な機械があるが、蓋は回せば開けることができる。それにコルクと比べると生産コストを抑えることができる。
彼女の身体には熱を有していないが、なるべく中のワインが自身の体温で温まらないようにするような持ち方をしている。
そういえば彼女はここ五十年くらい旅人を寄せ付けないようにする為に、認識阻害の呪いを村にかけていたと言っていた。つまりこのワインは相当熟成しているのだろう。
ちなみにワインは酸化に対する抵抗力が強いので未開封状態なら腐る事は殆どない。だが、ワインによって「早めに飲んだ方が良いもの」と「成熟した方が良いもの」がある。彼女が見つけたワインはどちらなのだろうか。
「そのワイン、収穫年いつですかー?」
ワインには賞味期限がないので代わりに収穫年が記載されている。
メイヴンさんは即座に答える。
「黎月21年……76年前だ」
ワインボトルの収穫年や成分が記載されている紙はこちらを向いている。吸血鬼だから匂いとかで分かるのだろうか。
黎月という暦は聞いた事がないのでこの村……元々は割と発展していた街だったのだろう。あの大きな建物がその証拠でもある。木製に見えるが、他の家と比べて造りが細かい。
それが吸血鬼によって衰退したのだろう。1世紀もしないうちに。
ポンッと軽い音がして、辺りにぶどうの香りが広がる。呪いの応用で蓋を開けたのだろうか。コルクを細くする呪い、だろうか。それともワインボトル内の空気に何かしたのだろうか。
いつの間に見つけていたのか彼女はワイングラスに開けたばかりのワインを注いでいた。
どうやら赤ワイン……それも少し茶色寄りだ。茶色……うぐぅ、不毛の味を思い出すぅっ!
彼女はワイングラスをクルクルと回し香りを楽しんでいるようだ。これを吸血鬼の彼女が行っていると、グラスの中身がワインではなく血に見えてしまう。おそらく駆除対象の方はグラスに血を注ぐタイプなのだろうが。
彼女は一向にワインを飲もうとしない。ただ注いで見つめているだけだ。
ぼそりと何かを呟いた。ここからでは聞こえないし聞く気はなかった。その後すぐにこちらへ戻って椅子にドカッと座る。
「……飲まないんですか?」
「アルコールを舐めていた」
なるほど。酒は聖なる儀式に使われる事もあるのだ。その為吸血鬼の彼女は飲めないのだろう。もしくは普通にアルコール度数が高いからというのもありそうだ。
メイヴンさんは大きな蝙蝠のような羽を少し広げ私に問いかける。
「そういえば君、やけに吸血鬼に詳しいけどその情報はどこで知った?」
「前まで住んでたところの図書館に吸血鬼についての本があったんですよ」
「ふむ……。ちなみにアイツをどうやって殺すんだ?」
「……え、太陽の下に拘束しますよ?」
クレアはさも当然、と言いたげな表情で述べる。吸血鬼は太陽の光に弱い。何故なら太陽の光は聖なる光の象徴とされているからだ。そのため吸血鬼は太陽の下を歩けない。
「その後はどうするんだ?」
「勝手に消滅するんじゃないんですか?」
教会内で「魂の暴走」に犯された動植物は太陽の光で消滅していた。神父様も、太陽と「魂の暴走」を浄化する事のできる『奇跡』は近しいものだと言っていた。なので夜明け前に捕まえて晒しておけば勝手に消えるものだと思っていた。
相手を無力化するのには割と自信があるのでその点においては気にしていないのだが、クレアの能力を知らないメイヴンに呆れた目をさせている。
「僕が君の血を欲しがる時点で察してると思っていたのだが……」
そういえばそうだった。
彼女は出会い際に「血をくれ」と言っていた。つまり『葬送者』の純粋なマナに対して過剰反応を起こさない……耐性があると言うことだ。それは言い換えればこの世のマナを力に変換ができるということだ。それが『奇跡』か「呪い」かは誤差でしかない。
太陽の光が聖なる光であろうが、吸血鬼にはそれすらも呪いの糧とするだけの力がある……という事だ。
だが、本の情報が全て偽りという訳ではないようだ。この村に入った時がいい例だ。
あの時彼女は村の前に佇んでいた。そして私が来ないのかと誘った瞬間に村に足を踏み入れた。
吸血鬼は招かれないと入る事ができない。私が彼女を招いた事によって村に入る事が出来たのだ。
その特性のせいで彼女はあの大きな建物の中に入れないのだろう。あの中にはこの村の人々を支配している駆除対象がいる。しかしその駆除対象が彼女の侵入を拒むとする。
すると彼女は、メイヴンはあの建物に招かれていない者となるのだ。その為彼女はあの建物の外からしか攻撃ができない。認識阻害の呪いで村を隠匿したのも駆除対象の弱体化を目的のひとつとしているのかもしれない。
「さて、君はどうやってアレを殺す気なんだ?」
ここまで読んで下さりありがとうございます。
私はお酒飲むとすぐに顔が赤くなります。血色が常に悪いので。
お酒く珈琲(制限中なのでアールグレイ)
ですが、お酒の中で何が一番好きかと言われたらレモンサワーが好きですね




