転移者パーティ〈金銀獅子〉
〈勇者〉金森周男〈聖女〉麻溝台竜美〈剣聖〉栗原秀登〈賢者〉鶴間郷のパーティ〈金銀獅子〉はダンジョンアタックから帰ると意気消沈となる事態に出くわした。
76階層を攻略した直後に現地人冒険者パーティ〈碧の雲雀〉が80階層を突破してしまったという報告を聞いたからである。ダンジョン攻略レコード更新を先行されたのだ。
ソローゼン王女に褒められると思っていた〈金銀獅子〉であったが、〈碧の雲雀〉が祝辞を受けるために城に向かうことになったのだ。
いかにもスポーツマン然とした栗原がため息をつきながら言う。
「〈碧の雲雀〉は我々に追いつかれんために高額のポーションや護符をどえりゃ買いまくったという話だがや。まあ俺としては勢いも実力もこっちが上なんだで慌てることはにゃーと思うに」
麻溝台はそんな栗原にのんきな声で尋ねる。
「前々から思っていた話なんだけど、栗原のその言葉、何弁なの?」
これには他の三人がガクっとなる。相変わらず麻溝台は少しずれていると思ったからだ。
「名古屋弁――まあ尾張弁と地元民は言うけどなも。それよりも今日はこのまま帰るかや? それとも俺達もどえりゃーポーション買い込むか?」
「う~ん非常に難しいのさ……。金銭の管理はぼくらでするようになったから余裕はあるけど。でも正直言うとみんなの武器も新調したいから、倹約した方がいいと思うんだけどさ」
「いや、その正直な話、もう帰ろう? あたしら高校生なんだから9時間働いたら十分だよ。そりゃこの世界の成人が15歳とかいう話からするとアレだけど9時間は働きすぎだって!」
4人はこの世界で有能だという評価を受けてからほぼ休みなしで活動してきていた。魔法などの訓練にレベルアップ作業に明け暮れ、ついには一カ月前からはダンジョンに挑んでいたのだ。
魔法世界に来て英雄視されて舞い上がっていた4人だが、最近は疲弊を強く感じて来ていた。とにかく連日連日戦わされたのだ。
すると鶴間が一人離れ、兵士街の方に向かっているのに3人が気付く。
「おい、鶴間くん、どこに行くんだ?」
「ちょっと相武台さやかに会ってくる。そろそろ言うことを聞かせねーとな! 抵抗は無駄だとわからせねーと!」
これに三人は青ざめる。
「おいこら、もういらんことをしてはダメだがや。おみゃーの説得はひどい脅迫なんだわ! 林間の腕を消したのも忘れたのかや!」
だが鶴間はそのまま走って消え去ってしまう。
「これは非常にまずいのさ。追いかけて止めよう!」
三人は兵舎街の牢に閉じ込めている、同じ転移者の相武台さやかの身の上を案じた。相武台さやかは現在自身が持つ【ヴォケーション】〈豊穣〉をサクラドー帝国のために使わないと宣言し、協力を拒否していたのだ。
さやかが反抗的になったのは林間のすけが帝国兵に暴行された上に、鶴間に片腕を炭のようにされたことが切っ掛けだった。
三人は加虐的な思考が強まる鶴間に手を焼いていたのだ。鶴間は自分に反抗的な者を【ヴォケーション】〈多様魔法〉で叩きのめしてしまう事件を連日起こしていた。
ダンジョンで襲ってきた他の冒険者パーティを丸焦げにしたり、溺死させようとしたりと残虐な行為を平然とするようになっていた。
更に鶴間はソローゼン王女に好意を持っていたので、サクラドー帝国に反抗する者に強い怒りを隠しもしていない。
ソローゼン王女を公然と批判するさやかは鶴間の格好の標的だったのだ。〈碧の雲雀〉に出し抜かれた憂さをさやかで晴らそうとしているのは明白だった。
必死で金森・栗原が駆ける――が速度が出ない。2人とも〈身体強化〉を使っているが全身甲冑が邪魔してまったく全力疾走ができないのだ。
ガッチャガッチャと音を起てる2人の後を麻溝台竜美がため息をつきながら歩く。
「面倒くさい話――その、わたしだけ帰っていい話にならない?」
「それはダメなのさ。いざとなったら鶴間くんを君のゴーレムで止めてほしいのさ!」
金森に説得され、麻溝台はしかたなく一緒に駆けた。