─6─ 禁止事項
おはようございます、もしくはこんにちは、こんばんは。
UrANoです。
今回は前話でも言いましたが、挿絵付きです。
前回までクリスタの3D人形をベースに描いていたのですが、今回はラフから何まで自力です。
「…………はへぇ?」
突然突拍子も無いことを言われ、クレアは混乱する。先程の彼女の話から推測した事を言っただけなのだが、何故か犯人とされてしまった。
……そもそもなんの犯人かすら分からないのだが???
私は人を呪うことは出来ないし、ましてや関係のない他人を呪う程暇では無い。さらに言うと何事においてもそれ相応の労力を必要とする。それを赤の他人しかいない人に無条件に提供する程の性格は持ち合わせていない。
呪いなんて跳ね返りがあるのだからできたとしても絶対にやらない。跳ね返りを恐れない……もしくは自分を捨てる覚悟や、呪いをかける相手に対する憎悪が恐怖を上回るなんて事は人生で遭遇したくないランキング第三位だ。
ちなみに第二位はお風呂に入れない事。つまり経験済だ。ランキングは先程更新したので、クレアの頭の中で定期的に入れ替わるが、お風呂無し一週間は彼女にとって相当ストレスがかかっていた事が伺える。
ズリ、ズリ……。
足を引きずりながらこちらへ向かって来る音がする。先程すれ違った人が左脚を引きずりながら少しずつ私の方へ向かって来ている。しかも退路は絶たれてしまった。『奇跡』を使って逃げようにも焦って使ってしまったらこの狭い石造りの地下が潰れてしまう可能性がある。こういう時『奇跡』の攻撃性の高さを少し恨めしく思う。
あと石造りの地下も。
私達『葬送者』には禁止事項がある。それは「どんな事情があったとしても人を殺してはいけない」という、珍しく倫理観のあるものだ。いるか分からない天の人は基本丸投げ(私がそう思っているだけなのかもしれないが)なので明確な禁止事項があるのは珍しい。
そもそも『奇跡』が人を救う為のモノだ。救う人がいなければ『奇跡』の意味がない。だからだろう。わざわざ禁止事項と明確に示している理由は知らないが、普通に考えても人を殺すなんて私にはできないししようとも思わない。しかし不慮の事故、それも『奇跡』を使用した事故によって負った怪我で人を殺してしまう可能性がないのかと言われたら否定できない。
……つまり今がその状況、という訳だ。
「えぇえぇえええ!? ちょ、近づかないでくださいよぉ!?」
ズリ、ズリ……。
足を引きずりながら近づいてくる人達は例外無く三日月の様な歪な嗤みを浮かべている。それに動きが人形……操り人形のようにカクカクとしている……。さらに顔の墨から感じ取れるマナが明らかに異質だ。
この村は既に何者かに……いや、吸血鬼に操られている。
まさか旅を始めて一週間、やっと見つけた村が吸血鬼のナワバリだったとは……。
なんて呑気に考えている暇はない。この後捕らえられたら何をされるか分からない。それに抵抗したらこの人達も危ない。操られているということは、吸血鬼がその気になれば何時でも殺す事ができる……という事でもある。
広範囲の『奇跡』を発動するとなると攻撃性が異様に高くなってしまう。かと言ってお湯を生成する程度では逃げ切ることはできないだろう。
つまり……これは、ちょっとまずーい展開。
辺りを見渡すも包囲網に抜け穴は無い。左脚を引きずっているせいで足元を抜ける事ができないのだ。しかも進み具合が一定なので、足を引きずる音が揃い過ぎて気味が悪い。
だが流暢なことを言ってられる時間は殆どない。だんだん足を引きずる音が早くなっている。
そして私と操られた村人の距離は残り3メートルを切ってしまう。
少し震えながら深呼吸をし、胸元のブローチに手を当てる。そしてマナを込めようとした瞬間。
バサバサッ!
目の前を無数の蝙蝠が埋め尽くす。
そして蝙蝠は一箇所に集まり、人の影を作る。影が粒子となって消えた時には目の前に少女がいた。いや、少女は蝙蝠の様な羽を腰に付けていた。
……吸血鬼だ。
纏っているマナが黒い。しかし害がある様には見えない。同じ黒いマナでも操られている村人の墨から感じ取れるマナとこの少女のマナでは前者の方が圧倒的に禍々しい。というか少女のマナは黒いだけで私が普段見ているマナとそう変わりない。枯れた木の近くにあるマナのような……。そんな印象を持った。
少女は私をチラリと見て、大きく息を吸う。
「何を隠そう! お前ら愚民に呪いをかけたのはこの僕! 不死身の吸血鬼、メイヴン・アトライア様さ!」
そう言いながら私を抱える。そして……身体が塵になる感覚。プツリと音がして、身体の感覚が消えた。
……と思ったのはほんの一瞬で、恐る恐る目を開けると夜空の上にいた。空を浮いていたのだ。
「……普通の子なら怖がるはずなのだが……。君、何者?」
「まずはお礼を言わせてください。助かりました。ありがとうございます。ただの旅人……では説明不足ですかね」
メイヴン・アトライアと名乗った少女は私を抱えたままゆっくりと降下していく。
そしてすとん、と地面に降り立つ。目の前を先程の村人が通るがまるでこちらが視えていないようだ。少女が一本踏み出す度に薄い霧が発生し、それが認識をズラしているのだろう。
少女は私を下ろす。しかしその場に佇んでいる。
「……入らないんですか?」
「……」
ツカツカとヒールの音を立てながら、しばらく歩く。そして止まる。目の前には家。他に建てられている家となんら変わりない。
「……お邪魔します」
少女はそう言いながら壁をすり抜け家に侵入する。そして腕だけにゅっと出して手招きをしている。もし幽霊屋敷に行くとなったらまず初めに見るであろう奇象のようだ。
「……っえぇぇ!?」
これには私もびっくりだ。
壁をすり抜けた事にでは無い。『奇跡』を発動していない私も壁をすり抜けた事に驚いた。
すぐに口を塞がれてしまった。小声でうるさいと言われた。こっちはなんも自体を把握出来てないんですけどぉ。ぶーぶー。
「ん」
やっと私を下ろしてくれた。その後すぐに少女が手を差し出す。
「……え、何ですか?」
「僕言ったよね? 吸血鬼だって。対価は払ってもらわないと……」
「つまり……?」
「血を差し出せ」
横暴だ。確かに助かったとはいえ後出しだ。彼女が地下から逃がしてくれなかったらもっと面倒なことになっていたが。……あ。そうだ。
「牛乳じゃダメですか?」
「もしかしてだけど、僕の事舐めてる?」
「あ、普通に疑問に思っているだけです。牛乳……牛の乳は血液からできているんですよ」
「吸血鬼のアイデンティティを奪うな」
「……そう言われましても」
別に血を少し分けるくらいどうってことない。問題は私が普通の人間じゃない事がバレる。あと初対面で血を差し出せる程、信用できる要素がない。血云々よりも先に聞いておかなければならない事があるだろう。
「あの死体達を操っていたのは誰ですか?」
少女は……メイヴンは目を見開く。その目は深海に夜空を写した様な色をしている。
地下にいた人は既に何者かによって殺されていた。気が付いたのはついさっき。引きずっていた脚が腐敗していたのだ。それと私を抱えていた村の男に泥が付着した時、シャツと肌が触れた瞬間に薄く死斑が見えた。
死斑とは心臓が停止する事によって動かなくなった血液が、重力に従って体の低い位置にできる跡だ。
そして男は顎と首を動かしていなかった。死後硬直、というものだ。つまり男は死後2、3時間程しか経っていない。
ついでに言うとあの墨も死斑だ。傀儡にする為にわざわざ死後に死体を動かしてあの模様にしたのだろう。趣味が悪い。
「……血を飲ませてくれたら教えてあげるよ?」
少女は意地でも血を飲みたいようだ。さて、どうしよう。少女が敵では無いのは理解っているんだけど……味方である保証が無い。そもそもこの件において私はただの被害者だ。そうだ。被害者じゃん。……でも一応助けてもらったし……。いやいや!? 吸血鬼じゃん!? 聞いてた話と全然違うんだけど!?
あ、わかった。
「いいですよ。飲んでも。ただ、条件があります」
「え、ほんとにいいの?」
やっぱり。そうだ。
「貴女は今は吸血鬼ですが、元は善良な魔法使いだったんですよね?」
ピタリとメイヴンの動きが止まる。
すっと目が細く伏せられる。
「吸血鬼は呪いしか使えないんですよ」
私達『葬送者』が『奇跡』しか使えないのと同じで。
「ですが貴女は呪いでは無い何かを……魔法を使いましたね? 元々マナの耐性が高かったから「魂のぼ」……じゃなかった、えっと……。」
チラリと外を見る。とても禍々しい、マナの揺れが建物越しに見える。
「この村を支配している吸血鬼の様な残忍な性格にならなかった……という事ですね」
ここまで読んで下さりありがとうございます。
やっとセリフが増えてきました。実は一章、最初の1.3万文字……殆どセリフないんですよ。
気がついたらなんかどんどん不穏になってきましたね(⇦仮にも小説書いてるのに感想の中身が無さすぎる)。
それと新キャラ登場! です。
今回「死斑」について補足を入れようか迷ったのでネッ友とリア友に聞いてみたのですが、どちらもあまり詳しく知らなかったのでUrANoがより変人であることが判明しました。
感想やレビュー頂けると創作の励みになるので気が向いたら是非。お願いしますm(_ _)m




