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〈賢者〉鶴間郷の狂気

 一人駆けた鶴間は兵舎街にたどり着き、厳重な門の横にある通用口に近づく。


「中に入れてくれ!」


 兵士は皆、異世界召喚された者の顔を知っていたので鶴間は顔パスだった。

 サクラドー帝国の兵士は全員2メートル越えの屈強なものばかりなので、慇懃にされると167センチの鶴間は気分が良かった。

 が、何か兵士達の様子がおかしい。暗く沈んだ顔をし、覇気がない。

 考えてもわからないので鶴間は第七牢舎に向かう。

 そこにはいつものようにさやかと林間、そして人種の異なる8人の子供がいるのだった。


「まぁまぁ、鶴間くん、またあなたですの? 今日は何しにいらっしゃったのですの?」


 さやかの眼鏡越しの刺すような瞳に鶴間は怒りが一瞬で沸騰した。


「あん? なんだその態度はよー! ふざけてんじゃねーぞ。おめえはまだこの国のために【ヴォケーション】を使おうとしねーとかぬかしてんだよな?」


「まぁ、見解の相違ですの。サクラドー帝国、この国はひどい政治をして弱き者を虐げています。鶴間くんたちこそ、あの酷い王女から距離を開けるべきですの!」


 鶴間は黙って自分の左手に灼熱の炎を宿す。


「おい看守、この牢からこの女を出せ! 俺が直々に仕置きをする! おっともう俺は止まらねーからな」


 が、看守は後退り協力しない。やはり門番同様に顔つきが暗かった。


「ちっ!! 錠を焼き切るぐらいなんてことねーからな!」


 牢の錠に鶴間が炎をぶつけるが、真っ赤になるだけでなかなか解けない。

 そんな鶴間に小柄で小太りの男性・林間が近づく。


「止めるのだ、鶴間くん。狂気に飲まれてはいかんのだ。衝動に任せて動けば必ず自分さえも滅ぼす! 年上の忠告はありがたく聞くものだ」


「はっ? ざけんな、ジジイ! 説教とは自惚れやがって! もう一つの手も潰されて泣いても知らねーぞ!」


 鶴間はしたり顔で言う林間により怒りがこみ上げ、魔力を込めて更に錠を焼く。この時鶴間はある違和感を覚えたが、何であるか特定できない。

 錠がようやく解け始めたところで金森・栗原・麻溝台が姿を見せる。


「鶴間くん、止めるのさ! 今の君が暴れればこのあたりが火の海になる可能性があるのさ!」


「そうだ、そうなりゃあ流石のソローゼン王女もどえりゃー怒っておみゃーを幽閉することもありうるんだでな!」


 栗原の言葉に鶴間は手からの火力を落として、さやかを睨む。


「ちっ! くそ――ならせめてこのバカ女の顔に火傷をつけねーと納得できねー。それじゃねーと引き下がらないぞ!」


「ううっ、しかたない。それだけは了承するさ」


 金森が譲歩したところで、鶴間は錠を蹴って破壊し、さやかに近づいた。

 鶴間は残忍にほほ笑んでさやかを見つめた。だがさやかはその南国風の整った顔にただ憐みの表情を浮かべているだけだった。

 

 なんだ? こいつ、なんでこんなに余裕があるんだよ?


 ふと鶴間は林間の手を見ると、自分が焼失させた腕が完全復活しているのに気付く。先ほどの違和感はこれだったのだ。

 肉体の破損はこの世界でも超トップの聖職者しか修復できないはずだった。

 わけがわからず呆気に取られていると、顔面にパンチを受けて後方に吹き飛ばされた。


「ぐべ~~~っ!!?」


「はいはい~、もうここまでな。さやかさんに近づくな。鶴間はもう一生奴隷として扱うけど、他の三人もOUTだな。ペナルティは重いよ?」


 そういって林間の後ろから出てきたのは、優しそうな外見だが眼もとには鋭さがある痩せた青年であった。

 〈金銀獅子〉4人で捕まえたことのある異世界人・織田佐我であった。

 佐賀の後ろには白い髪と肌の5歳ほどの幼児が眠そうに立っている。


「てめぇ、おっさんが調子に乗るんじゃねー!!」


〈身体強化〉を最大限にした鶴間は矢のような速度で佐我に飛び掛かる。

 が、佐我は牢舎の出口に立っていた。


「まあおまえらも抵抗したいだろうから牢舎の外でやろうぜ。できるだけ静かに決着つけよう」


 これには金森たちも驚く。佐我の動きが誰も全く見えなかったのだ。

 牢の前から牢舎の出口まで5メートルはあったが瞬間転移したかのように移動したのである。

 〈金銀獅子〉が牢舎から出てくると兵士が8人ほど遠巻きに見ていたが、佐我を捕えようとするそぶりは見せない。

 栗原は3メートル超える刀の鞘に手を掛けながら佐我に問う。


「あんたがどえりゃー自由にしとることをソローゼン王女は知っとるのかぁ? 誰かの許可を得とるのがや?」


「いいや。あの小娘はあとでたっぷりお仕置きしてやるが、もう関係はないな」


「そうはいかないさ。あなたは現在身分が非常に低い。おまけに異世界人だから自由にふるまうのにはソローゼン王女の許可は必須でしょう?」


 佐我は緊張感のない視線を4人に向けて言う。


「いちいち返答するのも面倒だ。まずは俺の【ヴォケーション】を教えておこう。俺のは〈格闘技家〉で〈決闘〉だ。この〈決闘〉、宣言すれば豊穣の神ムラトミーヌによって必ず取り交わした約束が実行される。なあ〈決闘〉をしないか? 俺が負けたら一生おまえらとソローゼン王女の完全なる奴隷になる。俺が勝てばおまえらは俺の言うことに絶対服従。さらに豊穣の神ムラトミーヌに改宗だ。もちろん4対1でいい。しかも俺には魔力がないんだぜ?」


 鶴間がニヤリと笑って前に出る。


「なんだそりゃ? 非力なおまえが上からモノ言ってんじゃねーよ? まずはここでボコボコになっていろや!」


 佐我は金森にいう。


「おまえリーダーなんだろう? おまえらが勝てばもう俺が逆らうことは絶対になくなるがどうする?」


 金森は少し考える。


「……佐我さんの言葉には『嘘』はない。僕は構わないと思うがみんなはどう思うか教えてほしいのさ」


「そんな話どうでもいい。早くふん捕まえてとっとと宿でお風呂に入ろう」


「魔力がにゃーなら俺達が負ける要素はぜってゃーにないなも。10秒で終わらせるなもし。でも鶴間、ぜってゃーにバフをみんなに掛けてちょう?」


 栗原の言葉に鶴間はイラっとしてみせるが、大人しく従う。


「わかったよ! ルーティンを守れば問題ねーんだろう?」


 鶴間が魔杖を振るうと〈金銀獅子〉全員に2つの魔法が掛かる。〈防御力上昇〉と〈敏捷力上昇〉であった。

 鶴間は〈賢者〉であることで属性の異なる魔法を使えるのだ。この長所があるので金森たちも鶴間を見捨てていない。


「で? 〈決闘〉は同意でいいんだな?」


「もちろん――ぼくらには非常に都合がいいんでね!」


「よし、あっ、勝敗は『60秒以上動けなくなった方が負け』でいいな?」


「構わないさ」


 そう金森が返答した途端に佐我の頭上に豊穣の神ムラトミーヌの紋章、ヨモギの花の光が輝いた。

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