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サクラドー帝国のソローゼン王女

 サクラドー帝国のソローゼン王女は先ほどまでは最悪な気分だった。

 父の国王が多忙のために、突然現れたリーンタワー国の〈人狼族(ルーガルー)〉のアピータ姫の世話をすることになったのだ。アピータ姫が突然数名の部下とこの城に現れ、泊まらさせてくれと言ってきたのだ。

 サクラドー帝国とリーンタワー国は因縁がある上に、アピータ姫の性格が悪いので本来は相手などしたくない。

 だが先ほどあったアピータ姫はビックリするほどひどくしょげており、いつもの悪ガキのような雰囲気はなかった。

 理由はわからないがいい気味だと思っていると、吉報が入った。

 ソローゼンはアピータ姫に寝室をあてがうと謁見の間に急いだ。


「ついに突破なさったのですね!! お祝い申し上げますわ!」


 ソローゼン王女の言葉に、S冒険者パーティの〈碧の雲雀〉の一同は全員笑顔になった。


「王女のため、サクラドー帝国の名誉のために死ぬ覚悟で80階層を踏破しました!」


 クラス〈勇士〉にして〈無双〉の【ヴォケーション】の持ち主オーゼキがそういうと残りのパーティメンバーが涙を目に浮かべた。昨今のダンジョン攻略が苛烈であることを聞いていたが、勇者パーティに相当な負荷がかかっているのがソローゼンにもよく伝わった。

 おまけにその装いはボロボロで戦場から帰ってきたばかりといった感じであった。生傷がない者がいない。

 今、ソローゼン王女は王城の謁見の間で、S冒険者パーティの報告を受けていたのである。

 ソローゼンは心配そうな顔でS冒険者パーティに近づく。


「帰還してからの早速の報告、嬉しく思いますがまずは手当と休養を優先されるのがよいと思いますわ。すでに教会にも連絡しているので完全回復を行って欲しいですわ」


 するとオーゼキが立ち上がり、ソローゼンに一歩近寄る。


「何のこれしき! 我らは王女の笑顔のためならば命すら惜しくありません!」


「まあ、それは頼もしい限りですわ」


 ソローゼンは満面の笑みを見せたが内心は辟易していた。オーゼキはサタツ辺境伯の三男で家柄・クラス・実力は申し分なかったが、ソローゼンへの執着が強いのが玉に瑕だった。

 勇者としては今一つ精彩を欠いていたが、異世界から実力者を招いてから発奮し結果を出すようになっていたので邪険にもできない。

 とはいえオーゼキに付き合わされているパーティメンバーのために、ソローゼンは更に一歩近づき、オーゼキの頬に浅くキスをした。


「わたくしの感謝の気持ちですわ。さあ、まずは急ぎ治療を行ってくださいまし。これは命令ですわ!」


「はい、承知しました! おい、みんな行こう」


 〈碧の雲雀〉全員が姿を消すとソローゼンは深くため息をつく。

 オーゼキだけに対してついた嘆息ではない。ソローゼンの野望のためにやるべきことが沢山あり、達成までの道のりが果てしないことについての歎声だった。

 ともかくサクラドー帝国には強い戦士が必要だったのだ。人間の地位を上げるためには八大列強の勇者達が行方不明になった今が最大のチャンスだと確信していた。

 ソローゼンはかつての祖国の栄光に思いをはせる。130年前までは

サミハラ大陸八大列強にサクラドー帝国も加わっていたのだ。

 それが130年前の魔王討伐で無様をさらしたせいで、〈人狼族(ルーガルー)〉の国リーンタワーに取って代わられたのだ。

 ずっと返り咲くチャンスはなかったが、八大列強の勇者達の消息が消えたと聞き、ソローゼンは現国王の父と相談し、異世界からの勇者召喚に全財産を突っ込んだのだ。

 いらない者たちも多く召喚してしまったが異世界勇者たちの成長も悪くない。〈碧の雲雀〉の倍の速さでダンジョン攻略をこなしていた。まあ異世界転移人にも自分に執着する面倒な者がいたが――。

 ソローゼンは思わず握りこぶしを作る。

 半年後のサミハラ大陸最強を決める武術大会までに、優秀な者を複数確実に育て上げることは必ずやり遂げる覚悟だ。


「今のところは順調で良好といっていい。全てが上手くいけばオキュックス王子の側に行けるはず……」


 ソローゼンは愛しく思う〈白霊族(アールヴ)〉のオキュックス王子の顔を頭の中に浮かべた。オキュックスの一切破綻のない美貌を思い出すだけで冷静ではいられなくなる。

 オキュックスはとにかくソローゼンには優しかった。勇者召喚を行ったのもオキュックスに以前に勧められたからであると言って過言ではない。ハイエルフが持っている勇者召喚の魔法技術を提供されなかったら、恐らくは成功しなかったであろうとソローゼンは思う。

 しばしオキュックスと出会ったことを思い浮かべていると、付随してあの小汚い異世界人・サガのことも思い出す。

 なぜだか〈八枢聚〉に人間代表として連れていかれる運びとなったが、ソローゼンは納得がいっていない。

 叡智の女神のヒノミアリスの予言に従ってのことだったので異論を挟むわけにはいかないが、あんな者が役に立つとはまったく思えなかった。


 それどころか〈八枢聚〉の面々に顰蹙を買い、反感を買ったりしたら……もしも次出会うようならあのサガとかいう魔力なしは、問答無用で八つ裂きにしよう!

 

 ソローゼンが一人癇癪を爆発させていた、その直後であった。


 えっ!? こ、これはいったい?


 ソローゼンはほんの一瞬だが激しい脱力感に襲われたのだ。時間にして1秒といったところだが、全身の魔力が吸い取られるような感じを味わった。

 ソローゼンは前代未聞の体験に思わず震える。

 良くないことが起きる気がして怖気を覚えたのだ。

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