─3─ ドジとは自覚しなければ気が付かないものだ
こんにちは、もしくはこんばんは。
UrANoです。
幼い子がよく転ぶのはドジではなく自然の摂理です。異論は認めません。
グチグチと文句を言いながら地面に足を着く。服が少し湿っているが問題はない。後ろを振り向くと濁流が今も勢いよく流れている。
先程空を飛んでいた(不可抗力)時に左側に村を見つけたので、現在そちらへとぼとぼ歩いている。
「へくちっ」
やっぱ服乾かそう。そして村に着いたらお風呂を借りよう。雲は水蒸気の塊と言ったが正確には水蒸気「と」塵でできている。ひぃん。全身塵と砂ぼこりだらけぇ。お風呂のありがたみが沁みるよぉ。
あと村に着いたら現在地も教えてもらいたいものだ。この地図には川は記されているが特定するには情報が足りなさ過ぎる。それにこの地図ができた後に生まれた川の可能性もゼロではない。
「そもそも、この地図本物……?」
相当古い。……わざわざ偽物の地図を貼っているのもおかしいか。いや、違う。
香部屋に地図がある事自体おかしい。神父様もグランオニーチャンもリアさんも、もちろん私も教会外に行く用事がない。そこを不思議に思うべきだったかもしれない。
過去の事は一旦置いておこう。
今は見つけた村へ向かうことが優先だ。……その村が廃村では無い事を祈る。
あとお風呂がある事も祈らなければ。
……ちょっと待って。
普通にお風呂入れてもらう前提で考えたけど村に宿とかあるのかな。無かったらどうしよ。いきなり知らない人を家に泊めるって割と抵抗あるだろうし、私の身なりじゃ怪しまれる可能性の方が高い。
何故なら『葬送者』は常人よりも色素が薄い。マナの塊だから。一応人の形をしているし、怪我をしたら血も出る。もちろん赤い。色素が薄いがヘモグロビンは存在しているようだ。……と思いたかったのだが。
血が空気に触れた瞬間赤くなるのだ。つまり『葬送者』は酸素を必要としない。人間の老化の要因は酸素による酸化だと言う。『葬送者』の寿命が長い理由のひとつだろう。もうひとつはマナが関係していると思う。
つまり人前であまり怪我をしない方がいい。傷口から溢れる血にもマナがある。マナを無駄に消費してしまうので傷は負わないのが吉だ。……あと個人的に傷ついた身体を見たくない、というものがある。
教会はマナが豊富なので怪我をしてもすぐに治すことができる。そう、『葬送者』が目覚めたあの部屋……液状化したマナが常に湧き出ているのだ。その為『奇跡』を学ぶのに教会はうってつけの場所でもある。吸収できるマナが無限だから。
教会にいるだけで身体がマナに慣れていく。そうして教会で生まれた『葬送者』は『奇跡』を学んでいくのだ。
「……学んだのは本当に『奇跡』についてだけだったなぁ。色々本読んでおいてよかった」
教会内に色々な本がある理由は、目覚めた『葬送者』が何かを自身で学ぶ為なのだろう。図書館へ案内されたその日、寝る間も惜しんで本をぶっ通しで読んでいた。翌日リアさんに怒られた。その後もしばらくの間、夜中に寝室から抜け出して図書館へ本を読みに行く……というのを繰り返していた。
当然睡眠不足に陥り、廊下で爆睡してしまった。そしてバレた。
様々な種類の本を読んでいたおかげで濁流に飲まれることを回避したので結果オーライ。
あの時私は「読める時に読まないと」と思っていた。別に読もうと思えば何時でも読めるのに。
私が愛読家と知ってから、神父様は定期的に本を買ってくれた。グランオニーチャンは私が宝石の本に興味を持った時に宝石をくれた。リアさんは私が現在愛用している実験器具をくれた。
私の家族はとても優しい。
そういえば宝石の図鑑を見ている時に神父様が『奇跡』と宝石の関係について言っていたなぁ。
なんて言ってたっけ。……確か「宝石には……」
ぐぅぅぅ。
もうこんな時間なのか。
いつの間にか太陽は真上を照らしている。数時間歩きっぱなしなので少し足が痛い。考え事をしながら歩くとすぐに時間が経ってしまう。
足元が土から草に変わっていたし、太陽の光は木に生えた葉に遮られ木漏れ日として地面を照らしている。少し涼しくなったとは思ったけど、森の中に入っていたとは……。よく木の根でコケなかった! 私!
「うぇっ? ったぁ……!」
コケた。
意識した瞬間コケるとは……。私、ドジっ子の才能があるのでは?
そろそろお昼の時間なので座れそうな場所を探す。丁度近くに良い感じの切り株があったのでそこに腰掛け、固形食の袋を開ける。
そろそろ固形食以外の食べ物が食べたくなってきた……。少食だが、普通に食べる事は好きだ。教会でリアさんが作ってくれる料理はとても美味しかった。グランオニーチャンが作る料理はオニーチャンが昔行った国の伝統料理だと言っていた。「今も繁栄してるかは不明だけど」と小声で呟いていた。料理は独特な味だったけど普通に美味しかった。たまに夜食を作ってくれたし。
私は料理作れないからなぁ……。料理の練習する前に旅に出る事になっちゃったし。固形食たくさん持たせてくれたのもそれが理由なのかな。
もきゅもきゅと噛み締めながら食べる。
ふと気が付く。
「……森ぃっ!!」
そう、ここは森なのだ。木の実があるではないか! 固形食の最大の長所かつ欠点は乾燥している事だ。乾燥しているので日持ちする。しかし乾燥しているので口の水分が持っていかれる。さらに言うと、それを忘れて口に固形食を放り込んだので現在進行形でパッサパサなのだ。
一応『奇跡』で水やお湯を出せるので珈琲を作る事はできる。あと普通に珈琲以外の茶葉もあるので、お茶も飲むことができる。カフェインの摂りすぎは良くないってグランオニーチャンが言ってた。
だが今は目視できる範囲に村を見つけたので『奇跡』を発動している所を人に見られる可能性がある。『奇跡』は「魂の暴走」を浄化する時以外に見られてはいけない……という決まりはなく、普通に「不思議な力を使う自称普通の旅人」ってどんな人でも警戒対象に入ると思うんだよね。
つまりこの場で『奇跡』を使わないのはこれから入国――村なので正確には入村? と言うべきなのだろうか――するにあたって警戒されないように、不審な動きを控えるというちゃんとした理由があるからだ。
それと同時に口の消え去った水分を……口の中に潤いをもたらす事ができるのは、この森にあるかもしれない果実しかない……という訳だ。
ここに来るまで考え事をしながら歩いていたので、この森に動物が暮らしているかは分からない。近くに水脈――先程巻き込まれそうになった濁流もとい川――があるので木々が成長するには問題ないはずだ。先程の濁流のせいで近くの川の水はろ過しても飲めそうにないので果実を探すしかない。ここに生えている木の中に果実を付けるものがなければ口の中がパッサパサのまま村にお邪魔するしかない。
それは避けたいところだ。
正直口だけではなく他のところもパッサパサなので割と限界が近づいてきている。
さすがに見つけた動物の血を啜る程喉が渇いている訳では無いし、実際にそれをやったら服が血で汚れる。そして警戒される。それに動物が居ればこの森に食べ物があるという証明になるので、それさえ教えてもらえればいい。無駄な殺生は控えるに限る。うんうん。
とりあえず目視できる範囲には動物は見当たらない。先程空を飛んでいた時に、川の水がこの森にも向かっていたのでその辺りまで移動しよう。多分濁流のせいで川周辺はびしょびしょになっているのだろうけど……。
「……うん、びっしょびしょだぁ」
クレアの口の中に反して辺りは少し濁った茶色い水で溢れていた。ちなみにクレアは現在木の上にいる。直径8キロメートルの川の濁流が小さな川に押し寄せているのだ。下手したら逆流している可能性すらある。川の近くを歩く事ができるとは思えない。その為途中から木々をジャンプしながら移動していたのだ。身体能力が高くて助かった。まぁ、足を滑らせて落ちたら茶色いクレアの完成だが。
せっかく泥まみれルートを回避したのにここでドジってしまうのは情けない話だ。
ガサッ。
突然近くの草が揺れる音がした。そして現れたのだ。クレアが数日間恋しがっていた(?)人間が。
「……っ! そこに隠れているのh……」
「やぁっと!! 動物見つ、あっ……」
さて、先程私が言っていた事を思い出そう。この森に入ったのに気が付いてすぐに言った事を。正確には思った事だがそれは人がいないさっきでは独り言となんら変わりないので誤差だろう。
――私、ドジっ子の才能があるのでは? ――
私はそう思ったのだ。木の根がある事を自覚した瞬間にコケた。今回は足を滑らしたら起こる事象を想定した。
そして現在、全てがスローモーションと化した世界で、呆気なく木から落ちる自分に一言。
「私ドジ過ぎじゃないですかぁ!!!!!」
人間の事を動物と言ったことには気が付かなかった。
ここまで読んで下さりありがとうございます。
主人公の野生化が進んでいる気がします。知識はあるはずなのに。
ちなみに私、UrANoは話し方がアホっぽいと言われています。中身はと言うと……アホです。
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