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3王子の腹の探り合い

 更に〈八枢聚〉の行進【聖巡】が9日を過ぎ、この日も佐我がベールクに殺されかかり、ララポーの〈ミドルキュア〉責めで気絶するということが起きた。

 佐賀が危篤状態から2時間経過したところで意識が回復し始める。

 すると佐賀の耳に、3人の話し声が聞こえてきた。8メートルほど離れたところで会談しているようだ。

 声からすると〈半吸血族(ダンピール)〉モーイオンと〈白霊族(アールヴ)〉オキュックスと〈巨人族(タイタン)〉イーゲヤであるとわかる。

 この三人はアピータ達とは違い、ヤンチャな部分があまりなく口を開くとほぼ政治の話をしていた。ただ善良な者達ではない。国にいる人間の奴隷の育成・運営に容赦がなく、非道なことを当たり前に行っているのがわかる。

 〈半吸血族(ダンピール)〉は人間を血を生産する動物とみなし、〈巨人族(タイタン)〉は効率よく繁殖させて重労働を強いるかだけを考え、〈白霊族(アールヴ)〉は思考する権利を奪って搾取し従属させることを徹底していた。

 今日の三人は今回の【聖巡】について語りあっていた。


「そろそろ互いの手の内を明かし合うといたそうぞ。この度の【聖巡】、何が待ち受けておるやもしれぬ。もし知っていることがあらば、貴殿らも情報を怒涛の様に交換するといたせ」


 太く大きい声でイーゲヤがそう云った。


「相変わらず強欲であるな、〈巨人族(タイタン)〉は――それならばお主から情報開示するのが筋であろう?」


 と美声でモーイオンが語る。


「そのような怒気をこめての返答はいかがなものか――しかしながら正論ではござる。ならば虎の子の情報を出すといたそう。拙者の部下の〈予知〉の【ヴォケーション】を持つ者が申すところによれば、『竜の駆け引きにて覇王誕生の兆しありやもしれぬ』という予知を覚えたという話でござ候!」


 これに〈白霊族(アールヴ)〉の王子が敏感に反応する。


「『覇王誕生の兆し』――それが本当ならば緩慢には扱えぬ事態といえるのだよ。しかも竜――竜とはもしや三大竜のことか? ……まあ大変貴重な予知を聞かせてくれて感謝するのだよ。では〈白霊族(アールヴ)〉の掴んだこともお教えする。うちの〈星詠み〉を使う者の話では今回の【聖巡】以後、『魔族が脅威ではなくなる』という卦が出ているそうなのだよ」


 オキュックスの涼しげな落ち着いた言葉に他の二人が焦りを伴う声を出す。


「ほほう、それは人欲をくすぐる情報であるな。魔王の城で魔王も勇者一行も行方不明になったという噂が飛び交っているがそれと関係あるのか――いやまだ確かなことはわからぬのである」


「されば確かに魔王が弱り切っているのであれば我らの好機ではござるな。怒涛の勢いにて魔族を攻め立てることもできるやもしれぬ。しかしながら、うちの〈予知〉で出た『覇王誕生』なるものが魔王のことを指すやもしれぬとなれば――むむ、様々な憶測ができてしまい悩ましきことよ」


 佐我はここまでの会話がよくわからない。魔王や竜が本当にこの世界にいるのかもまだ知らないのだから。あまりにも知らないことが多い。

 3人の気取った、回りくどい言い方も理解しにくくなる要因だった。


 オキュックスがモーイオンに問う。


「イーゲヤとわたしはやせ我慢してカードを切ったのだよ、モーイオン? 君も知っていることを言うのが公平というものだよ」


「さようさよう」


 モーイオンは心底いやそうな声で語りだす。


「チッ、いたしかたない。譲歩し意欲的に手の内を明かすのである。一族の巫女によると『来訪者が大混乱を招く』という神託を戦の神のヨセタケガンから受けたという話である。この神託に登場したこの『来訪者』――オキュックス、貴殿には心当たりがあると思うのであるが?」


「何の話だい? とぼけるんじゃなくて本当に知らないんだよ」


「貴殿の属国――サクラドー帝国が異世界からの召還を行ったと耳に入ってきているのであるぞ?」


「そ、それは誠か!?」


 ここで思わず佐賀は顔を上げた。3人の間で強い殺気が漲ったからである。はっきりとは見えないが一触即発の雰囲気が確かにあった。

 オキュックスは穏やかに静かに答える。


「我らハイエルフは無関係だよ。召喚の話は当方の耳にも入ったばかりなのでまだ確認中の話さ。傲慢に聞こえるだろうけどサクラドー帝国には今、使者を送って調べているところだよ」


 そこで怒り狂ったイーゲヤが重い音をたてて立ち上がる。


「い、異世界人召喚は大禁忌にござろう! それが本当ならば〈白霊族(アールヴ)〉、断じて許すまじ! これは憤怒を覚える所業にて候。この件は本国へ早速連絡いたすゆえ、拙者これにて失礼つかまつる!」


 そういうとイーゲヤはドシンドシンと地面を揺らして去っていく。

 巨人の足音は聞くだけで恐怖心を抱かせる勢いがある。

 この話だけは佐我にもわかった。当事者なのだから。

 〈半吸血族(ダンピール)〉がハイエルフに殺気のこもった言葉で尋ねる。


「サガは異世界人――だからこの【聖巡】に加えたのは貴殿だと思っているのである! 『来訪者が大混乱を招く』、この来訪者が異世界人だと想像するのは無理のないことなのである!」


「きちんと経緯を追うべきだよ。今回の【聖巡】、ヒノミアリス神教団が計画、各国に打診したんだよ。我が国コッパークは異世界人と何ら繋がりがないと断言できるのだよ!」


 ここで2人は沈黙した。恐らくは深い腹の探り合いをしているのであろう。


「まあいい――さてと少し座興をたしなむのである。異世界人サガ、いつまでも横になっていないで立ち上がるのである!」


 そういってモーイオンは歩いて近づき、佐我の前に立った。佐我も仕方なく身を起こす。

 すると〈半吸血族(ダンピール)〉のモーイオンが最悪の提案を佐我にしてきた。


「サガ、おまえの【ヴォケーション】の〈決闘〉を使って私めと戦いをするのである。『負ければ寿命を一年差し出す。勝てば相手から何でも好きなものを奪える』という条件で行うのである!」


「はあ? そんなことを誰がするんですか? 寿命? お断りです!」


 佐我が当たり前のように突っぱねたがモーイオンはニタリと笑う。

 モーイオンは全身を黒皮の軍服と帽子と手袋、ブーツで覆った美青年である。中性的な顔つきをしており、腰まで伸ばした髪が印象的であった。

 全体的には知的に映るが佐我にはモーイオンがとにかく不気味でしかたがない。半分吸血鬼ということも無関係ではないであろう。

 その人には思えぬ者に佐我は非人間的な提案をされる。


「林間のすけ、相武台さやか、そしてノームやケットシーやクーシーの子供たちの安全を保障すると言ったらどうするのである? この者たちは今、サクラドー帝国にいるのである」


「な、なに?」


 佐我は愕然となる。自分が拉致されてからのすけやさやか、そして拾った孤児達がどうなったのかずっと気になっていたのだ。

 さやか達の名前を出したということは、自分のことをとことん調べ上げているのだと思い知る。

 しかし何故、縁もゆかりもないモーイオンが言い出したのか疑問だった。

 モーイオンは振り返り、一人の男に声をかける。


「我らに従えばサガの知り合いの安全は担保されるのであるのだな、オキュックス?」


「ああ、傲慢な言い方になるがそれぐらいは容易いのだよ」


 〈白霊族(アールヴ)〉のオキュックス――いわゆるハイエルフで大きくアーモンド状の切れ長の目をした種族の王子である。オキュックスの国コッパークは佐我達を召還したサクラドー帝国の同盟国である。だからさやか達を捕らえたサクラドー帝国の態度を変えさせることも簡単にできるのだ。

 佐我の見立てではコッパーク国の方がサクラドー帝国よりも力関係は圧倒的に上だとみている。

 佐我が逡巡したが、すぐに答えを出す。ここまで来て人の心を失うなど御免であった。絶望的な状況で自分に手を差し伸べてくれた者を裏切ることなどできない。

 佐我はクラウチングのスタイルを取って身構える。


「豊穣の神ムラトミーヌ様に誓い、【ヴォケーション】の〈決闘〉を行使します。『〈半吸血族(ダンピール)〉のモーイオン様と戦い、負ければ寿命を一年差し出し、勝てばモーイオン様から何でも好きなものを奪える』! これで良いですね?」


「うむ、私欲を捨てた賢明な判断である!」


 モーイオンが真っ赤な口の中を見せて微笑んだ。

 途端に佐我の頭上に豊穣の神ムラトミーヌの紋章の花の形の光が輝いた。

 佐我は〈気功〉を練り上げ、できるだけ長く抵抗しようと思った。試行錯誤しているチャクラも動かそうと試みる。

 だがモーイオンが鞭を取り出すと、2秒後に意識を刈り取られた。

 佐我は一撃KOされたのである。




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