─7─ Ag++H₂S⇒Ag₂S
こんにちは、もしくはこんばんは。
UrANoです。
最近更新が早いと思った方。正解です。
二章を投稿したい日が決まっているからです。
なのでしばらくは投稿頻度が上がります。
「……へぇ」
メイヴンは私を見つめ、笑う。それは先程の三日月の様な裂けた嗤みでは無い。しかし月や星々が照らしたその二本の歯は常人よりも長く、鋭い。
「君も、……いや、君は吸血鬼じゃないな」
「それは貴女が一番理解っているんじゃないですか?」
吸血鬼もマナが視える。つまり身体がマナでできているのだ。しかしそのマナは『葬送者』と違い、穢れているのだ。その為吸血鬼はそのマナによって性格が荒んでいく。……はずなのだが。
(元魔法使いの吸血鬼なんて前例がないんだよなぁ)
目の前の吸血鬼に、吸血衝動を抑えようとしている素振りは見られない。そして血の匂いもしない。確か本に書いてあった吸血鬼の……。
「あの、メイヴンさんは吸血鬼なんですよね?」
「だから血をくれって言ってるんだけど」
「あとであげますから」
「よっしゃ」
メイヴンはガッツポーズを決める。その時キラリと彼女の着けている耳飾りが目に入る。
「銀……効果無いんですね」
「あぁ、コレなぁ」
カチャッと少し長い爪で銀製の耳飾りを弾く。本人は気に入って着けている訳ではなさそうだ。
「僕が、「アイツみたいな」吸血鬼にならない為のおまじない、だ。あと操られないようにする為でもある」
彼女の深海のように深い青の目は、禍々しいマナを見ていた。……否、睨みつけている。
その敵意に偽りはなかった。
「植物とか動物もそうですけど、人間って誰しも少量のマナを保有してるじゃないですか。人間が個として保有しているのが一番多いってだけ。吸血鬼は血からマナを吸収してるんですよね。呪いを使う為に」
「詳しいな……。補足すると「人の恐怖」も呪いの糧になるから効率が良い……ってアイツが言ってた」
「つまり貴女は血が欲しいのではなくマナが欲しいんですよね?」
彼女が敵では無い事はわかった。つまり「人の恐怖」というものは私が血を与える際、手に入らない。純粋にマナが欲しいのは確実だろう。
ただ、問題がひとつあった。それは私が普通の人間ではなく、マナの塊だということ。どのくらいまでなら許容範囲なのかが分からないのだ。彼女が血の1滴で満足してくれるか分からない。多分血、1滴でも多すぎる気がする。
それに吸血鬼は血以外の食べ物を受け付けないという話だ。彼女に適応されているのかは定かではないが……。
「メイヴンさんって人間と同じ食材食べれますか?」
「普通に食えるが?」
「あ、じゃあコレで我慢してくれませんか?」
そう言ってクレアが差し出したのは、腕……ではなく固形食だった。ついでに夕飯時だったので自分の分も出し、二人分の紅茶を入れる。
メイヴンはぽかんとしていた。私が『奇跡』を使ってお湯を出した事にではなく……血を与える与えないでいきなり固形食を出された事に、だ。
逆に『奇跡』には驚く事はなかった。「魂の暴走」に侵された動植物は『奇跡』に対して警戒するはずだ。己を浄化してしまう力なのだと本能で解るのだろう。
目の前にいる吸血鬼は吸血鬼のようなものとして捉える事にした。
つまり抹殺対象から警戒対象に切り替えた、という事だ。それに抹殺対象はこの村に居る。
抹殺対象に向けていた視線を警戒対象の方へ戻す。
彼女はまだぽかんとしていた。
「……牛乳より笑えないんだけど」
ポソッと呟いていた。
失礼な。食べ物を与えているだけありがたく思えっ。一酸化炭素と結合した血でも飲ませてやろうか?……というのは心の中にしまっておく。この後の反応が気になるし。
彼女は吸血鬼モドキである事を誇りに思っている訳ではないが、自分が吸血鬼であるという自覚はある。そして割り切っている。
彼女の性格からして吸血鬼の残忍さ、恐ろしさを知っている。吸血鬼と成ってしまった瞬間は絶望したのだろう。敵意に混ざっていた哀しみの様な感情が答えだ。
「まぁ、騙されたと思って食べてみてくださいよ」
私は固形食の袋をあけ、もぐもぐと咀嚼する。今日はバニラ味。彼女にはチョコレート味を渡している。しばらくはチョコレート味を食べただけで数時間前に体験した不毛の味を思い出しそうなので。作ってくれた三人には申し訳ないが彼女に食べてもらう事にした。数日経てば問題ないはずっ。
さて、ここでおさらいをしておこう。
私達『葬送者』は基本少食だ。主食がマナみたいなものなのであまり食べ物を食べなくてもいいのだ。といっても空腹感はあるので少し食べる。
この固形食は教会でグランオニーチャンとリアさんが作ってくれたものだ。料理を作る上で水は欠かせない。それに教会内は常にマナが生成される。
つまりこの固形食は作る工程で他の料理よりも多くのマナが含まれているのだ。個包装によってマナが拡散するのを防いでいる。料理にもマナは多少含まれているのだが、この固形食とは雲泥の差だ。なので私は毎食一本しか食べてない。……ほんとにそろそろ手料理が恋しくなってきた。
メイヴンさんは恐る恐る一口食べる。……小さな一口だ。それに所作も綺麗だ。……ふむ。
あー。なるほど。だからこの家には入れたのか。そして彼女はあの吸血鬼を倒す事ができないのか。
「…………」
「お味はどうですか?」
「……うっま」
「満足しました?」
「血よりも美味」
「貴女、人の血飲んだことあるんですか?」
吸血鬼の瞳は本来青いのだが、人の血を飲めば飲むほど赤くなる。しかし彼女の目には赤が見られなかった。というか私の方が吸血鬼感あるんですけど。目が赤と黄色ですし。……元からですけどね!
「怪我した時に舐めたくらいだ。もちろん自分の怪我以外は血を啜っていない」
との事。
わかってはいたが、一応本人の口から聞いておきたかった。彼女に鉄が効かないのは……それは「他人の血を吸っていない」という至極当然な理由だった。
人の血を飲んだ吸血鬼は硫黄の匂いがするという。そして銀は吸血鬼を、唯一写すことができる。つまり銀に魂を固定する事ができるのだ。固定された魂は銀と硫黄の化学反応によって消えるのだ。唯一自身を写していたものに写らなくなるからだ。
彼女が着けている銀の耳飾りは彼女を写している。その為彼女が害のない吸血鬼なのは初めからわかっていた。そして「おまじない」の意味も。彼女が吸血鬼について詳しい事も。
……私の血が例外だということが彼女にはバレていたようだ。
「あ、そうだ。あとであそこの吸血鬼駆除するので知っている情報全て吐き出してくれません?」
メイヴンさんは驚いて固形食を落としかけた。
それを持ち直し、言う。
「アイツを殺した後、僕を殺す気?」
月明かりに照らされた少女……吸血鬼は、人間にしては異常な縦長の瞳孔を細める。口は薄く笑みを浮かべている。
バチッ、と黒いマナがぶつかる音。
「あ、別に貴女を駆除する気はないです。あと今、私に攻撃したら向こうにいる駆除対象にバレちゃいますよ? この家に認識阻害の呪いを付けてるんですよね」
「……僕、お前嫌いだわ」
「私は貴女に興味無いのでどうでもいいです。……あ、最低限の興味「は」あります」
「……はぁ、いいよ。教えてやる」
雑な座り方と裏腹に、彼女は丁寧な所作でティーカップを持ち紅茶を啜った。
ここまで読んで下さりありがとうございます。
突然ですが、皆様はタンパク質が何で出来ているか知っていますか?
炭素、水素、窒素、酸素……そして「硫黄」です。
タンパク質の摂りすぎは腎臓に悪いので辞めましょう。




