白い玉と二匹の竜
佐我が進んでいくと変化はより顕著になっていく。
黄色の森が、どんどん白くなっていったのだ。
木も草も土でさえも色素を失っていく。
「やっぱり何かとんでもないことが起きているみたいだな?」
白化現象はある方向に進むたびに進行が早まっていたのだ。白化現象の中心に今回の神託が示す何かがあるのが佐我にもわかる。
佐我は神託から逃げる気はない。のすけやさやか、ノームらの子供たちが人質にとらえている以上、行くしかないのだ。
それに佐我の体調に相変わらず変化はない。
進む先にやはりタンカーのようなモンスターが倒れていた。しかも2匹もいた。
「ガチでリアルにでけえ……って二匹ともドラゴンかよ」
体の大半が白くなった超巨大生物はドラゴンの特徴を有していた。蝙蝠のような翼にトカゲのような体、全身に角や棘を生やし、鋭い鉤爪をしていた。
大角が生えているものと、首元に襟巻のようなひだがあるものの二匹のドラゴンはこれまでと同様にピクリとも動かない。
だが一匹の横を通り過ぎる時に佐我の脳に声が響く。
「人間よ……頼みがある。この先に落ちている白い球を、一緒に落ちている皮袋に入れ、しっかり口を閉じてくれ。おっとその前に、私とは違うドラゴンの止めを刺すのだ。そうしないと白い球を回収した途端におまえは食われてしまうだろう」
「うおっ、なんだ!?」
佐我は脳内に直接流しこまれた声に飛び上がって驚いた。謎の声は言う。
「驚かせて済まない人間よ。取り合えず我の言うことを理解するために先に進むのだ」
「いや、あんた誰だよ。てか、何で倒れているんだ?」
「そこの白い石のせいだ。は……早く袋にしまってくれ」
「白い石?」
佐我はパニックになりそうだったのでいったん落ち着くことにする。大角のドラゴンはまだ生きていてテレパシーのようなものを使ってきたのだと理解する。
またドラゴンはまるで10両編成の電車のように大きいが、酷く弱っているので脅威ではない。
今の佐我ならば走って逃げられる気がしたので、探査を継続することにする。
「よっし! 調べるか」
大角ドラゴンを警戒しながら歩いていくと、やがて白い石と小さい子供が目に入った。
2~3歳に映る、真っ白な髪と肌をした子供だ。顔つきはかなり可愛らしい。
子供はボーとした顔で佐我を見てきた。
「……まったくどういう状況かわからん。なんなんだ、この子は?」
目の前の光景に呆然としていると、また別の思念が頭に流れ込んできた。
「石を袋に入れる前に二匹のドラゴンを両方殺せ。その白い石をぶつければ簡単に殺せる。殺さないと君が殺される……」
「なっ!」
先ほどとは別の思念であった。
間近で倒れる大角のドラゴンの対面で倒れている襟巻ドラゴンが出した思念のようだ。
佐我は謎々のような言葉に思考が固まる。伝えてきたことを実行するとなると思念を送った襟巻ドラゴンも殺すことになるから、どう解釈すればいいのかわからなくなる。
「どうした? 白い石を袋に入れるんだ」
間近の大角ドラゴンがわずかに身じろぎしてそういってきた。これには鬼気迫る気配が混ざっている。
いや、この子の説明を誰かしろよ!
と言いたかったが優先すべきは白い石の処置だろう。どうも大事なもののようだし、異様な存在感を放っているのはわかる。
ゴルフボールより一回り小さいようだが、相変わらず有害な感触はない。よく見ると白い球が入っていたであろう革の袋も見つけた。
佐我は子供から15メートルの距離で考える。
死にかけのドラゴンと時間をかけて話す以外の選択肢はないかと考えていると、一つの閃きを覚える。
そうだ、〈経験値〉が溜まったからチャクラもしっかり回せるんじゃなかろうか?
チャクラとは体にある生命エネルギーを活性化させるチャンネルのことで、いくつかの宗教でその存在が信じられている。
佐我も前の世界でチャクラを回す訓練をしてみたことがあるが、チャクラの存在を感じることさえできなかった。が、この神のいる世界ならばあるいは――と思い、20日前から試し始めていたのだ。
結果はチャクラの存在を感じ取れるようになっていた。おまけにいくつかのチャクラを回すことにも成功して、体のダメージを消すことができるようになっていたのである。
だがその効果は非常に小さく1時間回して肩こりが少し軽減される程度だった。今ならばもう少しマシな結果になる気がする。
佐我は意識をチャクラに向け、精神を統一して回るように呼吸を整えた。
すると今までになく、チャクラが大きく動く感触を覚える。
「おお、これはイケる! いやいやいやいや、目的を見失うな。今は頭を使う時だ!」
浮かれ始める自分を諫め、佐我はチャクラをどう生かすべきか考える。そうだ――目の近くのチャクラを回すとザックリと鑑定ができたことを思い出す。
佐我は目を閉じて17分静止していたが、行動に出る。
白い球に近づき、革の袋に入れ始める。
「そう、それでいい! 後はしっかり口を閉じるのだ」
大角ドラゴンが思念を送ったところで、佐我は残り一個を手にした状態で手を止める。
「悪いがあんたを信用できない。悪意がビンビンに感じ取れるんでこうさせてもらうよ!」
そういって白い球を大角ドラゴンに投げつけた。
「なっ! やめろ!!」
爆発したような断末魔の思念を放った大角ドラゴンは白い球に触れた途端に体が一回り小さくなった。表面がさらに真っ白になって、体が崩れ始めた。
ウオォアォォォ~~~ッ!!!
直後、佐我の全身に波動がほとばしる。〈経験値〉が大量に入ってきたのがわかった。
「こ・こ、こいつはとんでもないな!! ここに来るまで止めを刺した40匹のモンスターの数十倍の〈経験値〉が入ってきているようだ!」
佐我は〈経験値〉の影響で体が根幹から作り替えられていくような衝撃を覚える。
体の至る処からメキメキ、バキバキという音が起きて、響く。レベルアップが起きているのだとわかる。津波のような変化が体感で10分近く続くと佐我はその場でへたり込んだ。
全身に激しすぎる力が宿ったのが分かったが慣れるまで時間が必要だと感じる。