─2─ しかし本人は物理法則に従順だった
こんにちは、もしくはこんばんは。
UrANoです。
この辺執筆中の検索履歴がイカれてて笑いました。
目が覚める。
今日もただ代わり映えのしない道を進むんだろうなぁ……。
あくびをひとつして珈琲を用意する。川の水はろ過したり煮沸する必要があるので『奇跡』でお湯を生成する。そちらの方が早い。
コポコポと小さな音をたてる。蒸らすのでお湯は少量。表面が少し湿るくらいで十分。お湯を入れた瞬間の香りに勝るものはない。もちろん飲んでいる時の香りも格別だが。
1、2分程置いた後に円を描くように少しずつお湯を注ぐのだ。
ゴポゴポと少し大きめの音をたてながら振動す……ん……? ま、いっか。
珈琲はろ過されながら少しずつカップに注がれている。ちなみにカップはビーカー。ちゃんと煮沸消毒済である。
何故ビーカーを持ってきているのか? 答えは簡単だ。教会でイタズラの幅を広げる為に実験をしていたらそれが趣味になってしまった。なので試験管やメスシリンダー、フラスコ等がカバンの中に大量に詰まっている。さすがに顕微鏡は持ってこれなかったが。アレかなり重い。
ビーカーに注がれた珈琲を啜る。やはり朝の珈琲は目が覚める。テント内のミニテープに置く。
その反動で珈琲は波紋を描く。
……はずなのだが。
「……地震かなぁ」
水面が軽く揺れる程度なのであまり大きな揺れではない事は確実だ。それにここは平地なので倒壊するものがない。……地面が割れたら困るがその時はテントを畳んでカバンに入れて『奇跡』を使って飛んで行けばいい。緊急事態なら仕方ないだろう。そもそも人ひとりいないのだ。バレやしない。バレても魔法だと言い張ればいい。魔法の理論なんて全く分からないのでバレないで欲しい。
なんて考えている間も小さな揺れは収まらない。これは大きな地震の予兆の可能性がある。外に出てテントを畳み、カバンの中に入れる。カバンは教会のグランオニーチャンお手製の物で見た目に反してかなり多くのものを入れることができる。1ポケット五、六人。
珈琲の入ったビーカーは『奇跡』で空中に固定している。その為水面は凪いでいる。
珈琲を一口啜る。少し酸味が苦味よりも強く出始めてきた。
遠くで水音がする。かなり遠くなので見えないが、おそらく川が氾濫したのだろう。川の近くにいるのは危険だ。テント片して置いてよかった。
……もう少し離れた方がいいかな。
珈琲をちまちまと啜りながら斜め前へ進む。
さて、ここで問題だ。
地平線はどのくらいの距離だろう。そう、だいたい四キロメートル程だ。つまり私を中心とした四キロ圏内は干からびかけた川と森だったものしかない。私が森だったものをちゃんと確認していたらもう少し判断する時間が増えたのかもしれない。
足裏から地面が揺れているのを感じる。それと同時にゴゴゴゴ……と鈍く低い音も聴こえる。珈琲を飲み終え『奇跡』で煮沸消毒をしつつ洗う。そしてこれまた『奇跡』で水分を抜き取りカバンに入れる。
……少し嫌な予感。
右手を目の近くまであげ、くっつけていた親指と人差し指を離す。するとそこには少し先の風景が映っていた。そして指同士を離すことによって景色を少し拡大することができる。『奇跡』はインスピレーションなので想像力のある人程……なんでもできる。もちろん発動した事象に見合ったマナが消費されるので、『葬送者』はマナとインスピレーションが大事だ。
そのインスピレーションを駆使して見えた数十キロメートル先の風景は。
(やばいやばいやばいやばいやばいやばいぃいいー!!!!)
教会の物を破壊しても笑っている、心臓に毛が生えていると言われるクレアの顔を青ざめさせるには十分すぎるものだった。
それは川の氾濫だった。
では何故ここまで焦っているのか。そして辺りを高速で見渡しているのか。
先程まで見ていたものを「川」とするならクレアが見たのは川の氾濫だ。そう、見つけた時に跳ねながら喜んだ枯れかけの川。
もしそれが川の一部だとしたら?
今までの前提が覆されるのだ。
例えば殆ど石と土の地平線。例えば湿度。よくよく考えたら異様に丸い石ばかりだった。数日前進んでいた道よりも明らかに小さな石だ。しかし少しずつ小さくなったものに変わっていていたので違和感がなかった。
土は遠い過去……数百から数百万年前にいた動植物の死骸や岩石が風によって削れてできるものだ。現在少し強めの風が吹いているのでそれが土を作る環境を手助けしたのだろう。運ぶという形で。
「今から走っても絶ぇ対に間に合わないじゃんっ!?」
風が吹き始めたのはつい数分前だ。川の氾濫によって押された空気がもうここまで来ているのだ。
そして地を這う低い音もだんだんと大きくなっていく。それに相対するかのように水音も激しくなっていく。
干からびかけた川だと思っていたものは川だった。しかしクレアが進んでいるこの場所もその川の一部、それも川床――川の底――に含まれていた。それだけだ。
つまり枯れた森だと思っていたのは流木で、湿度が高い原因は何かしらの理由があって川の水がせき止められていたから、という事だ。
せき止められた川の水が放流したらどうなるだろうか。
勢いよく流れる、の一択だ。
地平線いっぱい、直径8キロ以上の幅を持つ川になる。もはや自然の川なのか少し怪しいが川(仮定)としておこう。『葬送者』は身体能力が常人よりも高いとはいえ4キロメートル以上先まで移動するのに最低でも20分はかかるだろう。『奇跡』を使ったとしても相当マナを消費する。教会よりもここはマナが少ないのであまり大きくマナを消費する『奇跡』は避けたいところ。それに残された時間も少ない。
もう目視できる所まで濁流が見えている。つまり10分もしない内にここは飲まれてしまう。
さすがに死ぬ事はないと思うが大怪我してしまうだろう。あと服がまっ茶色になるのも確実だ(まっ茶色になるなら珈琲がよかった)。
そしてお風呂に入れない現状、それは絶対に回避しないと行けない。
(どうしよう……っ。何か、……っ!)
手に重みを感じ、目を向ける。無意識に神具を出していたようだ。
だが、そのおかげで解決策が浮かんだ。既に濁流は目と鼻の先だ。それでもクレアはニヤッと笑う。神具を掴む。
「うりゃああああーーー!!」
そして、飛んだ。
跳躍では無い。言葉の通り羽ばたいた。
クレアの神具は大きめの杖の形をしている。上部には宝石――彼女が石に詳しい理由は宝石収集が趣味だからというものがあるのでそれが反映されたのだろう――、そして羽のようなものがあしらわれている。そして神具はマナを込める事によって伸縮することができる。つまり分解もできるのだろう、そう思ったのだ。
魔法使いは箒で空を飛ぶと言うし。
辛うじて服を茶色に染める事を回避する事に成功した。
「……あっぶな…………。諦めて正解だった」
最初クレアは素手で、自身の腕力で神具を分解しようとしていたのだ。先程の「うりゃああああーーー!!」はその時の声だ。
秒で諦め真顔で空中浮遊したのだが。その為クレアは杖にぶら下がっている。羽は拡大し、鳥のように定期的に羽ばたいている。
「よいしょっ……と」
腕に少し力を入れ、足を上に動かし身体を振り子のように揺らす。そしてその反動を活かしてぐるりと回転し、杖の上に着地する。ふと、教会の階段の手すりを立ったまま滑って怒られたのを思い出した。
だが! ここには怒る人はいない! 自由だ!
そしてハイになった状態でスケートボードやサーフボードに乗るよう要領で杖の上に立ったまま一気に進……めなかった。
「風圧ぅうううう!!!!」
空気抵抗の存在を忘れていた為、神具(棒)は契約者を置いて百メートル程先に行ってしまった。幸い羽の方は背中にいたので濁流に落ちることはなかった。
その場でパタパタと片翼が自身の身長の三倍ほどある羽を羽ばたかせながら神具(棒)を呼び戻した。目に生気がなかった。それもそのはず。
神具に紙が挟まっていた。それも羊皮紙。重力に反してその場に留まっている。そしてちらりと見える筆跡から察するに……神父様が書いた物である事は確実だ。そもそも普通の羊皮紙が浮いている時点で神父様が関わっているのは確定だ。微妙に発光しているので夜でも見落とす事はない。
目を細めながら羊皮紙をまとめている糸を解く。
「神具を破壊しようとするな」
以上。
羊皮紙は光の粒となって消えた。気のせいだと思うがパタパタと羽ばたいている羽も笑うように震えているような……。ついでに戻ってきた神具(棒)も心なしかタカタカと音を立てている。
ため息をひとつついて、神具の上に座る。羽は大きすぎるので半分ほどの大きさにして濁流の上を移動する。
……まさか自分が川床を歩いていたとは……。そりゃ人も建物も見つからないわけだ。丸い石が多い時点で気が付くべきだった。川にある石は水の流れによって角が削れる。そして割れる事だってある。そうして小さな丸い石が増えていくのだ。
初めからこの方法で移動しておけばよかったなぁ。雲に隠れる形で移動すればバレないだろうし。……無理か。影でバレそう。うん、雲は水蒸気の塊だ。結局服は濡れるし……。
「お風呂ぉ……」
もきゅもきゅと固形食を食べながら呟いた。
ここまで読んで下さりありがとうございます。
中学理科を思い出しながら書いてました。中一の理科の授業はペン回しの練習をしましたね。親指で回すやつしか習得できませんでした。
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一章の一番時間かかる挿絵を描き終えました!




