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ヴァンパイア・メタリック  作者: すこーぴおん
8/15

8話 事件発生

連絡手段がある世界かない世界で、物語の難易度は変わる。

スマホがない生活がもうわからん。


犯罪調査の仕事か探偵の仕事がしたいです。推理小説を書くために。



「昼ごはん、なに食べる~?」


「なんでもいい」


「なんでもいいなら、なにも食うな」とディルは冷蔵庫を漁りながら言った。


「これ。これがいい」


「君ってさ、”これ”とか”あれ”とか”それ”が多いよね」とディルは表情を変えずに続けた。「君、この文字読める?」とディルはソーセージの入った袋を差し出す。


当然、ロナは文字が読めない。

そのような教育を受けていなかったからだ。

ロナはぽかーん、と口を開け、間抜けな表情をしていた。


「あ~やっぱそっか…教育受けてないでしょ」とディルは驚いた様子もなく、ただ遠くのニュースを語るような口調だった。


「何才? そんなこと聞いてもわからないか。何回、冬を超えたか、何度、季節が廻ったか。そういうのがわからない」


そういうのは寂しいな、とディルは心の中で呟く。


「何度も廻るものに意味なんてない」とロナは返す。


「そりゃそうか。ーーーー生で食うもんじゃないよ」


生でソーセージを口に含むロナにディルは呆れたように言った。


「吸血鬼は生でごはんを食べてた」


それは人のことだろう。吸血鬼は普通にパンやコメを食べることができる。


「あいつらの真似なんかしたら胃がモタない。生肉っていうのは本来、危険なんだ。どんな病原菌がいるかわからない。だから加熱して、病原菌を無効化する」


「そういうものなの」


「そう。そういうもの。ーーーー強くなりたいか…強いほうがいろいろ、便利だけど…」とディルは視線を上に向ける。ディルの糸目からは表情が読み取れない。ディルはドライな口調で続けた。


「勉強ができるほうがこの世界は有利だ」


できない人間は同時に不利で絶望的である、という皮肉を込めて、ディルは薄く嗤った。

多分これは自身に対する嘲笑。


「ーーーまぁ途中で誰か恨まれて殺されたり、吸血鬼に喰われない限りはね」


人生はなにがあるかわからないからねー、とディルはさらに皮肉な表情になって続けた。


現在いまがうまくいってても、途中で挫折したり、再起不能になることだってあり得る。人生ってさ、そういう意味では残酷なほど平等だよね」


誰も不幸や不安から逃れられないという意味で。


「…」


ロナは妙に悲しく憂いの横顔を覗かせるディルに、目をぱちくりとする。


「誰のことを思い出してるの?」


尋ねたロナにディルは顔を向けて乾いた微笑みを浮かべた。


「自死した父親のことだよ」とディルは心のおりを天気の話でもするかのように言った。



「文字ってどうやって教えたらいいのかねー」とディルは肘をついて考え込んだ。


「学校に行けばいいんじゃないの?」


「そういうものだけどさぁ…。それ以前の問題があるんだよ、君」とディルは独り言にように言った。


「生活能力低くても、生活はできてるのに…」とロナはディルを上目使いで見ながら、本人に聞こえるか微妙な声音で囁いた。

当然、本人に聞こえています。


(なんか俺、悪口言われてるな…)


ディルの携帯が鳴った。

「あ~これは嫌な予感」とディルは応答する。


話し終えたディルは、悪徳で陽気な微笑みを浮かべた。


「事件だよ」とディルはロナに子供のような笑顔を向けた。


「いいね。退屈なんかしなくて。憂いなんて忘れさせてくれる」



ステファンは周囲に視線を走らせた。

爪を剥いたとき、周囲はぎょっと驚いた様を見せた。

だが…


(わかるんだよな、同類ってやつは)


誰もがきっと敵と味方を分類せずには、いられない。

仲間、味方、ライバル、敵、好き、嫌い。

無意識に好意的か悪意的か判断し分類するのは生き物のさがだ。


ステファンは吸血鬼だが、どうやって同類を見分けるのか、わからない。

人間だってそうだろう。

なにが人間の特徴かはわからないが、骨格、体の部品の位置、構造の類似度で分類しているはずだ。


しかしながら吸血鬼と人間の見た目は似ている。中身も似ている。

解剖したことはないが、肌の上から見える骨、内臓。

体温も同じくらい(吸血鬼のほうがちょっと高い)。

すべてが酷似しているのだ。


(吸血鬼も人間も似た者同士なのに、なんだって仲良くできないんだか…)


考えすぎると今度は悲嘆に暮れて、変な感想が出てきてしまった。


(そんなこといったら、男女だってそうか)


(こんなに似ているのに仲良くできない…)


(いいや、仲はいいか。ただ対立することが多いだけで)


どうでもいいことばっかり考えてしまってるな、とステファンは自分自身にため息をついた。


(吸血鬼は慣れているのだ…)


人を殺すことや血を見ること。

普段は見れない服の下、口の中、胃の中を見ることに。


ステファンは視線を奔らせただけで勘づいた。

天然のペテン師でない限り、ステファンの洞察力を騙せはしないのだ。


「あとは適当に爪でも剥いてろ」と言い残し、椅子にふんぞり返った。


缶切りを渡された職員は戸惑いを浮かべ、涙ながらに無言で抗議したが、

ステファンの睨みに屈した。


「ひとりひとつ、爪を剥いてみればいい」


大丈夫さ、爪は生えてくるんだ、人でも吸血鬼でもな、とステファンは嗤った。

そして様子を見つつ、こっそりと移動し、ディルに電話をしたのだった。



「でも検討ついてるんでしょ?」とディルは片手をひらひらとさせながら、嫌みを言った。


「吸血鬼が誰かはな」


「公共データベースに権限で無理やりアクセスしたよ。2件が吸血鬼による喰い殺し、3件が打撲…人による殺人かな?ーー死体がまだある頃に言えば、僕が死亡日時を調べてやったのに…。ここの憲兵は調べないでしょ、そういうの」


「興味がなかったんだ。ただこんなことになっちまった…」


ディルはなんともいえない複雑な気持ちになった。

身近でこんなに殺人事件が起きてるのに、呑気なものだな、と。



「1件は喉を潰して…多分、これは勘だけど、生きたまま、腸を裂いている。2件目は首をはねている。睡眠中か睡眠薬を飲ませてやったんだろうね。喰い方が汚いわりには、首元は綺麗だーーー殺し方に統一性がない。同じ人物かはわからないけど。ーどちらにしても品性に欠けるね」


「周囲に俺が吸血鬼だということはバレちまった」


「あらら…それは大変」とディルは電話越しにけらけらと嗤った。「全員、殺すの? 口封じにために?」と挑発的に尋ねた。


「おまえが俺の再就職先を用意してくれるなら、生かしてやってもいい」


「そんなのさ、また同族殺しをやればいいじゃん」


「…………。あんな危ない商売、若いうちだけだ。俺はな、心身穏やかに働きたいんだ。おまえの兄妹とは違ってな」


「それは嫌みかな? それは僕の兄妹にいうべきでしょ?」


「あの二人に嫌みを言っても、つまらん。軽く流されるだけだ」


「それはごもっとも。ーーーー吸血鬼の候補がこの3人ね」


「それがな、そのうちのひとり、黒髪のマッシュのほう。こいつ、吸血鬼じゃなかった」


「ふ~ん…」


「俺が爪を剥いだときの反応が無関心すぎた。だからヤッてる側なのかと思ってたんだ」


「ほぅ…」


「だがやつの剥いだ爪は再生しない。あいつは吸血鬼じゃなかったんだ…」


「んじゃ、人殺しだね。人の死を見慣れてきたか、幼少期のトラウマ…暴力沙汰を目にしてきたか…まぁそんな推測、意味ないけどね。ここで5人も他人ひとが死んでるわけでしょ? そのうち3件の死因は打撲。明らかに黒だねーーー調べるからさ、名前教えてよ」


「人の名前なんて入れが覚えてるわけねーだろ」


「それもそうか…」とディルは内心、この人はなんで周囲に興味がないのかな、と落胆交じりに返答した。


ステファンはちらりと視線を投げた。

例の男、吸血鬼のひとりが爪を剥ぐ出番だった。

「いいよ、自分でできるよ」と自分の爪を噛み切った。


わっ…と驚いた声があがり、今度は異質で異様な沈黙が場を包んだ。


「ほら。再生しました。俺は吸血鬼です」と爪を剥がした男が淡々とした口調で言った。

明らかに染めたとわかる2種類の髪色と、耳元で光を反射する金属類。指にはどくろのリング、手首にはきらきらと光る金属と目玉モチーフのオブジェクトのブレスレット。


「お、おまえ…!!」「吸血鬼だったのか…」「殺したのはおまえかっ…!!」


「うるせぇなぁ」と男は悪態をついて、ストレスでぼりぼりと頭を掻いた。


「人を殺すなんて誰でも簡単にできることなんだよ! 吸血鬼だから人を殺す? 吸血鬼だって人だって関係ないね」と腕を広げながら、不快に顔を歪めさせ、悪態は変わらず話を続ける。


「だいたい僕がこんな馬鹿なことするわけないでしょ? だいたい犯人なんて予想ついてるでしょ? 5人も殺されたんだ、この職場で」


喋る男の背後でゆっくりと銃を向ける人物。

吸血鬼の男は眼鏡をくいっ指であげると、ポケットに手を突っ込み、なにかを投げつけた。

銃を向けていた人物の頭に直撃した。


「人が喋ってんのに銃を向けるのはコミュニケーションとれない人の典型でしょ。人には決めつけるなっていうくせに、自分の悲惨さには無関心だよな。ーーーーだいたい気づいてる人もいるでしょ? 人を殺したあとの、まとわりついた血の匂い。すり違ったときに鼻孔に刺す腐臭を」


男がそう言い終わったとき。

一部の人がある人物に目を向けていた。

視線の中心の人物は、無表情に微笑みを浮かべ、視線を受け止めていた。





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