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ヴァンパイア・メタリック  作者: すこーぴおん
17/24

17話 学生編開始

センシティブな内容を含みます。

(読み返すと自分でも馬鹿みたいだと思いました)

引き返したほうがいいです。


「ロナ、サインしてほしい書類があるんだけどぉ?」とディルは扉をノックした。


30秒待っても音沙汰なし。

異性の部屋に勝手に入るのはまずいという認識がディルにはない。


ディルは扉を開けた。

数秒後には絶句し、フリーズ。


裸だった。

普段は見ることのない肌が見える。

手の甲よりも日に焼けていない色で、曲線と骨の位置がよくわかる。

2人の女が胸の先端を触れ合っていた。

瞳は潤い、口の端からは涎が垂れている。


そしてディルはその女に見覚えがあった。

ーーーというか婚約者だった。

乾いた口で、喉の奥からその人の名が漏れた。

その人は振り返って、ディルの姿を見た。絶句するディルの表情を見て、微笑んだ。



「ねぇディル」


女の子からの声は甘ったるくて気持ちいい。

それが恫喝であれ、攻めであれ。

へらへらと嗤って過ごすのがディルの普通だが、この相手にはそうはいかない。

無関係で関わりがない人間であれば、ディルはテキトーに済ます。

だが、この人は婚約者だ。

テキトーに流すことができなかった。


そして。


(俺はこの人が苦手なのだ)


好意がないかといえば嘘になる。

僕はこの人のことが好きだと思っている。可愛いと思っているが。


(が)


それ以上に、ディルはこの女に恐怖を抱いていた。


「なんだよ......」


ぐいっ、と至近距離にまで迫ってきた。反射でディルは後じさった。


「身長、変わんないね」


「おまえがでかいだけだろ」


唇と唇が触れそうなほどに距離が近かった。

次の瞬間には、唇が触れた。舌が絡めあった。


「…………なにすんだよ......クソビッチ」


今度はディルが、女の首の裏に手を回し、強引にキスをしにきた。


「んっ......ーーーーーー自分だってしてるじゃん」


「嫌がらせだよ」


「こんなに気持ちいいのに?」


「おまえが変態だからだろ......? クソビッチ」


「男はディルだけだもん」


「男は、だろ?」


「女の子は特別」


「クソビッチ。純潔は求めないけど、不潔と性病はやめろよ。不特定多数の人間とヤッてるやつが清潔なわけがない」


「…………ねぇ、じゃあ、なんでやめないの?」


「断れないんだよ。この暴漢」


「暴漢ってなによ。素直に好きって言ったら?」


「性的魅力を感じない」


「自分が勃たたないのを、人のせいにしないでくれない」


「男ってそういうもんなんだよ。時間かかるの。ーーーー豊胸手術でもしたの? 胸が大きくなってる」


「もともとよ。隠してたのを隠さなくなっただけ」


「出てるもん隠せないだろう」


「ああ? やめるぞ」


「…………ああ、ごめん、やめないで。ーーーでもさぁほんとうに性病、うつすなよ。お前意外、知らないんだから」


「わたしもよ。ディル以外知らない。ーーー男は」


「女としてんだろう」


「女の子同士じゃ限界があるでしょ」


「性病は触れるだけでうつるの。そこに挿入の概念ないから」


「ディルのって、小さくて入れやすそう」


「いてて......へたくそ。歯、立てるなよ」


「ねぇどうして固くならないの? 人のこと性病っていうけどさ、自分も病気でしょ。えっと......ED。エンディング」


「馬鹿......。頭のいい女が好きとは言わないけど。常識程度の知識は身に着けとけ」


「常識ってなによ。しょうがないじゃない。生まれつき馬鹿なんだから」


「尚更、努力して馬鹿を治さなきゃいけないんだろう」


「ーーーーディルにはわからないわよ」


「わかんねぇよ。俺は人の気持ちがわからない」


「ねぇ、気持ちいい?」


「へたくそ。気持ち悪ぃよ」


「ほかの男で練習してもいいけど、嫌でしょ?」


「大人のビデオ見て履修してこい」


「ーーーそういう下品なの興味ないの」


「下品なこと日常的にしてるだろうが。女の子同士は上品だと思ってるのか」


「尊いじゃない? 線が柔らかい。男はムダ毛も硬い肉も嫌いなの」


「男ってそういうもんだから。男に女性性、求めるほうも変だから」


「ディルはいいわね。毛が薄くて、筋肉も少ない」


「それ誉め言葉なの?」


(俺は筋肉ギラギラした人のほうが好きだけどなぁ)


「ーーーーていうかさぁ......キスしてから口の中べたべたするんだけど。ちゃんと歯磨いてる? 不潔なのはいいとしても虫歯菌、僕にうつすなよ」


「不潔じゃないでしょ。女の子にそういうこと言わないでよ」


「女だって風呂入ってやつは臭いし不潔だし、菌がいるの。ーーー僕、女の汗も嫌いだから。スポーツしたあとの汗まみれの女が尊いなんて思ったことないから」


「知らないの? セックスもスポーツなんだよ」


「それ違うでしょ」


(運動とスポーツがごっちゃになってんだろうな、この女)

(この女の子はほんとうに馬鹿)

(それでも俺の上を行く)

(アイシャと同じで。ーーーーーアイシャは頭もいいし天才だったけど)


「…………クソサキュバス。能力使ったな?」


ディルは立ち眩みを覚え始めていた。


「だって......性的魅力がないっていうから......」


「被害者ずらするな、クソビッチ。自分に魅力がないからって、サキュバスの能力を使うのか?」


ディルの猫耳をいじりながら、女は被害者ずらをやめない。


「あるもの使ってなにが悪いの? ディルは頭の良さを生かして探偵してるじゃない? わたしだって......自分の取柄を活かしてなにが......」


「あのなぁ......才能があって自分で努力してこそ能力はぁ…~~~~~~~~~」


ディルは訴える。だけど自分の声が猫語になっていくのが、耳でわかった。


(もともと、僕、猫族の血のほうが濃いから、人の形を保てなくなる)

(意識失うのはいいんだけど......急に意識を失ってぶっ倒れると、下手して頭を撃つとまずい)

(ゆっくり......膝を曲げてゆっくり......)




「ねぇ、勉強教えてよ」

学校の放課後。零れ日が美しい庭園で

後ろから声をかけられてディルは止まった。

背後を振り返れば、明るい橙色のくるりとした髪をした小さな女がいた。


お前誰だよ、という攻撃性を隠しながらディルは


「そういうのは先生に訊け」と踵を返した。


「ねぇっ! そんなんだから友達いないんじゃないの? 孤立してるんじゃないの? 劣ってるって言われるんじゃないのっ」


「なんだよ、嫌がらせかよ。僕に何の用だ......」


(敵......)


ぐらりと意識が朦朧とした。


(精神干渉のそれか......!!)


「っ......」


「なに?」と不審な目で見つめられ、ディルは我に返った。


伸ばしていた腕をたらん、と下に落とす。


「友達もいない、いじめられもせず、誰にも構って貰えない僕に嫌みをいいに来たのか?」


「…………? 勉強教えてほしい、って言って、なんで嫌みを言われてるっていう発想になるの? 自分のことを卑屈に思っちゃだめよ。自暴自棄な人ってなにするかわかんなくて恐いわ」


「…………僕、君、嫌いだから。もっと頭がよくて性格のいい人いっぱいいるだろ」


(僕の代わりなんていっぱいいる。代わりのいない人間なんていない。たとえ身近な人でも......)


踵を返して、未練もなく去っていくディルよりも先回りに、ディルをふさぐように立つ。


「ほかの人は忙しくて、あなたしかいない......ーーっうぎゅっ!!」


「邪魔」


女は誰にも触れられていないのに、地を滑り、横転した。

驚きで目を見開く女のことなどつゆ知らずに、ディルは去っていく。


(あぁ)

(あの女が疎ましすぎて異能を使っちまった)



ディルはすたすたと去っていく。

が。

100M先でディルは足を止める。

立ち止まって数秒後。ディルは振り向き、身動きひとつしない女のもとへと歩を進めた。


(心拍…正常)

(眼球…瞳孔…反応する)

(呼吸、正常)


ブラックライトをしまいながら結論を出す。


(気絶してるだけか)


命に別状はないとわかったら、さっさと去っていく。

さっさと去ろうと思ったが。


ディルは視界に入った二人の男を見て、危機を感じたが。

(まぁどんな暴行に遭おうが俺には関係ないし)




「なんでこの女、目覚めないんだろう......」


家に連れて帰るわけにもいかない。

スタンガン当てたら目覚めるかなーとディルは考える。


逆にこちらが眠くなってきたディルは目を閉じた。

1時間後、ディルに勉強の指導を頼んだ女は目覚めた。

寒い、と呟きながらブランケットを引き寄せる。

ぼんやりと眺めた空には星が舞っていた。綺麗だな、と見惚れた。

ふと頭の下に違和感を感じ、頭を動かす。


「ねぇ…なにしてんの?」と上から声をかけられる。


「枕の調整」


「人の......人のそれをさ、いじんないでくれよ。みっともないと思わないのか?」


「なにが?」


「なにがって..」


「これ?」と女はディルのそれを掴んだ。


「淑女がはしたない」


「尻尾、触られるの嫌なの?」


ディルはがりがりと頭を掻いた。

「人の尻尾は触るな。男の尻尾は触るな。だいたいおまえ邪魔。はやく頭どかせ」


「ねぇ…フロートテールさん......勉強教えてほしいの」



「いたっ......!!!」



強烈な痛みにディルは意識を取り戻した。

逃げ出そうとしたが、体が動かない。地べたを這うだけだった。


ドクンドクンと心臓が音を立てる。

ディルは置かれた状況を整理した。

整理してやっと自分の迂闊さを思い知った。


「おまえっ! サキュバスっ......!!!」


悪魔の部類だった。


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